住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)の買い取り期間が終了する「卒FIT」対象者を巡り、大手電力会社と新規参入組が大争奪戦を繰り広げている。卒FIT争奪戦の先に待つ本当の戦いは、業界の在り方を根底から覆すテクノロジーの競争だ。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
NTTスマイルエナジー・パナソニック連合が7月2日、「卒FIT」対象の住宅用太陽光発電の余剰電力を最大16円/キロワット時(東日本エリア)で買い取る方針を発表した。業界内では8円程度が“相場”といわれていたため、その2倍の買い取り価格は関係者を大いに驚かせた。
卒FITとは、2009年に施行された「余剰電力買取制度」から後に一本化した「固定価格買取制度(FIT)」に基づき、大手電力会社が法律で定められた価格で余剰電力を買い取る契約期間が満了する住宅用太陽光発電のこと。
今年11月から順次契約を終了する卒FITが出始め、23年末までに累積で165万件に上る。これから卒FITのユーザーは、余剰電力を買い取る契約先を自ら決めることになる。
この165万件を巡り、大手電力や新規参入組の「新電力」などによる大争奪戦が始まった。下図の通り、特に新電力勢が“相場”とされる8円を超える買い取り価格を提示して攻勢を掛けている。
パナソニックと連合を組んで業界最高値を提示したNTTスマイルエナジーの担当者は「卒FIT対象者にインパクトを与えるには、予算の範囲内で他社より高い買い取り価格を提示する必要があった」と説明する。
この業界最高値は、両社製の機器や蓄電池などを購入するという条件が付く。他社より高い買い取り価格というインセンティブを与え、電気の自給自足に役立つ蓄電池などの製品購入を促すのが狙い。余剰電力を“高く”買い取るだけでなく、両社製品を使えば毎月の電気料金を安く抑えることができるメリットもアピールする。
卒FIT対象者の争奪は、高く買い取って電力販売契約につなげるという、電力ビジネスに限ったものではなくなっているから、こうも白熱しているのだ。
もっとも、NTT・パナ連合を含め、囲い込みに必死になる大きな理由はもう一つある。
それが太陽光や蓄電池、EV(電気自動車)などを制御して電力需給を調整する「仮想発電所(VPP)」、そして余剰電力をユーザー同士で売買する「電力取引(P2P)」だ。
大手電力はもちろん、卒FITの高値買い取りを提示したNTTやパナソニック、東京ガスといった新規参入組もVPPやP2Pの将来的な事業展開に向け研究開発を急いでいる。
各社は卒FITの顧客を増やすことで自社のVPPやP2Pのネットワークを拡大し、より有効なサービスを提供したいのだ。
VPPはAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、P2Pはブロックチェーンといったテクノロジーの進化が鍵を握る。この開発競争を制すれば、電力業界を制するといっても大げさではない。VPPやP2Pのネットワークで消費電力を“自給自足”できるようになるからだ。
これは発電所で発電した電気を、送配電網を通じて消費者に届けるという大手電力のビジネスモデルが崩壊することを意味する。VPPやP2Pは、「電気料金」という概念を破壊することにもつながる。
グーグルら参入で
「電気料金0円」シナリオ囁かれる
“電気料金の消滅”という意味において、一部の業界関係者ではあるシナリオが囁かれている。米グーグルや米アマゾンなどのプラットフォーマーが「電気料金0円」という“超”価格破壊の戦略を引っ提げて日本の電力業界に参入するというものだ。
電気料金が0円でもクラウドサービスなど別の事業でもうければ、彼らのビジネスは成立する。
最新のテクノロジーを駆使した革新的なサービスを次々と生み出すプラットフォーマーが参入すれば、あらゆる業界で既存プレーヤーがプラットフォーマーによって窮地に追い込まれたのと同様に、大手電力、新規参入組もろとも駆逐されるかもしれない。
顧客満足度を高める新しいサービスを提供する鍵になるテクノロジーをいち早く生み出せるかどうかが、電力業界の勝敗を分ける。