▽下宿を決めたその足で布団を買いに来てくれた新入生
末広寝装店
一須賀の交差点から南東に200メートルのところにある、クリーム色の壁面の店構えの「末広寝装店」。今年で創業53年になります。<狭間 翼>
(写真:末広寝装店)
お店を経営している店主の久門末男さんは、かつて一須賀には芸大性向けの木造アパートがたくさんあって、「遠方から入学してくる学生さんは、夜行列車やフェリーで大阪に着いたその足で下宿を決めて、そして布団や枕を買いに来てくれてましたよ」といいます。
昭和48年ごろ、遠方から大阪芸大に通うために下宿する学生を中心に、布団のレンタルや販売が盛んだったといいます。「カラフルな髪色で個性的な服装をした子がたくさんいたね。話しかけたら愛想よくしくれるし元気で良い子たちばっかりやったね」とにこやかに語ります。
「学生寮で生活をしてる子たちはよくお店に来てくれてたね。(とりあえず、その日からの生活に必要なものを調達するために)家具屋さん、電気屋さんにも連れてってあげましたよ」と、思い出話を語ってくれました。
「末広寝装店」の周りには、現在ではなくなってしまった飲食店やゲームセンターなどがあったといいます。「あの頃はこの辺にはたくさんお店があったから、学生さんたちが放課後に数人で遊びに来てるのをよく見かけたけど、最近は見かけないね」と少しさびしそう。
いまでも、入学式が近づくと一人暮らしを始める新入生が「末広寝装店」で布団を買いにやってきます。
「大阪芸大の学園祭にも行ったことがあるんですよ」と笑顔を見せる久門さん。「仲がいい学生さんらが屋台をやっていたものだから、すごく楽しかったのを覚えている。また学園祭も行ってみたいね」と振り返ります。
(写真:店内のようす)
≪末広寝装店≫
●住所=河南町一須賀777‐8。
●定休日=不定休。
●営業時間=9時〜20時。
▽落ち着いた店内には芸大卒業生の絵
コーヒー&キッチン SONO
府道27号一須賀交差点のすぐ南側、大阪芸大から徒歩5分ほどのところにある喫茶店。店内は、カウンターや柱の茶色い木の造りがレトロな落ち着いた印象。おすすめメニューの「エビフライ定食」はボリュームがあって980円と、値段も手ごろです。そんな喫茶店 の「SONO」は今年で創業52年を迎えます。
(写真:コーヒー&キッチンSONO)
店主の尾崎和美さんは「私は大阪芸大の短期大学出身で、弟も大阪芸大の卒業生なんです」といいます。そんなこともあってか、芸大生を暖かく迎えてくれます。
店内に飾られている絵を指さして、尾崎さんは「美術学科の卒業生が描いた絵を店内で飾らせてもらっているんです。髪が長くて落ち着いた雰囲気の優しい男性でしたね。お店にもよく食事に来てくれてました」といいます。「今でも昼休憩や空きコマなどの時間に食事をしに来る大阪芸大の学生がいて、いつも楽しそうに大学での日常を話してくれるんです。聞いていたら私も学生時代の楽しかったことなんかを思い出しますね」とにこやかに話します。
営業は午前8時から午後4時まで。常連さんには地元の人や仕事の途中のドライバーも。食材の野菜などは地元で農家をしている知り合いから仕入れています。
「私が学生時代からの友人もいて、時々お店に来てくれて昔話をしたりするんです。大阪芸大を卒業した後もお店でこうしてゆっくり話せる時間はとても楽しい」という尾崎さん。大阪芸大の学生に向けて「ひとりでもゆっくりできる落ち着いた店なので、昼休みや授業と授業のあいだの時間にぜひ来てください。みなさんとお話ししていると学生時代の自分を見ているようでとてもうれしい」と笑顔がこぼれました。
(写真:店内のようす)
≪コーヒー&キッチン SONO≫
●住所=河南町一須賀104。
●定休日=日曜、月曜。
●営業時間=8時〜16時。
▽芸大生でにぎわった夫婦の食料品店
東野商店
一須賀神社のそばで酒店「東野商店」を営む東野茂夫さん(75歳)と東野直美さん(76歳)。この店の3代目の店主になります。
(写真:東野商店)
「少なくとも100年以上は続いてるやろうな」と語っていた現在の店内には、古い地元の造り酒屋の看板も並んでいます。「いまは廃業してるけどな」とちょっと淋しそう。
2人はいまから50年ほど前の1972(昭和47)年ごろ、「阪南ネオポリス」として造成された河南町大宝の新興住宅地に、パンや生鮮食品を売る出店を構えました。いまの大ケ塚郵便局の場所には芸大生が住むアパートがあって、当時20歳代だった2人の店には、学生たちが毎日肉や野菜などの食材を買いに来ていたといいます。
「大阪芸大の学生さんたちとは仲が良かったものだから、賞味期限が近い食材なんかをタダであげていたりもしたよ」と直美さん。「髪が長くフーテンみたいな格好の子もいたね」、「あの時はそんなに学生さんらとも年は離れてなかったし、元気で愛想のいい良い子らばっかりやったわ」とにこやかに話します。
茂夫さんは、「サカイ君という子は今でも覚えている。あの頃はよくお店に来て食材を買ってくれて、自分たちの子どもにとってはお兄ちゃんのような存在やったなあ」と語ります。そのお子さんも今は48歳だといいます。
直美さんは、「ちょっと髪が長くておとなしいタニモト君は、数人のグループが店に来てくれていて、グループの中の1人がテレビのディレクターになったと聞いたときは、大阪芸大はすごいんやなと思った」と振り返ります。
かっこいいナイスミドルの男性の常連さんは、のちに芸大の教員だと知ったのだそうです。
今は喜志駅近くに住む学生が増えて、一須賀周辺の学生は減ったと感じるという二人。「知り合いも何軒か、学生アパートを辞めたと聞きますね」と少しさびしそうでした。
「あのころの学生さんらはもうええ歳やろうね」と、かつて芸大生で賑わった大宝を懐かしそうに語ってくれました。
(写真:東野茂夫さんと東野直美さん)
≪東野商店(現在のお店)≫
●住所=河南町大ヶ塚110。
●定休日=不定休。
●営業時間=8時〜12時、13時~17時。
了
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