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吉田篤弘さんの作品。
新しい町に越してきたオーリィ君と彼が出会った人たちとの心温まる交流の話。
登場人物はみんなユニークで、みんな何かしらちょっとセンチメンタルな所がある。
大きなメガネをかけた小学生リツ君は、とても大人びていて生意気だけど
お母さんがいない寂しさに耐えている健気さがかわいい。
リツ君のお父さんで「トロワ」というサンドイッチ店の店長、安藤さん。
とってもおいしいサンドイッチを作ることができるけど、職人気質で
息子とのコミュニケーションはうまくいかない。
フランス映画に出てきそうな古アパートのマダムという雰囲気の
年齢不詳、言うことにいつもハズレがない大家さん。
それぞれドラマがあって、それぞれにじんわりするお話だけど、
一番心に残ったのは、主人公オーリィ君の片想いの物語。
主人公オーリィ君は古~い映画が好きで同じものを何回も繰り返し観ている。
単なる映画好きかと思いきや彼が観ている古い映画には決まってある女優さんが
ときにはほんの一瞬だけ、またときには少年に扮して、出演しているのです。
オーリィ君は、この「松原あおい」という女優さんを観るために
同じものを何回でも観るし、遠くの映画館まで足を運ぶのです。
まるで、遠くに住んでいる恋人に会いに行くかのように。
芸能人に憧れることは珍しくないし、熱狂的追っかけファンも少なくないけれど
オーリィ君のあおいさんに対する想いは、静かで清らかで、まるで中学生の初恋みたい。
画面の中のあおいさんに釘付けになるあまり、大好きなポップコーンが
袋からあふれ出して足元にこぼれ落ちるのも気にならなくなってしまうほど
うわの空になってしまうし、彼女が映画の中で吹いていた口笛を
それと気づかずに自分も吹いていたり。
ところが、ある日、スクリーンの中のあおいさんがオーリィ君の日常に登場します。
チャーミングで「ダンディ」なおばあちゃんとして。
時間的な距離が年齢差となって現実になっても、オーリィ君のドキドキは消えない。
それどころか、自分の時間を少し進めて、あおいさんの時間に合わせようとする
最後の章は、ちょっとホロッときちゃう。