さくらんひめ東文章

指折って駄句をひねって夜が明けて

名残の歌舞伎座 -19-

2010年03月30日 | 名残の歌舞伎座
花道

歌舞伎にとってはなくてはならない花道
狂言によって廊下になったり道になったり川になったりと変幻自在
観客席の中を役者が出入りする日本独自の劇場設備で、
私は世界に誇るものと思っている。

この「花道の創造」について、林屋辰三郎著「歌舞伎以前」に面白い記述があった。
かいつまんで書かせてもらうが、

京都大学図書館蔵の阿国歌舞伎絵詞によると

阿国が「貴賎群衆の折柄なれば、かぶきおどりを始めばやと思ひ候、
まつまつねんぶつおどりを始め申さう」とはじめると

「念仏のこえにひかれつつ…」と観客席の中から名古屋山三の亡霊が登場。

すると阿国が「思ひよらずや、貴賎の中に分きて誰とか知るべき、
いかなる人にてましますぞ、御名を名のりおはしませ」となり、
舞台は阿国と山三の対話の後

「よし何事もうちすてて、ありしむかしの一ふしを
うたひていざやかぶかん…」と阿国・山三他の総踊りとなる。


舞台自体は能舞台を踏襲していても、「貴賎の中に」すなわち
観客の中から現れる構想は、いいかえると観客の貴賎を演劇の仕組みの中に
そのまま取り入れることで、舞台と芝居が一つに融け合うことである。
これは、能の中では決してみることのできない現象である。

これが「花道」の創造に導いたのではないかとあった。