起業家でも、業績がよくなり、マスコミからも注目され、有名になったにもかかわらず、結局経営に失敗して会社を潰(つぶ)してしまう例が後を絶(た)たない。
成功すれば、周囲の者がチヤホヤする。
ますます有頂天になって贅沢をする。
謙虚で、人間の原理原則に従って正しい判断をしていたからこそ成功したのに、それを忘れ、自分の力を過信して、自分の贅沢や身内のために私利私欲に走り、良識に反して無理を通そうとする。
「昔創業した頃には、あんな人ではなかった。もっと堅実な人だったのに」と、周囲の人から陰でささやかれるようになる。
成功すればするだけ、大衆の支持を失い、没落の道を突き進んでしまう。まさに、「足るを知る」ことを知らない人たちである。
中小・中堅企業の経営者には社会を自分のものと考えている人が案外多い。相当な大企業の経営者のなかにもおられるかもしれない。
しかし、この会社は自分のものだから、自分のためにあるのだ、自分が儲かればよいのだと思っていると、エゴが出る。自分の都合(つごう)だけで判断するようになる。そのような姿勢では、経営判断を誤(あやま)り、せっかく一生懸命育て上げた会社を結局はいつか潰してしまうことになる。
企業は小さな森である。経営者は企業の森に住んでいる従業員をどう生かしていくのか、それを考えなければならない。
小さな森の住人である従業員が栄えなければ、自らも栄えることはできない。従業員を含め、共に働くすべての人たちを幸せにして、企業という小さな会社を立派にしていきたいという志(こころざし)がたいせつである。
社会は、さらに大きな森である。そこには、資本を提供してくれる株主があり、部品や資材を提供してくれる会社があり、製品を買ってくれる顧客がある。このうちいずれが欠けても、会社は成り立っていけない。
企業にとって社会は一種の循環系であり、かつ企業の存在基盤なのである。社会の森の循環系のなかで、
従業員、
株主、
消費者や取引先
といった社会の構成員に利潤を循環させ、
この循環系を維持することが
企業自らの存続の条件となる。
❇️企業は社会のなかで、他の企業と競争しつつ共生している。
経営者はこの循環の原理を知り、会社をその循環の一つとして働かせ、経済の循環のなかで共に生きる知恵を育てていかなければならない。
(稲盛和夫)