現在種々の材料が鉄鋼として登録されているが、だんだん収斂していくのではないかなと思う。
アルミの鋳物、だとえばダイカスト合金はADC12という材料が日本を席巻してる。他にも合金の規定はあるものの、ADC12の流通量が多くなってくると、値段が下がり、新規の設計もADC12で対応するようになり、だんだん選択肢がADC12のみになってきているようにも思う。
鉄鋼においての類似の経験は、鋼にクロムを添加したクロム鋼SCr、更にモリブデンを添加したクロムモリブデン鋼SCMを比べた時、SCM材料のほうが添加元素多いのに、安価であり、それが流通量の違いということを知った。
そうなると、よっぽどモリブデンの高騰が生じない限りクロム鋼の出番がなくなってしまって、クロムモリブデン鋼が席巻してくるであろうと思っている。
ふと設計する側になると結構少なそうで・・・
・低炭素鋼(SS400やSPCなど用途、厚さで選択肢あり)
・炭素鋼(S45Cはずぶ焼入れしにくいので注意、S55Cくらいがちょうどよい)
・工具鋼
・合金鋼(SCM4xx、浸炭ならSCM415, SCM420くらい、全体焼入れならSCM435やSCM440)
・工具鋼(SK85からSK105、SKD11、SKD61、SKS類、SUJ2)
・鋳物(FC250からFCD)
・ステンレス(多岐にわたるが、SUS304, SUS316L, SUS410、SUS420、SUS430、SUS436、SUS444、SUS631、SUS310S)
あれ、全然収斂してきているように思えないな。
教科書の書き直しに過ぎないが、鉄鋼と言われるもののうち、鉄は純鉄に近いもの、鋼は炭素を入れて強くしたものと思っている。入れる炭素量は多くても1%くらい。鉄というには0.02%よりは低くあってほしい(オールフェライト組織になる)。
ポイント:炭素は1%未満の添加量で強度に影響する重要な元素
炭素に鉄鋼を入れるとパーライト組織になって強くなるが、それ以上に効果があるのが焼き入れて生じるマルテンサイト組織でコレが硬い。そのため、熱処理と組み合わせることで炭素鋼はもっと活躍の場が広がってくる。ここで、炭素量という軸と、熱処理という軸の2軸で語られることが多くなってくる。
ポイント:鋼は組成のみならず、熱処理でもその特性が大きく変化する
炭素量の話にもどって、炭素量0.77%未満の炭素鋼を亜共析鋼、0.77%以上を過共析鋼という。
JISでは炭素鋼というと、炭素量0.65%くらいまでなのだが、0.75以上の炭素は工具鋼と名前を変更して呼んでいるが、中身は炭素鋼である。昔はSK1からSK7まであったが、わかりにくいので、現在は炭素量で書かれていて、SK85なら炭素量0.85%の工具鋼とわかる。
炭素量の低い炭素鋼としてはS15Cなどもあるが、見たことのある炭素鋼で最も低炭素だったのはS20Cである。よく目にするのはS45CやS55Cである。SK85なども社内ではよく見る。SK105も稀に見るがSK140は見たことはない。
ポイント:硬ければ優れるとも限らない。硬いと靭性が低下するので、固くて脆い、という背反を忘れない。
さて、炭素鋼は焼入れで強くなる(=固くなる)が、ある程度より深いところに焼入れができないことが発覚してくる。重いモノは焼入れしにくいという観点で「質量効果」などといったりするが、実際には表面からの距離だと思うので、「冷却速度依存性」という理解が正しい。質量効果なんてなんだよって思った最初は。
より深いところまで焼入れができるようにするには、ゆっくりな冷却速度でもマルテンサイト変態を起こすようにする必要がある。このための添加元素があり、クロム、ニッケル、モリブデンなどがある。ニッケルは高いので、多くの場合はクロム、モリブデンに頼る場合が多い。
ポイント:焼入れ性を良くするにはクロム1%、モリブデン0.2%などを添加し、値段度外視の場合にはニッケルも2%など添加する。
困ったときのクロモリ鋼!1%クロム、0.15-0.3%モリブデンが良いところ。ニッケルが入ると更に焼入れ性がいいので、ある程度の塊でも固く、プリハードン鋼といった形で売られているものもある。
炭素鋼にクロムなどを添加したもはSCr420やSCM420などといった合金になるが、工具鋼に添加すると違った名前になってややこしい。
過共析鋼は炭化物を吐き出すのだが、モリブデン炭化物、タングステン炭化物、バナジウム炭化物、クロム炭化物など各種炭化物を作って固くする鋼材もあり、SKSやSKT、SKDなどがこれに該当する。ダイス鋼とかいったりするのかな。SKD61などはよく見る。SKD11もよく見る。SKSは時々聞く。
ポイント:添加元素は炭素濃度でメカニズムが違うので、注意する。SCM435知ってるぜーって感じでSKD61を見ると理解できない。
組成のグラデーションを炭素で生じることで、表面はこんがり、中はふっくらみたいなことも可能で、浸炭焼入れがコレに相当。内部までカチカチになると都合が悪い材料の場合は浸炭をしたりする。表層が固くあってほしい歯車などでも浸炭焼入れする場合もある。ただ、浸炭を待ってられないからと、高周波焼入れをする場合もある。
ポイント:炭素量も加熱方法も一筋縄ではいかず、先人の知恵が光る。
その他特殊添加物:
・鉛:絶滅危惧種または新規生産が止まっているレッドリスト入りの材料。鉛を分散するこで切り屑が短く分断され装置や工具に絡みにくい、鉛が滑ってくれて切削性がよいなどの特徴から、快削鋼と言われる。現在はBiなどで代用したり、硫黄添加で対応したりする。
・硫黄:マンガンと化合物を作り硫化マンガンMnSを材料中に吐き出し、これが切り屑をプチプチ切れやすくし、切削性が良くなる材料。通常0.03%や0.045%未満で管理される硫黄が0.1〜0.3%程も含まれる。エッチングなしの組織を見た瞬間にMnSが見えるので、「あ、硫黄添加の快削鋼」とわかる。成分からも明らかに違和感を感じるが、切削加工の目的あり。
・バナジウム:低炭素鋼に添加するとフェライト強化になるので、熱処理しなくても強度UPにつながる。添加量は0.05%未満くらい。炭素が多い材料に添加すると炭化バナジウムを作って固くなる。
次に、ステンレス。ここも奥が深い。
ステンレスは錆びにくい鉄鋼で、錆にくさはクロムが担っている。クロムは表面で酸化膜を作ったときに不動態を作り、それ以上の酸化を防ぐ。不動態膜は数nm程度で目視で金属色が変化するような膜ではないため、目視では錆びていないように見える。
身の回りのステンレスには、磁石にくっつくステンレスと、磁石にくっつかないステンレスがある。
磁石にくっつくものは、フェライト系とマルテンサイト系に大別され、特殊事例では析出硬化のSUS63x、二相ステンレス(フェライト+オーステナイト)などがある。
磁石にくっつかないステンレスは、オーステナイト系ステンレス。
★SUS3xx : オーステナイト系ステンレスで基本的に磁石にくっつかない。例外SUS301、SUS304の一部にくっつくものがある。ニッケルを含有するためやや高い。18-8ステンレスはSUS304である。モリブデンを3%程添加したSUS316は耐食性が良いのでよく使われる。応力腐食割れするので、注意。
★SUS4xx:フェライト系、マルテンサイト系ステンレス。磁石にくっつく。低炭素のものはフェライト系。基本的にニッケルを含まないため、安価。自動車のマフラーなどはSUS436やSUS444などフェライト系ステンレスで作られる場合が多い。個人的な欠点:鋳造で組織が大きくなりすぎるので鋳造品に不向き。応力腐食割れしないので良い場合もある。
SUS444はフェライト系なのに、SUS440はマルテンサイトなど、番号の不連続性が強いので、「下2桁は住所」と思って諦める。
★SUS63x:析出硬化型ステンレスという特殊ジャンル。アルミ、銅などが出たらコレに該当する可能性あり。
★その他特殊系:デュプレックスといったり二相といったり、フェライトの弱点、オーステナイトの弱点を補った材料もある。ロレックスのステンレスはSUS904というデュプレックス。
ベアリング用のステンレスはSUS440系一択。
SUS301やSUS304などニッケルを8%程度しかふくまないオーステナイト系ステンレスは加工によってマルテンサイト変態を生じるため、加工により磁石にくっつくように鳴る場合がある。ただ、このマルテンサイトが強度向上につながるため、バネ用ステンレスとしては有用な特性でもある。
知っておきたいスレンレス:SUS301 ( & SUS301CSP)、SUS304, SUS316L、SUS430(フェライト)、SUS420(マルテン)、SUS440、SUS444、SUS436、SUS630、SUS631、SUS201(ニッケル節約してMn増量)
ステンレスにチタン、ニオブをちょっとだけ添加しているケースがあるが、コレは炭素キラーと個人的に呼んでいて、クロムと炭素が化合物を作らないように、炭素を先に消費する元素として添加し、鋭敏化といった現象を回避するのが目的になっている。規格に炭素量の5倍から0.2%未満、みたいな書き方は基本的に炭素キラー。溶接する部品やマフラー部品で多い。腐食して穴が開かないようにね。
ステンレスの窒化は鉄鋼の窒化と全然違うとかもあるので、収斂しつつあるとおもったが、結構多岐にわたりそうなので、アルミとはちょっと違う世界かもと思った。