あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
ブログ界の「おか上彰」を目指し、サボりながらも頑張ります!

よく分かる(?)シリーズ 違憲立法審査権(その2)

2005年09月18日 01時00分21秒 | よく分かる(?)シリーズ
前回に続きます。

4 違憲判決の効力はどうなるか
  それでは,裁判所が法令違憲判決を出した場合,その法律はどうなるでしょうか。
  自動的にその法律が失効するという考え方もありますが,日本ではそのような考え方を取っていません。あくまでも,国会で修正するまでは法律自体は存続することになります。
  したがって,違憲判決が出ても,その法律は六法全書に残ったまま,という不思議な状態が続くことになります。
  ただし,実務では,直ちに国会が法律の改正をするか,または法律は残っても内閣がその執行を事実上しないという運用をするなどして回避しています。

5 これまででた法令違憲の判決
  法令違憲については,次の7件です(厳密には8件という考え方もありますが,1件は適用違憲ではないかという考えも多いため,ここからは省略しました。)。
(1) 刑法の尊属殺人規定
  尊属殺人(親殺し)の刑が通常の殺人よりはるかに重いのは憲法14条の平等原則に反するとした。
(2) 薬事法の薬局設置制限
  薬局を作るためには,半径50メートル以内に薬局がないことを条件とすることは,憲法22条の職業選択の自由に反するとした。
(3) 公職選挙法の定数問題
  人口に対する定数の比率が極端に離れている(いわゆる一票の格差)が生じているのは,憲法14条に反するとした。
(4) 公職選挙法の定数問題
  (3)と同様の問題について再び違憲判決を出した。
(5) 森林法の共有問題
  森林の共有者が持ち分を譲渡することを制限するのは,憲法29条の財産権に反するとした。
(6) 郵便法における書留郵便免責規定
  書留郵便の配達ミスに対して国家賠償が制限されているのは,憲法17条に反するとした。
(7) 公職選挙法における在外者選挙権の制限
  外国に住む日本人に選挙権が与えられていないのは,選挙権を定めた絹布15条1項,3項,43条1項及び44条に反するとした(法律がないことを理由とするもの)。

  あれ,これ以外にもっと違憲判決出てなかったっけ?と感じられた方,正解です。これ以外にも違憲判決は出ていますが,法令違憲ではなく,適用違憲のものや内閣(行政)の行為に対するものです(例えば,県知事が公費で玉串料を払ったことが政教分離に反するとしたもの。)。これについてはキリがないので割愛します。ただ,繰り返しますが,法令違憲はここにあげたものだけです。

6 立法不作為って何
  ところで,5(7)ででた判決(今回出た公職選挙法の件)は,立法不作為と言われています。さて,それってなんでしょうか。
  簡単に言えば,「法律を作らないことがけしからん」というものです。
  したがって,法律がないのだから,それに対する違憲立法審査権なんてあり得ないのが本来なのです。
  ところが,そうのんきなことも言ってられません。
  法律を作れといわれているのに,いっこうに国会が法律を作らない場合,それによって不利益を被る人が出てくる場合があります。このような場合は,裁判所に対して「法律作ってって,国会に言ってよ」と言えなければ,不利益を回避するすべがなくなってしまいます。
例えば,憲法25条に生存権という規定があります。これは,人は健康で文化的な最低限度の生活ができることを保障したものです。そして,仮に生活保護法が全くなかったとした場合,生活が苦しいものに対して,国が生活費を援助するという根拠法令がないことになり,結果的にそのような人に生活費を補助することができないということになります。そうなると,生活が苦しい人にとっては死活問題となってしまい,憲法25条の趣旨がないがしろにされてしまいます。そこで,生活が苦しい人は,「早く生活保護法を作ってほしい。そうしなうと死んでしまう。」と主張することになります。
  このように,「ない法律を作っていない」というのが,立法不作為といえます。
  ただし,無制限に裁判所にこの権限を認めてしまうと,国民の代表たる国会ではなく,国民の代表ではない裁判所が法律をじゃんじゃん作るということにもなりかねません。そうなると,民主主義って何?という状態になってしまいます。
  そこで,裁判所は,「憲法で法律作れと規定されていながら,まったく作る気配すらみられないという極めて異例な状態」の場合についてのみ,立法不作為による違憲判決ができるという判決を過去に出しました。
  今回の公職選挙法の件も,結局,早くやればできたのにずーっと放置していたのがけしからん,という理由から立法不作為による違憲であると認定したものです。

7 まとめ
  民主主義社会とは,多数決の理論により動く社会である以上,少数意見は排除されがちです。とすると,少数意見者(社会的弱者など)に対する一定の救済がどうしても必要となってきます。
  裁判所はそのような少数意見者の救済を行う機能を持っています。その最大の権力が「違憲立法審査権」です。
  法律は国会でできるため,民主主義(多数意見)の集大成であり,少数意見は排除されがちです。それに対して,「そりゃおかしいんじゃないの」といえるのが,最高裁判所であるということになります。

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よく分かる(?)シリーズ 違憲立法審査権(その1)

2005年09月18日 00時54分37秒 | よく分かる(?)シリーズ
先日,現行の公職選挙法が外国に住んでいる日本人に選挙権がないのは憲法違反だとして訴えを起こした件について,最高裁判所は,そのような法律の規定がないことは参政権の侵害に当たるとして違憲判決を出しました。
判決文はこちら
ところで,このニュースの中で,「違憲判決は7件目」とか「立法不作為によるものは始めて」とか「今後国会で検討する」などの説明がありましたが,「もっと違憲判決ってあったような気がするなあ」とか「立法不作為って何」というかた,さらには「何で憲法違反って言われたのに国会で検討するんだろう」と感じた方もいるかと思います。
そこで,今回は,最高裁判所の違憲立法審査権について説明したいと思います。

1 そもそも違憲立法審査権って何
  中学校の時に「三権分立」を習ったと思いますが,その中で「国会が法律を作り,内閣が法律を執行し,裁判所が法律をチェックする」と習ったかと思います。
  この法律のチェックというのが,違憲立法審査権です。
  また,法律以外にも内閣(行政権)の行為に対しても,憲法違反があるかどうかのチェックをします。
  ただ,ここでおそらく中学時代(または今でも)誤解している人がいるのが,「国会が法律を作ったら,それを全部最高裁判所に送って,最高裁の裁判官がその法律を全部チェックして,これは合憲,これは違憲と判断している」と思っている点です。
  ところが,裁判所はそんなことは全くやっていません。
  この違憲立法審査権とは,法律をいちいちチェックするのではなく,裁判で「この法律おかしいよう。」と当事者が主張したときにはじめて裁判官が合憲違憲を考えるのです。
  つまり,裁判所に訴えない限り,違憲立法審査権は行使されないことになります。ちなみに,この裁判や,違憲審査権は,最高裁以外の裁判所(地裁など)にもあります。

2 ではどういう訴えを起こすのか
  じゃあ,どういう訴えを裁判所に起こせばいいのでしょうか。
  普通,思いつくのは,「金返せ」などの裁判です。
  では,違憲立法審査権を行使してもらうために,「この法律は憲法違反であることを確認する」という訴えを起こすことができるでしょうか。例えば,「自衛隊は憲法9条に違反するから,自衛隊法は憲法違反であることを確認する」という裁判を起こすことができるでしょうか。
  答えは「NO」です。日本の裁判所は,かならず事件(もめごと)がなければ裁判を起こせないのです。
  したがって,違憲立法審査権も,その具体的なもめ事を解決する際に適用される法律が憲法に違反しているかどうかを判断することになるのです。
  例えば,「金返せ」の裁判の場合,「金を借りたら返さなければならないと規定している民法は財産権の侵害だ。だから憲法違反の法律だ。よって金は返さなくていい。」と被告が主張した場合,裁判官が「確かに返せという法律がおかしい」と思えば,「民法は憲法違反だよ。だから金返さなくていいよ。」という判決になります(あくまでも例ですよ,例。)。

3 違憲立法審査権の範囲は
  大きく分けると2種類になります。一つは「法令違憲」ともう一つは「適用違憲」といいます。
  法令違憲とは,「法律の規定自体が憲法に違反している」ことをいいます。これについては,後述しますが,今回の判決を含めて戦後7件出ています。
  適用違憲とは,法律は憲法に反していないが,その問題についてその法律の適用の仕方が憲法違反だというものです。実例として,公務の中立公平を図るため公務員の政治活動を法律によって禁止していますが,ある公務員が勤務時間外に選挙ポスターを貼ったとして捕まった事案において,政治活動を禁止する法律自体は憲法違反とはいえないけど,この事例にまで当てはめるのはやり過ぎ,というものがあります(ちょっと実例が分かり難いと思いますが,適当な例が思いつかなかったので,こんな書き方にしました。)。
  一般に,違憲判決というと「法令違憲」を指す場合が多いですが,「適用違憲」という場合も多いです。例えば,最近の例では,住基ネットが違憲だという判決が金沢地裁ででましたが,ここでは住基ネットを定めた法律自体が違憲といったのではなく,いやがる住民にまで適用することが違憲であると言っています。

長くなりましたので,次回に続きます。

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