前回に続きます。
4 違憲判決の効力はどうなるか
それでは,裁判所が法令違憲判決を出した場合,その法律はどうなるでしょうか。
自動的にその法律が失効するという考え方もありますが,日本ではそのような考え方を取っていません。あくまでも,国会で修正するまでは法律自体は存続することになります。
したがって,違憲判決が出ても,その法律は六法全書に残ったまま,という不思議な状態が続くことになります。
ただし,実務では,直ちに国会が法律の改正をするか,または法律は残っても内閣がその執行を事実上しないという運用をするなどして回避しています。
5 これまででた法令違憲の判決
法令違憲については,次の7件です(厳密には8件という考え方もありますが,1件は適用違憲ではないかという考えも多いため,ここからは省略しました。)。
(1) 刑法の尊属殺人規定
尊属殺人(親殺し)の刑が通常の殺人よりはるかに重いのは憲法14条の平等原則に反するとした。
(2) 薬事法の薬局設置制限
薬局を作るためには,半径50メートル以内に薬局がないことを条件とすることは,憲法22条の職業選択の自由に反するとした。
(3) 公職選挙法の定数問題
人口に対する定数の比率が極端に離れている(いわゆる一票の格差)が生じているのは,憲法14条に反するとした。
(4) 公職選挙法の定数問題
(3)と同様の問題について再び違憲判決を出した。
(5) 森林法の共有問題
森林の共有者が持ち分を譲渡することを制限するのは,憲法29条の財産権に反するとした。
(6) 郵便法における書留郵便免責規定
書留郵便の配達ミスに対して国家賠償が制限されているのは,憲法17条に反するとした。
(7) 公職選挙法における在外者選挙権の制限
外国に住む日本人に選挙権が与えられていないのは,選挙権を定めた絹布15条1項,3項,43条1項及び44条に反するとした(法律がないことを理由とするもの)。
あれ,これ以外にもっと違憲判決出てなかったっけ?と感じられた方,正解です。これ以外にも違憲判決は出ていますが,法令違憲ではなく,適用違憲のものや内閣(行政)の行為に対するものです(例えば,県知事が公費で玉串料を払ったことが政教分離に反するとしたもの。)。これについてはキリがないので割愛します。ただ,繰り返しますが,法令違憲はここにあげたものだけです。
6 立法不作為って何
ところで,5(7)ででた判決(今回出た公職選挙法の件)は,立法不作為と言われています。さて,それってなんでしょうか。
簡単に言えば,「法律を作らないことがけしからん」というものです。
したがって,法律がないのだから,それに対する違憲立法審査権なんてあり得ないのが本来なのです。
ところが,そうのんきなことも言ってられません。
法律を作れといわれているのに,いっこうに国会が法律を作らない場合,それによって不利益を被る人が出てくる場合があります。このような場合は,裁判所に対して「法律作ってって,国会に言ってよ」と言えなければ,不利益を回避するすべがなくなってしまいます。
例えば,憲法25条に生存権という規定があります。これは,人は健康で文化的な最低限度の生活ができることを保障したものです。そして,仮に生活保護法が全くなかったとした場合,生活が苦しいものに対して,国が生活費を援助するという根拠法令がないことになり,結果的にそのような人に生活費を補助することができないということになります。そうなると,生活が苦しい人にとっては死活問題となってしまい,憲法25条の趣旨がないがしろにされてしまいます。そこで,生活が苦しい人は,「早く生活保護法を作ってほしい。そうしなうと死んでしまう。」と主張することになります。
このように,「ない法律を作っていない」というのが,立法不作為といえます。
ただし,無制限に裁判所にこの権限を認めてしまうと,国民の代表たる国会ではなく,国民の代表ではない裁判所が法律をじゃんじゃん作るということにもなりかねません。そうなると,民主主義って何?という状態になってしまいます。
そこで,裁判所は,「憲法で法律作れと規定されていながら,まったく作る気配すらみられないという極めて異例な状態」の場合についてのみ,立法不作為による違憲判決ができるという判決を過去に出しました。
今回の公職選挙法の件も,結局,早くやればできたのにずーっと放置していたのがけしからん,という理由から立法不作為による違憲であると認定したものです。
7 まとめ
民主主義社会とは,多数決の理論により動く社会である以上,少数意見は排除されがちです。とすると,少数意見者(社会的弱者など)に対する一定の救済がどうしても必要となってきます。
裁判所はそのような少数意見者の救済を行う機能を持っています。その最大の権力が「違憲立法審査権」です。
法律は国会でできるため,民主主義(多数意見)の集大成であり,少数意見は排除されがちです。それに対して,「そりゃおかしいんじゃないの」といえるのが,最高裁判所であるということになります。
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4 違憲判決の効力はどうなるか
それでは,裁判所が法令違憲判決を出した場合,その法律はどうなるでしょうか。
自動的にその法律が失効するという考え方もありますが,日本ではそのような考え方を取っていません。あくまでも,国会で修正するまでは法律自体は存続することになります。
したがって,違憲判決が出ても,その法律は六法全書に残ったまま,という不思議な状態が続くことになります。
ただし,実務では,直ちに国会が法律の改正をするか,または法律は残っても内閣がその執行を事実上しないという運用をするなどして回避しています。
5 これまででた法令違憲の判決
法令違憲については,次の7件です(厳密には8件という考え方もありますが,1件は適用違憲ではないかという考えも多いため,ここからは省略しました。)。
(1) 刑法の尊属殺人規定
尊属殺人(親殺し)の刑が通常の殺人よりはるかに重いのは憲法14条の平等原則に反するとした。
(2) 薬事法の薬局設置制限
薬局を作るためには,半径50メートル以内に薬局がないことを条件とすることは,憲法22条の職業選択の自由に反するとした。
(3) 公職選挙法の定数問題
人口に対する定数の比率が極端に離れている(いわゆる一票の格差)が生じているのは,憲法14条に反するとした。
(4) 公職選挙法の定数問題
(3)と同様の問題について再び違憲判決を出した。
(5) 森林法の共有問題
森林の共有者が持ち分を譲渡することを制限するのは,憲法29条の財産権に反するとした。
(6) 郵便法における書留郵便免責規定
書留郵便の配達ミスに対して国家賠償が制限されているのは,憲法17条に反するとした。
(7) 公職選挙法における在外者選挙権の制限
外国に住む日本人に選挙権が与えられていないのは,選挙権を定めた絹布15条1項,3項,43条1項及び44条に反するとした(法律がないことを理由とするもの)。
あれ,これ以外にもっと違憲判決出てなかったっけ?と感じられた方,正解です。これ以外にも違憲判決は出ていますが,法令違憲ではなく,適用違憲のものや内閣(行政)の行為に対するものです(例えば,県知事が公費で玉串料を払ったことが政教分離に反するとしたもの。)。これについてはキリがないので割愛します。ただ,繰り返しますが,法令違憲はここにあげたものだけです。
6 立法不作為って何
ところで,5(7)ででた判決(今回出た公職選挙法の件)は,立法不作為と言われています。さて,それってなんでしょうか。
簡単に言えば,「法律を作らないことがけしからん」というものです。
したがって,法律がないのだから,それに対する違憲立法審査権なんてあり得ないのが本来なのです。
ところが,そうのんきなことも言ってられません。
法律を作れといわれているのに,いっこうに国会が法律を作らない場合,それによって不利益を被る人が出てくる場合があります。このような場合は,裁判所に対して「法律作ってって,国会に言ってよ」と言えなければ,不利益を回避するすべがなくなってしまいます。
例えば,憲法25条に生存権という規定があります。これは,人は健康で文化的な最低限度の生活ができることを保障したものです。そして,仮に生活保護法が全くなかったとした場合,生活が苦しいものに対して,国が生活費を援助するという根拠法令がないことになり,結果的にそのような人に生活費を補助することができないということになります。そうなると,生活が苦しい人にとっては死活問題となってしまい,憲法25条の趣旨がないがしろにされてしまいます。そこで,生活が苦しい人は,「早く生活保護法を作ってほしい。そうしなうと死んでしまう。」と主張することになります。
このように,「ない法律を作っていない」というのが,立法不作為といえます。
ただし,無制限に裁判所にこの権限を認めてしまうと,国民の代表たる国会ではなく,国民の代表ではない裁判所が法律をじゃんじゃん作るということにもなりかねません。そうなると,民主主義って何?という状態になってしまいます。
そこで,裁判所は,「憲法で法律作れと規定されていながら,まったく作る気配すらみられないという極めて異例な状態」の場合についてのみ,立法不作為による違憲判決ができるという判決を過去に出しました。
今回の公職選挙法の件も,結局,早くやればできたのにずーっと放置していたのがけしからん,という理由から立法不作為による違憲であると認定したものです。
7 まとめ
民主主義社会とは,多数決の理論により動く社会である以上,少数意見は排除されがちです。とすると,少数意見者(社会的弱者など)に対する一定の救済がどうしても必要となってきます。
裁判所はそのような少数意見者の救済を行う機能を持っています。その最大の権力が「違憲立法審査権」です。
法律は国会でできるため,民主主義(多数意見)の集大成であり,少数意見は排除されがちです。それに対して,「そりゃおかしいんじゃないの」といえるのが,最高裁判所であるということになります。
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