楽正子は言いわけをして言った。「私が殿様におすすめし、殿様もここにきて先生にお会いになるばかりでしたのに、お気に入りの近臣蔵倉と申す者が邪魔をしたので、にわかにお取りやめになったのです。まことに残念でなりません。」
すると、孟子は言われた。「いやいや、克(楽正子)よ。お前は魯の殿のお出ましも、お取りやめも、すべて人間わざとのみ考えているが、人が出かけるのも取りやめるのも、みなそうさせるものがあるので、人間の力の及ぶところではない。そうさせる目に見えない偉大な力、すなわち天命なるものが働いているのだ。わしが魯の殿に会えないのは天命なのじゃ。蔵氏の子倅などの力で、どうして遇わせたり遇わせなかったり自由にできようぞ。」(「孟子」十六 ごく一部を改竄)