のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『上村松篁展』

2014-06-23 | 展覧会
クローゼおめでとう!
ひゃっほう!
と朝の5時から1人で大騒ぎだったのは昨日のこと。

それはそれとして

実を言いますと上村松篁氏の作品にはあまり心惹かれないのでございますが、同僚に「金魚の絵がいいから」と薦められましたので、やや重い腰を上げて上村松篁展 へ行ってまいりました。

近美のトイレが劇的に改善されていたのに感動したのはさておき、金魚を描いた作品は、確かにどれものろごのみでございました。他の花鳥画のように装飾的な方向へは持って行かず、写実に徹しているのが、ワタクシにはずいぶん好もしく思われました。

それから所々に展示されているスケッチが、たいへんよろしかったのですよ。
スケッチというものは、せめぎ合いのような所がございます。描く対象がよく動くものである場合は特に。
描こうとする者にはおかまい無しに、かたちをどんどん変えて行く対象、それを捉えようとする眼差し、そして紙の上に定着させようとする手。眼差しは対象のかたち、構造、動き、表情を必死で追いかけるわけですが、手には眼差しが捉えたもの全てを再現する時間がないため、「白紙」と「完全な再現」の妥協点として、少なくともこれだけは絶対にはずせない、という線だけを引いて行かねばなりません。手はその「絶対にはずせない線」を引くために、対象の本質を的確に捉えることを眼差しに要求しますし、眼差しは手に対してスピードと正確さを要求します。そうしたせめぎ合いの軌跡が、松篁氏のスケッチには臨場感満点で現れており、実にエキサイティングでございました。

翻って本画の方は、やっぱりあんまり心惹かれるものがございませんでしたけれども、前半の、いわば「インド体験」前の作品には、のろごのみな作品も散見されました。
例えば花咲くモクレンと雀たちを描いた『鳥影趁春風』。全体はほとんどグレーのモノトーンに押さえられた色調で、その中にすっきりと現れる白いモクレンの花も、静謐な画面にごく慎ましく動きを添える4羽の雀も、たいへんよろしうございました。
それからご自身のお子さんたちを描かれた『羊と遊ぶ』(モチーフはどうも山羊のようでしたが)。立った少女を中心に、片側に山羊、片側にしゃがんだ少年を配して三角形を形成する、安定した構成といい、てらいのない、おっとりとした描写といい、たいへん心なごむ作品でございました。ちなみにここに描かれている少年は敦之さんでございまして、御本人を知る人によると、激似なんだそうです)

というわけで、華麗な花鳥画より、こういう方向に進んでくれたらよかったのに、と無い物ねだりなことをつらつら考えた展覧会ではあったのですが、敬遠していた画家の別の側面を見ることができたのは、まことに有意義なことでございました。