洛陽の支配者の名において、黎武官を謹慎処分と処す
「よーいろおとこ!しょぼくれやがって!お姫様にふられたのかよ!」
玉城の口の悪さは黒の騎士団の中では周知の事実で、最近は誰もが玉城の台詞を5割ぐらい聞き流しているのだが、この場合からんだ相手が悪く、また言った言葉も悪かった。
黎星刻が神虎の起動キーを握りしめたころ、ラクシャータはいつものキセルを片手に神虎(むすめ)と星刻のデータを調べていた。調べれば調べるほど興味深い、星刻が神虎に乗ったのは偶然のはずなのにまるで『この男のためだけにこの神虎(むすめ)は生まれてきたような』錯覚さえ覚える。
心・技・体。どこをみても完璧な男。
「いい男のみほんだねぇ」
ラクシャータは惚れ惚れと呟く。
ラクシャータの見るところ、ゼロはきれいだし心理戦の天才だが、まだ未熟な面がある。おそらく年齢的な要素だろう。
その点星刻はもう男として完成している。誠実で、たくましくて、要求されるどんな形容詞にでも堂々と応えるだろう。時には狡猾で残忍な面も見せるが、そういった面も含めてますますよい男に成長するだろう。
(最高の男を手にできたねぇ)
今まで、そのハイスペックゆえに孤独で、さまざまな批判を受けてきた神虎。その不幸を補って余りある最高の対の相手。
しかし、気になる。その好い男のバイオデータが。特に肝臓系の数値があまりにも異常なのだ。ALP AST ALT LAH GDP。異常な高値を出している。
花嫁強奪のあの日は天子が星刻の傍を離れなくて、そういう話はできなかった。かわいい女の子に心配をかけてはいけないというのがラクシャータの信条である。
同盟軍とはいっても味方とはいえない。ムスメムコに次に会えるのはいつになるのか。できれば大きな戦闘が起こる前に精密検査とバイオチェックを受けさせるべき・・・。(ちなみにラクシャータのバイオチェックとは、あの藤堂さえも悲鳴をあげたというおそるべきしろものである。ゼロは受けた事がない。必要がないということもあるが、ゼロは貧弱なのでいじりがいがないとはラクシャータの名言とされる。)
ラクシャータの携帯がけたたましい音で鳴り響いた。
第一艦橋のスタッフがいっせいに振り返るほどのボリュームであった。音に負けない声量でラクシャータの声が響く。
「朱禁城へ飛べ。全速前進!」
ラクシャータの命令一下、斑鳩は緊急発進した。
参考ながらこのとき第一艦橋には副長の扇も将軍の藤堂もいたのだが、誰一人この越権行為を指摘するものがいなかった。黒の騎士団の実質的権力者が誰なのか、よく伝えるエピソードである。
星刻は突然空を覆いつくすように現れた斑鳩につれさらわれた。いやこの言い方は公平を欠く。
神虎の起動キーに仕掛けておいたチップの緊急通信で、星刻の異常を知ったラクシャータがムスメムコを助けに来たというのがもう一面の見方である。
星刻は案外悪運の強い男だった。このとき斑鳩が来なければ、すでにショック状態を起こしかけていた彼は間違いなく死んでいたのだから。中華の医療技術は世界標準から50年は遅れている。中華の医師では星刻を救えなかった。しかし、この後の彼の人生を見ればここで天子に見守られて死んでいたほうが良かったのでは・・・。
星刻は3日間意識を戻さないまま、ラクシャータの管理下におかれた。
動けるようになってからは、積極的に黒の騎士団のメンバーと交流した。以下はその一部ティールームでの出来事である。
それは朝比奈がたまたま写していた動画画面。
洛陽の朱禁城の公式発表。宦官の支配体制を覆し、親政を復活した中華の天子の最初の公式発言であったので世間的にも注目されていた。
黄金と朱で飾られた天子の座。そこに座る事を許されるのはただ一人、洛陽の支配者。
左に文官代表の周香凛、右に武官代表の洪古。本来なら天子の後ろに後見人たる黎武官が立つはずだが、当然この日星刻の姿は朱禁城にはない。
打ち鳴らされる銅鑼。
純白の髪の天子の唇から始めての言葉が発される。
「洛陽の支配者の名において、黎武官を謹慎処分と処す」
ティールームにいた全員が一斉に星刻を見た。天子の声が聞こえていないはずはないのに、星刻は静かだった。黒の騎士団の誰もが何かを言いたかったが、何を言っていいか分からない。あの藤堂すらも硬直したようにカップを見つめるだけだ。
そんな時、空気を読まない男が、凍りついた空気を叩き壊した。
「よーいろおとこ!しょぼくれやがって!お姫様にふられたのかよ!」
玉城の口の悪さは黒の騎士団の中では周知の事実で、最近は誰もが玉城の台詞を5割ぐらいスルーしているのだが、この場合からんだ相手が悪く、また言った言葉も悪かった。
ザッ!
空を切る音。
あまりにデリカシーの無い発言に眉をひそめ、にらみつける千葉たちの前で、玉城はへたり込んだ。
「よーいろおとこ!しょぼくれやがって!お姫様にふられたのかよ!」
玉城の口の悪さは黒の騎士団の中では周知の事実で、最近は誰もが玉城の台詞を5割ぐらい聞き流しているのだが、この場合からんだ相手が悪く、また言った言葉も悪かった。
黎星刻が神虎の起動キーを握りしめたころ、ラクシャータはいつものキセルを片手に神虎(むすめ)と星刻のデータを調べていた。調べれば調べるほど興味深い、星刻が神虎に乗ったのは偶然のはずなのにまるで『この男のためだけにこの神虎(むすめ)は生まれてきたような』錯覚さえ覚える。
心・技・体。どこをみても完璧な男。
「いい男のみほんだねぇ」
ラクシャータは惚れ惚れと呟く。
ラクシャータの見るところ、ゼロはきれいだし心理戦の天才だが、まだ未熟な面がある。おそらく年齢的な要素だろう。
その点星刻はもう男として完成している。誠実で、たくましくて、要求されるどんな形容詞にでも堂々と応えるだろう。時には狡猾で残忍な面も見せるが、そういった面も含めてますますよい男に成長するだろう。
(最高の男を手にできたねぇ)
今まで、そのハイスペックゆえに孤独で、さまざまな批判を受けてきた神虎。その不幸を補って余りある最高の対の相手。
しかし、気になる。その好い男のバイオデータが。特に肝臓系の数値があまりにも異常なのだ。ALP AST ALT LAH GDP。異常な高値を出している。
花嫁強奪のあの日は天子が星刻の傍を離れなくて、そういう話はできなかった。かわいい女の子に心配をかけてはいけないというのがラクシャータの信条である。
同盟軍とはいっても味方とはいえない。ムスメムコに次に会えるのはいつになるのか。できれば大きな戦闘が起こる前に精密検査とバイオチェックを受けさせるべき・・・。(ちなみにラクシャータのバイオチェックとは、あの藤堂さえも悲鳴をあげたというおそるべきしろものである。ゼロは受けた事がない。必要がないということもあるが、ゼロは貧弱なのでいじりがいがないとはラクシャータの名言とされる。)
ラクシャータの携帯がけたたましい音で鳴り響いた。
第一艦橋のスタッフがいっせいに振り返るほどのボリュームであった。音に負けない声量でラクシャータの声が響く。
「朱禁城へ飛べ。全速前進!」
ラクシャータの命令一下、斑鳩は緊急発進した。
参考ながらこのとき第一艦橋には副長の扇も将軍の藤堂もいたのだが、誰一人この越権行為を指摘するものがいなかった。黒の騎士団の実質的権力者が誰なのか、よく伝えるエピソードである。
星刻は突然空を覆いつくすように現れた斑鳩につれさらわれた。いやこの言い方は公平を欠く。
神虎の起動キーに仕掛けておいたチップの緊急通信で、星刻の異常を知ったラクシャータがムスメムコを助けに来たというのがもう一面の見方である。
星刻は案外悪運の強い男だった。このとき斑鳩が来なければ、すでにショック状態を起こしかけていた彼は間違いなく死んでいたのだから。中華の医療技術は世界標準から50年は遅れている。中華の医師では星刻を救えなかった。しかし、この後の彼の人生を見ればここで天子に見守られて死んでいたほうが良かったのでは・・・。
星刻は3日間意識を戻さないまま、ラクシャータの管理下におかれた。
動けるようになってからは、積極的に黒の騎士団のメンバーと交流した。以下はその一部ティールームでの出来事である。
それは朝比奈がたまたま写していた動画画面。
洛陽の朱禁城の公式発表。宦官の支配体制を覆し、親政を復活した中華の天子の最初の公式発言であったので世間的にも注目されていた。
黄金と朱で飾られた天子の座。そこに座る事を許されるのはただ一人、洛陽の支配者。
左に文官代表の周香凛、右に武官代表の洪古。本来なら天子の後ろに後見人たる黎武官が立つはずだが、当然この日星刻の姿は朱禁城にはない。
打ち鳴らされる銅鑼。
純白の髪の天子の唇から始めての言葉が発される。
「洛陽の支配者の名において、黎武官を謹慎処分と処す」
ティールームにいた全員が一斉に星刻を見た。天子の声が聞こえていないはずはないのに、星刻は静かだった。黒の騎士団の誰もが何かを言いたかったが、何を言っていいか分からない。あの藤堂すらも硬直したようにカップを見つめるだけだ。
そんな時、空気を読まない男が、凍りついた空気を叩き壊した。
「よーいろおとこ!しょぼくれやがって!お姫様にふられたのかよ!」
玉城の口の悪さは黒の騎士団の中では周知の事実で、最近は誰もが玉城の台詞を5割ぐらいスルーしているのだが、この場合からんだ相手が悪く、また言った言葉も悪かった。
ザッ!
空を切る音。
あまりにデリカシーの無い発言に眉をひそめ、にらみつける千葉たちの前で、玉城はへたり込んだ。