金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

20話後8回目の妄言

2008-08-30 21:00:36 | コードギアス

そこにジノの姿を見たとき星刻は夢の続きだと思った。
先ほどの夢と、このところの激務が星刻の判断力をいくらか狂わせていた。

「シンクー、君は天子にうそしか与えないつもりか」
どこか、発音にくせのあるジノの声。それは夢で聞いた声と同じに聞こえた。

「違う、私はただ、あの方の瞳を、あのようなもので曇らせたくなかった」
あのようなもの、それが死んだ東京租界を示した。

(そうだ、あれはもう戦いですらない。虐殺だった。)
ジノは思う。私は信じないと。
フレイアの引き金を引いたのが、スザク。信じられない。どれほどの証拠を積み上げられてもジノには信じられない。たとえ、スザク自信の声で「私がフレイアを東京に撃った」そう公的に発表されていても。
発表を聞いてもなおジノは信じない。スザクの肩を抱きこんで、あいつを手の中に収めて、どうしたんだ?そう訊くまでは、誰の言葉も信じない。

「だが、現実だ。」
ジノの声は星刻の言葉と、自分自身の思い、両方への回答だった。

死者1000万人、東京租界は死んだ。
その事実を星刻はいまだに天子に告げていない。

あの東京決戦で、
星刻はできることなら天子は洛陽に残したかった。危険な戦場に大切な彼女を伴うなど考えたくも無かった。だが、上海があった。洛陽に残す戦力だけで、もしも上海が攻撃してきた場合、どこまで防戦できるか?まして、洛陽の禁軍にせよ、天子への忠誠心には疑問を持たざるを得ない。
時間。星刻にとってそれが最大のネックであった。
5年、いや3年あれば
3年あれば、天子は国母として人民の支持を得るだろう。そうさせる自信が星刻にはある。
しかし、その3年が。

私には無い。

星刻は口中に残る血の味を飲み下した。

黎星刻にはいましかない。
だから、危険な劇薬とわかっていながら、ゼロの手を取った。
部下にはならない。自らの言葉を否定するかのように直属に付いた。
そのゼロが、廃人と化した・・・。星刻は足元が揺らぐのを感じた。

激しく揺れる心中をそのままに星刻の手は震えた。
そのとき、それは聞こえた。


星刻、あなたが私に見せてくれる世界はあなたが造った箱庭なの?

鈴を振るような声でそう問われた。
「天子さま」
答える声は彼の手より、なお激しく震えていた

20話後7回目の妄言

2008-08-30 20:46:38 | コードギアス
20話後7回目の妄言

星刻、あなたが私に見せてくれる世界はあなたが造った箱庭なの?


ジノの手を借りて天子は軍の地下施設に来ていた。
電圧が下がっているのか地下施設は薄暗い。金属の匂い。アドレナリンの発する臭気。ここは天子の知らない世界だった。
(ここに星刻がいる)。
そう思うと圧迫されような思いが薄れていく。天子が感じた圧迫感は本能的な恐怖心だった。天子はそれを表す言葉すら知らなかった。

初めてきた場所であるのにジノの歩みに迷いは無い。
星刻が知れば、中華の情報部の怠慢を痛感するだろう。ブリタニア軍はこの地下秘密施設を造られた当初から知っていたのだから。



ある部屋の前でジノは足を止める。
ロックがかかっているがジノの前では無意味だった。

ゆっくりと開かれたドアに何かが引っかかる。
黎星刻が倒れていた。
天子からは見えないように角度を調整し、ジノは手早く脈を確認する。幾分早いが正常範囲だ。疲れて、ベッドまで行くこともできなかったのだろう。
同時にジノは床を確認する。血の跡はすぐ見つかった。部屋に入った瞬間から、鮮血の匂いと、特有の薬品臭に気付いた。騒ぎ立てる気は無い。ジノにも覚えがある。戦場ではどんなことでもあるのだと。


ジノは廊下に立たしたままの天子を部屋に入れた。
「私がいいと言うまで声を出してはいけない」
そう、念を押してから。


20話後6回目の妄言

2008-08-30 17:18:54 | コードギアス

ジノが朱禁城で天子の家庭教師兼お守りをしている間にも事態は動く。
中華連邦はジノが持ち込んだ、迷惑な爆弾(フレイア2号)のために右往左往していた。
高齢の将官達はもはや言葉を挟む事ができない。彼らの時代には無かった事が超高密度で起こっている。
 現状を把握し、命令を出し、報告を受け、今すべてが黎星刻ひとりに流れてくる。この時期の彼を中華の新王と呼ぶ歴史家がいるが、ギアス動乱期の時代研究家として、全面的に賛成する。
「広州第5区の暴動、鎮圧終了」
「桂林2区より救援要請」
「上海特区より、面談の申請あり」
それまで、どの報告にも3秒以内に返答し指示を与えていた黎武官が上海という言葉に止まった。
また、あそこか。そう言いたげな苦い表情。
上海は海外華僑とのつながりが強く、独自の軍隊を持ち、さらに正当と称する天子を掲げ反乱を起こそうとしていた。
黎武官はこのとき、亡き大宦官高亥の線から、直接多国籍企業のトップと密談した。密談の結果、反乱は雑種の暴動に摩り替えられ、神虎を中心とした部隊に取り押さえられた。中華軍でこの事実を知るのは黎武官ただひとり。


現状、上海は経済特区の名を得て、独自の繁栄を誇っている。だが、上海の本当の目的は中華の分断、すなわち経済において優位に立てる沿岸地方だけで中華連邦を再編成する事にある。この独立論はもう200年以上くすぶっている。歴史と伝統と実力を備えた反政府勢力だ。


黎武官はすでに10日近くまともに眠っていない。時差を考慮せず入ってくる報告に、また考慮できる状況でも無い。ブリタニア軍はいったん EUラインまで主力を下げたが、あくまでも一時停戦であり、いつ再進行するか分からない。黒の騎士団からは極秘通信で「もはや、ゼロは廃人と考えて欲しい」と連絡があった。
 各国からは、総司令の肩書きを持つ黎武官に説明と指示を求める通信や特使が山ほど来ている。EU系の国々からは、そのフレイア爆弾をブリタニア首都に打ち込めと過激な事を言ってくる州もある。
 あるいは騒ぎ立て、あるいは見透かそうとする特使達をなだめ終え、仮眠室のドアをロックする。
カチリ、ロックの音が響く。その残響が消えない間に星刻は倒れこんだ。ベッドに辿り着くだけの力が出ない。
 
 この当時の星刻には天子のお守りをする暇など無かった。