失われたメディア-8cmCDシングルの世界-

50円とか100円で叩き売られている8cm CD singleを見るとついつい買ってあげたくなることはないか。私はある。

「銀河鉄道999」 ささきいさお、杉並児童合唱団 1978年

2010-08-30 | アニメ・特撮
人は、あまりにも得意分野だとうまく書けないものだ、と大宇宙詩人が言っていたような言ってなかったような…長いよ、今回は。

いまだに松本零士のキャラなら何でも描ける。だいたい5パターンくらいマスターすれば、あとは部品の組み合わせて何とかなるから。でも松本先生のあの線は、やっぱり誰にもマネできないんだよっ!

先日放送された、NHK「全駅停車!『銀河鉄道999』ぜんぶみせます」を見た。4時間を5夜連続、計20時間の大特集、ちょうど夏休み中だったので録画しておいたのを、ようやく見終わった!「全駅停車」とはいっても、テレビシリーズ全113話をすべて放送するとそれだけで50時間以上かかってしまうので、主要エピソードを選んでフルサイズ流し、それ以外は予告編で紹介。テレビシリーズを中心に、関係者への豊富なインタビュー、鉄道ファンから見た999の魅力、技術者から見た999の実現性などなど多角的なアプローチで999の世界に迫る素晴らしい特集だった。

声優座談会、野沢雅子、肝付兼太は顔を出していたのに、池田昌子だけは声のみの出演。「メーテルを演じる上で、気をつけたことは?」の問いに、「私はメーテル。『演じていた』のではありません」とあの凛とした声で、ちょっとキレ気味に応えたのには、冗談と分かっていても感動した(その後はわりとくだけた調子で話していたけど)。松本零士の弟さんが工学博士で早稲田大学大学院教授やってるのは知らなかった。松本SFの世界は「あり得ないとは言い切れない」という考証がなされていたんだなあ。松本零士インタビューも濃かった。連載依頼の電話に、タイトルと主要キャラの名前を即座に返答したエピソード、上京する汽車の中で見たメーテルの幻影(妄想)の話など、どれも興味深かった。しかし、インタビュー中に描いた色紙!え~っ、こんなに下手になってるの!?と目を疑う迷いまくりの線…いや、往年の松本先生はああ見えてデッサン力も確かだったのに…まあ、時は流れているわけで。そりゃタケカワユキヒデの歌もあんな感じになっちまうわけだ。

メインのテレビシリーズについては、残念ながら見続けるのが辛かった。2年半にわたる長いシリーズだから中だるみがあるのはしょうがない。原作もそうだったし。でも厳選エピソードですら正直だるかったのは、私が少年の心を失ってしまったせい?いや、後半はとくに無駄に話を長くする傾向が…だってほとんど前後編の2話セットだよ。そんな小さな思いつきは30分でまとめてくれよ、ってな小粒な話で「次回につづく」って言われてもねえ。それでも絵がもう少し綺麗だったら、と思ってしまう。当時も感じてたけど、メーテルの鼻がだんだん伸びて、シリーズ終盤になると明らかに顔内バランスを崩している。松本先生は何も言わなかったのだろうか。1000年女王で忙しくて、それどころじゃなかったか。鉄郎もあの単純なパーツで構成された顔だけに、いったん松本ワールドから離れだすと、えらい勢いで収拾がつかなくなっていく。初回の少年と比べると、主人公が変更になったとしか思えない別人ぶり。これは映画版で「鉄郎、顔が違うわね」とメーテルが言わなかったので、すべてOKになったと解釈すべきか。最終回、最後のシーンで鉄郎と別の列車に乗ったメーテルの向いに、鉄郎似の少年のシルエットが。999マニアの俳優・上川隆也も指摘していて、「そこは言わないでほしかった」のコメントに激しく同意。

大人になってふり返れば、メーテルの謎についてはそのほとんどが「思わせぶり」と「ちょっとだけよ」で説明がつくし、作品論的には「拾い切れなかった(思いつき含む)伏線たち」がメーテル伝説を彩っているともいえる。でもそんなことは問題じゃないんだ。松本先生が「少年時代の女性への憧れ」を結晶化させた幻影を、小学生時代に刷り込まれちゃった私にとっては、どう考えてもメーテル=永遠なのだ。そんな、ある意味無茶な設定を見事に演じきった池田昌子の功績はあまりにも大きい。だからこそ、「私の中のよからぬものが…」なんてメーテルは絶対に言っちゃいけなかったんだよう。

特集の最後は劇場版「銀河鉄道999」。絵が綺麗。それだけでほっとする。一切の無駄を排して直線的に進む999と鉄郎。ハーロック、エメラルダス、トチローといった松本ワールドの大スターたちが登場するばかりか、彼らの運命の転換点にまで鉄郎が大きくかかわるという山盛り感。これは松本先生が「ここが自分のピーク」と見切っていたとしか考えられない。ただメーテルの描き方については、劇場サイズに収めるためだとは思うが、あまりにも辻褄が合いすぎた感じ。もうすこし謎の部分が多くてもよかったんじゃないか。あとナレーションは城達也も悪くないけど、やっぱりテレビ版の高木均のこもった声がいいなあ。

と、批判めいたことばかり書いてしまったが、大好きです!999。


では、8cm。おなじみ食玩CDね。これはバンダイの「お菓子CDなつかしのヒーロー&ヒロインヒット曲集 第1弾」の一枚。

①銀河鉄道999
作詞:橋本淳、作曲:平尾昌晃、編曲:青木望、歌:ささきいさお、杉並児童合唱団
999の劇伴音楽は時代を反映してか、ストリングスを多用したソウル・ディスコサウンドといった趣きだった。「チキチキ」ハイハットの刻みに、リズムギター&ベースとストリングスが被せられるイントロ、最高。ベースなんかよく聴くと微妙にファンキー。この録音はテレビ版よりイントロが長いけど、オープニングの車線変更の絵がいやでも浮かんでくるね。別にいやじゃないけども。ストリングス&ホーンは、おそらく当時のアニメ界では破格の大編成だったと思われる迫力のサウンド。ささきいさおの和風エルヴィス唱法が、平尾昌晃の大きなメロディを朗々と歌い上げる。サビでは必殺子供コーラスも加わって、短い間に盛り上げること。橋本淳の無駄のない詞もいい。1番の完成度が高すぎるせいもあるだろうが、毎週木曜に1番だけを聴いていた私にとっては、語呂が悪くてよそよそしく感じる2番の歌詞。アニメ主題歌の2番以降ってどうしてもそういう印象になってしまう。

定価不明、中古で200円。
残念ながら多くの食玩8㎝同様、収録は1曲のみ。エンディングのこれまた名曲「青い地球」も入れてほしかったなあ。ささきいさおが「青い地球」に関して、「ちょうどこの頃、離婚して、息子の気持ちを考えると…」と超個人的なエピソードを披露していた。その後この曲を聴くたび、いさおの生々しい苦悩が思い出されて辛い気持ちになってしまう。どうしてくれるのよ。

右は超蛇足ながらタケカワユキヒデ「ガンダーラ伝説」(1994)。
70年代にゴダイゴが放ったヒット曲とタケカワソロ曲をメドレーで。個々の曲名を知りたい方はこちらを。こんな後ろ向き企画が傑作のわけがない、との予想をものの見事に裏切らない、残念セルフカヴァー集。メドレーの最初と最後はタイトルどおり「ガンダーラ」、2曲目が「モンキー・マジック」。この2曲は言うまでもなくマチャアキが「最もファンキーなおサル」を演じた名作ドラマ「西遊記」のエンディング&オープニング曲。そしてメドレーの山場といえる位置でワンコーラス歌われるのが大名曲「銀河鉄道999 THE GALAXY EXPRESS 999」だ!番組では「忙しすぎて締め切りを忘れていて、数時間で書いた」なんてエピソードが語られていた。このメドレーヴァージョンも脱力するような出来だけど、NHKスタジオでのタケカワユキヒデの歌はへろへろとしか言いようのない「過去の歌手」な姿が痛々しかった。その点、ささきいさおは、「昨日もイベントで歌ってきましたが何か?」と言わんばかりの現役感バリバリの声量で、圧倒された。


読んでくれた方、おつかれさま。

遠く時の輪の接するところで、また会いましょう。



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6 コメント

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Unknown ()
2010-08-30 21:59:43
ワハハハハハハハ!!!(大爆笑)
師匠、凄いね!いや、やったね!読んでて気持ちいいったらありゃしない!打倒ついった!ってぐらいロングでしかも火傷しそうな記事、ゴチソウサマでした。いやー、師匠、今回の記事、このブログの記事の中のベスト5以内にランクインでしょ。参りました。師匠がここまで999にラブだったとは!つか、知らなかった!だからこれ読んで、最高にいい気持ちで夏を終わらせる事ができます。
私も999は好きだったけど、いやー、師匠、凄いわー(笑)
ちなみに私のクラスは透明の下敷きに切り抜き挟むちょっと前に何故かメーテルをなぞってマッキー(禁句?)極細で描いてそれを使うってのが流行ってて、私もそれにのっかっちゃって、常にメーテルに見つめられながら授業を受けてましたね。

>いまだに松本零士のキャラなら何でも描ける。
ハハハ!すげー、師匠!!

その番組、知らなかったなー。声優座談会見たかったです。
池田昌子さん、wikiによると、今、71歳とか…。

いやーん、つっこみたいところ、いっぱいあるけど、この記事の素晴らしさに大拍手を送ってアタシは遠い彼方へ旅立とうと思います。

しかし、

>「鉄郎、顔が違うわね」
…わははははは!! 師匠、サイコー!
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いつもの約5倍 (nakamura8cm)
2010-08-31 01:09:02
力入りまくりましたね。
やっぱり私のルーツのひとつなんだな、と確認できた特番でした。
999以降の松本先生の凋落ぶりには、見ていてつらいものがありましたからねえ。
マッキーの件も「ああ、お爺ちゃん、落ちついて~」と情けない気持ちになったものでした。
もうそろそろ「完全なる過去の人」としてふり返ってもいい時期にきたんでしょうね。寂しいけど。

>最高にいい気持ちで夏を終わらせる事ができます。
最高のホメ言葉、ありがとうございます!
こんな長文、誰が読むんだ?と頭の片隅で考えつつも、キーボード叩く手が止められない。
そんなテーマはなかなかないから、思いっきり書きましたよ。
しかし、夏は終わるのかね?

>遠い彼方へ旅立とうと思います
お、どこかへご旅行かな?お気をつけて~

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Unknown (ドラム猫)
2010-08-31 19:26:01
>でもそんなことは問題じゃないんだ。にいたく感動しました(・&・;)

999とかよく知らないのですが、ここまで熱い素晴らしい文章だと伝わってくるものがありますなッ!8月の終わりにイイものを読ませて頂きましたッ!\(^&^')/
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Unknown (nakamura8cm)
2010-08-31 23:40:53
999知らない世代のドラム猫さんに何かが伝わったのなら、うれしいです。

いや、そりゃもう大ブームだったんだから。
世間的にも凄かったはずだけど、小学生の私はまさにブームの中心にいた自覚があります。
完全に巻きこまれました。
そしてまだからまっていたことに気付いたのでした。
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熱い思いに (とおりすがり)
2010-09-02 01:09:41
大変楽しく拝見しました。

わたくしいさおfanなので、
>その点、ささきいさおは、「昨日もイベントで歌ってきましたが何か?」と言わんばかりの現役感バリバリの声量で、圧倒された。

に大笑いしました。
すくなくとも、タケカワさんよりはたくさんうたってると思います。確かに。

8月には、タケカワさんといさおさんの二人の999コラボを生ライブで聞くことができました。
スタジオとちがって、ライブではタケカワさんも、「さすが」と感じさせるものがありましたよ。私も、テレビみていて、「えええええ」と寂寥感を感じたクチなのですが。

松本先生について、いさおさんは「あの人は電話がながくてね、1時間はきれなくて。しかも同じ話が4回は…」といっていたのが、いかにも松本先生らしくて爆笑しました。

失礼しました。




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こんにちは (nakamura8cm)
2010-09-02 22:49:11
長文におつきあい、ありがとうございます。

いさおファン!いや~素晴らしい歌声ですよねえ。
たまに俳優として演技されているのを見かけますが、声がよすぎて明らかに浮いているのが微笑ましいです(笑)

そうですね、あのスタジオライブがタケカワさんの実力とは思いたくない。
カラオケじゃ本気が出ないタイプ、ということにしておきましょうか。

松本先生の長電話の件。いさおさんもそこそこ長そうなのに…笑えます。

コアなコメント、ありがとうございました!
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