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依存症、なぜ、やめられないのか。 №249

2017-01-21 13:11:21 | 日記
 わたしたちは、「幸福を感じて、心の底からホッとできる安堵感を味わいたい」という根元的な欲求を持っています。しかし、そうした感覚はほとんどの場合、永くは続きません。人生はそのようなものだと割り切ることができれば良いのですが、なかなかそうはいきません。
 特に、仕事や家事、人間関係などでストレスを浴びていると、なかなかホッとする機会にめぐまれません。そんなとき、お酒を飲んだり、たばこを吸ったり、好きなものを食べたり、パチンコやゲームでそのストレスを発散させようとすることは誰にでもあることですし、ストレスに押し潰されないためには必要なことでもあります。
 問題は、それらのほとんどが、誰にでも手軽に手に入れることができ、しかも、つかの間ではあっても私たちの期待を裏切ることがないということです。お酒も、たばこも、スイーツもゲームも私たちの期待通りに幸福感や安堵感を与えてくれ、ストレスを発散させてくれます。人間関係のように信頼をして裏切るということがないので、どうしてもそこに頼ってしまいます。これが、アディクション(Addiction)といわれるもので、嗜癖(しへき)と訳されますが、アルコール依存症とかギャンブル依存症、買い物依存症といわれるものです。
 やっかいなのは、それが次第に深みに入っていく特徴を持っているということです。一過性のストレス発散では間に合わないくらいの連続的なストレスを浴びていると、それを軽減したり、発散させるために、お酒や・たばこ・ギャンブル・薬・ゲーム・過食・自傷、そして買い物や仕事や性行為など、それがないと自分のストレスを抑えきれなくなるほど依存してしまうようになることです。つまり、進行性があるということです。自己を正当化するために嘘をついたり、周りの人に迷惑をかけたり、仕事を失ったり、社会的な立場を失ってしまう場合もあります。
 では、どうすれば依存症から抜け出せるのでしょうか。アディクション専門のセラピスト、クレイグ・ナッケンはその著書「やめられない心」~依存症の正体~(講談社刊)の中で、まずは自分が依存症であることを正直に認めることだと言っています。次に、周囲の人との人間関係を修復し、依存しているものを「断つ」ことであると言っています。
 しかし、そんなに簡単に「断つ」ことができるなら、そもそも依存症にはなりません。そのためには、それぞれの依存症から回復を願う人達の「自助グループ」に入ることを進めています。そして、何よりもストレスを与えている対象そのものから自由になることが大切です。

10代の反抗期にどう対処するか №248

2016-11-27 10:06:27 | 日記
 なぜ、いくら起こしても朝なかなか起きてこないのか?
 なぜ、ゲームやスマホに熱中してやめられないのか?
 なぜ、たばこや酒、薬物が成人よりも10代の脳に危険なのか?
 なぜ、衝動的な行動をコントロールできないのか?
 なぜ、やさしかった子が、突然暴力を振るうようになるか?
 なぜ、「うるせー、ハババア」と信じられないような口をきくようになるのか?
 これまでは素直だった子どもが、豹変するのが思春期です。暴言を吐いたり、タバコや酒に手を出したり、衝動的にものを壊したりする。注意をすると「ウザい」とか「死ね」と言われ、「自分の子育てや人生は何だったのか」と途方にくれ、「何が間違っていたのか」、と自分を責める。そんな苦しい思いをしている方も多いことでしょう。
 それは子育てが間違っていたからではなく、原因は脳の成長過程でおこるものだと言うのが、アメリカ・ペンシルべニア大学教授ジェンセン博士です。彼女はその著書「10代の脳」~反抗期と思春期の子どもにどう対処するか~(文芸春秋社刊)で、脳の発達過程のアンバランスにあると言っています。10代は脳が新しいことを覚える学習能力の黄金期であるが、感情を司る部分や、リスクを推し量り行動をコントロールする部分はまだ未成熟である。そのため、脳を制御しきれず、キレやすい、中毒になりやすい、我慢がきかない、といった思春期特有の問題が起きるというのが、彼女の主張です。
 前頭野が損傷を受けると、➀外界に対して無関心、無頓着になる。②注意力がなくなり、反応性が乏しくなる。③状況を理解したり、推理したりすることが困難になる。④時と場所をわきまえない浅はかな言動が多くなる。⑤我慢ができなくなり、己の感情のままに行動するなどの症状があらわれるといいます。つまり、前頭野が十分に発達しない場合にも似たような状態になる恐れがあるということです。
 では、どう対処すればよいのか。詳しくは、本書を読んでいただけばわかりますが、児童精神科医の渡辺久子さんは、この本の解説の中で、「思春期にもう一度育てなおすつもりで、親が子どもを受け止めること。親の受け止める姿勢ができると子どもは本音を表出し始める。」と言っています。
 そして、「親への試し行動の脅しにのるな。」とも言っています。「思春期の子どもは、寂しく孤独になる瞬間、ふと見捨てられ不安を親にぶつけてためす。そこで親がおどおどすると子どもの激情はエスカレートする。攻撃的言動に振り回されないよう、父親、母親、教師、医師等が連携し、子どもの自己破壊的な不安や怒りを鎮め、その苦しみを受け止めること。」とアドバイスしています。
 簡単なことではありませんが、逃げずに真摯に受け止めて向き合うことが大切なのです。

人工知能(AI)とカウンセリング   №247

2016-11-21 15:32:42 | 日記
 3ヶ月ほど前、東京大学医科学研究所が、スーパーコンピュータ「ワトソン」を使って白血病患者の病名を突き止め、治療方法をかえた結果、容態が回復してきたというニュースがありました。「ワトソン」は膨大な情報から、解決策を導き出す能力があり、東大ではガン研究に関する2000万件以上の医学論文と1500万件の抗ガン剤情報を学習させ、診断や治療に役立てる研究を進めているということです。
 また、先日の日経新聞「AIと世界」という特集の中に、中国の建立1千年を超す名刹で、参拝客の悩みに答える僧侶型ロボットが人気を博しているという記事がありました。僧侶型ロボットには、歴代の高僧の膨大な説法データを読み込ませ、それらを解析して信徒の悩みに答えるという。ロボットを開発した僧侶は「宗教とAIは矛盾しない」といっています。
 人工知能が進歩し、「働くだけのロボット」から「感情を持ったロボット」の開発が進んでいます。「ドーパミン」、「セロトニン」などの感情ホルモンを数値化し、それを整理し、「喜び」、「安心」、「怒り」、「不安」などに分類し、相手の声の調子や話の内容などから感情を識別し話しをあわせていくロボットが開発されつつあるということです。
 人工知能が病名を診断し、薬を処方してくれれば、診断するだけの「内科医」は不要にになり、「外科医」だけが必要になるということも言われています。人工知能を搭載した人型ロボットが心の悩みに応えてくれたら、カウンセラーも精神科医も不要になるのでしょうか。
 私たちの悩みには、職場や学校の人間関係、夫婦間の問題、子育ての問題等共通するものが多くあります。しかし、それらの悩みの発生やそれに耐える力や対応の仕方、こう在りたいという気持ちは人によって様々です。将棋や囲碁ではありませんので、誰にとっても最適な「解」というものはありません。
 トルストイの名作アンナ・カレーニナはこんな書き出しで始まります。「幸福な家庭というのはどの家庭も似たようなものであるが、不幸な家庭というものはその不幸の在り方も様々である。」

病を引き起こす言葉と病を癒す言葉  №246

2016-10-10 09:53:27 | 日記
 新約聖書の「マタイによる福音書」にイエスが民衆に対して、「口にはいるものは人を汚すことはない。かえって、口から出るものが人を汚すのである。」と語りかける一節があります。私たちは、「言葉」による暴力ということをよく耳にしますが、イエスが口から出て人を汚すものといっているのは「言葉」のことです。
 ある種の言葉は毒となって、ガンやうつ病を発症させる引き金になることがあります。このことを、臨床の立場から書いたのが、「病になる言葉」(講談社刊)という本です。著者は消化器内科医で大腸ガンの専門医で、心療内科の医師でもある梅谷馨先生です。このなかで病気を引き起こすような毒のある言葉としてあげられているのが、相手の存在を全否定したり、プライドを傷つける言葉です。原因不明の腹痛や頭痛の多くは、言葉による毒なのではないかというのが先生の看たてです。
① お前なんか産まなきゃ良かった     ② 死ねば、良く生きてるねえ
③ 洋服のサイズ、ないんじゃない?    ④ 何度いったらわかるの?聞こえてる?
⑤ 生まれてこなきゃ良かったのにね    ⑥ 変な人、あんた友達いないでしょ
⑦ 頭おかしいんじゃない?        ⑧ おまえなんかに関係ない
 イエスは意味を測りかねている民衆に対して、「すべて口に入るものは、腹を通って外に出されることがわからないのか。しかし、口から出てくるものは、心から出てくるので、これこそ人を汚す。悪意、殺意、姦淫、みだらな行い、盗み、偽証、悪口などは、心から出てくる。これが人を汚す。しかし、手を洗わずに食事をしても、そのことは人を汚すものではない。」と言います。
 毒になる言葉があれば、一方で薬になる言葉もあります。「大丈夫。心配しないで」、「私はあなたの味方だよ」、「つらかったよね。よくがんばったね」等々、安心と希望を与えてくれる言葉であり、これまでの苦労をねぎらってくれる言葉です。たかが言葉、されど言葉です。


薬にたよらないうつ病のなおし方 №245

2016-09-14 14:52:09 | 日記
 精神科医の宮島賢也先生の著作(中経出版)を読みました。カウンセリングに携わる者として、とても有益だと思いましたので紹介します。本のタイトルは『医者の私が薬を使わず「うつ」を消し去った20の習慣』という長いものです。本の紹介文には、『自分のうつを消し去る「メンタルセラピー」の考え方を「習慣」のレベルに落とし込んだもので、どこから読んでも、20個すべてを試す必要もありません』と書かれています。 
Ⅰ 人間関係をシンプルにする習慣
 ① 「相手は変えられない」ことを受け入れる
 ② パートナーや親子関係では「いい・悪い」の評価をはずす
 ③ 相手への期待を手放す
 ④ 「他人のため」ではなく、まず「自分のため」を考える
 ⑤ 「義務」や「責任」で考えず、「うれしい」で選んでみる
Ⅱ 「自分」と「未来」を変える習慣 
 ⑥ 「口癖」を変えてみる ~ネガティブな言葉をやめる~
 ⑦ 「自分がしたいこと」にしたがってみる ~自分らしさを取り戻す~
 ⑧ 「できていること」を書き出してみる
 ⑨ 自分にとって「居心地のいい場所」に行く
 ⑩ あとまわしにできることは、あとまわしにする
Ⅲ 「心」と「体」を満たす習慣
 ⑪ 今の考え方や人間関係を見直す
 ⑫ 体のなかの「毒」を出し切る ~不安が「がん」としてあらわれる~
 ⑬ 症状が出るときは、「頑張りすぎていないか」と問いかける
 ⑭ 「体調が良くなる食習慣」を見つけて免疫力を上げる
 ⑮ 気持ちよいレベルで体を動かして免疫力を上げる
Ⅳ 「潜在意識」と仲良くなる習慣
 ⑯ 落ち込んだときに何を考えていたかを短く書き出す
 ⑰ 「人生のシナリオ」をつくってイメージする
 ⑱ 過去の記憶をクリーニングする
 ⑲ 「ぼーっ」とできる時間を意識的に持つ
 ⑳ すべてを受け入れ、かかえているものは手放す

ADHDの二次障害としてのDBDマーチ   №244

2016-08-31 11:56:42 | 日記
 先日、発達障害について研修を受ける機会がありました。そこで、ADHD(注意欠陥多動性障害)の二次障害として「DBDマーチ」という問題があることを知りました。この障害を正しく認識し対応することができれば、非行問題行動や犯罪を相当数減らせるのではないかと考えさせられました。
 ADHDは、自分をコントロールするのが苦手で物事に集中できない「注意障害」、じっと席に着いていることができず落ち着きがなくおしゃべりがな多いなどの「多動性」、思いつくと手順を踏まずに突然行動する「衝動性」の3つがあると指摘されています。
 この障害の原因は、先天性の脳の機能障害ではないかといわれています。短期記憶や注意力、推論、判断、感情のコントロール等をつかさどる前頭前野の部分が関係していると考えられています。また、脳内の神経伝達物質や遺伝が関与しているのではないかとも考えられ、研究が進められていますが、はっきりした原因はまだわかっていません。
 問題は、この障害がしばしば保護者の愛情やしつけ、本人のやる気が原因と誤解されることです。障害が正しく認識されないと、家庭生活や学校生活で逸脱行動をとることが多くなり、禁止や注意、叱責が多くなり、虐待やいじめの対象にもなります。
 自分の行動に理解が得られないことで、周りの人たちに対する不信感を生み、自尊心の低下を招きます。このため、反抗的、挑戦的な態度を取るようになります。幼いうちは、まだ反抗的・挑戦的であるに留まりますが、この状態が続くと、最後にはは法に触れるようなことを引き起こす可能性もあります。つまり、①反抗挑戦症から②間欠爆発症へ移行し、次に③行為障害が生じ、それがエスカレートすると④反社会的人格障害にまで移行していくこともある。この一連の負の連鎖を「DBDマーチ」というようです。
DBDというのは、アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM-5)によると、破壊的行動障害のことで、Disruptive Behavior Disordersの略です。
① 反抗挑戦症(Oppositional Defiant Disorder:ODD)
 しばしばかんしゃくを起こしたり、故意に他人をいらだたせたり、意地悪で執念深かったり、反抗的、挑戦的な行動を示す。
② 間欠爆発症(Intermittent Explosive Disorder:IED)
  ちょっとした事態に突然激怒し、怒りをこらえきれずに、他人やその人の所有物などを攻撃する「怒りの制御不能」を示す。
③ 行為障害(Conduct Disorder:CD)
  反社会的、攻撃的、また反抗的な行動パターンを特徴とし、年齢相応の社会規範や規則を大きく逸脱している状態である。
④ 反社会的人格障害(Antisocial Personality Disorder:ASPD)
  法に触れたり、人を騙したり、他人の権利を無視し侵害する広範な行動様式を示す。

心の病と薬 ~プラセボ(偽薬)でもなおる?~ №243

2016-08-02 17:43:14 | 日記
 心の病で処方される薬の効果の半分は、プラセボ効果だといわれています。プラセボというのは、一般に偽薬と訳されていますが、薬としての効き目のないものを錠剤やカプセル剤としてつくったもの、つまり、薬に似せた気安めのものといってもいいでしょう。
 ハーバート大学の心理学者で、プラセボ(偽薬・暗示)研究者のアービング・キルシュ氏が、情報公開法に基づき製薬会社の臨床試験データを調べたところによると、重症患者をのぞき、「ブロザック」などの抗うつ剤には、プラセボ(暗示)を超える効果はほとんどなかったということです。つまり、この薬を飲めばなおるという暗示効果以上の効き目は認められなかったということです。
 私たちの周りには健康食品やサプリメントが溢れていますが、それらの広告でみられる、「○○が直った」とか「××がよくなった」という例は、たぶんにプラセボ(暗示)効果による可能性があります。一般に、プラセボ(暗示)効果だけでも3分の1の人は良くなるともいわれているようです。症状によっては、それ以上の割合で効果がみられる場合があるといわれています。特に、不安や緊張に伴う症状や、痛みを伴う症状には効果が現れやすいと言われています。
 プラセボ効果は、内服薬や注射、点滴、食物の摂取などが主な対象ですが、外科手術に対しても効果があったという話があります。
 イギリスで、膝が悪い人に「本当の手術をしたグループ」と「皮膚を切開したのみのグループ」に分け、その効果を調べたところ、この2つのグループに治療効果の差が認められなかったのです。それどころか、皮膚だけを切ったある患者は手術をされたと信じ込み、それまでは杖をついて歩いていたのに、バスケットボールができるまで回復したというのです。にわかに信じがたい話ですが、本当に起こったことだということです。
 すべての心の病が気持ちの持ち方やプラセボ効果で治るわけではありませんが、信じるということが引き起こす効果をあなどってはいけません。

傲慢症候群(ヒュブリス・シンドローム)とは? №242

2016-07-21 15:37:50 | 日記
 英国の神経科医で政治家でもあったデービッド・オーエンによると、傲慢症候群(ヒュブリス・シンドローム)というのは、「権力の座に長くいると性格が変わる人格障害の一種」だということです。
 ヒュブリスというのは、「驕慢」とか「傲慢」とか「野心」というように訳されるギリシャ語の単語で、そのヒュブリスが人間の心にとりつくと、当人に限度を超えた野心を抱かせ、挙句の果ては、当人を破滅に導くと考えられていたそうです。
 「オレ様化する人たち~あなたの隣の傲慢症候群~」(朝日新聞出版)の著者で精神科医の片田珠美さんによると、その症状は次のようなものだということです。
①人の話を聞かない、②自らを誇示する、③人を威嚇する、④横暴になる、⑤同意ばかり求める、⑥自社開発主義症候群 
 こうした症状に陥る人達には、①自己愛が強い、②権威に弱い、③序列に敏感、④視野狭窄、⑤自己正当化、⑥現実否認、⑦自己顕示欲が強い、⑧意外に気が小さい等の特徴があるそうです。
 一生懸命頑張って望みの地位を手に入れた人たちは、自らが傲慢症候群の症状を呈していないか胸に手を当てて考えてみてください。
 不幸にして傲慢症候群にかかった人のもとで働いている人は、どうしたらよいのでしょうか。片田さんは、限界設定(リミット・セッティング)を適用することを進めています。限界設定(リミット・セッティング)とは、相手の様々な要求に対して、ここまではできるけれども、ここからはできないということをはっきりさせることです。

子どもに甘える親 〜親子の役割逆転〜 №241

2016-07-10 23:14:29 | 日記
 人は、甘えたい時に甘えられないと傷つくといわれます。甘えの欲求は、子どもが親に対して持つものばかりではありません。親もまた子どもに甘えたいという欲求を持っています。愛着理論をはじめとする早期母子関係理論を提唱したイギリス出身の精神科医ジョン・ボウルビィは、「親子の役割逆転」が子どもに与える影響について語っています。
 「愛情」というのは本来、相手を思いやることで、見返りや打算を求めないものですが、未熟で甘えの欲求が満たされていない親は、子供のために何かをすることに、子供から感謝されたいという動機を持っています。ですから、子どもが感謝したり喜ばないと面白くありません。時には、「あなたのためにしてあげたのに何で喜ばないの」と子どもを叱りつけたりします。
 年齢に関係なく、甘えの欲求を持った人は傷つきやすく、子どものちょっとした一言で不機嫌になり、怒り出します。すると、子どもは親の顔色を見て育つようになります。子どもは誰でも両親に気に入ってもらいという欲求がありますから、両親が何かをしてくれたら、たとえ、おいしくない料理でも満面の笑みで「おいしい」といい、プレゼントされたおもちゃが気に入らなくても「気に入ったふり」をして喜ばなくてはなりません。まさに、「親子の役割逆転」です。子どもが親の気持ちに配慮しなくてはならなくなっています。
 友達のお母さんの手料理を食べて「おいしかった」と、自分の母親に言える子は幸せです。傷つきやすい母親はこんなことを言うと怒りますから、従順な子はけっしてそんなことはいいません。
 「親子の役割逆転」をして育った人は、大人になってもその感情的記憶は残っているので、他人の好意を断ることができないと言われています。誰かを傷つけてしまうのではないかと恐れ、人前で自由に意見をいうことができません。そして、周囲に不機嫌な表情の人がいると自分が何かいけないことをしたのではないかと不安なります。
 私たちは、子どものためと言いながら、じつは、自分が子どもから感謝されたくてその行為を行っているのではないか、ともう一度よく考えることが大切なようです。

自己肯定と自己受容の違い ~ポジティブシンキングとあるがまま~ No.240

2016-06-14 16:39:21 | 日記
 アドラー心理学がブームです。アドラーは、1870年オーストリア生まれの心理学者で精神科医でもあります。先日、ダイヤモンド社から刊行されている「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健:著)の中に、アドラーが「自己肯定」と「自己受容」の違いを説明している一節がありました。
 アドラーによると「自己肯定」とは、できもしないのに「私はできる」、「私は強い」と自己暗示をかけることで、これは優越コンプレックスにも結びつく発想であり、自らに嘘をつく生き方である、というのです。つまり、ポジティブシンキングには無理があるのではないかということです。
 一方「自己受容」とは、仮にできないのだとしたら、その「できない自分」を「ありのままに受け入れ」、できるようになるよう前に進んでいくことで、自らに嘘をつくものではないということです。つまり、まず、できない自分を素直に受け入れて、そこから出発しなさいということです。
 テストの点数が60点だったとき、「今回はたまたま運が悪かっただけで、本当の自分は100点の力がある。やればできる。」と言い聞かせるのが「自己肯定」です。
 「自己受容」というのは、60点の自分をそのまま受け入れた上で、100点に近づくためにはどうしたらいいかと考えることです。まず、「あるがままの自分」を受け入れなさい。そして、ここがとても重要なのですが、自分の中の「変えられるもの」と、「変えられないもの」を見極めなさい。我々は与えられたものを変えることはできないけれど、与えられたものをどう使うかは自分の力によって可能なのだから、ということです。
 これはなかなか難しい作業です。私たちは困難に直面すると、変えることが可能なことでも、どうせ私にはできないと変わろうとしないことが多いからです。
 アドラーは幼い頃、病弱で運動が苦手でした。また、くる病を煩ったため、成人した後の身長も150cmと小柄で、おそらく様々な劣等感情に悩まされたであろうことは想像に難くありません。彼は変えることのできない自分の現実を受け入れ、変えることのできる物事に対して全力を尽くし、フロイトやユングと並び称される偉大な心理学者になったのではないでしょうか。