”スローライフ滋賀” 

東近江市在住の佐々木 司氏 「マナスル遠征記」(上) ”身近に感じたヒマラヤ”

 2024年9月にマナスル登頂」に成功した「佐々木」氏は東近江市に居住し、東近江市の「布引の森」に勤務するクライマーである。

 滋賀県には1377mの伊吹山(米原市)が最も高い山であるが東近江市には「鈴鹿10座」と呼ぶ山々があり、山登り愛好家には知られている。

 今回、佐々木司氏が滋賀報知新聞に「マナスル遠征記」と題し寄稿したので紹介する。

佐々木 司さん 寄稿

 前日の午後7時前に標高6600mのC3を出発してから暗闇の中、雪と氷の急坂を一晩中黙々と登り続けていた。
 登り始めて10時間時間以上経過した標高7900m付近で夜が明け始め、山頂までの道のりが見えると登頂を確信し、それまでの苦しさは一瞬で消え去って自然と笑みがこぼれた。2024年9月25日午前9時10分マナスル8163mの山頂に立った――。

 2011年秋、趣味で海や川でカヤックをしていた私は、父親の地元の鳥取県で行われるスポーツイベント「SEA TO SUMMIT」のポスターを目にした。皆生の海をシーカヤックでスタートし、自転車で伯耆大山の登山口までヒルクライムした後、山頂まで登山をするという。海抜0mから山頂までを舞台にした大会。
 その壮大さに興味を惹かれ、カヤックの師匠に「カヤック漕いで、自転車漕いで、登山する大会があるそうなんです。面白そうなんで、いつか出てみたいです」と話したところ「いつ出るんだ?」と聞かれた。
 「そうですね、先ず自転車を買って練習して、登山もちゃんとしたことがないから道具買って練習してからですかね」と答えると、「そんなこと言ってる奴は一生出えへん。実際にやるのが一番だからとりあえず出ろ」と言われた。

              ↑マナスル山頂 佐々木さん(右)

 そうして2012年春、35歳の時にSEA TO SUMMIT皆生大山大会に出場した。そこで知り合った仲間に誘われて雪山登山やアイスクライミングに出かけたのをきっかけに、本格的に登山を始めた。
 その後は全国各地で行われるようになった同大会に出場を続け、そこで訪れた滋賀県東近江市の自然環境に惹かれて、2016年夏に東近江市のエコツアーガイドの養成講座を受講した。翌年春からは、受講したガイド認定を受けた仲間たちと一緒に「鈴鹿10座エコツアーガイドクラブ」を立ち上げた。現在は居住する滋賀県で仕事をしながら、休日は鈴鹿の山を中心にガイドをするほか、登山道の巡視や整備活動を続けている。

          ↑雪野山にあるドラゴン道場でクライミングの練習に励む佐々木さん

 2018年春、関東の友人でヒマラヤに行った人がいて、その報告会を関西でもやりたいというので、会場などの段取りをして、報告会当日も参加した。それまでは特別な人だけが行ける場所の特別な体験で、自分には関係ない、無理だと思っていたが、身近な人が行ったヒマラヤ登山の体験談を聞いて、ヒマラヤ登山がぐっと身近に感じたし、自分も行ってみたいという思いが強くなった。
 19年3月初の海外登山でヒマラヤのヤラピーク(5732m)に挑戦し、2022年6月にはヒマラヤのアイランドピーク(6160m)に登頂した。

                                                      ↑モンベル本社「岳人」編集部

 アイランドピークの頂上からはすぐ横に大きなローツェ(8516m)がそびえ立っている。「ここまで登ってくるのも大変だったのに、8000m峰の山頂に立つにはどのような苦しみと感動があるのだろうか」。8000m峰登山の世界に挑戦したい気持ちが湧いてきた。
 一緒に登ったシェルパに8000m峰の中で、お薦めの山はあるかと聞いたら、「断然マナスルだ。登山中と山頂付近からの景色も良く、登山期間も他の8000m峰と比べて短めなのでお薦めするよ」と言われた。そして、マナスルについて自分でも調べてみた。

 マナスルと東近江市には縁があった。世界には8000mを越える山が14座ある。そのうちの一つマナスル(8163m)は1956年に日本人が初登頂した山で、その功労者である「西堀榮三郎」を記念した博物館、「西堀榮三郎記念探検の殿堂」が東近江市にある。そこにはマナスルに関することが沢山展示されている。

          ↑左から雪野山クライミングクラブ代表の石原真さん、佐々木さん、西堀榮三郎記念探検の殿堂館長の角川咲江さん

 2024年6月に探検の殿堂を訪れ、角川館長からお話を聞くことができ、西堀榮三郎の人柄、その功績や登頂までの苦労について知ることができた。また、日本人のマナスル登山隊に大きな関係がある京都大学学士山岳会(AACK)の現理事の高井教授にお会いし、生前の西堀榮三郎、今西錦司についてのエピソード、当時の海外登山の様子などを聞くことができた。元々は京都大学山岳部が創刊し、現在はモンベルが発刊している「岳人」、本社の中にある編集部ではマナスル初登頂時の記事を読ませて頂いた。
 たまたま自分がいる東近江市にマナスルと西堀榮三郎に関係する施設があること、西堀榮三郎とマナスルについて知るにつれて、この地からマナスル登山に向かうことに意味を持たせたいと考えるようになった。

 

佐々木 司(ささき つかさ)さん 49歳


1975年 大阪府堺市生まれ
2012年 SEA TO SUMMIT 皆生大山(鳥取)大会出場
2017年 鈴鹿10座エコツアーガイドクラブ所属
2019年 ヒマラヤ・ヤラピーク(5732m)登頂
2022年 ヒマラヤ・アイランドピーク(6160m)登頂。会社員を経て滋賀県東近江市の布引の森に勤務
2024年 東近江市永源寺高野町に移住。ヒマラヤ・マナスル(8163m)登頂

<記事・写真: 滋賀報知新聞より>

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