●敷居が高く緊張の職場でよそ者扱いの船出
平成9年3月31日の終業後の18:00過ぎ。辞令交付を翌日に控えて人事課へ私物の搬入に赴く。執務室入り口のドアは開放されていたが、今更ながら「人事課」というセクションに敷居の高さを感じる。他はいざ知らず、本県では、年齢と経験年数に応じてほぼ自動的に昇任する主任や主査より格上の、係長職以上への登用に関しては任用試験のようなものが無く、人事はいわば"ブラックボックス"だ。その"中心地"となる職場に飛び込むことを思うと、別に出世欲などは無くとも緊張するものだ。
入り口付近の課内配置図を見ると私が配属される「行政システム改革班」が記されていない。班の設置は新年度開始となる明日からなのでまだ差し替えられていないのだな…と思い、それでも机くらいは既に配置されているだろうから私物を置かせてもらおうと、心の中で「えいっ」と叫んで足を踏み入れてみた。人事課内では職員の殆どが就業時間中と見まごうがこどく残存して机に向かっており、奥行き30メートル近くもある執務室で8シマほどある机群の中には、所々で雑談も聞こえはしたが、全体としての静かさが私の緊張感をあおる。
ざっと執務室内を見渡すと、係単位の"シマ"ごとに端の机に係名を記した三角表示が立っていたのだが、私が配属される「行政システム改革班」の表示が見えない。室内の向かって左側で開かれていたドア越しの向こうに別空間があるのかな…と脚を向けると突如、近くの机から女性が立ち上がり、私を制止してきた。
私が、明日から行政システム改革班に配属される者であり、事前に私物を置きに来たことを告げれば、ご苦労様とかよろしくといった一言と共に席に案内してもらえるのでは…と思ったのは甘かった。その女性は、そんな班が出来るなんて聞いていないかのように怪訝な表情のまま、「とにかく左側の空間は部外者が入れない場所です」と言う。終業後の時間帯であり、残業していた女性は、そのもの言いぶりから見ても人事課の正規職員でしかもベテランの様にお見受けした。人事課という聖域は私のような不埒な若造がフラフラ立ち入れる場所ではないとでも言わんばかりの態度だ。
それでも、私の言うことが嘘ではないことを同僚から確認したその女性職員は、先ほど私が脚を向けたのと反対方向のフロアのどん詰まりの位置を指さしながら、そこに"行政システム改革班"のシマがあると話した。執務室の入り口からでは見えない筈である。班はフロアの奥を曲がった角の狭い空間に押し込まれるように配置されていたのだ。
明日から私が着座する机の上で私物の段ボール箱を開き、5~6人が共同で使用するロッカーに作業着などをしまいながら、ふと不安が込み上げてきた。人事課の既往の職員達に良く知らされていない「行政システム改革班」という存在は何なのか…。内示を受けて明日から同じ課の仲間になるというのに"よそ者"のような対応ぶりはどうしたことか…。またも波乱に巡り合わせるはもはや宿命なのか。新職務の具体も知らされない中で感じるのは前途多難の兆しのみだった。
(「人事課行革班2「敷居が高く緊張の職場でよそ者扱いの船出」編」終わり。