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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成の初めの頃。
チーコちゃんは、甲賀に住む忍者狸・コガ坊の
妹である。年は、5~6才だろうか。
遊ぶものが多い、万博公園が気に入り、
タイタイと、一緒に暮らしている。
両親がいないので、コガ坊も寂しい思いを紛らわせる、
遊園地住まいを、許してやっているのだ。
本当は、一人しかいない妹と一緒に暮らしていたい、
のだろうが、人のいいタイタイの人柄を信頼して、
預ける気に、なったのだろう。
チーコちゃんは、大阪ではタイタイ以外に、
知り合いは居ないはず、私は、只ごとではないと、
思ったので、すぐさま、バイクに乗る支度をした。
ありがたいことに、土曜日の夜だった。
タイタイのヤツが、会社勤めの私を気遣って、
今日まで、知らせるのを控えていたのだろう。
図体は大きいが、結構そういう気配りも出来る、
憎めない奴である。
私は、黒い革ジャン、革ズボン、
ロングブーツで、身を固めた。
あとは、黒いヘルメットを被るだけである。
足が短いので、ちょうど、ゴキブリを拡大コピーに、
かけたような姿を、想像していただければいい。
玄関口で、もたもた用意をしていると、
二階の寝室から、Oさんが、下りてきた。
トイレにゆきたくなったらしい。
Oさんとは、わが愛する妻、あゆかの旧姓からきている。
私をオッさん呼ばわりするものだから、
お返しに、そう呼んでやっているのだ。
元の苗字は、王等香という。
そのOさんが、私の姿を見つけるや否や、
「オッさん、その格好はナニ! 年を考えなさい!
それに今何時だと思っているの!」
ドカドカドカッ。
階段からきつい言葉が、転げ落ちてきた。
堪えるー。
私といえども、今の時間、好き好んで、
バイクなどに乗りたくはない。
けれども、あの可愛いチーコちゃんが、
行方不明になっているのだ。
それに、付き合いというものもある。
Oさんは、私が非人間界の者と付き合っている事を、
全然知らない。
いや、私がいくら説明しても頭から信じようとはしない。
そのうちいつか分ってくれるだろうと思って、
最近では、彼らの話も、あまりしてやらない。
そんな姿勢も悪いのだろう。
日頃の優しい顔つきが、ガラリと変わっている。
おお、恐っ!
メットを抱え、外に飛び出す。
近所迷惑になるといけないので、
サヤカを団地のはずれまで、
手で押してゆき、エンジンを始動した。
暗い蛙の鳴く田圃みちを、
西名阪の法隆寺インターへと向かった。
西名阪に入れば、あとは高速道路のみを通って、
万博公園にゆくことが出来る。
インターの入口で250円、松原料金所で250円、
近畿道の長田で300円が、バイクの高速利用代金である。
奈良県S市の自宅から、吹田までは約70km、
1時間あまりで着く。
タイタイには、夜間照明があたっていて、
人目につきやすいので、少し離れた入り組んだ場所から
話しかけることにした。
かれら非人間界の者と話をする時には、
サヤカの不思議な能力を借りる。
サヤカのガソリンの給油口が、
その通信や翻訳をしてくれるのである。
私は、ガソリンの匂いは好きではないのだが、
その時だけは、仕方なく我慢している。
というよりも、せざるをえないのだ。
その給油口を開けて、話しかけた。
{タイタイ、こんばんわ}
{おおっ、オッさんか! よう来てくれた。
すんまへんなあ。サヤカはんも、すんまへん}
{一体、どうしたんだい?}
チーコちゃんは、昼間は人間の女の子に化けて、
エキスポランドで遊ぶのが、日課となっている。
甲賀の山なかで暮らしていたので、遊園地が、
楽しくて、有頂天になって、遊び回っているらしい。
3日前も、いつものように、朝遊びに出かけた。
だいたい夕方の5時すぎには、帰ってくるのだが、
いつまで待っても、その日は、帰って来なかった。
コガ坊に「縄通」ネットで問い合せてみたのだが、
甲賀にも、帰ってはいない。
遊び飽きて、天王寺の動物園に遊びにでも行ったのかな、
と思っていたようだ。
昨日も、何の連絡もなかった。
今日も、何もない。
これはおかしいと感じたので、
私に、連絡してきたのだという。
私は、人に頼られるような柄ではないのだが、
相談してくれると嬉しくなる、調子のいいオッさんだ。
{チーコちゃーん、チーコちゃん、やーい}
私は、サヤカの能力を借りて呼びかけた。
タイタイは歩いたり、空を飛んだり出来るのだが、
テレパシー能力は、そう強くはない。
周囲1km前後にしか届かないようだ。
それに比べて、サヤカは5kmぐらいの範囲内なら、
届くのだが、チーコちゃんの返事はなかった。
私は、万博公園の周辺を走り、所々でサヤカを止めては、
呼びかけてみたのだが、返事はなかった。
一体、何がチーコちゃんの身に、起こったのだろうか?
道に迷った?
交通事故に遭った?
狸に戻った所を捕らえられた?
幼女誘拐?
次々と悪いことばかりが浮かんでくるが、
どこをどう捜してよいかわからないので、
その日は、ひとまず自宅に帰ることにした。
何にしろ、この周辺には、いないようだ。
タイタイの恨めしげな視線が気になったが、
私は、これでも生身の人間。
彼らのようには体力が続かない。
心配事を小脇に抱えて、家路についた。
サヤカも気になるのか、何となく、元気がないようだった。
チーコちゃんは、一体何処に行ったのだろう?
つづく