大阪芸大6号館(放送学科棟)の唯一のトイレが、洋式になって1か月。センサーで自動で水が流れたりするなどの「進化」を遂げました。学生に聞くと「きれいになって満足」、「モチベーションが上がった」といった声が聞かれる一方、女子トイレの個室減には「残念」の声が。また8号館のトイレも改善してほしいという声があがっています。学生、教員、副手あわせて45人にきいたアンケート結果からは、大学全体の環境をどう考えるか、というテーマが見えてきました。<小畠綾花、宮原裕、大坪千成、前田美空、河本ひかり、善家碧唯>
(写真:洋式に改修された6号館放送学科棟2階の男子トイレ。小便器はあさがお型から縦型へ、センサーで水が流れる仕組みに進化 2023年3月22日撮影 )
2月末から始まった放送学科棟の6号館2階のトイレ工事。3月下旬に、照明もまぶしい新しいトイレの使用が始まりました。2019年度入学生の卒業式直前の完成。学科内では、「昭和のトイレが、やっと令和のトイレになった」という声が上がりました。創設からまもなく55年になる放送学科のトイレが洋式になった「歴史的瞬間」でした。
これまでの6号館トイレは、古色蒼然。「中学の体育館のトイレみたいな感じだった」(3年女子)。
女子トイレは和式が2つ。水洗レバーが床から20cmほどの低い位置にありました。
男子トイレは、小便器は「あさがお」といわれた小型で、ボタンを押して水を流していました。個室はどちらも、しゃがんで使う和式でした。
3月下旬に「新装オープン」となったトイレは、個室は洋式になって温水洗浄便座に。古式ゆかしいレバーから、ボタンを押して流す形式に。男子トイレの小便器は、縦型でセンサーで水が流れる仕組みに進化しました。
「気分が上がる」(4年男子)、「トイレがきれいで使いやすいと、モチベーションが上がる」(2年女子)という効果があるようです。
▼きれいになって「感激」の声
学生アンケートからは、「サイコーですっ!」(2年男子)という感激の声が聞かれました。
「清潔感があって良い。手洗い場も鏡がきれいになって身だしなみを整えやすい」(3年女子)
「汚そうで近寄りたくなくて、いつも遠いトイレに行っていたので、すぐに行けるようになったのはうれしい」(2年女子)
「実習中、遠くまで行かずに気軽に使えてありがたい」(4年女子)
学びの場としては、この1か月で良い効果が出ているようです。
少数意見として、「私潔癖症やから1つぐらいは(体に触れない)和式を残してほしいって思ってる」(2年女子)という声も。
▼「改修知らなかった」が4分の1
ところが、使用開始から1か月たったにもかかわらず、改修を知らないという声が45人中10人もいました。
「なぬ。もうトイレ新しくなったんか!知らんかった」(4年女子)
春休み中の工事だったこともありますが、「6号館を使わないから行っていない」(2年女子)という声からは、これまで、他棟のトイレを使う人が多かった実態がうかがえます。放送学科の学生や教員は、使いやすいトイレを求めてさまよっていたのです。
「よく使うのは9号館のトイレか11号館のトイレ」(3年女子)
「音楽学科の4号館のトイレを借りていた」(教員)
7号館の映像学科棟、遠くは11号館、総合体育館のトイレを使用してきたという声もありました。
放送学科棟2階はテレビスタジオ副調整室と研究室しかないという建物の構造にも、利用者が少ない原因があるかもしれません。
▼女子の個室減には「残念」の声
アンケートからは、新しいトイレにも課題があるという声が聞かれました。とりわけ、女子の個室が半減したことについて残念という声は大きいようです。
「1室に減ったのが残念。最低でも2室は欲しい」(3年女子)
「2つあると思ってあけたら、用具入れでした…。」(2年女子)という声は、笑えません。
新型コロナが5類になるのを前に4月下旬にペーパータオルが撤去されたことから、「ハンドドライヤー(手を乾かす機械)を設置してほしい」(3年男子)という声も、男女双方からでています。
▼8号館のトイレ改修を急いでほしいという声も
6号館が改修されたと喜んでばかりはいられないという声もあります。
「8号館もまだ和式のトイレなので改修していただききたい」(4年男子)という声は、5人に1人からあがっています。
「昭和感あふれるトイレがきれいになって良かったです」(4年女子)という反響がある一方で、「やっと『平成』に追いついただけ」(2年女子)という声もありました。
(写真:現在の8号館のトイレ。男性用小便器はレトロなあさがお型。 2023年5月9日撮影 )
▼バリアフリーの発想を盛り込んで
6号館が洋式トイレになったことは、私たちが「大学の環境とは何か」を考えるきっかけになったようです。だれでも、がまんせず清潔に排泄できることは健康にとっても大切です。どんな人でも利用できる、バリアフリーな構造も大切でしょう。
アンケートに答えた教員・副手からは、「学内全体のバリアフリーのレベルを見直してほしい」、「トイレもそうだが、階段や急勾配の坂など、5〜6年経っても変わってない」という意見が出ています。
オープンキャンパスや体験入学で訪れる受験生に対して“良い学びの環境”とはなにか、トイレはそれを示す場所でもあります。
今回の改修で、放送学科6号館のトイレは半世紀以上経ってようやく洋式になったわけですが、バリアフリー化はされていません。車いすではこの2階にも行けないのです。
▼学びの環境としてのトイレ
多くの学科の講義が行われる9号館のトイレは2022年度に洋式に改修。ただ、入り口に段差があり、「個室の数が少ないから、ずっと並んでる」(2年女子)という回答も見られます。
男女の便器の数のバランスも適正かをみる必要もありそうです。あくまで公衆トイレの例ですが、イギリスの王立公衆衛生協会が行った調査では、便器の数の男女比は1対2が適切とする、という報告書が発表されています(BBC 2019年5月24日報道 日本語版 https://www.bbc.com/japanese/48392849 、英語版 https://www.bbc.com/news/health-48367242 )。
そのほか、今回のアンケートでは、
「(よく使う)映像学科のトイレの換気が悪い」(2年女子)
「11号館の『音姫』を修理してほしい」(2年女子)
などの声も聞かれました。
複数の学科が使用する講義棟の8号館の早急な洋式化をふくめ、「令和」のトイレはどうあるべきなのか。
今回のアンケートからは、バリアフリーの発想もふまえた、大学全体の環境を考える時期にきているのではないか、というテーマが見えてきました。
【放送学科トイレ改修から1か月アンケート】
回答45人(学生40人、教員3人、副手2人 自由記述)
▽良かった うれしい………25人
▽改修を知らなかった………10人
▽8号館も洋式にして…………9人
▽女子の個室減は不満…………6人
▽ハンドドライヤーがほしい…4人
(2023年4月27日、28日放送学科で調査)
(画像下:改修前の6号館のトイレ。2020年の「アナウンス実習1」の発表会映像から)
了