新潟久紀ブログ版retrospective

【新連載】柏崎中学生時代1「新入生クラス発表」

●酷使された感の体育館で新入生クラス発表

 昭和52年3月に柏崎市立比角小学校の卒業式を終えると、中学受験があるわけでもなく、小学校からほんの300メートルくらいしか離れていない柏崎市立第二中学校へ、自動的に進学することになっていた私や近所の同い年の友人らになんら緊張感などは無く、特に私は5歳年上の兄から中学校生活などについて家庭で度々おぼろげに聴いていて、既に知っているフィールドのような気にさえなっており、どうせ昨日までの日々と大きく変わらない世界なのだろうと高をくくっていた。
 それでも、中学生になると着ることになる例の「詰襟の学生服」を試着したりすると、少し大人びたような気持ちになったりするから形から入るというのも効果的なものだ。
 それにしても学ラン襟回りのプラスチック製の白いカラーというのは今思えばなんだったのだろう。私は肥満体型だったので学ランの立ち上がった襟というのがそもそも非常に窮屈だったのに、その内側に通気性も何もない硬質で見せかけだけのスタンドカラーが配されるのは苦行以外の何ものでもなかった。
 しかしながら、その不便さ窮屈さに耐えることも含めて「これが少し大人の中学生になるということか」と当たり前の事のように辛抱できたのが今から思えば不思議だ。昭和の子供達は決められたことに疑いがなく従順だったのだ。
 そして、これまた自主的な選択の余地など皆無となる「新一年生のクラス分け」の発表日となった。3月末が間近でも未だ寒さ厳しい柏崎市の住宅街を、つい先日まで6年間通い続けた比角小学校とほぼ同じルートで少人数の友達と連れ立って、小学時代の登下校と同じように昨日見たテレビの話題や漫画の話などでワイワイと喋って騒ぎながら、4月からの居場所となる柏崎市立第二中学校に向かった。
 子供の腰くらいの高さしかないブロック塀にぐるりと囲まれただけで極めて見晴らしが良くて開放的な赤土の運動場の奥に、古びた木造の体育館がいぶし銀のような雰囲気を出していた。一方で、その左手には真新しくて華奢な造りに見える体育館が建ち並ぶ。元々の体育館が手狭になって二棟目の体育館が増築されたということなのだろうが、小学校のように6学年の子供達が一堂に会せて余りある大きな体育館で過ごしてきた自分には、見かけが極端なコントラストで、並び建つ中途半端な大きさの新旧の体育館が何故かとても異様に見えた。一つの学校の中で生徒が古びた空間と新しい空間に選り分けられてしまうのではないかなどと少し不安な気持ちになったのだ。
 古い体育館の右手側に生徒用の玄関口が併設されていて、造りは同じ時期なのだろうからここも古い木造で、壁際と何列かの書棚の様に並ぶ下足箱も非常に古さを感じさせる。曇り空のせいもあったのかもしれないが軒近くに配された木製窓枠の”すりガラス”からの採光も弱く、とにかく暗い。新入学を控えて初めての中学校への立ち入りは、暗い雰囲気の場所だなあという印象で始まったのだ。これは何かの予兆なのかは先々分かることになる。
 クラス分けが張り出されているという古い体育館へは、玄関からしばらく一本の廊下を歩いていくのだが、長さにして20メートルくらい、幅にして三間ほどあっただろうか、早生まれで12歳になりたての私にはとても長くて広い廊下に感じられた。玄関からの上がり口の付近はおそらく校舎躯体と同じに建築されたと思しき黒く年期の入った板材造りとなっていたのだが、歩くと直ぐに近年張り替えたと思しき肌色のような硬質な板材がずっと張られていた。廊下の途中に荷物の積み下ろし空間と思しき部屋のような設えがあって屋外とはシャッターで区切られていた。トラックがここに付けて給食コンテナなどの荷物を積み下ろしするのだろうとピンときた。搬送タイヤ付きの重い荷物などを引いても傷まないための固い質感の板張りなのだろうなあと思ったものだ。
 初めて立ち入って目に入るものが珍しいので本筋とは関係ないことを考えながら歩いていると、体育館の入口が開かれていて、既にクラス分けの張り出しを見に来ている大勢の子供達が悲喜こもごもの声を上げているのが聴こえて来た。
 体育館の一つの側面の窓の上の板張り空間に、4つのクラスごとに大きな紙に名前が書き連ねられたものを首が痛くなるくらいに順次仰ぎ見ていくと、果たして自分の名前が発見できた。問題は、同じクラスに”仲良し”が居てくれるかどうかだ。
 見渡していくと、本日ここまで連れ立って来た友人とはバラバラのクラスになったようでがっかりする。それどころか、自分のクラスには小学校時代に知っている名前があまり見当たらない。いまさらながらハッとする。柏崎市立第二中学校には、校区の関係なのか、柏崎市内の複数の小学校からの子供達が合流して入学してくるということを思い出した。
 そこで初めてクラス分け発表を見に来ている周囲を見回すと、明らかに見たことのない、つまり、他の小学校に通っていた少年少女達が多い事に気づかされた。
 彼らは、私や日頃遊び慣れた友達、ひいては比角小学校の同学年の子供たちと何か雰囲気が違う。生まれ育って来たフィールドの違いが態度や仕草などから感じられるのだ。子供心には、彼らが別世界の人のようにさえ思えて、警戒心にも似た気持ちが少し湧いてきたことを覚えている。
 これほどムードを異にする者が集まる中で私はやっていけるのだろうか。そこはかとない不安に立ち眩みがするような「新入生クラス分け発表」だったのだ。

(「柏崎中学生時代1「新入生クラス発表」」終わり。「柏崎中学生時代2「古びた校舎が語る暗喩」」続きます。)
小学生時代までの「柏崎こども時代」(全38話)はこちら
☆ツイッターで平日ほぼ毎日の昼休みにつぶやき続けてます。
https://twitter.com/rinosahibea
「活かすぜ羽越本線100年」をスピンオフ(?)で連載始めました。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「回顧録」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事