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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成の初めの頃。
* ある出会い
経験できることは、すべて経験したいと、僕は思っている。
これからのお話は、ある一人の中年のおじさんと、
知り合う事によって、飛躍的に拡大した僕の超個人的な、
不可思議な世界のお話です。
皆さんに信じてもらえるかどうか分かりませんが、
下手ながらも、書き綴ってゆきますので、暇を見つけて、
読んでもらえれば、大変嬉しいです。
僕は、ある地方都市にある私立の高校の2年生です。
その高校は、大学の付属になっていまして、
成績が350人中70番くらいなら、推薦で大学に
進学できます。
僕は、60番前後をウロウロしていますので、
何とか潜りこめると思います。
そのため、そうガツガツとした受験勉強はしなくて
よさそうです。
その恩恵にあずかるために、わざわざ自宅を離れて、
この街やってきました。
今は、マンションを借りて、一人で住んでいます。
高校には、伯母さんの家に下宿していると届けています。
一人で住む事は、一応禁止されているからです。
初めは、伯母さんの家に居たのですが、
1年の冬休みの後に、マンションに引っ越しました。
マンションとは、言っても名ばかりで、
3畳の洋風部屋があるだけで、風呂はついてないし、
便所・炊事場・洗濯場は、共同になっております。
それでも、家賃は15,000円も取られています。
高校生の僕には、贅沢かもしれませんが、
伯母さんの家で、気を使って生活するのは、
疲れたからです。
あれは、この春のことでした。
土曜日の夕方、何となく寂しくなったので、
城山に登って、丘上霧乃さんの家のある、
西の方を眺めていました。
霧乃さんは、僕の憧れの同級生です。
しんなりと、
伸びた黒い髪、
すらっと、
姿勢のいい肢体、
星のきらめくような瞳、
かわいらしい唇、
さわやかな笑顔、
すべてが、素晴らく見えます。
けれども、話した事は、ありません。
クラスが、違うからです。
一人で住んでいると、時々たまらないような、
寂しさに襲われる事があります。
城山に登って、街の景色や遠くの海を見ていると、
気が落ち着いてきます。
そんな時でありました。
「君、高校生?」
知らない中年のおじさんが、
話しかけてきました。
振りかえると、
黒い革ジャンバーにズボン、
ロングブーツを履いた、
40過ぎの見知らぬ男が、
立っていました。
髪の毛が、
ぐしゃぐしゃになっていたのは、
メットのせいでしょう。
格好を見れば、バイクで来たなと思いました。
人の良さそうな顔つきをした、
脚の短い不恰好な人でした。
「はい。そうですが・・・」
「ここで、何してるんだい」
「景色を眺めているだけですが」
「私も、ここに、よく来たものだよ。
君が、昔の私に見えたので、
つい声をかけてしまったすまないね。
感傷の邪魔して」
「感傷だなんて、そんなものと違いますよ」
「そうかい。それは失礼」
その人は、流と名乗りました。
同じ県内のT市の出身だそうで、
今は、奈良県に住んでいるという事です。
職業は平凡な会社員だと言ってました。
そうそう、バイクに乗って、
あちらこちらに行くのが、趣味だとも言ってました。
今日は、何でも「ボンちゃん」という、
小説の舞台を訪ねて、やって来たということでした。
つづく