クレームとまでは云いませんが、「運転士が無表情で不機嫌そう。」というものがあります。
同じ路線を走っている運転士について、乗客から上記のようなことをよく聞きます。
ほとんどの運転士は、なるべく愛想よくするように心掛けてはいます。
会社側も、特にアナウンスなど乗客対応については、半音高く話すことで印象アップを指導しています。
私も過去の営業職や顧客対応などで半音高く話すことで、悪印象の8割方が解消されることを経験を以て認識しています。
それでも、印象に対するクレームで損している運転士はいます。人が悪いわけではないので、非常にもったいないです。
「バスの仕事なんて運転だけやってればいいから、顧客対応まで考えている意識の高い人材がいない!」というと声もありそうです。
しかし、大抵の運転士は年数を勤めると運行管理者もやるため、顧客対応や営業、事務処理などのスキルはここでカバーされるはずです。
中には、運転士しかしたくないというと人間もいますが、結局は労働組合などの何らかの仕事に携わる羽目になるのが大方の流れです。
もちろん、偏屈で無愛想な運転士などがいることは否定しませんが、昨今の状況を鑑みるに会社と社会がいつまでも許すかどうか微妙です。
こういった運転士は、地方の中小企業のバス会社で比較的規則が緩い場所に落ち着くことが自然の流れです。
以上のことを差し引いて、実はバス運転士には、乗客との距離をある程度取らざるを得ない法律的な事情があります。
先ず、基本的にバスの運転士は、法律で運行に関すること以外は、乗客と話しては行けません。
運輸規則第49条では、「乗合、貸切、特定旅客自動車の乗務員は、旅客の現在する自動車の走行中職務を遂行するために必要な事項以外の事項について話をすることをしてはいけない。」と定められています。
これは、タクシーを含まない規定で、バス運転士とタクシー運転士の大きな違いの一つです。
バスは不特定多数の乗客を一度に乗せます。当然、多くの命を預かるため安全運行が最優先です。
少しでも、注意を散漫する安全運行の阻害要因を排除する規定です。
次に、乗客に迷惑を及ぼすおそれがある場合などの正当な理由がある場合、車内の安全、秩序維持を目的として、特定の乗客を乗車拒否する権限が与えられています。
運輸規則第13条では、「乗合(路線バス)、乗用(タクシー)自動車運送事業者は、公の秩序、善良な風俗に反する行為に対して制止または指示に従わない場合等の行為をしたものの運送引受けまたは継続を拒否することができる。」と定められています。
そのため、バス運転士は上記の法令に係る迷惑行為があった場合、制止し旅客に指示をすることと同時に、車内の安全と秩序の維持に努める義務があります。
今でこそ、バス運転士の目出帽着用を廃止しているバス会社は多いですが、乗車拒否権限及び車内の安全、秩序維持義務は今でも生きています。
最後に、ベビーカーや高齢者の介助にバス運転士が協力的でないというクレームもたまに受けます。
基本的にバス運転士が、積極的に介助が可能なものはバリアフリー法第39条に基づきバスにスロープ、固定設備等を準備した上で、基本「車椅子」だけです。
これには、国土交通省の要請や法律の後押しがあって行っていることです。
介助は本来リスクを伴います。
そのため、バス会社は、万一の介助に伴う事故などの補償体制なしに行うことは、あり得ないと考えてほしいです。
バス会社は、一事業者であり公共交通サービスの担い手です。
そのため、安易な行動は、事業者としての信用の失墜はもちろん、市町村などの地方公共団体の信用失墜につながるのです。
以上、このような諸事情も、是非ご理解いただけると幸いです。