copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 不気味な挑戦状
翌朝、気になったので「縄通」ネットを覗いてみた。
私宛てのメールが、2通あった。
1通は、コガ坊からのものであった。
妹を捜したいから、オッさん悪いけど、
甲賀から万博公園まで運んでくれないかと書いていた。
もう1通のメールのIDには、見覚えなかった。
IDとは、コンピュータ通信に加入すれば、
与えられる背番号のようなものである。
これを使って、主催者側は加入者の管理をするし、
メールなどのやりとりも、
このIDを使って行なうことが多い。
名前だけだと、同姓同名の者が、多い時に困るので、
ユニークな番号を割り振って、番号で管理をしている。
このナンバーは、一定の法則のもとに、
割りつけられているので、類推出来るような、
番号になっていることが多い。
他人に悪用されないように、この後に、
パスワードと呼ばれる加入者が指定出来る、
秘密の文字列がくっついている。
IDは、参加者に公開されているが、
パスワードは非公開となっている。
パスワードを他人に知られ、悪用されると、
利用代金など、いくらあっても足りないだろう。
そのうち、電話をかけた者の番号が分かるようになり、
盗んだ者が、特定出来るようになるかも知れないが、
携帯電話などを盗まれると、これまた分からなくなる。
世の中、意識して悪いことをしようと思えば種はつきない。
悪用される事を前提にして、コンピュータ・システムは、
組まれてゆくのだろうが、それに闘志を燃やすヤカラも、
多いから厄介だ。
それに、秘密のパスワードと言っても、
主催者自身には筒抜けだから、管理が、
よほどしっかりしてないと、
簡単に、漏れてしまう可能性がある。
見覚えのない者のメールは、不気味であった。
私は、恐る恐るファインドした。
「
「流ドン作と、よれよれグループへ告ぐ」
この前は、よくも、この俺さまを痛めつけてくれたな!
きっとお返しはしてやる。
首を洗って、楽しみに待っていろ!
それから、チーコは、俺達が預かっている。
あの子を返して欲しければ、8月15日までに
次の3要求を飲め!
1・ゴキブリ変身術の伝授をしろ!
2・テレパシー通信の全面譲渡をしろ!
3・非人間界の大臣の地位を保証しろ!
Mグループ
代表・Mキラリーより
なお、チーコの身体は返してやろう。
在り場所は、次の短歌がヒントだ。
東海の 小島の磯の 白砂に
われ泣きぬれて 蟹とたわむる
啄木が、この歌を詠んだ場所などを詮索しても、
無駄なことだ。
また、オレの性格も、一つのヒントだ。
7月7日までに助け出さないと、身体は腐ってしまうぞ!
念のため、あの子の魂は抜いて、オレ達が管理している。
オレのクイズが、お前らに解けるか?
平成H年6月DD日
何だ! これは!
」
明らかに、Mキラリーからの挑戦状だ。
Mキラリーと言えば、あの幼女4人殺しの、
Mの奴に違いない。
しかしながら、奴は、拘置所内で捉われの身のはず。
それが何故、チーコちゃんをさらい、
私に、電子メールなどを、送ってこられるのだろう。
だが、冷酷非情な奴のこと、通常の感覚では、
考えられないことをやりかねない。
おまけに、私達のグループにネーミングまでしてくれた。
ヨレヨレか。
ま、それも、いいだろう。
すぐさま、私は、奴のメールをプリントした。
1枚では不安だったので、3枚もした。
プリントした用紙を、通信を切ることも忘れて、
数10分も、眺めてしまった。
ああ、電話代や利用料金が、跳ね上がるぞ。
これでは、泣きっ面にハチだ。
NTTの請求書を見て、妻のOさんから、
お目玉を、たっぷり食らうに違いない。
私は、短歌などにはあまり興味がない。
しかし、啄木の短歌は、中学や高校の国語の教科書に、
出ていたので、名前ぐらいは、知っている。
知ってはいるが、こんな歌で、
チーコちゃんの居場所が、分かるのだろうか?
奴の言うことは、本当だろうか?
奴の言うことなど、信じられるのだろうか?
奴の言葉が本当なら、7月7日までに助け出さなければ、
チーコちゃんの、身体は腐るという。
身体が、無くなればチーコちゃんの魂は、
この宙空を、さ迷い続けることになる。
困ったことになったものだ。
この前、奴を苛めすぎたのも、
恨みを買う一因に、なっているのだろう。
あれは、もう数年も前のことだった。
この次の項は、私の甘いヒーロー意識が、
むらむらっと、燃え上がった時の話である。
あの時の行為が、Mの奴を刺激して、
今、こうしてチーコちゃんの身に災いを、
呼んだのかと思うと、他に方法がなかったものかと、
反省すること、しきりである。
チーコちゃん、ごめんな。
きっと、皆で助けてやるからな。
つづく