夜、自室で静かにしていると、外を通る車のアナウンスがいつしかワラビ餅から石焼き芋にとって替わったことに気付いた。
灯油屋さんが聞こえてくるのももう直ぐなんだろうな。
そういえば……買い物に出かけると、クリスマスを思わせる飾りや年賀状印刷のノボリ、お節の予約、も始まってる。文具店や書店では来年のカレンダーや手帳が売っている。
……そうか、もうそんな時期なんだ。
気がつくと、あれほど街中に立ち込めていた金木犀の香りはいつしか弱まり、銀杏の葉も少しづつ黄色に、また春には一瞬のはかなさとはいえ、回廊で楽しませてくれる桜たちも、少しづつ紅葉色にころもがえ。
虫の声も聞こえなくなった。
秋は好きなんだけど、なぜか、今年に限ってかもしれないが、冬は寂寥感をたっぷりと含んだ空気が体の回りに漂っているような感じがする。
金曜朝出かけるときに、同じ階の斜向いの部屋の前に、引越し業者の段ボールが10枚立てかけてあったのを見た。
多分この土日か来週中には引っ越して行くんだろう。
同じ階には私のところを含めて4室あって、私が越してきた当初は全部埋まっていた。
上下階と大家さんと両隣は一応粗品を持って行った(皆折悪しく留守だったので郵便受けに入れただけだが)が、斜向いは隣り合っていないからいいかと思って持って行かず。
実はこの部屋の住人、男性か女性か、あるいは年代も知らない。会ったことがない。
西隣の若い女性は昨年末出て行った。南隣の若い女性も5月に出て行った。いずれも空室のままだ。
斜向いが出て行ったらこの階の住人は私だけになる。
全く交流もないのに、何故か同じ階に住んでいる人がいなくなるということに、何とも言いようのない違和感を覚える。
かといって人が入って来たら来たでまたうるさくならんかったらいいなあ、なんて身勝手なことも思ったりするんだろうな。
いやいや、こんなことを言ってはいけないのかも知れないが、一番引っ越して行ってほしいのは上階の住人なんだけど、これがなかなか出て行きそうにない。
夜中の3時前後にお風呂のお湯を落すし、これがまた……以前は物凄い轟音。
昨年末くらいの大嵐のときに排気口から雨が吹き込んだのかも知れないが、水漏れ事件があって以来、お湯を落す音は半分に減った。きっと大家さんが注意してくれたんだろう。
その分今度は足音が気になる。歩くとバスケットボールかサッカーボールを50㎝くらいのところから落しているような音がするし、歩数もほぼ確実に分る。
ひどいときには天井灯のアクリルカバーがビリビリ鳴る。
2つ下の階にはテナントが2軒、ペットショップとピザ屋が入っていた。
当初は一時預かりのイヌたちがたまに夜鳴きしたりして悩まされたが、昨年末出て行って、ピザ屋だけになった。
後にテナントはまだ入っていない。
勿論大家さんもある程度の空室を見越しての賃料設定にしてはいるんだろうけれども、テナントが埋まらないのは結構痛いだろうし、これだけ空きがあるのもひょっとしたら想定外だったのかも知れない。
西隣とテナントに関しては各々4月頃と10月くらいに誰か見に来ていた人がいたようだったが、それ以後動きがないところをみると、他で決めたんだろう。
微妙に……寂しい。