我 老境に入れり

日々の出来事をエッセイと写真でつづる

串田孫一

2025-01-21 20:49:16 | ノンジャンル
                    明石海峡大橋(本文とは無関係)

外気温の低いこの頃
外へ出るのが億劫で
本を読もうと本棚を探した、
記憶からとおに消え去っていた
本のタイトルが目に入った、
「風の中の詩」集英社
作者は串田孫一
随筆家、詩人、編集者、哲学者、教育者などと
昭和の時代に幅広く活躍した文化人である、
その名を時代に広く知らしめたのは
尾崎喜八らと共に1958年に創刊した
山の文芸雑誌『アルプ』であろう、
彼は1983年に300号をもって
終刊を迎えるまで編集責任者の
任を全うしたことでも知られている。
本の内容は1976年夏から
1年に亘って雑誌『non・no』に連載された
23篇の随想作品纏めたものである、
山を愛し自然への造詣は深くて
その文体は抒情的で多くの読者を魅了した、
私が彼の名を知ったのは
『アルプ』が終刊となってからで
遅きに失して悔いたのを覚えている、
彼の文体は多くの場合
具体性を明記しないので空想的でもあり
幻想的でもあった、
しかもそれが優れた自然観察眼に
支えられているので違和感がない、
ありふれた風景や人間関係の中に
少しばかりハイレベルな雰囲気を持ち込んで
人々の憧れを誘う、
不思議なことに読んでる間中は
その抒情性に酔い痴れてしまうが
読み終えて我に返ると
はて何が書いてあったのかと思うほど
記憶には残ってなかった、
具体性は記憶に関わることをこの時知った、
私はそんな文体に憧れを抱いて
一時期山にも登り旅もした、
未だに自然への興味が尽きないのは
彼の影響かもしれない。