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あの大学時代の、馬鹿なオレ。その2 【 ヤブ 】

藪の中を

歩き進むことを、

「 藪を漕ぐ 」って言う。

 

藪の中、先に歩いている同期の部員の

キスリング(リュク)の横に突き出た凸の部分が、

藪を、引っ掛け、引っ張り、弓状になり、

それが、弾けて、

後ろを歩くオレの顔を攻撃的に直撃する。

疲労と寝不足で、

朦朧( もうろう )としたオレの頭では、

この野郎、ワザとやりやがって。

と、その同期に対し、被害妄想、怨念の塊となる。

 

前との距離を置けばいいのだが、

朦朧としたオレの頭では、

前が、見えない藪の中で、音は聴こえるのだが、

はぐれて、迷子になることの方に、

身の危険を感じる、を選択していた。

馬鹿だ。まさに、頭は、藪の中だ。

 


オレは、機会があれば、何らかのかたちで、

先を歩く同期の部員に、復讐を誓うのだが、

復讐をする機会がないまま、合宿は、終わってしまう。

オレの顔には傷が、残っているのだが、

終わってしまえば、ケ・セラ・セラ。

忘れてしまって、馬鹿げたことと、馬鹿は思う。

なにが、ケ・セラ・セラ、なのか、

馬鹿を、どんどん、こじらせて行く。

 

 

そして、

この道のりは、つづく、

 

 

初出 17/09/03 00:25 再掲載 一部改訂

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あの大学時代の、馬鹿なオレ。その1 【 つめえり 】

あの大学時代の頃、



オレは、学ランを着て、詰襟に、バッジを付けて、

黒の革靴を履いて、キャンパスを歩いていた。

 

キラキラ輝く、明るい笑顔の中で、不釣り合いだった。

体育会という組織に、所属した。

 

4年・神様、3年・貴族、2年・平民、1年・奴隷、

と、呼ばれる体育会の階級制のなか、

オレは、1年の奴隷から、2年の平民になった。

 

ひと階級、上がって、

人間扱いされる様になった時に、

オレは、退部した。


この部の流儀は、

キスリングという凸( でこ )型の、

藪の中を縦走して山を登るこの部には、

非常に、不合理なリュックサック「 ザック 」を

背負うのが、荷物を運ぶ基本の手段である。

 

雨が降り、夜露で、水を含むと、すべてのその水分が、

重みとして、加わり、

ただでさえ、重いのに、さらに、重みをかさねた。

旧軍隊式の、くすんだ、わさび色のテントに、

テントを支える芯となる、鉄のパイプ。

 

鉄のパイプって、

学生運動、華やかなりし時の、武器じゃないんだから、

時代錯誤だった。

 

すべてが、不合理だった。

 

学生だから、そういう不合理を、

危ない遊戯として楽しんでいたんだろう、と、

いまのオレは、思う。

 

毎年、テントや、ザック、食糧、の軽量化が、

2年の終わりに、

正式な部員、正部員と認められる

儀式の会議の議題に出るんだが、

オレたちも、改ることは、一切なかった。


伝統だそうだ。


永く続いた伝統を

自分たちの手で改めるのを、ひとは畏(おそ)れる。

オレたちも、同様に、畏れたのだ。

 

伝統を

守るのもいいだろう。

 

しかし、所属する部員が、年々、減少する中で、

この装備を、このやり方を、継続するには、

そろそろ、破綻の時期が、来ている様に、

皆んな同様に感じていたはずだけれどもだ。

 

社会に出る前に、学生が、

不合理、不条理、理不尽を楽しむのは、勝手だ。

社会に、出てからも、当然、それは、ある。

その課題を、予行練習するのも、いいんだろう。

 

オレは、そう、理解して、

永く続いた、この伝統を、壊すのが怖くて、守った。

 

組織としては、オレは、この伝統を守ったが、

個人としては守る気がしなかった。

 

だから、組織に伝統を残して、

オレは、組織から退部した。

 

この伝統は、過去に、過酷さゆえ部員を、

山で亡くしている。

そして、亡くなった先輩に対して、

頂上(ピーク)では、黙祷を捧げていた。

そして、これも伝統になっていた。

 

 

そして、

この道のりは、つづく、

 

 

初出 17/09/02 16:07 再掲載 一部改訂

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こちらが葛飾区亀有公園前派出所

真っ青の雲ひとつない

夏空の

灼熱の太陽のもと

 

老舗のお酒メーカーの営業で、

亀有駅前のバス停で、

お客さんのスーパーへと向かう為に、

バスの到着を待っていた。



商談用の商品を入れたキャリーバッグを

汗だくになりながら、ガラガラ転がし携えて。



バスが来て、目的のバス停で降りた。

 

突然の外気の暑さで朦朧となりながら、

我を取り戻し、

商談内容を復習(さらお)うとして、

資料と商品の事を気にした時、

手もとに、キャリーバッグがない事に気が付いた。

 

いつも店長がいる時間なので、

幸い、先方には、アポは取っていなかった。

 

慌てた、ぼくは、乗って来たバス会社に連絡をして、

バスの便名を伝え、バスの中を調べてもらうと同時に、

亀有駅前のバス停に忘れていないかを訊ねた。

 

が、しかし、

バス会社の窓口担当が応えるには、

乗車していたバスの運転手から

見当たらないと言う報告だし

バス停に出発を待つバスの運転手も、

バス停にないと言う。

 

記憶をたどるが、バス停まで転がした覚えがあるが、

なんせ、茹だるような暑さだ、曖昧である。

JR亀有駅の窓口にも、キャリーバッグの特徴を伝え、

届いていないか訊ねたが、期待は、はずれた。

 

金銭的には、大したものではないのだが、

商談セットを、また、一式、創り直すには、

ひと苦労ではある。

 

太陽の強い陽射しと、

この状況に眩暈(めまい)がした。

 

ここは、葛飾区亀有だ、

途方に暮れ、額から汗をたらしながら、

葛飾区亀有公園前派出所に、駆け込んだ。



落し物の調書をひと通り書き、

あとは、宜しくお願い致します、と、

まだ、止まらない汗をタオルで拭いながら、

派出所を出て、申請終了のゴングが鳴りやまぬうちに、

腰の曲がった八十歳近いお婆さんが、

日傘を片手に、涼しい顔で、

ぼくのキャリーバッグをゴロゴロ引いてきた。

奇跡である。

お婆さんは、この得体の知れない、

不審物のキャリーバッグが怖くなかったのか。

すべてこの暑さが、恐怖心すら取り除いたのか。

 

人生の歴史の重さを感じつつ、畏(おそ)れ入った。

 

お礼を言い、手前勝手ではあるが、

手持ちの商材用の商品を謝礼に渡そうとしたのだが、

 

お婆さんの、応えた言葉に痺(しび)れてしまった。

 

「いや、バス停に、誰のものか判らず

このバッグがあったから、持ってきただけだよ。

そんなものは、いらない、もうバスの時間だから」

と、曲がった腰で、すたすた、猛暑を忘れたように、

立ち去ってしまった。

 

当たり前のことを、当たり前にした。

そこには、邪推なんてはさむ余地はない。

 

大変、有り難く、嬉しい事ではありますが、

複雑な気持ちであります。

 

この複雑の気持ちは、

八十代のお婆さんの素朴な親切な気持ちと、

現在の社会の複雑な問題との接点のない

交差点だと思うのだが、

今回、お婆さんと複雑な問題はすれ違い、

いまさら、他所(よそ)に逃げることは出来ない。


ただ、こちらは、他所でなく、

亀有区亀有公園前である。

土地柄、このような話は、当然で、

「こち亀」も200巻のネタの宝庫にも

なったんでしょうから。

 


ご存知でしょうが、

亀有駅前に、派出所はありますが、

「葛飾区亀有公園前派出所」という名称では

ありません。

 

もちろん、

派出所内を探しても、

両さんも、中川くんも、麗子ちゃんも、

見当たりません。

 

奇跡的に、

お婆さんが、彼らを、連れてきてもくれません。


深くは、関わっていないけど、

葛飾区亀有、いい街だと、感じた。



この猛暑の夏が手伝ってくれたから、

だけじゃない。

 

眼を細め、目頭がちょっぴり熱くなったのも、

まぶしい太陽のせいじゃないと思う。

 

 

 

 

初出 17/12/25 20:03 再掲載 新版改訂

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彼女について 私の知ってる二、三の事柄 (6) fin

上司は、

蕎麦屋の勘定をすまし、

わたくしを連れて、

銀座のネオン街へ

足を運んだ。



上司は、ある店の前に止まり、

地下へと階段をくだる。

そのあとを、なにも、お互い声を発することなく、

これは、当たり前のことだ、と、

暗黙の了解事項として、オレは、

儀式のごとく、続いて、一段、一段、階段をおりた。

そして、その店のドアを開けて店の中に入った。

高級クラブである。

店のなかは、

髪を綺麗に和髪に結いあげて、

華やかな着物を着た女性たちが、

きらびやかなシャンデリアのもと、

革ばりの濃い茶色のソファーで、

いちげんさんお断りのなか、

いちげんさんのわたくしを、

接待をしてくれる。

場違いのわたくしは、

戸惑って、隣に座った着飾った着物の女性に、

病院のことが、頭に引っかかりながら、

愉快ではないが社交辞令の会釈をした。

なんで、わたくしは、ここに、いるのだろう。

程なくすると、

「この店のママです、いらっしゃいませ」と、

髪を一段と、綺麗に和髪に結い整えた

華やかな、それでいて、シックに落ち着いた着物姿の、

ママが、挨拶に現れた、



始め、よく判らなかった。

それは、当然、そう言って挨拶をしているんだから、

この店のママなんで、しょ、と、

いまいち、納得できない、会釈をしたん、だが。



ママの挨拶の、ハスキーな声で、

記憶が、当時の、そう、その当時の、

眉のちょっと太い、斉藤由貴似の、

その顔とつながった、

えっ、えっ、えっ、えっ、

ト、ト、トモちゃん!?

眼帯から、

6年、いや、8年、

桁が、違う、よ、

やっぱり、トモちゃんは。

眼帯の彼氏とは、

捨てたのか、捨てられたのか、

上手く、捨てられるように、話を持って行ったのか、

トモちゃんは、

そんな器用な子じゃなかったはずだけど、

教わったのか、

環境がトモちゃんを育てたのか、変えてしまったのか、

この長いあいだに、なにが、あったんだろう、

トモちゃん、

いろいろ、あったんだろう、な。



おたがい、なにもない、

キヨい関係で良かったね。


出世だね、

貴方が、わたくしのまわりでの、

一番の出世頭になるんだろうね。

でも、

いま、幸せなのかなぁ、

満足なのかぁ、

トモちゃんは。


あれから、

新たな、姉妹店でも、出店して、

忙しくしてるのかな、トモちゃんは。

もう、トモちゃんって呼ぶのは、失礼だよね。

トモコさん。

ずいぶん、酔っ払っちまって、

お店の、場所も、名前も、憶えていない、よ。

その時いた会社とも、

トモコさんのお店を訪ねるために、

お店の名前と場所を、聞こうとしても、

連絡をとれる間柄じゃないし、

ふたたび、

トモコさんのお店の敷居をまたぐ

気持ちもないですしね。

 

その当時の話をしても、

おたがい、つまらないものね。



と、いっても

そもそも、トモコさんのお店は、

わたくしには、敷居が、高すぎるしね。



サヨナラ、元気でね、

トモちやん。



やっぱり、いまの トモコさんの ことは、

よく、わからないから。


お達者で。

 

トモちゃんの伝説は、

まだ、まだ、つづいていくんでしょう。



 

fin 

 

 

初出 17/08/16 05:18 再掲載 一部改訂

 

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彼女について 私の知ってる二、三の事柄 (5)

母が癌で入院しており

病院で、

付き添っていました。

 



その時、

わたくしの携帯に、着信が。

着信先を見ると、会社の上司だ。



今晩、銀座で、どうしても、会えないだろうか、と。



わたくしの頭をよぎったのは、

突然の、お客さんとの商談?、それとも、接待?

そんな、あたりさわりのない、ことを考えて、

待合せの銀座の蕎麦屋に向かった。



もう、上司は、テーブルに座っており、

まずは、飲もうと、ビールを飲んで、

日本酒を飲んで、締めに、蕎麦をたぐった。


なぜ?、なぜ?、なぜに?

わたくしは、ここで、蕎麦をたぐっているんだ。

わたくしを呼んだ、目的は、なんだ、

なんなんだ、よ。



なんで、呼び出されたのか、とたずねても、

上司は、まあ、まあ、まあ、と、

それ以外、なにも、言わない。


母のことが、気にかかる。



大瓶のビールと日本酒、2合、

二人で、飲んだだけだから、

まだ、まだ、全然、正気です。



これからです、

確信にいたる話は、………、、

 

 

トモちゃんの伝説は、

まだ、まだ、つづきます、

 

 

 

初出 17/08/14 05:09 再掲載 一部改訂

 

 

 

 

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