アル中雀の二枚舌

アル中、ヘビースモーカー、メタボで脂肪肝、おまけにトドメの脳出血&片麻痺──現在、絶賛断酒中。そんな中年男の独り言

ミュンヘン

2006年05月02日 19時00分49秒 | ミステリー
「ミュンヘン」オリンピック・テロ事件の黒幕を追え
マイケル・バー=ゾウハー&アイタン・ハーバー著 横山啓明訳(ハヤカワ文庫)

ミュンヘンオリンピックの選手村に、パレスチナのテロリストが潜入し、イスラエルの選手団を虐殺した事件と、その後イスラエルが暗殺チームを編成し、テロ組織の幹部に報復してゆく課程を題材に描かれたノンフィクション作品。

スピルバーグが監督した同名の映画(http://www.munich.jp/)が、つい先頃、公開されていたが、この本はその事件とそれに至った背景を、過去から現在に至るまで克明に描いた作品である。

また映画の参考図書として「標的(ターゲット)は11人」モサド暗殺チームの記録 ジョージ・ジョナス著 新庄哲夫訳(新潮文庫)がある。

この物語はミュンヘンの事件を計画指揮したテロリストで、「レッド・プリンス」と呼ばれたアリ・ハッサン・サラメの親子三代にわたるストーリーであり、イスラエルの報復の物語でもある。

第一部は第二次世界大戦前から始まり、父ハサン・サラメがパレスチナの指導者として活躍する時代を描いている。

第二部は息子アリ・ハサン・サラメとイスラエルとの戦いが描かれている。その頂点となるのがミュンヘン・オリンピック選手村襲撃事件である。
イスラエルはその報復として、暗殺チームを結成し、テロ組織「黒い九月」の幹部たちを次々と殺害してゆく。
そのなかで、「黒い九月」のリーダーであり、PLOのアラファトをして、私の息子とまで呼ばれたアリ・ハサン・サラメは、幾度も暗殺の手を逃れて生き延びる。

しかし、そんな「レッド・プリンス」にもついにイスラエルの手が……

ドキュメンタリーなので、どうしても読んでいて重く感じました。
とくにパレスチナ人の置かれている状況には同情するけれども、その解決の手段として、テロを行うということに対しては、まったく共感できません。
むしろ読んでいると、テロに対するイスラエルの強硬な態度に、強い共感を感じるくらいです。

主人公は父子ふたりのハサン・サラメですが、何ひとつ共感を得ることなく、むしろ何時になったら、この主人公が殺されるのか、というのが楽しみになってくるほどでした。

クライマックスは、なんといっても、ベイルートで愛人と隠れ暮らすアリ・ハサン・サラメに、イスラエルの暗殺の手がおよぶ部分になります。
ミュンヘン・オリンピックの惨劇から七年後の、まさしくこの一瞬のために、この長い物語が語られたのだと感じられる部分です。

はっきり言って、読んで面白いのは「標的(ターゲット)は11人」でしょう。ただ、この物語が、実話かどうかは議論の分かれるところではあります。

映画「ミュンヘン」を見た、あるいは「標的(ターゲット)は11人」を読んだ、という人で、もっと背景を詳しく知りたい、という人はぜひこの物語「ミュンヘン」を読んでみてください。

死を抱く氷原

2006年02月10日 19時41分35秒 | ミステリー
デイナ・スタベノウ著 ハヤカワ文庫
アリュート人(アラスカ原住民)の女性で、アンカレッジ地方検事局の元捜査官であるケイト・シュガックが活躍するシリーズの第四作目です。
アラスカの厳しい大自然やそこに生きる人々のちょっと変わった人生模様が楽しめる、ハードボイルドっぽいミステリーです。

前作では男ばかりのカニ捕り漁船で潜入捜査したケイトだが、今回の舞台は北海のなかにある孤立した石油採掘基地が舞台になる。
外界から閉ざされた基地内に何者かが麻薬を持ち込み密売しているという。石油会社の依頼で密売人を突き止めるため、従業員として潜入捜査を始めるケイト。
一方で採掘現場にはアリュート人の埋葬地だった遺跡があり、貴重な発掘品がたびたび紛失していた。

極北の大自然に抱かれた現代の基地までチャーター便で飛び、一週間働いてまたチャーター便で都会に戻って一週間休む、という不規則な生活を送る、ちょっと風変わりな登場人物たちと基地での生活模様が面白い。
さらにケイトの恋愛や家族関係、現在のアラスカにおけるアリュート人達の生活までが重ねられ、知らず知らずのうちに物語に引き込まれていきます。
今回の作品に関しては、ともかく読んでいて楽しかった。たった二日で読み終えてしまいました。ただそのためか、ミステリーの要素は減少してしまっているのが残念です。

前3作は「白い殺意」「雪どけの銃弾」「秘めやかな海霧」で、どれもハヤカワ文庫から出版されています。個人的には大好きで、お薦めのシリーズとなっています。

孤宿の人

2006年02月04日 22時06分16秒 | ミステリー
宮部みゆき著 新人物往来社

宮部ワールドの時代小説です。時代小説とはいっても、四国にある架空の藩が舞台になるので、どことなくブレイブ・ストーリーやICOのようなファンタジー系の感じもいたします。

丸海藩は北側を海に面した城下町で、港には金比羅参りの客を泊める旅籠町と漁師町があり、町の西側には紅貝染めを作る塔屋という作業所が並んでいる。
それぞれ町奉行と船奉行の差配下にあって、町の番小屋には引手という江戸でいえば岡っ引きのような存在がおり、漁師町の磯番小屋には磯番というものがいる。
さらにお城の堀を境に町側を堀外、武士が住む地域を堀内と分けてあり、堀内を柵屋敷とも呼ぶ。

主人公は江戸から丸海に流れ着いた、ほうという名の少女で、物語の大半は、阿呆のほうと呼ばれる少女と、彼女と知り合う引手見習いの少女宇佐の視点で語られてゆく。

物語は丸海にほうが流れ着いた後、世話になっていた匙家(医師)の娘が毒殺されるところから始まり、丸海藩に課役として加賀様という罪人が流罪になってくることから動き始める。

読み終えた後の感想としては、読んでいる始めのころはファンタジー感覚で、徐々に人々の思惑が交錯するミステリー的要素もあり、以外と複雑な物語となっています。

個人的には主人公の少女に感情移入できず、独特の舞台設定もあってか、なんとなく読みづらい本でした。
女性やファンタジーに違和感を持たない読者にとっては、相変わらずの宮部ワールドが楽しめるかもしれない物語だと思います。

LAST[ラスト]

2005年12月09日 20時25分50秒 | ミステリー
石田衣良著 講談社文庫

筆者の石田衣良は「4TEEN」で、直木賞受賞。この作品は受賞後第一作のもの。
受賞作と違い、ドロドロとした社会の底辺で、借金などに苦しみ、追いつめられ、どうかすると犯罪にまで走ってしまう人間の姿を七つの短編で描いている。
短編のタイトルはすべて「ラストライド」「ラストジョブ」といったふうに「LAST」がついている。
追いつめられた人間がどう行動してゆくのか、が作品の見所となる。

この作家は本当に借金まみれで、どうかするとホームレス生活をしたことがあるんじゃないかと思わせるような、リアルな描写が印象的です。
あっ、と驚くようなどんでん返しもない代わりに、以外と爽やかな読後感の作品が多いのも、この作者ならではでしょうか。

政治家が、景気は回復している、デフレ懸念は去ったと、うわごとのように繰り返し、大増税を目論んでいる今という時代にあっては、これらの話は他人ごととして捉えることはできません。
裏表紙には「明日への予感に震える新境地の連作集」とありますが、その明日は今日なのかも──

感想としては、意外と読みやすく、まあまあ楽しめました。

囚人分析医

2005年11月26日 21時32分27秒 | ミステリー
アンナ・ソルター著 矢沢聖子訳 ハヤカワ文庫

主人公は心理学者マイケル。同居する警察署長アダムとの間にできた、子供を身籠もる妊娠八ヶ月の女性。(本文にもあるけれど、男の名前だけど女性。オカマではない)
出産や育児、はてはアダムとの同居生活にまで不安を抱いている。

そんな彼女のもとに、元同僚で刑務所に勤める女性カウンセラーが、囚人と性交渉をもち、仕事も資格も失おうとしている、という報せが届く。
そのカウンセラーに代わって、刑務所での性犯罪者相手の集団セラピーを引き受けることになったのだが──。

なぜ、元同僚は逸脱した行為をとったのか。さらに厳重な監視態勢の刑務所内で、囚人の幼児虐待犯が殺害された。すべての囚人が容疑者という状況のなか、マイケルは真相に迫ってゆく。

著者のアンナ・ソルターにとって、この作品は心理学者マイケル・ストーンシリーズの第4作目だそうです。
この著者は本職が司法心理学者で、性犯罪の研究では世界的に有名な人らしいのです。そのためか前3作は、あまりにもマニアックすぎるらしく邦訳はされていないようです。そのために日本語に翻訳されたものとしては本書が第1作目になります。

やっと邦訳された本書では、論文や解説書ではない、ちゃんとしたミステリーとして楽しめる作品に仕上がっています。
ちなみに前3作は、「性犯罪に対するテキストのよう」とか、「描かれている内容の悲惨さに目を覆いたく……」なんていう評価を受けているようです。
それはそれで、なんとなく面白そうではありますが──

本作品では、先の読めない展開や、主人公が抱える悩み。刑務所での性犯罪者たちとの駆け引きも、分かり易い解説がさりげなくされていて楽しめます。
あげくのはてに、命を狙われたり、身重の身体で銃撃戦まで……

自分がうつ病で落ち込んでいたせいでしょうか、ブックオフで何気に手にした一冊ですが、性犯罪者の心理学や、囚人の実態に興味がある人はもちろん、海外物のミステリーがお好きな方にはお薦めの一冊でした。

テロリストのパラソル

2005年10月27日 21時03分38秒 | ミステリー
藤原伊織著 講談社文庫「江戸川乱歩賞・直木賞受賞作」

主人公は、名前を変え過去を隠し、バーテンダーとして生きるひとりのアル中の中年男。
全共闘時代にかかわった爆弾事件から逃げていた男は、二十年後に新宿中央公園での爆弾テロに遭遇した時から、事件に巻き込まれ、逃げてきた過去と対峙しながら、犯人を捜すことになる。

団塊の世代には、ノスタルジックな共感があるかも知れません。私には過去にとらわれて生きる主人公の姿勢に多少の鬱陶しさもありましたが、ハードボイルドミステリーとしては秀作だと思います。読後感はわりと満足できました。
アル中の中年男に共感できる人なら、きっと面白い、はず。お薦めの一冊です。

日暮らし

2005年10月20日 12時53分10秒 | ミステリー
宮部みゆき著 上・下(講談社)

江戸の市民がその日その日を暮らしていくさまが、生き生きと描かれています。
「ぼんくら」の主人公の八丁堀同心、井筒平四郎と甥の美少年・弓之助はもちろん、おでこやら煮売り屋のお徳やら……

はっきり言って、前作「ぼんくら」を読んでいない人には、入りづらい部分もあります。私も、前作を読んではいたけれど、よく覚えていないので、聞いたことあるけれどもこれって何だっけ? なんていう部分が所々ありました。二つの作品は、完全な続き物と考えた方が無難です。
これから読まれる人は、「ぼんくら」を再読してから読んだ方が良いかも知れません。

「ぼんくら」を読むのが面倒、という方には、朝日放送(ABCラジオ)系列でラジオドラマが放送中です。

「ぼんくら・日暮らし公式サイト」http://abc1008.com/bonkura/index.html

「ぼんくら・日暮らし公式サイト」

何だかんだといっても、さすがは宮部さん。宮部ワールドは健在です。

祖国

2005年08月14日 22時01分24秒 | ミステリー
WOWOWのドラマWで戦後60年特別企画「祖国」を見ました。
さすがは山田洋次監督、しっかりと感動させて頂きました。

思っていた以上に荒唐無稽なお話で、真夏にふさわしく幽霊さんも登場して頂いて、それでいて不思議としっとりとした人情話なんですよね。

マコ・イワマツさんの演技は、さすがにハリウッドスターだけあって、想像以上にしっかりとしていました。

ただ日本人だということをバラした後は、もうちょっと日本語でセリフを喋らせても良かったのでは……。
日本語が分かるんだから喋れば良いじゃん! というシーンも若干……

うつ病で落ち込んでいるせいかもしれませんが、見終わったあと、見て良かったと思った映画でした。

でも、日本映画なのに、セリフのほとんどがやたらと英語! 字幕って好きじゃないんですけれど──

ささやく壁

2005年08月11日 23時36分28秒 | ミステリー
読んでいて、文章というか文体というか、小説のリズムに違和感を憶えました。
何というか、いわゆるまどろっこしい感じ。
でも後書きで、この小説が書かれた年代を知ったら驚きました。あらまあそんなに昔(一九六九年)の本だったのね。でもストーリーもプロットも、まったく色あせしていません。
むしろ今流行りのミステリーに近いタイプの小説です。

驚かされるのはオーストラリアの女性作家の作品ということ。本国よりもアメリカの方が有名みたいです。
後書きにも書いてあるけれど、当時こういったサスペンスミステリーはあんまり売れなかったらしいです。

突然の発作で寝たきりになった老人が、周りには死んだように思われているけど、実はちゃんとした思考を持っている老婦人が、壁の隙間から聞こえてくる殺人計画を知ってしまい、なんとかしてそれを誰かに知らせようとする、というお話。

わりとお奨めです。

河岸の夕映え

2005年08月02日 22時00分10秒 | ミステリー
あんまり馬鹿な話ばっかりしているせいで、アクセス数が極端に減ってきました。
どうせなら、真面目な話をしてもっと減らすのも一興かと……。

というわけで最近読んだ本から。

河岸の夕映え「神田堀八つ下がり」
徳間文庫 宇江佐真理 著

時代物短編集としてはお奨めの一冊。
特にお気に入りは「身は姫じゃ」です。最初はどうなることかと思いましたが、ちゃんと人情話になっています。不覚にも最後は泣きそうになりました。

この宇江佐さんの書くお話はホロリとさせてくれる人情話が多いので、最近の時代物のなかでは安心して読めるものです。
まだ読んでない人はお奨めですよ。