妄想ドラマ 『 season 』 (3)
大野先生が顔をあげてその若い男に聞いた。
「なに?サクショウって」
「櫻井先生のニックネームだって」
答えながら男は靴を脱いで、当然のように同じテーブルについた。
「4年1組担任の二宮です。この店は親戚がやってんの」
パーカーにスタジャンという服装のせいかまるで学生のようにしか見えないが、
教師としては先輩ってことになるのだろうか。
大野先生になれなれしいところをみると新任の先生ではないらしい。
「どうも櫻井です」
「本多シンが今朝みんなに自慢してましたよ。サクショウは俺の友達だってね」
「本多シン?ああ、先週隣町のゲームセンターで出会って仲良くなったんですよ。
偶然にも兄貴のほうは僕のクラスで」
「そっか、サクショウは3日で学校中に広まるな。ちなみに大野先生は大チャンで俺はニノって呼び捨てだよ」
「子供たちがですか?」
「そうだよ。さすがに授業中は言わないけど、子供たち同士ではそう呼んでるみたい。
あっそれから敬語は使わなくていいから。俺のほうが年下だしね」
二宮先生の言葉を聞いて大野先生が笑った。
「櫻井先生の年も子供たちが教えてくれたの?」
それから3人でいろんな話をした。
地域のことや、授業の進め方など参考になる話も聞くことができたけど、
大抵は学校とは関係のないくだらない話で笑いあった。
年齢が近くて独身という共通点が二人を身近に感じさせた。
明日からの授業のことで頭がいっぱいだった俺も、少し肩の力を抜くことができたような気がする。
子供たちと距離も縮まってきた5月のおわり、休み時間にクラスの数人の女子に囲まれて
質問攻めにあった。
彼女はいるかとか、休みの日は何してるとか。
何か言うたびに女の子たちは笑い、交代で次の質問をしてくる。
そして趣味はないのかと聞かれてこう答えた。
「今はこれといった趣味はないけど、そのうち楽器を習いたいんだよね」
「どんな楽器?」
「ピアノはアパートに置くのはむずかしいから・・・ギターとか?」
「トロンボーンとかチューバとかアルトホルンとかどう?」
「楽器に詳しいんだね。そういうのもカッコイイね」
「先生もしかして楽器できたらもてるとか考えてる?」
「婚活に役立つかも~」
お互いを肘で小突いたりしながら彼女たちはまた笑った。
その日の放課後、二人の女子が俺のところに来た。
谷川朋香と内堀桃子だ。
ふたりとも特に目立つ生徒ではなかった。
クラスで一番背が高い朋香と小柄な桃子が並ぶと、とても同級生には見えない。
ほら、と言って朋香が桃子の背中を押した。
ちょっとためらってから桃子が口を開いた。
「先生、明日の朝って忙しいですか?」
「明日は特になにもないけど」
二人は顔を見合って頷いた。
それから朋香が俺に言った。
「じゃ決まり。先生7時40分にいちおんに来てください」
「いちおん?」
「第一音楽室」
「何?」
とたんに真面目な顔になる桃子。
「大事な相談があるんです。絶対に来てください。来ないと桃子不登校になっちゃうよ」
言い終わると桃子はウィンクをして、朋香と二人で昇降口の方向へ走りだした。
不登校になるような悩みを抱えてる子が教師にウィンクなんてするか?
「廊下は走らない!」
遠ざかる背中に注意すると、途端に競歩のような歩き方になり、
笑いころげて行ってしまった。
やっぱり悩みがあるようには見えないが気になる。
------つづく------
大野先生が顔をあげてその若い男に聞いた。
「なに?サクショウって」
「櫻井先生のニックネームだって」
答えながら男は靴を脱いで、当然のように同じテーブルについた。
「4年1組担任の二宮です。この店は親戚がやってんの」
パーカーにスタジャンという服装のせいかまるで学生のようにしか見えないが、
教師としては先輩ってことになるのだろうか。
大野先生になれなれしいところをみると新任の先生ではないらしい。
「どうも櫻井です」
「本多シンが今朝みんなに自慢してましたよ。サクショウは俺の友達だってね」
「本多シン?ああ、先週隣町のゲームセンターで出会って仲良くなったんですよ。
偶然にも兄貴のほうは僕のクラスで」
「そっか、サクショウは3日で学校中に広まるな。ちなみに大野先生は大チャンで俺はニノって呼び捨てだよ」
「子供たちがですか?」
「そうだよ。さすがに授業中は言わないけど、子供たち同士ではそう呼んでるみたい。
あっそれから敬語は使わなくていいから。俺のほうが年下だしね」
二宮先生の言葉を聞いて大野先生が笑った。
「櫻井先生の年も子供たちが教えてくれたの?」
それから3人でいろんな話をした。
地域のことや、授業の進め方など参考になる話も聞くことができたけど、
大抵は学校とは関係のないくだらない話で笑いあった。
年齢が近くて独身という共通点が二人を身近に感じさせた。
明日からの授業のことで頭がいっぱいだった俺も、少し肩の力を抜くことができたような気がする。
子供たちと距離も縮まってきた5月のおわり、休み時間にクラスの数人の女子に囲まれて
質問攻めにあった。
彼女はいるかとか、休みの日は何してるとか。
何か言うたびに女の子たちは笑い、交代で次の質問をしてくる。
そして趣味はないのかと聞かれてこう答えた。
「今はこれといった趣味はないけど、そのうち楽器を習いたいんだよね」
「どんな楽器?」
「ピアノはアパートに置くのはむずかしいから・・・ギターとか?」
「トロンボーンとかチューバとかアルトホルンとかどう?」
「楽器に詳しいんだね。そういうのもカッコイイね」
「先生もしかして楽器できたらもてるとか考えてる?」
「婚活に役立つかも~」
お互いを肘で小突いたりしながら彼女たちはまた笑った。
その日の放課後、二人の女子が俺のところに来た。
谷川朋香と内堀桃子だ。
ふたりとも特に目立つ生徒ではなかった。
クラスで一番背が高い朋香と小柄な桃子が並ぶと、とても同級生には見えない。
ほら、と言って朋香が桃子の背中を押した。
ちょっとためらってから桃子が口を開いた。
「先生、明日の朝って忙しいですか?」
「明日は特になにもないけど」
二人は顔を見合って頷いた。
それから朋香が俺に言った。
「じゃ決まり。先生7時40分にいちおんに来てください」
「いちおん?」
「第一音楽室」
「何?」
とたんに真面目な顔になる桃子。
「大事な相談があるんです。絶対に来てください。来ないと桃子不登校になっちゃうよ」
言い終わると桃子はウィンクをして、朋香と二人で昇降口の方向へ走りだした。
不登校になるような悩みを抱えてる子が教師にウィンクなんてするか?
「廊下は走らない!」
遠ざかる背中に注意すると、途端に競歩のような歩き方になり、
笑いころげて行ってしまった。
やっぱり悩みがあるようには見えないが気になる。
------つづく------