上海事変その9 ひとりで、できるもん 天子様サイド
(思えばこちらを先に書くべきでした。)
シンクーが上海から帰ってきた日、あまりにも多くのことが天子の周りを流れていった。
まず見たのは深い青。空よりも、たった一度だけ見た海の青より深い青。神虎の蒼。
その色を見たとき天子は駆け出した。
帰ってきた。シンクーが。
次に見たのは白いパイロットスーツ。漆黒の髪と真反対の色。その対比に見とれているうちに天子の足元はおろそかになる。あっと思ったときは顔が床の近くにいた。それをふわりと受け止める大きな手。天子はこの手を知っている。
自分のための手。
永続調和の契りをかわした手。
「シンクー」
名を呼んだ後、天子には次の言葉が分からない。
カグヤはなんといっていたかしら。夫を迎える妻の心得・・・。
なぜだか、天子のほほが赤く染まる。
言葉を捜している天子は星刻の目から見て、 凄くかわいい。
大きな瞳が天子本人は知らないのにわずかに揺れる。でもずっとそれをさせると彼女は泣きそうな顔になる。
それにほかのだれにもこんなにかわいい彼女を見せるものか。
自覚はないが、黎星刻24歳はけっこう嫉妬深かった。
だから星刻は堪能したところで、優しく声をかける。
「上海討伐軍司令、黎星刻ただいま帰還いたしました」
天子が次に見たのは黒。天子の姿だけが写るシンクーの瞳。
次に見たのは桃色。初めての世界の色。
でも、次に見たのは
赤、強烈な赤。それと匂い。さきほど抱き上げられたとき感じた鉄の匂い。
天子は誰かに訴える。
「わたしをひとりにしないで」
それなのに
あの時自分をさらったナイトメアの残月は、今度はシンクーを連れて行ってしまった。
生きているのが不思議なほどに血の色を失ったシンクーを。こうして、天子の世界は色を失くした。
《入力者注釈。斬月の主なお仕事。花嫁強奪。花婿強奪。以上》
(思えばこちらを先に書くべきでした。)
シンクーが上海から帰ってきた日、あまりにも多くのことが天子の周りを流れていった。
まず見たのは深い青。空よりも、たった一度だけ見た海の青より深い青。神虎の蒼。
その色を見たとき天子は駆け出した。
帰ってきた。シンクーが。
次に見たのは白いパイロットスーツ。漆黒の髪と真反対の色。その対比に見とれているうちに天子の足元はおろそかになる。あっと思ったときは顔が床の近くにいた。それをふわりと受け止める大きな手。天子はこの手を知っている。
自分のための手。
永続調和の契りをかわした手。
「シンクー」
名を呼んだ後、天子には次の言葉が分からない。
カグヤはなんといっていたかしら。夫を迎える妻の心得・・・。
なぜだか、天子のほほが赤く染まる。
言葉を捜している天子は星刻の目から見て、 凄くかわいい。
大きな瞳が天子本人は知らないのにわずかに揺れる。でもずっとそれをさせると彼女は泣きそうな顔になる。
それにほかのだれにもこんなにかわいい彼女を見せるものか。
自覚はないが、黎星刻24歳はけっこう嫉妬深かった。
だから星刻は堪能したところで、優しく声をかける。
「上海討伐軍司令、黎星刻ただいま帰還いたしました」
天子が次に見たのは黒。天子の姿だけが写るシンクーの瞳。
次に見たのは桃色。初めての世界の色。
でも、次に見たのは
赤、強烈な赤。それと匂い。さきほど抱き上げられたとき感じた鉄の匂い。
天子は誰かに訴える。
「わたしをひとりにしないで」
それなのに
あの時自分をさらったナイトメアの残月は、今度はシンクーを連れて行ってしまった。
生きているのが不思議なほどに血の色を失ったシンクーを。こうして、天子の世界は色を失くした。
《入力者注釈。斬月の主なお仕事。花嫁強奪。花婿強奪。以上》