松下啓一 自治・政策・まちづくり

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○空き家と民泊

2016-04-14 | 空き家問題

 空き家問題の解決方法の一つとして民泊が言われる。実際、テレビ等で、古い空き家を回収して、そこに外国人観光客を呼び込んだケースなどが、時々紹介されるが、きわめて例外的なことのようだ。

 民泊とは、自宅の一部や空き別荘、マンションの空き室などを活用して宿泊サービスを提供することを言う。

 今日、議論になっている民泊は、日本を訪れる外国人旅行者数の増加し、それに伴って、東京、大阪のホテルや旅館の客室稼働率も高まっていてホテルが取れないという現状、かといって、ホテル建築はすぐにできるものではないことから、民泊が注目されるようになった。
 
 急に出てきたような民泊であるが、自治体関係者にとっては、実は民泊はなじみがある。それは国体のときで、国体は、全国から選手や指導者が一気に集まるので、既存の宿泊施設では、受け入れることが困難だからある。
 
 最初に民泊を導入したのは、昭和33年の富山国体と言われる。単に競技を開催するだけではなく、選手や地域との交流を深めることができることから、この交流も、国体の重要な目的のひとつとされるようになった。
 
 今話題の民泊も、この国体の延長線でとらえて、海外からのお客さんに、自宅を開放し、和食を振る舞いながら、異文化交流を図るというものである。

 こうした民泊の事例が喧伝され、実際にもこうした交流が行われることは好ましいことであるが、現実には、余ったマンションの一室をホテル代わりに貸出すケースが圧倒的である。最近では、海外在住の外国人が投資目的で日本のマンションを購入し、それを海外からの旅行者に貸し出すケースも出ている。インターネットの普及で、その場にいなくても、こうしたサービスができるようになった。

 民泊の仲介サイトとして知られるAirbnb(エアビーアンドビー)が有名であるが、最近では、Airbnbの中国版の 「自在客(ツーザイクゥ)」 「住百家(ジュバイジャ)」 「途家(トゥージャ)」等が、急速に登録数を増やしてきている。ちなみに日本でAirbnbに登録されているのは、約27000件。1位東京都(23区)約1万件、2位大阪府(大阪市)約6700件、3位京都府(京都市)約3千件である。

 旅館は、旅館業法の枠で、さまざまな観点から厳しく規制されているので、このような民泊は、旅館業法の脱法で違法であろう(グレーという表現があるが、法的にはブラック)。ただ、一方では、インターネットの発達、訪日観光客の増加とホテルの不足という現実の前で、旅館業法違反で違法というだけでは、結局、闇のまま放置してしまうので、ある種の合法化の枠内に収める方法を模索するのが得策である。

 そこで、国は、国家戦略特区の一環として、旅館業法の特例という形で、対応している。この特区の対象区域は、現在のところ、東京都、神奈川県、千葉県成田市、大阪府、兵庫県、京都市であるが、大阪府で平成27年10月27日に「大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」が成立、東京都大田区で同年12月7日に「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」が成立した。

 課題は、本当に機能するかである。国家戦略特別区域法の施行令第12条第2号では、施設を使用させる最低期間(最低滞在期間)を「7~10 日までの範囲」において、条例で定めることになっているので、民泊は7日以上が前提である。都内で宿泊する外国人の1施設あたりの平均宿泊日数は3日にも満たないとされることから、ほかの目的に利用されるのではないかという懸念である。

 浅草を抱える台東区は、民泊に一定の条件をつける条例をつくり(宿泊者の就寝中を含む営業時間内は従業員を常駐させることや、玄関帳場かそれに準じる設備の設置を宿泊施設に義務づける。事実上、民泊はNoである)をつくり、またマンションなどでは、管理規約で明確に民泊禁止を明確にしたマンションも増えてきた。見知らぬ外国人が出入りし、文化等の違いから、深夜に大きな声で酒盛りをしたり、屋内プールやジムなどの共用施設を使ったりといった問題も出始めているからである。

 以上から見ると、
①民泊は、空き家問題というよりは、宿泊ホテルの不足をどのように補うのかという問題意識から出てきた。
②民泊に使う部屋は、「その他」の空き家もないわけではないが、むしろ、「貸室」の方が多い(それも空き家予備軍ではあるが)。
③空き家問題解消のために民泊をという議論は、すじ悪である。むしろ民泊で議論すべきなのは、旅館業法、建築基準法、消防法、旅行業法等で、守られていた旅館に宿泊する国民の安全や、さらにはテロや伝染病から国民全体を守るという大きな政策目的の実現と、インターネット等の驚異的な発達やライフスタイル等の変化のなかでの生まれつつある新たな価値とのぶつかり合いをどのように調整するのか、両者の程よい接点は、どこなのかを探る議論である。

 

 

 

 

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