映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「ラベンダーの咲く庭で」

2007年10月06日 | 映画~ら~
イギリスの2大女優とドイツの若手俳優の競演作。(ネタばれあり)

2人静かに暮らす老姉妹が海岸に漂着したポーランド人青年を助けたことから、3人での不思議な共同生活が始まる。老姉妹にとって青年アンドレアは、時に息子、時に恋人。時に孫であったり、手の届かない片思いの相手にもなる。姉妹のほのかな恋心は、月並みな表現だけれど「恋愛に年齢は関係ない」と言いたくなってしまう。そこに美しい若い外国人女性が現れ…。

ポーランド人青年はヴァイオリニスト。去年だったか現地イギリスを始め世界中で騒がれた「ピアノマン」(http://x51.org/x/05/05/1711.php)をそのまま映画にしたような設定です。といってもこの映画、ピアノマンの出現の前年の作品ですが。


物語は、特に目新しい内容であるわけではなく、どちらかというとかなりベタ。それでもこの作品が素晴らしいのは、イギリスの2大女優の演技力に由るもの。妹役ジュディ・デンチ(007シリーズ、恋に落ちたシェイクスピア、ショコラ…)の見事なまでに乙女心を表現した演技は見ごたえ十分。その時々で、年齢も気持ちの揺れも、すべての面において全く表情を変えてみせる表現力には感服。若い青年に恋をする1人の少女であったかと思えば、次の瞬間には年齢差に不安や自分の恋心さえも辛いと感じる老婆に。海岸を2人で歩く時のアーシュラ(ジュディ)の、心の奥からじわじわと幸せな気持ちがにじみ出てくるような少女の表情。若い女性にアンドレアを取られてしまうかもしれない…それでも自分には何も出来ない、という年齢や立場の違いなど不可抗力にも似た苦しみを宿さなくてはならなかった彼女の「初恋」。とにかく彼女の演技力そのものが、映画の流れを完全に作り上げています。

姉役のマギー・スミスの貫禄があり、もう1人の大女優ジュディを包み込めるだけの存在感があるからこそ、「二人姉妹」の絆や暮らしの形がバランスよく描かれることに成功しています。


忘れてならないのが、アンドレア役のダニエル・ブリュール。彼の透明感と同時に芯の強さを感じさせる独特の雰囲気は唯一無二。台詞はものすごく少ないが、彼の演技力であらすじ以上にアンドレアの葛藤、苦しみ、喜び、若者の抱く夢や希望への強い憧れやそれに突き進むパワーがひしひしと伝わってきます。いろんなものをプラスするのではなく、引き算してこそ表現できる心の強さを抑えた演技で見事に観客の心をつかんでいる。彼の映画は『グッパイ・レーニン!』しか観たことが無かったのだけど、今回の映画でも控えめながらその存在感は溢れています。


若いカップルの恋物語なら、描きつくされた面白みも何も無く終わってしまう。しかしこれが女性が高齢であり純粋に彼に恋をしている・・・というだけで、物語は多面性をまし、女性の抱く不安や悩みや、自分の力ではどうすることも出来ない現実、が更に物語に深みを与え、観客に感じてもらいたいポイントを作り出している。カップルの年齢設定を変えるだけで、こんなにも静かだけれども深みが出てくるとは驚き。


恋をする女性としてアンドレアの晴れ舞台を見守るアーシュラの表情は光で満ち溢れ、そして静かな引き際は大人の女性だからこその美学を感じる静かで美しいもの。

だからこそ、アンドレアを成功へ導く(かもしれない)美外国人女性の奔放な強さはアーシュラとは全く対照的で、本気でムカつきます。



お勧め度:★★★★☆





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