野の花だより

日々のささやかなこと*好きな音楽*のんびりと

深い思いやりを思い出す刺繍糸

2020年05月06日 | あしあと
こんにちは。

どんな1日をお過ごしでしょう。

ほっとひと息つきながら
おつきあいいただけたら
嬉しいです.。.:*コーヒーピンクマカロンカップケーキ



外出自粛期間中
少しずつ片付けをしています。

お裁縫箱の中をきれいにしていた先日のこと。
刺繍糸を手にとった時
ふっとIさんのことを思い出しました。

そして、次に本棚をきれいにしていると
以前書いた「野の花だより」が出てきました。
どんなことを書いてたかな?と
懐かしくめくっていたら
そこにはIさんのエピソード!

不思議(*˘︶˘*).。.:*♡

今日は少し長くなりますが
以前書いたIさんのお話を
させてくださいね。


.。.:*♡.。.:*♡.。.:*♡

「ししゅう糸」

先日、裁縫道具の整理をしました。

大きなガラス瓶に色とりどりの糸が無造作に入っています。
それを一度全部取り出して、
たらんと飛び出した糸を、くるくるっと糸巻に巻きつけたり、
くしゃくしゃになったししゅう糸の束をきれいに直したり。
そんな時間は不思議と安らいできます。

ふと「あぁ、このししゅう糸、Iさんがくださったものだなぁ。今、どうしておられるかなぁ。お元気ならいいなぁ」と
Iさんを想い起こしました。

Iさんは看護婦さん。
もうずいぶん前、長く入院していたことがありました。
そのときの担当の看護婦さんがIさんでした。
Iさんはきびきびとお仕事をされる凛々しい方でした。

今だから白状しますと、そのきびきび加減に、気の小さい私は、最初はおっかなびっくりでした。
けれども長い入院生活の中で、とてもあったかいIさんのお心にだんだん気づいて、だんだん好きになりました。

時々、夕食時に、診察のために病室を離れて、遅く戻ってくることがありました。
こういうとき、ベッドサイドに夕飯が置いてあります。
その中で、器に丁寧にラップがかけてあり、「おかえりなさい。温め直しますから、いつでもおっしゃってくださいね」と書かれたメモが添えてあることがありました。
こんな温かなお心遣いをくださるのは、きまってIさんでした。
メモを手に、優しさが沁みたことを、今でも懐かしく想い出します。

また、こんなこともありました。
手術以来、おおかた1年ぶりに自宅に一泊で戻ることになりました。
すると、手に包みを持ったIさんがベッドサイドに。
包みを開けてみると、中にはチューリップの球根。
それはそれはたくさん!
そして「今度の外泊で植えてきてくださいね。春には退院できるといいですね。退院して花に会えるといいですねと書かれた手紙が入っていました。
今、想い出しても、なんだかじんとして涙がでてきます。

そのいっぱいの球根を、主人が土を耕して、ひとつひとつ植えてくれました。
そして春。
Iさんのお手紙どおり、私は家にいました。
縁側に座り、ひとつひとつのチューリップを、そして、チューリップにつどいたわむれる蝶やハチたちのいのちを、春のぬくもりの中で見つめたことを、懐かしく想い出します。

それから、こんなこともありました。

患者たちは、退院するときに、お世話になった看護婦さんにお礼を伝えたい・・と、心づくしの贈り物をしていました。
たいていの看護婦さんは「お気持ちをちょうだいします」と、そっと受け取ってくださっていたようでした。
が、Iさんは「病院の規則なので」と、どなたの贈り物も受け取られないと、人づてに聞いていました。

それでも私は、長い間本当にお世話になったIさんに、ささやかでもお礼がしたいなあと想い、
ベッドで編んだレース編みを「ありがとうございました」と、おずおずと差し出しました。
受け取ってもらえないかもしれないと思っていましたが、思いがけず「手づくりのものをいただけるなんて嬉しいです。ありがとう」と、とても嬉しそうに笑って受け取ってくださったのです!

話が大きくそれました。
そう、ししゅう糸です。

退院してしばらくした頃、私のもとに郵便が届きました。
中には色とりどりのししゅう糸が入っていました。
まるで、土や空や水や草木や花々や・・そんな自然の色をそっとすくいとったような色たちで、優しい気持ちがする糸ばかり。

いただいたチューリップの球根から、芽が出て、だんだんと育っていって、ついには花が咲いた・・その嬉しい情景を写真に撮って、Iさんにお送りしたのです。
するとIさんは「写真はお返しすべきでしょうが、とても嬉しかったので持っていたくて、いただかせてください。そのお礼に・・」と、たくさんのししゅう糸が、水色の画用紙に包まれて、ポストにふわり届けられたのでした。
どこまでもさりげなく、どこまでも優しいIさん。

私が歩いてきた道には、なんてたくさんの優しい顔、心が、そこここにあるんでしょう。
ガラス瓶にししゅう糸をそっとおさめながら、そんなことを想いました。

(2007年7月と日付があります)

.。.:*♡.。.:*♡.。.:*♡


書き写しながら、涙が出て、
鼻をくすんくすんしています。

20代の頃、病気をして、体も心もどん底だった時期のお話です。
年齢を重ねたことで、
Iさんのお心の豊かさや思いやりの深さが、改めて胸に沁みます。


(写真はフリー素材をお借りしました)



長いお便りになりました。
今日もお読みいただいて
ありがとうございました

みなさまに嬉しいこと
いっぱいありますようにクローバー

ただただありがとう