無理しないでボチボチ

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風 邪 う ど ん

2015年09月11日 | 落語・民話

風 邪 う ど ん

【主な登場人物】

 うどん屋  客  遊び人A・B  番頭  丁稚  酔っぱらい

【事の成り行き】
 わたしの住んでる私鉄沿線の駅前に、創業三十有余年になる老舗の屋台店があります。中学生の頃、試験勉強と称して実は仁鶴さんの深夜放送聞きながら夜更かしし、夜食代わりに食べに行ったのが最初でした。

 それからも、高校大学と一夜漬けにかこつけては食べに通い、今でも時たま出かけて懐かしい味を楽しんでいます。
お品書きはうどん、ラーメン、関東煮におにぎり。
テーブルの真ん中のざるに盛られたゆで卵にはいつも手が伸びてしまいます。

 何がどぉと言ぅ味や無いんですけど、屋台のオッチャンがいてて、タクシーの運転手さんがいてて、近くの大学の学生さんがいてて……、裸電球のゆらゆらがたまらんのですねぇ。

             * * * * *

 真冬、真夜中、北風がピュ~~ッ……、凍て入るよぉな寒ぶぅい晩に遠くのほぉからうどん屋さんの声が聞こえてまいりますといぅと、寂しぃいよぉな、悲しぃいよぉな、そしてどっか暖ったかぁ~いよぉな、なんとも言えん気持ちがいたしましたそぉで、

 ♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~

●あッ寒ぶぅ~、寒ぶいなぁ。冷えると思てたがこんな冷(ちめ)となると思てなかったなぁ……、ぎょ~さんの星さん出たはるなぁ……、
♪うどぉ~~んえぇ~、そぉ~やぁう~~~♪ 
皆、お布団の中でヌクヌク寝たはんねんやろなぁ。

寒い晩はうどんがよぉ売れるちゅうねんけど、こない寒いと肝心の人間が通らんよってなぁ、売れるも売れんもないわ。

★子ども早いことしなはれや。早いことせな、うどん屋さん行ってしまうで。

早いことしなはれや。

●ありがたいこっちゃなぁ「子ども早いことしなはれや、早いことせな、うどん屋行ってしまうで」番頭さんか誰かやろなぁ、丁稚さんにあないして、うどんの注文かいな……。

出てきた出てきた丁稚さん。ありがたいこっちゃ注文、注文……、何をしてんねんな? 溝またげてオシッコして。

●子どもやなぁ。用言ぃ付けられてんけども、言ぃ付けられた用より自分の用先に済ましとこちゅうことか、オシッコしてからこっち注文か……、一人前に振ってるがな、うどんの注文……、ガラガラピシャ。かなんなぁ、おのれの用が済んだらスッとしたもんやさかい、肝心の用忘れて入ってしもたがな。

●難儀やなぁ、これぐらいのお店やったら、嘘でも五杯や六杯は買ぉてくれはんねん。

こっちから聞きに行こ……。

今晩わ、今晩わ

★どなたじゃ?

●へ、うどん屋でございま

★うどん屋が、どぉしたな?

●いま聞ぃとりましたら、ご番頭はんでございまっしゃろか「子ども早いことしなはれや、早いことせな、うどん屋行ってしまうで」言ぅてくれはりまして、待っとりましたら子どもさん出てきはったんでおますけど、自分の用足しはって注文忘れて帰りはりましたんで……、おうどんは何杯さしてもろたらよろしぃんですかいなぁ?

★あぁ、あれか。あらもぉえぇのじゃ

●おうどんのほぉは?

★いやいや、そやない。うちの子どもはな、夜遅そなったら恐ぉて裏のお手水へよぉ行きませんのじゃ。

いつもおうどん屋さんや何かが通るとな、その明かりを借りてな、オシッコをしますのじゃ。

今晩もどぉやら無事に済んだよぉじゃでな、おっきありがとぉ。

●子どものオシッコに灯ぃ貸したんかいな。

おうどんどぉです?

★うちはうどん、皆嫌いじゃ

●さよか。糞ったれ、しゃ~ないなぁ

★いやいや糞やない、ションベンじゃ

●どぉも場所が悪いわい。

ちょっと場所変えよか。

♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~

●さっぱワヤやがな……、お、どこで呑んできはったんか知らんけど、えらい酔ぉたはるで。

あっちぃフラフラ、こっちぃフラフラ、あっち寄ったり、こっち寄ったり、自分入れて九人歩きちゅうねや……。

お~ッと危ない大丈夫かいな、だいぶに酔ぉたはるで。

▲♪ちゃ、ちゃ~ん、ちゃんちゃん♪ 

雨ぇのぉ~、降るぅ~日ぃわぁ~♪

天気ぃ~がぁ~、悪い♪ 

兄貴ゃ~、わしよぉ~りぃ~、年ぃ~がぁ~、上♪

ちゃ、ちゃ~んの、ちゃんちゃん♪

●けったいな唄うとて……、あんまり相手ならんほぉが……

★う、うどん屋さん

●あ、見つかってもた……。大将、えらいご機嫌でんなぁ

★な、何ですか?

●えらいえぇご機嫌でんなぁ

★何ですか? えらいえぇご機嫌ですねぇ?
あぁ~た何ですか、わたしがえぇ機嫌で酔っているか、悪い機嫌で酔っているか、分かっているのれすか?

●そぉいぅわけやおまへんけど、えぇご機嫌でんがな

★えぇご機嫌ちゅうわけでもないけれども、ちょっとね……。

ちょっとね、くれますか?

●へ、おうどんですか?

★いえ、湯ぅです

●お湯? どぉなさるんで?

★いま、そこ歩いてましたらね、溝がありまして、そこへボチャとはまってしもて、足が
泥ららけなんれすねぇ。

ちょっとお湯をば掛けてくれますか?

●汚れた足洗うために沸かしてる湯やないけれど、うどん屋が湯ぅ無いてなこと言われ……、いえいえ、何でもおません、こっちのこってす。

いま掛けさしてもらいますんで、ちょっと待っとぉくれやっしゃ……。

ちょっと熱いかも分かりまへんけど……、熱つおました? えらい顔してはる。

すぐ慣れはるやろ思います。

●もぉ一杯掛けますんで……、へ、こんなもんで

★おっき、ありがと、済まんこちゃねぇ。ついでに、拭いてくれますか?

●こぉいぅ人があとで食べてくれはんねん……、いえいえ、こっちのこってす。

拭かしてもらいます……。

へ、こんなもんでどぉだす。

★うどん屋さん、すびばせんねぇ。お蔭で綺麗になりました。手拭持ってな
いこともないんですけろね、あぁ~たので拭いてくれたのれすか? おっき
ありがとぉ……。一杯くれますか?

●おうどんですか?

★水です

●なかなかうどんにならんなぁ……、おひやですか?

★いぃえ、水です

●せやから、おひやでっしゃろ

★み、ず、で、すぅ

●片意地な人やなぁ……、水のこと「おひや」言ぅんですけど

★何ですか?

水のこと「おひや」ちゅうのですか? 

あそぉ? そぉ? 水のことおひや?

面白いこと聞きましたねぇ。

★ほな、ちょっと尋んねますけど「向こぉ水害でえらい水つきやで」言ぃますけど

「向こぉ水害でえらいおひやつきやで」てなこと言ぅのでしょ~か?

「淀の川瀬の水車」なんて唄ございますけれど「淀の川瀬のおひや車」あるんでしょ~か?

★水のこと「おひや」と言わんこともないこともないれすよ。けれどもそれは時と場合によるのれす。おひやといぅのは一流の料亭上がって、床柱を背にし山海の珍味を並べ、上等の酒を十分にいただいたところで「ちょっと喉が乾きましたねぇ、姐さん」と呼びますと、白魚を五本並べたよぉな手を前につかえて「旦さん、何かご用で?」「水を持って来てくれたまえ」「おひやですか?」

★これを、おひやちゅうねん。よぉ覚えときなさい。ゴンボ並べた指ブラブラさして何がおひやじゃ、馬鹿。おっきありがとぉ。す、すびばせんねぇ。

(クゥクゥ、クゥクゥクゥクゥ、クゥクゥ……)美味い。

これ、何ぼですか?

え? ただですか? たらなら、もぉ一杯くらさい。

★酔ぉた時に飲む水はうまいですねぇ……。

す、すびばせんねぇ(クゥクゥ、クゥクゥクゥクゥ、クゥクゥ……)美味い。え? 

もぉ結構です。

そない水ばっかり飲んでられないです。

うどん屋さん、寒い中お仕事大変ですねぇ。

しかし、奥さんやお子達のために頑張ってくださいねぇ。

それではわたしは失礼します。

ごきげんよぉ、またお会いしましょ、さよぉなら。

●……、うどん食わずじまいやがな。

嫌んなってきたなぁ、今日はろくな晩やないなぁ……。

イョットショ ♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~

             * * * * *

■ちょっと置け。

止めてしまえ言ぅてへんがな、いっぺん札を置けっちゅうねん。

お前ら腹減ってへんか? 

宵からやってんねんやろ。

いま表、うどん屋流しとぉる、うどん注文してこい。

何人おる? わし? わしは要らん宵に油もん食ぅたんじゃ。

わし除けて十人か? 

芳っ!

▲へいっ

■うどん十杯注文してこい。

言ぅとくで、大きな声出したらあかんぞ。

当たり前やないか大きな声で「うどん十杯」「どこですか?」

「あの路地の奥です」

「……? 明かりが点いたぁるなぁ、こんな時間まで十人の人間が寄って何しとんねん?

ははぁ~ッ、こんなことしとんねんな」痛とぉも無い腹探られても……

■ホンマはしてるんやけれどもや、思われるんも片腹痛いわい。

小さな声でそっと注文してこい。分かったなぁ

▲へいっ。

♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~

▲・・・・

●気色悪ぅ~、何やいまクシャクシャちゅうたで。竹やんが言ぅてた狸てこれか……、

嫌やで「相撲とろ」言ぃよんねん。わい嫌やがな、狸と相撲とって、ひょっと負けたら格好つかんがな ♪うどぉ~~んえぇ~

▲シ~~ッ! 大きな声出すな。うどん十杯持って来てんか、この路地の奥や。

明かり点いてるやろ、うどん十杯。

大きな声出したらあかんで、分かったぁるな

●び、ビックリした、あ~、ビックリした。

何じゃいなうどんの注文かいな。

わしゃまた、狸が出てきた思てビックリしたがな。

●狸が出てきたら、キツネこしらえたろ思てんけど……、

なぁ、昔からえぇことが言ぅたぁるなぁ「えぇ後は悪い、悪い後はえぇ」

今日は宵からろくなお客さんがないと思てたけど、

うどんがいっぺんに十杯も売れるやなんて、

ありがたいこっちゃなぁ。

●何や知らんけど、大きな声出したらいかんちゅうてなはったなぁ。

気ぃ付けて持って行かないかん……

             * * * * *

■おぉ、おぉ。いっぺん札を置けっちゅうねん、お前らも好っきゃなぁ。

宵からやってんねやないか、止めちゅうてへんがな一服せぇちゅうねん。

喧しぃ言ぅな、さっきから戸ぉの外誰か居てるよぉな気がすんねんけど、

お前らがヤァヤァ言ぅから分かれへんやないか。

芳っ、戸ぉ開けてみぃ。

■見てみぃ、うどん屋やないか……。どぉした? 

えぇ? 注文が出来て持って来てんけれども、

この男に大きな声出したらいかん言われてたんで、戸ぉの外から聞こえもせん小さい声で……

■そぉかいな、すまなんだ。

脅かしてやりないな、早いこと食ぅたり。

おいおい、どっちが大きぃも小さいもないがなどれも一緒やがな……、

美味いか?
うまい? 

うどん屋、皆うまい言ぅとる……。

なんぼ早よ食え言ぅてもボロボロ落とさいでもえぇやないか、落ち着いて食わんかい。

■食ぅたら、鉢揃えんかい。

揃えたら岡持ちの中入れたれ……。

うどん屋、表は寒いやろなぁ。わいらこんなことして遊んでるねん。

お前の目ぇから見たら腹の立つよぉなことやろけど、

若いもんのこっちゃしゃ~ないがな堪忍したって……。

代は何ぼや?

■釣は要らん、取っといてくれ。

こっち回ってくるんは? 

初めて? 

明日から毎晩回っといで、

大抵十人ぐらいの人間寄ってこんなことしてんねん。

表冷たいやろけど、精ぇ出しや

●《おっき、ありがとさん》

             * * * * *

★ありがたいこっちゃなぁ「明日から毎晩来いよ、十杯ぐらいのうどん毎日買ぉたる」

えぇお得意さんが出来た。

われわれ小商人(こあきゅ~ど)は可愛がってもらわないかんわい。

♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~ 

大通りへ出ると風がきついなぁ…… 

♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~

★《うどん屋は~ん、うどん屋ぁ~は~ん》●……? 今晩こんなん流行ったぁるんかいな。

ありがたいなぁ、また十杯売れるがな。

そぉか、ここらはこんなことして遊ぶ人ばっかり寄ったはるんやな。

今度は向こぉから言われるまでも無い、心得てるわい。

●《うどんですかぁ~?》

★《そや》

●《十杯ですか?》

★《いや、一杯でえぇ》

●《あ、さよか》おかしぃなぁ……、そぉか、味見や。

まてまて、お前ら食ぅてもえぇけど初めてのうどん屋、どんな味か分からんやろ。

ひょっと不味かったらどぉすんねん、わしがまず一杯食ぅてみて、美味かったらお前らもみな食え……。

うまいこといったら十一杯売れるがな。

●《お待ちどぉさんでした》

★《できた? おっきあ、ありがと。

うまそやなぁ……、

フッ、フゥ、ズズゥ~~……、

えぇダシ使こてるなぁ美味い。

ズズゥ~、カマボコも厚ぅ切ってるなぁ、コリコリして美味い。

ズズゥ~、ズズゥ~、ズズゥ~、ズズゥ~……。

美味かった。

おっきごっつぉさん》

●《お粗末さまでした》

★《何ぼや……? そぉか渡しとこ》

●《おっき、ありがとさんで》

★《うどん屋、また明日もおいでや》

●《おっき、ありがとさん》

★《うどん屋》

●《へぇ?》


【さげ】

★《お前も、風邪ひぃてんのんか?》


【プロパティ】
 キツネ=「きつね(うどん)」はうどんに甘辛く煮た薄揚げを

       トッピングしたもの「たぬき(そば)」はうどんの代わりに蕎麦を使って、

       同じく揚 げをトッピングしたもの。

       うどんと蕎麦を半々に使ったものを「パンダ」とはもちろん言わない。

 岡持ち=手と蓋がついた平たい桶。料理などを運ぶのに用いる。出前桶。
       塗りでできた上等なものもあるが、多くは白木。決してアルミででき
       た岡持ちはイメージしないでください、あれは時代が違う。

 終盤《 》付きのせりふは喉が潰れたときの声で。
 音源:1980/10/26 枝雀寄席(ABC)

 

 

 

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桂文我 覗 き 医 者

2015年09月08日 | 落語・民話

覗 き 医 者

 

【主な登場人物】

 親旦那  番頭  丁稚  嬢(いと)はん  医者のような者ほか

【事の成り行き】
            
 え~、よぉこそのお運びでございます。本日のところはこの、いろいろとご趣向がおありやそぉで「当節世間で珍しぃ噺をやったらどぉや」といぅことやそぉで、まぁとりあえずお顔を見ていただいて、ボチボチおしゃべりをさしていただこかいな、と思とりますねやが。

 この頃はこの、いろいろ考えてみますと世の中、何見てもあっち向いてもこっち向いても味気のなりました。
といぅのがまぁ、こないだ縁日、夜店へ行きましたんやけども、これもまぁ我々昔、子どもの時分のこと思うと情緒がなくなりましたなぁ。

 もぉどこ歩いても食べもん屋さんばっかりですわ。
右見てもタコ焼き屋、左見てもタコ焼き屋、ほんでまたこっち見ると飴屋、またこっち首振ると飴屋さん、洋食屋さん、お好み焼き屋さん。
もぉ食べるもんばっかりですけども、まぁ昔はせやおまへんでしたなぁ。

 といぅのがもぉ、食べもん屋さんがあるかと思うと、またちょっとした見せもん屋さんがあったりしましてな、ものを見たりして楽しむ。
こっちにこの古本屋さんが店並べてるかと思うと、またこっちでは口上付けて物を売っ
てる。そぉいぅのが昔はぎょ~さんありましたがなぁ。

 で、またこっちで三味線弾ぃて歌うとたはるかと思うと、こっちでバヨリン弾ぃて演歌の本を売って歩くてな、そぉいぅのがちょいちょいありましたがなぁ。

 まぁ最近は見とぉても見られまへんけども、ちょっと前、まだ今からそぉでんなぁ、年月にすりゃ何年ぐらいになりまっしゃろか? 
ん~ん、まだ十年ぐらい前にはちょっとした見せもんがおましたなぁ。

 ちょっとした広っぱやとかね、空き地、そぉいぅとこ見付けて、はじめはこの、何を言ぅてるや分からん。
そのうちにぐるりにぎ~っしり黒山のよぉに人集めて、で、こぉただものをしゃべって聞かすだけでも難しぃのにね、知らん間に財布の紐ほどいて、その縁日見物してる人に物を買わそ。こぉいぅ商売も昔はありまして、これも難しぃ商売やと思いますがなぁ。

 我々のほぉの商売は楽ですわ、もぉしゃべりっ切りでっさかいね。
別にこれ、しゃべってあと何ぞ出して「買ぉてくれ」いぅ商売やおまへんさかいに。
けどまぁ、そぉいぅ人はもぉ難しぃ、しゃべるだけしゃべっといて、あとでこの物を、知らん間に買わそちゅうんでっさかい、こら難しぃやろと思いますけども。

 まぁその代わり、あぁいぅ人はこの、手ぇにね、蛇かなんかそぉいぅ道具、長もんをきっと持ってますけどね。

【香具師(やし)・的屋(てきや)『蛇の薬売り』】

●えぇか、おい、よぉ見ぃよ。ボ~ッとしてたらあかんで、えぇか。
わしが今ここへぶら下げて持って出たこれ、何や分かるか……? 蛇や。
ただの蛇と違うで、これがホンマのハブっちゅう毒蛇や。

●えぇか、こらなぁ、今沖縄ちゅうとこは我が国になったけども、一時ちょっと向こぉへ行くのが難しかった時期があるなぁ、その時期にはこれ日本にはおらなんだんや、な。
これなぁ、バッと噛まれてみぃ、十歩と歩かんうちに死ぬっちゅう毒蛇やで。

●えぇか、俺がなんでもないよぉに持ってるさかい、おまはんらなんでもないよぉに思うやろけど、これがホンマの毒蛇、ハブっちゅうやっちゃ。
ドタマ見てみぃ、三角なってるやろ、な、これが毒があるっちゅう証拠や、えぇか。

●しかし今日は、どれだけの客がここへ集まってるか知らんけど、おまはんら皆えぇ日に来合わしたぞ。
今日はこの毒蛇にわしが自ら噛ましてみせるっちゅうねん。
えぇか、一年、三百六十五日こんなこと俺がしてると思たらあかんで。
めったにおら、こんなことせぇへんで。

●えぇか、バタバタすな、初もん食たら七十五日長生きするっちゅうけど、まぁこんなん見て帰れ。
こぉいぅ珍しぃことはまぁ見て帰ったほぉがえぇ、七十五日どころやないなぁ、十年は長生きすること請け合ぉたる。

●えぇか、この……、あのなぁ「お前らの蛇は毒が無いやろ」てなこと言ぅやつあったら、いっぺん犬でも猫でも何でもえぇわ、そこらへん這ぉとるやつ連れて来い。
目の前で噛まして見せたるわ、十歩と歩かんうちに死ななんだらお目にかからんちゅうやっちゃ。

●えぇか、何を……? その、めったに噛まさんことを、今日はお前なんで噛ますねん?
世話やきやなぁ、ホンマに。
今日はな、ちょっと俺の心嬉しぃ日ぃや、せやさかいこぉいぅことをして見せたんねん。

●何を……? 何がお前、そんな心嬉しぃ? 
世話やきが多いなぁホンマに、言ぅたろか、今日の俺の心嬉しぃのはな、うちのお母んの間男の十三回忌に当たんねん、えぇか。

●よぉ見とれよ、めったにこんなことせぇへんで……、あッ、その前に言ぅとくわ。
えぇか「お前らの蛇はホンマは毒が抜いたぁるさかい、お前大口叩いて安心してその蛇に噛ませるねやろ」憎たらしぃこと言ぅやつあったらいかんさかいな、いっぺん毒が有るか無いか、どっから毒が出て来るか、よぉ見せたるわ。

●えぇか、よぉ見ぃよ……、いよッと、それッ、見えるかおい? 
上にこぉ牙が二本出とるなぁ、この根元から毒が出んねん。
えぇか、分かったなぁ、よぉ見ぃよ。後ろ、見えなんだらこっち回れこっち、こっちのほぉが空いとる。

●おい、ちょっとそこらこっち回ったれこっち。
お互いに見たいのは一緒や、な、前のほぉ座ったり前のほぉ、後ろ見えへんねん、前座ったれ。
そぉそぉそぉ、皆まんべんなしに見たいねん。

●えぇか、おいおいおい、そこの子ども、チョロチョロすな、そこへじっと座っとれじっと……、座わんのはえぇわ、その前ちょっと閉めとけお前、可愛らしぃのが覗いてるわ、キビショみたいなん、ホンマにもぉ。

●えぇか、よぉ見てくれよ、めったに俺かってこんなことせぇへんねんで。
ホンマにさっきも言ぅたけども、初もん食たら七十五日長生きするっちゅうけども、ホンマにおまはんらえぇ日に来合わしたで、めったにおら、こんなことせぇへんねんでホンマ。

●命がけやで、こっち。
おまはんら何でもないよぉに見とるやろけど……、えぇか、よぉ見ぃよ……、こらッ子ども、チョロチョロすな。あのな、おっさんこれからバ~ッと噛ますねん、血がビャ~ッと出るわ、おとなしぃ見とれ、えぇか。

●ほで、後ろ、今も言ぅたよぉにこっち回ったれこっち、こっちが空いとんねん。
お前らかたまるな、こっち寄れこっち……、そぉじゃ、えぇか、よぉ見ぃよ……、めったにこんなことせんぞ。

●えぇか……、何? どっち噛ますかハッキリせぇ? 何かしとんねん、よ
し、こぉなったら、何ぞ仕掛けがあるよぉに思たらいかんさかいな、おまは
んらの注文どぉりのほぉかぶらしたろ。

●右がえぇのんかい、左がえぇのんかい? 何を……? どっちでもかめへん、早よかぶらせ? 人のことや思て薄情な、何をぬかしとんねん。
えぇか、さぁ……、今までゴチャゴチャ言ぅてたけど、今度はホンイキやで、えぇか。

●ガッ……、と赤い血が出たら、お目通りご喝采っちゅうやっちゃ。
えぇか、見てみぃ「今から結構な血が吸える」生き生きした目ぇしとるやろ、えぇか、よぉ見ぃよ……

●んッ……、と、そこのお婆ん、そんな泣きそぉな顔するなおい「可哀想にあの兄ぃ、蛇に噛まれて死んでしまいよる」てな、そんな哀れな顔してくれな。
もぉ気ぃ抜けて力がシュ~ッと抜けるわ。
なぁお婆ん、心配してくれんでもえぇわい。

●いやいや、わいかて一つしかない命やがな、これに噛まれて死ぬと分かっててみぃ、めったに噛ませへんがな。
な、わしがこの毒蛇に安心して噛ませるっちゅうのはやな、ここにこぉいぅ薬があるさかいや。
この薬はなぁ……

 ちゅうて、蛇下へ置きよりまんねん。さぁ「もぉ噛ますか、もぉ噛ますか」思て見てても、な~かなか噛ましまへんな。
で、終いにこの、朝から晩まで立っててもね、蛇噛まさんと薬買わされてしもたりしまっさかいね。

 ほらまぁ結構なお商売があったもんで、またこの、今ぐるりにぎっしり黒山のよぉに人が集まってる。
今ここでちょっと気ぃ抜いたり、おかしなこと言ぅたら、せっかく黒山のよぉに集まった客が逃げてしまう、散ってしまう。
そぉいぅ時には、ちゃ~んとこの足止めの法といぃまして、客の足をピタッ
と釘付けにする魔法みたいな方法がおまして。

●お~いッ皆、言ぅとくでおい、こんだけ人が集まっとんねん、銘々で懐中もん気ぃ付けてや、えぇか。こん中にスリが三人ほどおんねん、いやいや、おら長年こぉいぅ仕事して商売してんねんさかいな、わいがグ~ッと睨んだ目には狂いない。

●あいつと、あいつと、あいつがそぉやちゅうことは、おら分かってるけどやで、今言ぅたってもえぇ、言ぅたってもえぇけどな、あとのアタンが恐ろしぃ、仕返しが。せやから俺は黙って辛抱して言わんと見てるけど、あいつとあいつやっちゅうことは、ちゃ~んと分かったぁんねん。

●えぇか、あとで盗られてから俺んとこへ、どぉやこぉや言ぅて来たかて、おらぁ責任よぉ持たんで。
えぇな、こん中にスリが三人おる……。
こぉ言ぅて逃げたやつがそれや。

 ほな、みんな動かれしまへんわなぁ「もぉボチボチあっちぃ行こかいなぁ」思てても、今動いたらスリや言われるさかいね。
ほとぼりの冷めるまで、用もないのにボ~ッと立ってんならん。

 昔はこぉいぅ面白い見世物があっちこっちにこぉ、縁日、夜店なんかに店を並べてましてな、これをまた焼き芋をかぶったりなんかしながら見物してたもんで。
ほんでまた、こっちのほぉへ行きますと、あの「覗きからくり」てな、そぉいぅもんがありましたなぁ。

 小ぃ~ちゃいこの、レンズをはめた台がありましてな、でこの、幾つかレンズが並んでまして、銘々その中をこぉ覗いて見ると、貼り絵をしたね、いろんなこの風景描写が描いてありまして。ほんでそれを覗いてると、上のほぉから歌を振りかけてくれましてな。

 「♪あぁ~えッ、三府の一の東京でぇ~、波に漂うますらおのぉ~、儚き恋にさ迷ぉてぇ~、父は陸軍中将で、片岡子爵の長女にてぇ~、その名、片岡浪子嬢ぉ~ッ、♪ほいぃ~ッ」(コット~ン)ちゅうてね。

 いろいろとこの、次から次から風景を変えて見せる。

そのあいだに、今のよぉな歌をこぉ頭の上から振りかけてもらう。

見てて「あぁえぇなぁ、あぁ面白いなぁ、おぉ可哀想に」そぉいぅことを言ぃながら皆、見物をしてたも
んで。

 今やりました「覗きからくり」といぅのは、これはいわゆる明治の終わりぐらいから昭和の初めぐらいに流行った「覗きからくり」やそぉですけども、落語のほぉにはまだこれのもぉ一つ前の、もぉひと時代前「古い覗きからくり」ちゅうのが残ってまして、そらどんなんかといぃますと。

 「♪ほぉ~や、ただいまお目にかけますからくりは、♪ほぉ~いッ、桂川
は連理の柵(しがらみ)とはしつらえまして、♪ほぉ~や、長右衛門は遠州浜
松古掛け集めの戻り道、お半は春めく道の伊勢参り、出会うところは石部の
出羽屋、奥の座敷では、恋のいろはを書き並べ、先へ回れば京都ぉじゃ~い、
京都ぉじゃ~い♪」

 「♪ほぉ~ぃや、これよりあっさり気を変えて、芸州は安芸の宮島さん、♪よいよ~い、宮島さんは廊下の長さが百八間、裏は七(なな)浦、七えびす、どんどこ舟やら遊山舟、黄金(こがね)の灯篭数知れず、夜(よぉ)に入りますれば、火を上げます~、夜に入りますれば、火を上げます~♪」

 てなこと言ぅて、でこの安芸の宮島さんの灯篭をズ~ッとしつらえてある
その遠景がありまして、で、その灯篭に一斉に火をとぼして、安芸の宮島さ
んの灯篭の夜景を見物に見せたもんやそぉで。

 でまた、見物のほぉはそれを覗いてると、今までの絵ぇがいっぺんにガラッと変わって一斉に灯篭に火が灯る「おッ、綺麗ぇなぁ」その「綺麗ぇなぁ」といぅ見てる人の声に誘われて、またそれを「そないに綺麗のやったら俺もいっぺん覗こか」

 これがこのからくり屋の計略でしてな「夜に入りますれば、火を上げます」それで一斉に火をとぼすといぅのがからくり屋の計略でして、まだこぉいぅ「覗きからくり」があった、古い時分のお噺ですけども。

             * * * * *

 ここにございましたのが、船場のさるご大家。

で、ここのお嬢さんがお年頃におなりになったんでボチボチよそへ縁付けないかん。

縁談が決まったところぉで「ま、よそへ縁付いたからにはそぉそぉ嫁の身で勝手なことができんやろ。今のあいだにそぉや、処々方々見物さしておいてやろぉ」

 いわゆる親心ですなぁ。まぁそのお嬢さんを連れて、ほでからまぁ二人だけでは心もとないといぅので、ちょっと気の利ぃた番頭を一人、それから小者使いに丁稚を一人、計四人の人間でブラ~ブラ方々を見物して回りましてな。

 で、とある田舎へ来て宿屋へ泊まったんですが、昔からよぉ言ぃますなぁ「水が変わると体の調子が変わる」「水変わりには気を付けないかん」てなことを言ぃますけども、そのお嬢さん水が変わったんかどぉしたんか、その宿屋へ泊まった晩に俄かの腹(はら)痛たで、ま、いわゆる腹痛(ふくつぅ)ですなぁ、えろぉ苦しみだした。

 そこでその、旦那がえらい気にして。

■番頭どん、番頭どん

◆へッ

■いや「へッ」やないがな、あのな、ほれ、うちの嬢(いと)があのとぉりえろぉ苦しんでござる。

何じゃ分からん。

おかしなことになったらどもならんでな、すまんがちょっと医者を手配してくれんか、医者を。

◆ホンに、嬢はんえらいお苦しみのよぉでやんなぁ、こらいきまへんなぁ、へぇ、ほんならあの帳場へちょっと行て医者の手配をしてまいりますで、しばらくお待ちを

■早よぉ行とくれ

◆へッ。

             * * * * *

◆お帳場の

▼へぇへぇ、何でございます?

◆いやあのな、お嬢(じょ~)さんが俄かの腹痛たじゃ、えらいすまんがちょっと医者を呼んできてくれんか?

▼腹痛た? はぁ、こらえらいことになりましたなぁ。

◆えらいことやから、医者を呼んできてくれっちゅんじゃ

▼さぁ、それでえらいことになった

「医者を呼んできてくれ」っちゅうのに「えらいことになった」ちゅのは?

▼わけを言わな分かりまへんがなぁ、ご承知のとぉりこのへん割と草深いとこでなぁ、医者といぅのはおりまへんのじゃ

◆こぉら難儀ななぁ、あのとぉりほれ、ここまで唸り声が聞こえてるじゃろ。

よっぽどお苦しみじゃ、な、何とかならんのか?

▼さぁ、さよぉおっしゃられましてもこれ、何とかするにもせんにもその、医者が……、あッ、医者はおりませんけどな「医者の、よぉな者」ならこのへんにおりますがなぁ

◆妙なこと言ぅなぁ、何やその「医者の、よぉな者」ちゅな?

▼へぇ、こらわけをお話せな分かりまへんねけどもな、実はこの村のもんでしてな、若い時分にな「大阪行て一旗上げる」ちゅて、ビャ~ッと飛び出して、でまぁ、覗きからくりをやったり何じゃかんじゃしてな、ほでちょっと医者の書生に住み込んだこともあるちゅうの聞ぃて。

ほんでまぁちょっとした腹痛た、できもの、そんなんならな、村重宝して使ことりますので。

▼その、医者ではおまへんねけど、医者のよぉな者ならおりまんねやが、それでもよかったら

◆医者のよぉな者でも何でもえぇ、それで嬢はんのお腹痛たが治るんなら、何でもえぇ、ちょっとも早よぉそれ呼んできとくれ。

 「へッ、少々お待ちを……」それから手配をいたしまして、しばらくするちゅうと、その医者の書生に住み込んでた、元覗きからくりをやってたといぅ得体の知れんよぉなお医者はんが。

 それでもやっぱりこの、病家を見舞うときは医者の格好をせないかんといぅのでな、頭をお医者さんのよぉなクワイ頭に結(い)ぃましてな、で、手に薬(くすり)箱と言ぃますか、薬(やく)箱と言ぃますか、小さな引き出しの付いた箱を提げまして、袖をこんなとこへちょっと手を入れてな……

★はいはい、はいはいはいはい、あのぉ~、ご病人は?

◆あぁ先生、お越しで

★あぁあぁ、ご病人は?

◆あの、奥におりますんで

★はぁはぁさよぉか、で、どんな模様じゃ? ん? 唸ってござる? あぁ大丈夫だいじょうぶ、いやいやわしが来たからには、少々の病なら請合う。あぁ大丈夫じゃ。

★あのな、それからこれは固く申しておきますがな、よろしぃかな、わたしがご病人の部屋へ入ると、あとはどなたも入ってはいけませんぞ。よろしぃか、わたしとその患者さんと二人っきりにしといてもらわんと、思うよぉな治療がでけませんでな。

★よろしぃな、わたしが入ったあとは誰も来たらいかん、二人きりにしといてくだされや、はい、ごめん……

 ピシャッと、襖を閉めてしもた。

■番頭どん

◆へッ

■「へッ」やないがな、あの得体の知れんわけの分からんのと嬢と二人きりにしといて、もしもおかしなことがあったらどもなりゃせんで、ちょっと様子見てきとぉくれ

◆そら親旦さんのご心配もごもっともでやす、へッ、ほなちょっと行て参じます……

◆なんちゅう医者やろなぁホンマ

▲あッ、番頭はんお越しやす

◆なんじゃ定吉、お前来てたんか?

▲へぇ、わたいもぉ早よぉから来て、ここへいてまんねん。

あの医者、妙なこと言ぃましたやろ「嬢はんと二人きりにしといてくれ」いぅてな、おかしなことになったらどもならんと思たんで、わたいここでズッと見てまんねん。

◆これッ、子どもがこんなとこ覗くもんやあれへん、早よあっち行きなはれ

▲そんなこと言ぃなはんな、わて早よからここで番取ってまんねや

◆そな、芝居見てるよぉなこと言ぃなはんな。ちょっとほな、静かにしてなはれや。

 言ぃながら、襖の隙間からそぉ~ッと中を覗いて見ますと。

★さぁさ、心配要らん。あぁあぁすぐ治して進ぜる。

あのな、わたしの言ぅとぉりしてくだされや、よろしぃかな。

あのな、まずそのオイドをクルッとまくって、四つん這いになってくだされ。

★いやいや、恥ずかしぃことありゃせん、恥ずかしぃことありゃせん、誰も見てへんわしだけじゃ。

わしに見せんことには病気が分からん、さぁさ、恥ずかしぃことありゃせん、オイドまくって、そぉそぉ、オイドまくって……

▲うわぁ~ッ、嬢はんのオイド、白ぉて綺麗ぇ~ッ!

◆喧しぃ、大きな声出さんと黙って見てなはれ

▲そぉかて、嬢はんのオイド、あない真っ白けでツルツル、スベスベして……

▲あぁ、あぁ、あぁ~ッ! 嬢はん、四つん這いになってまっせ。

オイド、クルッとまくって。

あんな嬢はん、わて見たことおまへんで。

おッ、おッ、オイド、オイド、こっち向けはりましたで、オイド。

▲あッ、なんじゃ白いオイドのとこへ黒いポッチリがちょっと見えてまっせ。

あの黒いポッチリちゅうのん何んでっしゃろ?

◆喧しぃ言わんと黙って見てなはれ。

 番頭が息を殺して見てますと、その先生、薬箱を手元へ引き寄せましてな、薬を出すのかと思うとせやおまへん。

何と、取り出しましたのが遠眼鏡。

遠眼鏡といぃますと、あの双眼鏡で二ぁつあるやつやなしに、長いこの一本のやつで、伸ばすとスルスル~ッとこぉ三十センチぐらいに伸びよぉかといぅ。

 その遠眼鏡を出しましてな、スルスルッと伸ばして、四つん這いになってるお嬢さんのオイドの穴からニュ~ッと中へ入れよって……、中をジ~ッと覗いてたかと思うと、一調子張り上げよって。

★「♪ほぉ~や、ただいま嬢の腹中眺むれば、♪ほぉ~い、肝の臓やら心の臓、♪ほぉ~い、あばらの骨が十三枚……」

 さぁ、これ聞ぃたお嬢さん、気ぃが移ったとみえましてな。

●♪もぉしもぉし、先生さま

★♪ほぉ~い

●♪水の変わりか、風邪の障りか知らねども

★♪ほぉ~い●♪お腹がシクシク痛みます

★♪ほぉ~い、そこであげますお薬は、エキキトォ、レキキトォ、チュ~コン、ゲコンを巡らして、そなたに飲ませば即座に、本復ぅ~、ほんぷくぅ~。

 ズボ~ッと抜きますとな、お嬢さん気持ち良ぉなったとみえて……

●ブブッ、ブゥ~ッ!

★これッ、医者に屁ぇかます人がおますかいな。


【さげ】

●♪良ぉなりますれば、屁をあげます~。

 

 

 

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雷  の  褌

2015年09月06日 | 落語・民話

雷  の  褌

【主な登場人物】


 雷親父  雷息子  雷嬶  トラ

【事の成り行き】
 雷を気象学的にみると、暖かい空気が急激に上昇し上空で冷やされ、水蒸
気が氷となり成長して落下、再び上昇気流によって上空へ舞い上げられて大
きな氷の塊に成長していく繰り返しの過程で、氷同士の摩擦によって静電気
を帯び、飽和すると放電する。という、まことに分かり易い仕組みになって
います。

 上昇気流の起こる条件としては、春先の春雷、冬の寒雷(=ゆきおこし)な
ど寒冷前線の通過(界雷)や発達した低気圧や台風の中心など(渦雷)、日射に
よる大気温の上昇(熱雷)などがあります。

 古来「雷」は「かむなり・かんなり」と発音していたとか、わたくし上林
が「かんばやし」であるのはその痕跡をとどめているからなのです。

 また、雷は「神鳴り」の意からの訓読みだそうです。まさしく天空を駆け
る神々がその怒りを顕わにしている様を言い当てて、自然現象のなかでもパ
フォーマンス抜群ですね。

 今回の噺は神鳴り様というよりは「雷さん」どこか童話にも似たほのぼの
とした小作品です(2000/08/20)。

             * * * * *

 沖天(ちゅ~てん)に雷橋といぅところがございまして、ここに雷をば営業
にしておられる五郎八さんといぅ雷仲間の取締がおられます。

■ただいま、いま戻った

▲お帰りやす。お疲れさん

■坊主が見えんが、どっか行ったんか?

▲表で遊んでますわ……

●お父っつぁんお帰り

■「お帰り」やないがな、こんな時間まで外出てるやつがあるか。
家(うち)に居てんかい。

●ボンな学校から帰って来て、本読んで宿題もぜぇ~んぶ済まして、ちょっと表へ遊びにやってもろたん

■さぁ、字ぃ書いたり本読んだりするばっかりが勉強やないわい。
いずれお前もわしの跡を継いで雷にならんならん、太鼓を稽古せんかい。

●お父っつぁん「太鼓の稽古せぇ」言ぅたかて、家に太鼓あらへんさかい稽古でけへん

■そぉ言ぅやろ思て、ちゃんと誂えといたんが今日届いたぁる。
そこにあるのがボンの太鼓じゃ

●へぇ、これボンの太鼓か? お父っつぁんが使こてんのん十六ついたぁるなぁ、
ボンのん八つしかあれへん。

■お前は体が小さいよって、まだまだ十六太鼓は背負えやせんわい。
八つ太鼓で結構じゃ。
体に合うか合わんか背負わしたるさかい、裸になってこっち来い。
さぁ、両の手ぇ通して、紐を前で結んだろ……。
嬶(かか)どや? 今度の太鼓屋は仕事がうまいなぁ、太鼓が体にきちんと合ぉたぁるわい。

■さ、稽古したる。
わしの太鼓こっち持って来い。
今日は稽古始めじゃ、わしの太鼓よぉ見てぇよ……、これが陰陽の桴(ばち)じゃ、右の方から出るぞ。
ハッ、ゴロッ、ゴロゴロゴロゴロ……、次は左の方、コンッ、コロコロコロコロ……、両の手で、バリッ、バリバリバリ……、さぁ、やってみぃ。

●お父っつぁん、こぉか……、ゴロン、ゴロン、ゴロ、ゴロン、ンゴロ、ロゴン、ロゴン、ンゴロ……
■太鼓が訛ってるやないか、手を堅とぉするさかいいかんねや。
柔こぉ、こぉいぅ具合に回してみ……、ゴロッ、ゴロゴロゴロッ!

●そない言ぅたかて、ボンら初めて稽古するねんさかい、具合よぉ行けへん

■明日から、一生懸命稽古するねんぞ

●うんッ!

 明くる日になりますと、学校から帰って来るとすぐ稽古しよる。
間ぁが有ると稽古しよる。
子どもといぅもんは、もの覚えるのが早よぉございます。
ものの半季もせんうちに、親っさんよりずっと上手に打つよぉになりよった。

●なぁ、お父っつぁん

■何や?

●ボン、この頃だいぶ太鼓打てるよぉになってきたやろ?

■そやなぁ、だいぶましになった

●ほなな、今度夕立があったら、お父っつぁんの代りに雲の上走らしてんか

■おぉ、えぇとこに気が付いたなぁ。たしかに太鼓打つばっかりが稽古やないわい、雲の上走って足腰を鍛えとかんと、さぁっちゅうとき間に合わんわい。

■今度夕立があったら、いっぺん走ってみぃ

●うんッ!

 親子のもんが話しておりますと、表に来ましたんが沖天の市役所の小使。

★へ、五郎八師匠。
本日午後三時、夕立でおます。
おこしらえ願います

●お父っつぁん、市役所から「夕立のこしらえせぇ」言ぅてきたで

■そらちょ~どえぇ、さっそく仕度せぇ……。
嬶、今日はよそ行きの褌を出してやれ、太鼓背負ぉてバチ持って……、
さッ、用意はでけた。
時間がくるまで待ってぇ。

 午後三時になりますと、ピカッ! 車軸を流すよぉな雨がザザ~ッ!

●お父っつぁん行ってくるで

■気ぃつけて行けよ

●うんッ!

 ゴロッ、ゴロゴロゴロ……、コロッ、コロコロコロ……、バリッ、バリバリバリ……

 走りよる走りよる、子どもちゅうのは身が軽いもんでっさかい、あっちへツツ~ッ、こっちへツツ~ッ走りよった走りよった。ところが、なんせ初めてのことでっさかい、雲に厚いとこと薄いとこがあるんに気ぃ付きません。

 ひょ~しの悪い、雲の薄なってるとっからスコン! 落ちよったんです。
落ちた所が日本ではございません。
清国、山奥の薮ん中に落ちよった。
薮ん中でトラが昼寝しとりましたんですけど、その枕元へドス~~ン! トラやんのびっくりしょまいことか、頭持ち上げよって大きな口開けて、

 グゥワォ~~ッ!


【さげ】

●お、お父っつぁん怖い~ッ……! 褌が噛みよる。


【プロパティ】

 音源:(初)桂枝太郎 1923(大正12)年録音

 

 

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穴門の西瓜売り

2015年09月06日 | 落語・民話

 

穴門の西瓜売り

【主な登場人物】

 西瓜売り  客  八卦見

【事の成り行き】

 西瓜の思い出というと小学校低学年の頃、大きな西瓜を半分に割って三歳
違いの弟とスプーンですくい食いというのが夏の定番オヤツでした。あの頃
いくらぐらいしてたのか知りませんけど、貧乏人の我が家でも丸のまま買え
るというほどですから、今ほど高くなかったはずです。

 一人頭、四分の一個は多すぎますんで最後はいつも遊び半分グジュグジュ
に潰してストローでジュースだけ吸う。あんな青ぐさいもの今ならよぉ飲み
ません。風呂上がりに一切れ二切れ、サッパリといただくのが一番美味しい
西瓜でしょう。

 けど、西瓜って冷蔵庫の場所ふさぎですねぇ(2000/08/20)。

             * * * * *

●おい、西瓜切ってんか

■へッ、お越し

●西瓜切って欲しぃんじゃが、こらちょっと白いことないか?

■何おっしゃる。こらぜんぶ新田西瓜で種まで赤こございますんで、どぉぞおひとつ。

●あんた、売りもんやよってそぉ言ぅけども、わしゃ買うほぉや。買うほぉの身になったら、白いよぉに思うが……

■赤こおます

●白いなぁ

■赤こおますて

●「赤い、白い」言ぅててもしゃ~ないやないか

■ほなこぉしましょか、あそこに八卦見がおますよって見てもらいまひょか。

■八卦はん

▲何じゃな?

■えらいすんまへんねんけど、お客さんこの西瓜白いおっしゃるんで、赤いか白いかもめてまんねん

▲な~るほど

■で、ちょっと見てもらいたい

▲なになに、その西瓜が赤いか白いかを見るとな……、して、赤、白分かったあかつきには何とするな?

●よっしゃ、もしその西瓜が赤かったら、わしゃここにある西瓜、全部買ぉたるわ

■ほぉ、そらありがたい。赤かったら全部、買ぉてくれはる

●喜ぶんはまだ早い。もし白かったらどぉするんや?

■さぁ、白かったら。全部前の川に捨ててしまいましょか

●そらオモロイ。

■センセ、ひとつ赤いか白いか見とくなはれ

▲どれどれ……、外は青い。青いは即ち陰なり。陰は北にある、北は即ち水である。と、外は水じゃなぁ。
中は赤い、赤いは即ち陽であって、陽は南にあたる。これ即ち火性である。
水性と火性とで……、これを「水火」と言ぅのじゃ。

■へぇ?

●五行で見るといぅと……、相性が悪いなぁ……、困ったなぁ。とにかく論より証拠じゃ、切ったほぉが早やかろぉ

■何じゃいな。何のかんのと、切ったほぉが早やかろぉやと、ほな切るとしょ~か……

 ズボッと切りますと、置き古しと見えまして西瓜がベタッとへたってしもて、棚が落ちてしもたぁる。

■センセ、棚落ちてしもてますわ。八卦もあてにならんなぁ……


【さげ】

▲こら、家相で見たほぉが良かったかなぁ。


【プロパティ】
 穴門(あなもん・あなと)=南御堂(本願寺大谷派難波別院)を取り巻く石垣
   の北西角にうがたれた洞窟状の通路を穴門と呼んだ。ひんやりと風通
   しも良かったため、涼を求める人々や西瓜売りが集まり「穴門の西瓜」
   が名物になったという。(現在、残っていません)
 新田西瓜=九条ねぎ、九条なすと並ぶ九条村(現・西区九条)の特産品。新
   田とは、寛政から江戸時代末・慶応まで続いた大阪湾沿岸の埋め立て
   開発によって開かれた「川口新田」から。
 棚が落ちる=棚落ち:スイカなど、成熟が進みすぎて空洞のできた状態。
 音源:桂南天 昭和40年代中頃(1970) 京都九条たらちね会で録音
    (古今東西噺家紳士録収録)

 

 

 

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木火土金水

2015年09月05日 | 落語・民話


木火土金水

八五郎「ねぇ、隠居、世の中のものは、すべて木火土金水(もくかどこんすい)から割り出されている、てぇ事を聞いたんですけど、本当ですか。」

隠居「ああ、そう言う事を言うな。」

八五郎「じゃ、泥棒なんてぇのも、木火土金水から割り出されているんですか。」

隠居「ああ、そうだとも、まず、どろ・ぼう、と言うくらいだから、土と木に縁がある。」

八五郎「はあはあ。」

隠居「泥棒は白波とも言うだろ、波と言うくらいだから、水にも縁がある、それにひるトンビとも言うから、火にも縁があるな。」

八五郎「最後のひ・るトンビ、ってぇのは苦しいけど、ちゃんと木火土金水から割り出さ れてるんですねぇ、泥棒で土と木、白波で水、ひるトンビで火と、ね、あれ、隠居、 これじゃあ、木・火・土・水ですよ、ひとつ足りませんよ、金(きん)がありませ んよ、金(きん)、金(かね)はどこへいっちまったんですか。」

隠居「なぁに、金(かね)が無いから、泥棒をするのだ。」

 

 

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馬鹿の問答

2015年09月05日 | 落語・民話

馬鹿の問答

与太郎「あんちゃん、なぞなぞやろうか、で、勝った方が十銭取れるの。」
あんちゃん「ああ、かまわねぇよ。」
与太郎「じゃ、行くよ、あのね、四つ脚でもって、ひげがあって、耳があって、チューチューって鳴くものなーんだ。」
あんちゃん「おい、そんなんで本当にいいのか、十銭取っちまうぞ、いいんだな、そいつはネズミだ。」
与太郎「へー、良く分かったねぇ、じゃ十銭、もう一度やろう、今度もね、四つ脚でもって、ひげがあって、耳があって、ワンワンって鳴くものなーんだ。」
あんちゃん「おい、そんなんで本当にいいのか、また十銭取っちまうぞ、いいんだな、そいつは犬だ。」
与太郎「へー、良く分かったねぇ、じゃ今度は、一円にしよう。」
あんちゃん「値段あげやがったな、今度はなんだ。」
与太郎「今度はね、水の中にあって、長いのも短いのもいて、掴もうとしても、ヌルヌルしていて掴めないものなーんだ。」
あんちゃん「それは、なんて鳴くんだい。」
与太郎「これは鳴かない。」
あんちゃん「ちしょうめ、馬鹿だ馬鹿だと思ってたら、まんまといっぱいはめられちゃったよ、ええ、うなぎって言えばドジョウ、ドジョウって言えばうなぎって言うつもりだな。」
与太郎「へへへ、それなら、両方言ってもいいよ。」
あんちゃん「おお、そうかい、それじゃ、うなぎにドジョウだ。」
与太郎「ううん、あなごだよ。」
与太郎「じゃ今度は、五円にしよう。」
あんちゃん「だんだん値段あげやがって、今度はなんだい。」
与太郎「今度はね、水の中にあって、長いのも短いのもいて、掴もうとしても、ヌルヌルしていて掴めないものなーんだ。」
あんちゃん「さっきと同じじゃあねぇか、そいつは、うなぎにドジョウにあなごだ。」
与太郎「ううん、ずいきの腐ったの。」

 

 

 

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露の五郎(五郎兵衛)艶笑噺 『大 師 の 馬』

2015年09月04日 | 落語・民話

『大 師 の 馬』

【主な登場人物】

 弘法大師  お百姓さん夫婦

【事の成り行き】

 え~、およろしぃおあとでございますが、男のあとへまた男、一人のあと
へまた一人で、どぉもこの代わり映えがいたしません。延々とこぉ一人ずつ
一人ずつ出て来るんでございますんですが。

 どぉもこの一人といぅのはあんまり愛想がないんで、お漫才なんかでござ
いますと二人(ふたぁり)で出てまいりますからね、横を向いて話しかけると
向こぉから返事が返ってくる。

 掛け合いでおしゃべりをいたしますからお客さま方のほぉも気が浮いてき
て、思わず「よッ(パンパンパン)」手の一つも叩こぉかといぅことになる
んですが。

 もぉ、一人といぅのはねぇ、横向いたさかいいぅて誰がいてくれるわけや
なし、こっちゃ向いたさかいいぅて返事してくれる人があるわけやなしね、
一人でしゃべって一人で返事して、歌もうたわず屁もこかず、実にまぁ、愛
想のない商売で。

 けどまぁ、これも決して悪気があって出て来るわけやないんで、これもみ
なみな……、やむを得ず出て来るよぉな仕掛けになってまして、あまり長い
お時間やございませんので、おあとお楽しみに最後までごゆっくりとお遊び
のほどを願いますが。

 あの~、面白いもんですなぁ~、一人何か有名な人が出ると、全部そこへ
喰われてしまうといぅことがあります。昔から「大師は弘法に奪われ、奉行
は大岡に奪われる」ねぇ「大師は弘法に奪われ、黄門は水戸に奪われる」て
なことを申しますが。

 あの水戸黄門「黄門さま」と言ぅと水戸のご老公といぅのがポンと頭にく
る。こら、芝居とか講談とか、あるいはあぁやってドラマになりますから、
黄門さまといぅと水戸のご老公といぅのがくるんです。

 でもあの、黄門さまは水戸だけやないんですね、あれは中納言といぅ位の
方が隠居いたしますと、みな黄門さまになるんです。ですから、水戸中納言
光圀公がご隠居あそばして黄門さん。

 そのほかにも中納言といぅ位はいろんな方があるんですからね、柳沢中納
言とかね、北白川中納言とか、中納言はいっぱいあるんですよ。エビでもね、
イセエビでも「中納言」てあるぐらいですから。

 ですからこの、黄門さまでもいっぱいいらっしゃったんですが、単に「黄
門さま」と言ぅと水戸のご老公と、こぉいぅことになる。

 お奉行さまでもそぉですな「名奉行」といぅと大岡越前守とこぉなります。
別にお奉行さま、名奉行と言われた人は大岡さまだけやないんでね、根岸肥
前守でありますとか、あるいはもっと身近なところで遠山の金さん、遠山左
衛門尉(さえもんのじょ~)景元なんてな、こら名奉行中の名奉行ですが。

 どっちかといぅと遠山左衛門尉景元といぅよりは、こっちゃ、金さんのほぉ
が有名ですからね、どぉしても名奉行といぅと大岡越前守とこぉなるんです
なぁ。

 で、この「お大師さま」がそぉです。伝教(でんぎょ~)大師、達磨大師、
沢庵(たくわん)禅師、禅師は別ですが……、いろんなお大師さんがあります
が、単に「お大師さん」と言ぅと弘法大師とこぉなる。

 有名になりたいもんですなぁ、また弘法大師といぅ人はね、いろんなこと
をして歩いてますから有名にならざるを得んのですね。器用な人ですから、
もぉあの方はいろんなことがおできになった。

 日本三名筆の一人と言ぅぐらいですから「色は匂えど散りぬるを、我が世
誰ぞ常ならむ、有為の奥山今日越えて、浅き夢見じ、酔ひもせず」いろは四
十八文字といぅのをお作りになったのが、この弘法大師。

 ですから、この方もぉ筆を持たせたら右に出る人はないと申します。字に
ついてはものすごくご堪能で、字ぃだけやないです、いろんなことして回っ
てますです。お大師さまといぅ人はね、ズッと歩き回ってるんですよ、あれ
暇なんですよ、よっぽどね。

 四国中歩き回って「四国八十八箇所」それで足りないから西国を回って、
これまた「西国八十八箇所」歩き回ってる。それだけやないんですよ、あっ
ちこっちで橋をかけたりね。

 「橋かけた」て、何もあんた弘法大師が自らカンナ持って削ったわけやな
いんですよ、あれ、橋かけたんはみな大工さんがかけたんですがね。それで
も「弘法大師が橋かけた」と、こぉ申します。

 でまた、弘法大師といぅ方はいろんなパフォーマンスができたんですな。
ご修行のみぎり喉が渇いたといぅので杖で一つトンッ、お突きになりますと、
そこから水が湧いてきた「大師手向けの水」

 もぉこんな杖は要らないといぅので、杖を突き刺してお帰りになると、そ
の杖から根っこが生えて大きな桜の木になった、とかね。いろんなことをす
るんですなぁ。

 そぉかと思いますと、文字のほぉでもそぉですなぁ、京都の御所の応天門
といぅ門ができあがったときに、扁額、門の上へこぉ額を上げます「応天門」
と書いて額をお上げになった。

 ところが「弘法も筆の誤り」といぅんで、この上へ上げてしまいましてか
らヒョイと気が付くと、応天門の「応」の上の点が一つ忘れてあった。ね、
点が一つ足りない「てんでものにならない」とはこれから始まった。

 「あれをもぉいっぺん下ろして書き直すといぅと、大変な大事業である」
と言ぅていると、弘法大師が「でわ、筆と墨を用意してくれ」墨をたっぷり
磨りまして、この筆に含まして、下から上をめがけて「いやッ!」

 お投げになりますと、この筆がツ~ッと飛んで行って、ポ~ンと当たった
ところに点が入ったといぅんですな「弘法の投げ筆」何でもできる人なんで
すなぁ。あの人は今生きてりゃね、大変なもん、寄席へ出たらゴッツイ金儲
けでっせ、あれ。

 いろんなことがでけたんです。でこの、弘法大師がある日、町を歩いてま
すと、横のほぉから竹カゴ、ザルですな、あれ我々大阪のほぉでは「笊(いか
き)」てなことを言ぃますけども、お台所で使いますザル、このザルがうつ伏
せになって横丁からツツツツ、ツ~ッ!

 「あれ? 俺もたいがいいろんなことをするけれども、竹カゴが駆け出し
て来るといぅのは初めて見た。こんなもんに足があるわけでもなし、どっか
らこんなもんが駆け出して来たんか知らん?」

 じっとご覧になってると、この竹カゴがそ~ッと持ち上がって、下から可
愛ぃ仔犬が顔を出したんで「あぁ、こんなやつがカゴの下に入っていたのか、
ハッハッハッハッ、仔犬が顔を出して可愛ぃものじゃな」と、お笑いになっ
た。

 と、この時にはたと気が付く「あぁそぉか、竹カゴの中から仔犬が顔を出
したのを見て笑ぉた。カゴの中から犬が出て笑ぉたによって、竹冠の下に犬
と書いて笑うと読んだらよかろぉ」と、ここであの「笑」といぅ字ができた
んです、竹冠の下に犬と書いて、ね。

 「これだけのことを教えてくれたこの仔犬に、何か礼をしてやりたいが」
ヒョイとご覧になると、その頃は犬は三本足やった。いえいえ、ホンマでっ
せ、その時代があったんです。こら、うちの爺さんに聞ぃたんですから間違
いない。

 ところがね、その頃は五徳、五徳ご存知ですかねぇ? あの、火鉢ん中に
入って、上へ茶瓶が乗っかるね、いえいえ、こないだもね、わたしこの噺し
てましてね、この五徳の噺をすると前にいたアベックがね、この頃アベック
言わないんですな、前にいたツーショットが、女のほぉがね、男の子に「五
徳てなに?」て聞ぃてるのん。

 そぉいぅのて、こっちは一方通行ですから、お客さま方のほぉ向いてしゃ
べってりゃえぇんですけど、そぉいぅのて妙に気になるんです、客席の声と
いぅのはね。ですから、思わずヒョイッと見ると「五徳てなに?」

 「五徳知らんのん?」て言ぅたら「知らん」「あのねぇ、火鉢知ってる?」
「うん」「あの火鉢の中にね、灰が入ってるでしょ灰が、いやいや、夏飛ん
でる蝿(はい)やないの、白い粉……、炭が燃え尽きて、炭知ってる? 炭知
らんのん? 磨って字ぃ書く墨やないねん、燃やす炭、炭知らん? 知らん
のん? あのねぇ、山に木ぃ生えてまっしゃろ……」

 そっから説明して灰が分かって、五徳がやっと分かった頃には、わたしもぉ
落語やる時間無くなったんです。で、今日は皆さま五徳をご存知のものとし
て、噺を前へ進めたいんでございますが。

 でも、皆さま方がご存知の五徳てな三本足なんですよね、曲がった鉤の手
みたいな物が三本付いてますでしょ、下の輪っかのとこに、で、こぉ茶瓶が
乗っかる。あれねぇ、昔はあの五徳の足が四本やったんです。そのほぉがまぁ
茶瓶は掛かりやすいんでしょ~けども。

 で、犬が三本足の頃には、この五徳が四本足やった。それをご覧になった
弘法大師が「五徳は三本足でも茶瓶は乗っかる、犬が三本足ではこら歩きに
くい、可哀相である」といぅんで、五徳の足を一本取って犬にあげたんです。

 それから犬は四本足になって五徳が三本足になったんです。アハハ、てホ
ンマですよこれ。それで犬のほぉもね、それだけの恩義は心得てますから、
「せっかく、弘法大師にいただいた足、不浄で汚してはいけない」といぅん
で、犬はションベンするとき片足上げる。

 これ、何よりの証拠でございます。こぉいぅことはね、よそ行って言わん
ほぉがよろしぃよこれは。

 弘法大師といぅ方はそぉいぅ具合にいろんなことがおできになって、いろ
んなところをお回りになった。それにまた、弘法大師といぅ方は情け深い方
ですから、困ってる人を見るとね、放っておけないんですね。

 お若い頃には空海とおっしゃってね、遣唐使、船に乗って中国へ渡ってい
ろんなお経やなんかを日本へ持って来た、それぐらいの人でございますから、
巷を歩いておりましても、お腹の空いた人なんかを見るとね、もぉ放ってお
けない。

 自分のお腹の空いてるのも忘れて、お弁当なんかでもすぐその人にあげて
しまう。お腹の空いた人を見ると、自分の弁当を「食ぅかい?」

 ですからね、その日も弘法大師が巷を歩いておりまして、例によりまして
自分のお弁当を人にあげてしまう。お腹が空いてしょ~がない「これはえら
いことをしたなぁ、どっかで食べるものを頂戴しなければいけないな」と思
いながら歩いてまいりますと、川っぷちで一人のおばさんがお芋を洗ってま
してな。

 「あ~、これこれ婆さん、卒爾(そつじ)ながらひとつ頼みがある」ここな
んです、弘法大師ほど偉い人でも、ここで女心が分からなかった「これこれ
婆さん」と声をかけたのが悪かった、おばさんですからなぁ。ここを「これ
これお姉さん」と言えば「はいッ!」と言ぅたんでしょ~けど。

 自分では、まだ若いつもりのおばさんに「これこれ婆さん」と言ぅたばっ
かりに「なんぬかしてけつかんねん、この乞食坊主」と、こぉ向こぉは思た
んですなぁ。

■卒爾ながら空腹で難儀をいたしておる、その芋を一つ分けてもらうわけにはいかぬかな?

●(誰がそんなもんやるかい……)あの~、

お坊さま、せっかくでございますけども、

これは人間の食べる芋ではございませんで。

人間の食べる芋ならば幾らでも差し上げますが、

これは馬の餌でございます。

●馬の食べる芋で、人間は食べられませんので

■おぉ、さよぉかな、これは卒爾なことを申した、

いや御免ごめん。

ならば結構。

 向こぉ行ってしまいよった。

 あとで綺麗にお芋洗ろて蒸(ふ)かしまして、

ちょ~どお芋が蒸かしあがったところへ亭主が野良から帰って来て、

▲おい、嬶(かか)帰った。腹空いてんねや

●ちょ~ど帰って来る頃やと思て、

お芋さんが蒸かしてあんのん、

まぁまぁ、お上がり

▲そぉか、ほなよばれよか。

 芋を一口パクッと食べた途端に、

家鳴り振動ガラガラガラガラ、ガラ~と大きな物音がしたかと思いますと、

この亭主が「ヒヒヒ、ヒヒ~ンッ」て、

馬になったんです。

●んまぁ~ッ、えらいこっちゃ、何でこんな……、

さてはさっきのお坊さまが、

きっとアラタカなお方であったに違いがない。

あの方に「馬に食べさす芋や」と言ぅて嘘をついたばっかりに、

こんなことになったに違いがない。

あのお坊さんを呼び戻さなければ……(ダダダダ、ダ~ッ)

●もぉ~しぃ~、お坊さまぁ~、ちょっとお待ちくださいませぇ~ッ

■愚僧かな?

●お坊さまでございます、どぉぞ相すみませんことで、

先ほどついうかっといたしまして「馬が食べる」と嘘をつきました。

●嘘をついたわたくしが悪ございます、どぉぞお戻りくださいませ。

お芋は幾つでも差し上げます、

どぉぞひとつ亭主を許してやっていただきとぉございます

■いきなりそぉ申されても、愚僧には見当が付かん。

ご亭主がどぉかなされたかな?

●「どぉかなされた」ではございません、

わたくしがあの「馬に食べさせる芋」と申しましたからでございましょ~か、

帰ってまいりまして亭主があの芋を一口食ぅなり、

馬になってしまいました。

■馬になった、それはお困りじゃな

●えぇ、こらお坊さま、あなたが罰(ばち)を当てた

■わしはそのよぉな通力はない、

だいちわたしがその人に罰を当てるといぅよぉなことがあろぉはずがない。

そら、あなたが妄語戒をおかしたによって、

こら仏さまの天罰が当たったものとみえるが、

愚僧ではどぉもできん。

●そんなことおっしゃらんとどぉぞ、あなたのせいでございます。

こぉやって謝っているんでございます、

どぉぞお戻りになって、亭主を元の人間に戻していただきとぉございます。

■そのよぉなことが、愚僧にできることかできんことか……、

まぁ戻ってみましょ~。

 戻ってまいりますと、いかさま、栗毛の馬がそこんとこで

「ヒヒ~ン、ヒヒ~ン」

と嘶(いなな)いております。

■これがご亭主かな、あぁ、ならばできることかできぬことか、

祈って進ぜましょ~。

おんあぼきゃべぇろしゃのぉまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん、

おんあぼきゃべぇろしゃのぉまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん……

 一心に呪文を唱えながら、数珠で馬をこぉお撫ぜになります。

顔のところを撫ぜてやりますと、馬の顔がツツツツ、ツ~ッと縮んで人間の顔になった。

●おぉ、おぉ、亭主の顔になりました。

どぉぞ、もっとよろしくお願いいたします

■おんあぼきゃべぇろしゃのぉまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん、おんあぼきゃべぇろしゃのぉまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん……

 首筋を撫ぜてやりますと、

首がツツツツ、ツ~ッ。

前足のところを撫ぜると、これがス~ッと立ち上がって手ぇになった。

胸のところが人間に、お腹のところが人間になります。

もぉ少し下へ行こぉとすると、このおばさんが、

【さげ】

●あぁ~ッ、お坊さま、そこはそのままにしておいてください。


【プロパティ】
 黄門=中納言の唐名。
 徳川光圀=(1628~1700)江戸前期の水戸藩主。頼房の三男。幼名千代松。
   字(あざな)は子竜、号は梅里(ばいり)。諡号、義公。世に水戸黄門と
   も。大義名分を重んじて儒学を奨励、彰考館を設けて俊才を招き「大
   日本史」を編纂。希代の名君と賞され「水戸黄門漫遊記」による逸話
   が広く流布している。が、そのほとんどは明治時代に上方の講釈師が
   作り上げたという。
 イセエビでも「中納言」=活伊勢海老料理を売りにする飲食店グループ、
   株式会社中納言。本社、兵庫県西宮市本町。昭和25年9月創業。
 大岡忠相(おおおかただすけ)=(1677~1751)江戸中期の幕臣。8代将軍徳
   川吉宗に抜擢されて江戸町奉行となり越前守と称す。公正な裁判とす
  ぐれた市政で知られた。のち三河西大平の大名となった。
 根岸肥前守衛奮=新潟奉行・奈良奉行・外国奉行・勘定奉行・大目付・勘
   定奉行・江戸南町奉行・講武所奉行並・関東郡代・一橋家家老など幕
   府の要職を歴任した。
 遠山金四郎=遠山景元(とおやまかげもと)1793(寛政5)年8月23日~1855
   (安政2)年2月29日。江戸時代の旗本で、天保年間に江戸北町奉行、
   後に南町奉行を勤めた人物。演劇・ドラマ「遠山の金さん」のモデル。
 伝教大師=最澄(767~822)日本天台宗の開祖。比叡山延暦寺を開山。
 達磨大師(だるまだいし)=達磨の尊称。中国禅宗の祖。南インドの王子と
   して生まれ、般若多羅から教えを受け中国に渡って禅宗を伝えた。少
   林寺で9年間面壁したといわれる。5世紀末から6世紀末の人とされ
   る。円覚大師。
 日本三名筆=空海、橘逸勢、嵯峨天皇。
 卒爾(そつじ)=突然であること。注意や思慮を欠くこと。失礼なおこない
   をすること。
 卒爾(そつじ)ながら=突然、失礼とは存じますが。
 何をぬかしてけつかんねん=ぬかして+けつかる+ねん。ヌカスは「言う」
   ケツカルは「する、いる」という意味の下品な悪態口を示す語。ネン
   は助詞「~のだ」標準語では「何をおっしゃっているのでしょう」。
   なんぬかしてけっかんねん。
 あらたか=神仏の霊験や薬のききめが著しいさま。
 通力=禅定などを修めた結果得られる、何事も自由自在になし得る超人的
   な力。神通力。禅定:精神をある対象に集中させ、宗教的な精神状態
   に入ること。また、その精神状態。
 天台宗五戒=1.不殺生戒(生命あるもの傷つけず大切にする)2.不偸
   盗戒(与えられないものを取らない)3.不邪淫戒(淫行を遠ざけ、
   不倫をしない)4.不妄語戒(嘘をつかない)5.不飲酒戒(酒など
   の嗜好品におぼれない)
 いかさま=相手の言葉に賛意を表す語。なるほど。いかにも。
 おんあぼきゃ~べぇ~ろ=真言宗:光明真言おんあぼきゃべいろしゃのう
   まかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん(心を込めてお祈
   りいたします。この世に満ち溢れているすばらしい命の輝きよ、限り
   ないその働きよ、智慧の宝珠と慈悲の蓮華との救いの光明を差し伸べ
   てください。どうぞお願いします)
 音源:露の五郎(五郎兵衛) 1997/08/05/鈴本演芸場 

 

 

 

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露の五郎(五郎兵衛)艶笑噺 上下のしるし

2015年09月04日 | 落語・民話

『上下のしるし』

【主な登場人物】

 大家の親旦那  女衆(おなごし)のお松  嬢(とぉ)はん

【事の成り行き】

 この~、女の方……、

その年頃の娘さんになりますと、

いろいろこの、肉体的な条件が変わってくる、

性徴と言ぅんやそぉですな。

性の徴候、第一次性徴、第二次性徴てなことを言ぅよぉですがな。

 第一次性徴といぅのは、だいたいこのオッパイが膨らんでくるんですな。

で、男性の場合でございますと、

第一次性徴といぅのは頬っかむりしていたのが取れてくる、

これがまぁ第一次性徴。

 第二次性徴といぅと、そこへポヤポヤといろんなものが生えてくるわけですなぁ。ですからこの、

第一次性徴、第二次性徴、そいでこのね、月のものなんか始まってくる。

こぉいぅのを年頃になると、まぁ誰しもそぉなんですが。

 あるご大家のお嬢さんが気分が優れんといぅわけで、あぁしてみたこぉしてみた、

医者に診せても体は別に変わったことがない。

妙な歩き方をするといぅんで、

■あのなぁ、実はその、娘がな、医者に診せても分からんのじゃ、妙な格好して歩く。

年頃やさかいなぁ、気になってしょ~がない。

お松、小さいときからお前にはずいぶん懐いてる、母親よりお前に懐いてるぐらいのもんや。

■あの娘(こ)にな、何ぞ思てることがあったり、また親のわしに言(ゆ)えんよぉなことがあんねやったら、お松、お前からそ~っと聞ぃてやってくれんか?

▲へッ、かしこまりしてございます……

▲まぁ、嬢(とぉ)はん、お父さんがえらい心配してはりまんねで。

いぃえぇな、親にも言(い)えんことそらおます。

分かります、分かりますけどもやっぱり親御さんに心配かけたらいきまへん、お松にだけ打ち明けとくなはれ。

▲お松が心得て、またお父さんのお耳に入れんならんことやったらお耳に入れますよってにな、言ぅておみやすな

●うん、言われへん

▲「言われへん」て、そんなこと言わんと、どないしはりましてん? 

いぃえぇな、なんか歩き方がおかしぃとかいぅて……

●うん、痛いのん

▲痛い? どこが? どこが痛とおますのん?

●「どこが」て、そんなん言われへん

▲言われへんよぉなとこが痛いのん? 何ぞなさいました?

●ううん、わたしなんにもせぇへん

▲なんにもせぇへんのに痛い?

●あのぉ~、オデキがでけてん

▲なんです?

●オデキができてんのん

▲オデキですかいな、そんなもんあんた、

オデキやったら膏薬貼るなり何なりしたら終いでんがな、

膏薬お貼りいたしまひょ、どこです?

●そんなん、見せられへん、そんなとこ

▲「見せられへん」てあんた、嬢はんとわたいとほかに誰もいてしまへん、お見せなはったら

●ん~ん、かなん

▲「かなん」て……、どのへん?

●ズッと下のほぉ

▲下のほぉて?

●あそこ

▲え?

●あそこ。

▲へぇ、あそこ? はぁ、さよか、そんなとこへオデキが。

んまぁ~、えらいとこへデンボができましてんなぁ。

いぃえぇな、それやったらお薬お貼りあそばしたら終いでございますがな。

▲いえ、お出入りの者にお薬もろて進ぜます。

どなたにも分からんよぉに、お松がお薬調達いたしますよってに、

それをご自分でお貼りあそばせ。

それやったら恥ずかしぃことも何ともおまへんやろ。

▲せやけどな「どこや」っていぅことをお医者はんに言わんならんさかいに、

そぉですなぁ、お医者はんに見せるちゅうわけにも……、

ほなあの、絵ぇ描きまひょか。

▲わたしが絵ぇ描きますよってに、ほんで「このへんや」言ぅてもろたら、

それをお医者はんに見せて……、

いえいえ、嬢はんや言えしまへん、黙って

「こんなとこへオデキができた人があんねや」

いぅて、お医者はんに言ぃますよってにな。

●うん

▲よろしぃか、ほな描きますよってにな……、こぉなってまっしゃろ、

ほんで、こぉなってまっしゃろ……

 よぉあの、トイレに落書きがしてございますが、

丸二つ描いて真ん中へ棒引っ張ってちゅな、

あれがまぁ、一番簡単な、ねぇ、分かりやすい。

 お松もそぉでっさかいに、ちょ~どあの、

楕円形のボール、ラグビーのボールみたいなやつをこぉ縦にしたよぉな絵を描きましてな、

そこへこの、も一つ丸を書いて縦に棒引っ張って、

で、上のほぉにチョボチョボ、チョボチョボと、こぉ毛ぇを描きましてな、

▲嬢はん、このどのへんです?

●お松、これ何の絵ぇや?

▲「何の絵ぇや」て、これあそこの絵ぇでんがな

●わたしのんと違う

▲「わたしのんと違う」て、

ほたらなんでっか、

嬢はんはこの丸がおまへんのん? 

棒だけでっか?

そんなことおまへんやろ、

ちょっと輪っかおまっしゃろ、

棒だけちゅうことおまへんやろ?

●うん、そらちょっとはある

▲そぉでっしゃろ。でこぉ、船の形みたいなんがあって、この棒があって、ね、ほんでこのチョボチョボチョボ

●その、お松「チョボチョボチョボ」が分からん。

▲「チョボチョボチョボ分からん」て、このチョボチョボチョボ分かりまへんか? 

このチョボチョボチョボ、

つまり、毛ぇでんがな

●毛ぇ? その、チョボチョボチョボいぅのん、それ毛ぇか?

▲へぇ、毛ぇです

●わたし、そんなんあれへん

▲えッ?

●わたしそんなんあれへん

▲あぁ、嬢はんチョボチョボチョボおまへんのん? 

ずんべらぼん、

ツルツルでっか? あッさよかぁ~

●せやさかい、そのチョボチョボチョボ要らんねんわ。

▲「チョボチョボチョボ要らん」て……、

せやけど嬢はん、このチョボチョボチョボを描いとかんと、


【さげ】

▲上下(うえした)が分かりまへん。


【プロパティ】
 第一次性徴=雌雄生殖器官の形成。ヒトの場合、胎児の細胞分裂期にあた
   る。
 第二次性徴=生殖器官以外の雌雄の性器官の発育。ヒトの場合、雄では精
   巣の容量増大、雌では乳房の容量増大などがこれにあたる。
 嬢(とう)はん=「嬢(いと)はん」の「い」が脱落したもの「幼(いとけな)
   い」また「愛(いと)し子」の「いと」。お嬢さんの総称。姉妹の場合、
   いとさんが姉で、こいと・こいさん(小嬢さん)が妹、なかんちゃん
   が間の娘ということになります。「はん」は「さん」の転訛。
 ~はん=さんの転訛。すぐ前の音がイ段・ウ段・ンの場合はさんのまま。
   ア段・エ段・オ段に限って「はん」となる。ただしすぐ前の音が、シ
   ・ス・チ・ツ・トの場合は、それらの音は促音化する。また「やん」
   は「さん・はん」より「ちゃん」に近く、より親しい感じである。
 かなん=困惑する。適わない→適わん→かなん。
 デンボ=疣(いぼ)。できもの。
 ズンベラボン=のっペら坊。つるつる坊主。滑り坊主(スベリボウズ)→ズ
   ボロボウ→ズンベラボンと転訛したものという。
 音源:露の五郎(五郎兵衛)
    1997/12/18/大阪九条・更科権太呂 

 

 

 

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露の五郎(五郎兵衛)艶笑噺 唐人お吉

2015年09月04日 | 落語・民話


露の五郎(五郎兵衛)艶笑噺


唐 人 お 吉

【主な登場人物】

 ハリス総領事  侍従カリス  下田奉行  唐人お吉  お女郎衆ほか

【事の成り行き】

 「♪男と女の間には、深くて暗い河がある……」70年代、長谷川きよしさんや

野坂昭如さん、加藤登紀子さんなんかが唄ってた和製フォークの一節です。

深くて暗い河を渡るために、一生懸命船を漕ぐんです

「♪Row and Row,Row and Row 振り返るな Row Row...」

 流行った当時、高校生から大学生と「深い河」を知り、

向こう岸の見えない河を闇雲にさまよった実体験と重なり合って、

今でもこの曲を聴くと悶々の日々を懐かしく思い出してしまいます。

 「肌の触れ合い」と言うと艶めかし過ぎますので「スキンシップ」と言い換えれば、

男女間に限らず人と人のコミュニケーション手段として、

これほど有効な方法はないように思えます。

 自由運動している見知らぬ男女が、

行動パターンのうち共有するたった一つで繁く顔を合わせるようになり、

やがて言葉を交わし親しくなり、偶然か必然か、はたまた陰謀かスキンシップで急速に近しくなる。

 スキンシップにも段階があり、徐々にステップアップしてついに……、

これで完璧なコミュニケーションがとれたのかと言えば、

残念ながら深い暗い河は依然として深い暗い河のまま横たわっていて

「♪Row and Row, Row andRow 振り返るな Row Row...」(2007/04/08)

             * * * * *

 え~、およろしぃおあとでございまして、もぉ一席のところお付き合いのほど願いますが。

え~、安政三年と申しますから、かなり古い噺でございまして、

わたしなんかまだ生まれてない時でございますが……、

あら、なに笑うん? 

生まれてへんから「生まれてへん」ちゅうてまんねん、ひょっとしたら生まれてた思たんでっしゃろ……

 安政三年の七月にアメリカの駐日総領事といぅことで、

ハリスさんといぅのが来た。

こらもぉその当時といたしましては大変なもんですなぁ、

ペルリが来てからね

「太平の眠りを覚ます正喜撰(しょ~きせん)たった四杯で夜も眠れず」

といぅ狂歌(きょか)があっちこっち張り出されたんです。

 あの正喜撰ていぅのはお茶なんですよね。かなりえぇお茶で、いわゆる玉露です。

せやけどあの、ある時期からね

「喜撰ていぅのはえぇお茶や」いぅだけのことで正喜撰、

正喜撰ちゅうのんぎょ~さん出たんです、各店によってね。

 せやから正喜撰もあんまり大したことない正喜撰も出ましたけど、

本来は正喜撰といぅとかなりえぇお茶でね。

あのほら「濃いお茶を飲むと寝られへん」てなこと言ぃますなぁ。

ですから、徳川三百年、太平の夢がたった四杯の蒸気船、

あの黒船が来たんです。

 で、蒸気船と正喜撰と掛けて「太平の眠りを覚ます正喜撰、

たった四杯で夜も眠れず」といぅ。

別にここで正喜撰の説明して宣伝することはないんですが、

実は何を隠そぉわたしあの、お茶屋の倅(せがれ)なんです。

それでね、要らんこと知ったかぶりしてこんなこと言ぅてね。

 また違うとこ行ったら「料理屋の倅や」て言ぃますけどね、

いやいや、といぅのがね、

うちのお爺さんちゅうのは捷(は)しまめな人でね、

あっちこっちにいろんな家があったの。

せやからわたしもあっちで育てられ、こっちで育てられね、

正直のとこ言ぅとどれがホンマのお母んや分かれへんの、わたしもね。

まぁ「お母ちゃん」といぅのがいろいろありましたですがね……

 安政三年に、このハリスが下田の玉泉寺といぅお寺へやって来て、

そこを領事館にしたんですなぁ。

どぉいぅわけでお寺をアレにするんですかねぇ?


だいたいお寺とかあぁいぅとこ、あぁいぅ風になりやすいんですね。

 こないだわたし、二、三日前に人権週間のナニで厚木ぃ行って来ましたけど、

厚木といぅところはホラ、あのマッカーサーがね、レーバンのサングラスかけて、

コーンのパイプくわえて降りて来たとこですが、

あそこへ何であれが来たのかね? 

と思うぐらい、厚木っちゅうとこは未だに大したことないですが、

ハリスさんが来たのが下田の玉泉寺。

 近所にいろんなもんができまして、だいたいが温泉地ですからね、伊豆といぅところは。

ですから向こぉもいろいろ考えて来たんでしょ~ね

「この辺やったら、たぶん保養ができてえぇやろ」ちゅなこと思てたんでしょ~な。

 初めペルリが浦賀に来たときはね、

尊皇攘夷といぅやつで

「夷狄(いてき)討つべし」なんてなこと言ぅて

「目の色の変わったんが来た」ちゅうて。

向こぉは大きな大砲持って来て、

こっちは大砲が無いから、もぉ

「有るよぉな顔せなしょ~がない」いぅて。

 ですからもぉ下田奉行のほぉといたしましても、

あっちこっちから山寺の釣鐘外して来て、

浦賀の海岸へ釣鐘を並べてね、

遠いとっから見たら大砲に見えるやろっちゅうとこですわ。

 ところがそんなもん、

釣鐘では驚きよらへなんだんですけども、

この日本人見てビックリしよったんだ

「オー、ジャパニーズ、タイヘン。アタマピストル、イチョズツアリマス」言ぅてね。

ピストル一丁ずつ持ってる思いよったんですな。

 それからみますと安政三年、ハリスがやって来た頃にはもぉだいぶ開けてた。

アメリカの総領事といぅことでございますから、

アメリカといぅものを一身に背負いましてやって来た。

 そぉなると日本人ちゅうのは接待が好きでっさかいねぇ、

もぉ接待さえしてりゃえぇと考えるんですなぁ。

ですからあんまり表向きで政治するよりも呑みながらのほぉが好きなんです。

 そこで「ハリス殿、今宵は下田の芸者なるものをご紹介いたしたいと存じます」

「オー、ジャパニーズ、ゲーシャガール、ワンダフル、ワンダフル。

  ワタシ、ゲーシャスーキ、ゲーシャスーキ」

 も~、その晩は下田の芸者、総揚げでドンチャン騒ぎ。

と、この下田の芸者の中で、お吉といぅのがいた。

これがすこぶる付きの別嬪で、ハリスがこのお吉を見るなり。

●ワタシー、コノシト、ホシー。オー、ワタシ、コノシトスキー。

  コノシトホシー、イマスグホシー、スグホシ、スグホシ、イマホシー

■「今欲しぃ」と申されても、ハリス殿、芸者といえども日本の女性には操といぅものがござる。

●オー、ミサオ? ワカリマシェーン。コノシト、ホシー、ミサオ、ワカリマシェーン。

 都合の悪いことは何でも「ワカリマシェーン」分からんことあれへん。

下田奉行といたしましても、ここでハリスの機嫌を損じるわけにはいかん。

●ミサオ、ワカリマシェーン。コノシト、ホシー。

  コノシト、ダメ? 

  コノシトダメ、ワタシ、アメリカ、カエリマス。

  ワタシ、アメリカ、カエル、ワタシノクニ、アナタノクニ、セメマース。

■芸者一人で戦争が始まったんではどもならん。

 奉行たるべきものがどぉして女の世話までせねばならんのであろぉか……。

後日、吉左右(きっそぉ)をお届けいたしまするで、本日のところはお帰りを。

 その日はハリスを何とかなだめて帰した。で、お吉を呼んで、

■かくかく、しかじか、こぉいぅわけじゃ、何とか日本の国のためじゃ、ハリスに抱かれてくれ

▲滅相もない、わたくしには鶴さんといぅ、

言交わした男がございます、鶴松といぅものがございます。

どぉぞそればっかりはお許しを。

■いや、そぉも申そぉがな、そなたが首を縦に振らんと戦争が起きるのじゃ

▲どぉしてわたくしが?

■そぉなのじゃ、とまれ、何とか「うん」と言ぅてくれぬか? 

なぁ「うん」と言ぅてくれ、これ、吉、よいではないか……、

あかんか、ならしょ~がない。

 お奉行さんのほぉも、お吉に直接当たってあかんといぅことなればと、

次に手を回しましたのが、このお吉と言交わした男、鶴松のほぉ。

■鶴松、そのほぉ、一生船大工で終わるのが望みか? 

どぉじゃ、この際日本国のためじゃ、お吉を諦めんか? 

いや、タダで諦めと申すわけではない、

そのほぉがお吉を諦めるとあらば、江戸表でそのほぉを武士にとり立てさす。

■よいか、船大工で一生終わるのがよいか、武士になって面目を立てるがよいか。

お吉をとるか、武士をとるか? 

二つに一つじゃ。鶴松、返答をいたせ、どぉじゃ? 

ん、大工で一生冷や飯を食ぅのか? 

武士となって男の面目を立てるのか? 

御国(みくに)のためじゃ。

 昔のやつは「御国のため」に弱かった。

御国のためにて言われると、命投げ出した。

ねぇ、そぉでっせ、わたしらでもひと足違えばね、御国のためでどっか行ってたんだ。

今ごろ木っ端微塵、ねぇ。

あの頃いろんなことあったんですよ「御国のために」といぅだけのことでね……、

まぁそんなこと言ぅてる間ぁないんですが。

 ともあれ「御国のため」といぅ言葉に弱いのと、鶴松、もぉ一生船大工で終わるよりはと。

その頃のお侍さま、士農工商といぅ確実に四段階分かれておりました、

その頂点の武士にとりたててもらえる。

侍になったら、また別のえぇ女が当たるかも分からん。

 お吉を捨てて鶴松は江戸表へ出奔をいたしました。

さぁ、この人だけはと信じていた鶴松に去られたお吉

「え~いッ、こぉなったらヤケクソ」女はヤケクソになると強いですなぁ、

ヤケクソになって使うとこ使やねぇ、お金が入って来る。

 男はヤケクソなって使うとこ使こたら、銭が要るんです。

えらい違いでございます。

たんまり支度金をもらいましたが、心は晴れやらぬまま、お吉は玉泉寺、ハリスの元へ送られる。

 ここんところは歌なんかにもございますなぁ

「♪駕籠で行くのはお吉じゃないか、下田港の春の雨、泣けば椿の花が散る」

と、玉泉寺へまいりましたお吉、もぉ覚悟は決めてます。

▲ハリスさま、お吉はあなたさまのものに相なります

●オー、オキチサーン、
イラッシャイ、イラッシャイ。

マッテマーシタ。

ワタシアナタスーキ、フジヤーマ、ゲーシャガール、ワンダフール、ノーキョー、ノーキョ。

 なんや、何言ぅてるや分からん。

ともあれ、知ってる限りの日本語を並べて

「ハヤクイラシャーイ、ハヤクイラシャーイ」ベッドのほぉへ連れて行ったんですが、

ところがお吉さん、日本人ですからベッドといぅんは具合が悪いんです。

 でもあれねぇ、慣れるとベッドのほぉがいろいろと楽しみ方があるんですよねぇ、

いろんな具合に使いよぉがあるんですが、

どぉも慣れないあいだといぅのはベッドといぅのはフカフカ、

フカフカして踏ん張りよぉがないんですてねぇ(女性の笑声)……、

あら? いろいろと知ってらっしゃる?

 ベッドといぅのは具合が悪い。お吉さん、持参いたしました夜具を玉泉寺の本堂に敷(ひ)ぃたんですなぁ。

そぉすると「オー、ジャパニーズ、マット。

オー、コノウエデ、レスリング、シマショー」もぉ、向こぉは喜んだ。

 「柳」といぅ帯が結ばれております。

片側をスッと引くとキキッキキッ、キュッ。

博多の帯といぅやつは片ほどきますとキュキュキュキュッとこぉ絹と絹ですからねぇ、

帯を解くのに鳴くんです。

 「♪誰に見しょよか博多の帯、帯の鳴く音をこの人に」といぅ歌があります。

   あの帯の鳴く音ていぅのはえぇもんでねぇ、この頃の人は皆ベルトやからねぇ、鳴きよぉがないでしょ。

 伊達締めでもそぉですよ、今は半分混じりっこのやつしはるさかいに結びはるでしょ。

昔はキュキュキュッと巻いて、端だけピッと挟んだぁったん。

端を一つポ~ンと外すと、サラサラ、サラサラサラッ、キュキュキュ……

 蛇がとぐろ巻いたみたいに、足元へスルスルスルスルッと。

で、長襦袢のここ(袖)とここと持ってポンッとこぉ落とすと、長襦袢がサラッと落ちる。

真っ赤な緋縮緬の……、を……、想像してください。

 で、ハリスさんの大柄な体が、小柄なお吉と重なり合って、

はじめのうちはお吉のほぉも泣きの涙で抱かれてたんでしょ~けども、

そこは男と女、度重なってくると、段々馴染んでくる。

しまいには何もかもが何となく懐かしぃよぉな気になってくる。

 と、ある日、ハリスに抱かれていながら、お吉さんの頭に

「あぁ、これが鶴松さんやったらな」といぅのがヒョイッとよぎった途端に、

今まで感じたことのないよぉなエクスタシーがビビビビッ。

思わず「鶴さんッ!」

 あのねぇ、

女の人のあぁいぅ時の声っちゅうのはもぉ男にとってはたまらんのですなぁ、

つられるんですアレに。

ですから昔、赤線華やかなりし頃は「ボンヤ」ってのがあったん。

ボンヤて何やちゅうとね、文弥節といぅ新内のね、文弥から来てるん。

ブンヤが訛ってボンヤになったんですと。

 つまり、高い声で聴かせるといぅわけで、これ偽装なんです、嘘なんです。

ほんとにそんなことはないんですけれども

「♪あぁコリャコリャ」てな相の手言われると、

男はついその気になって、ちゅうのがある。

ところが男のほぉも遊び慣れてくると「なんぬかしてけつかんねん、

ボンヤばっかり言ぃやがって。

一番、本音で鳴くまで責めたろか」てなことになる。

 と、片一方もはじめは芝居のつもりでやってるやつが、

海千山千のやつにかかってくると、どこまでが芝居なのか、

どこまでがホンマもんなのか自分でも分からんよぉになってきて、ついとり乱して「ハァ~ッ」

 「あ~、今日は良かった値打ちあった」てなもんでね、

それがまぁ赤線の楽しみやったんです。

確かあれ、昭和二十……、まだ宝塚の新芸座へ出てた頃ズッと福原から通てたん。

新芸座終わったら福原へ帰って来てね、福原で何して、朝まで福原にいて、ほんで福原から出勤してね。

 あの頃安かった、五円やったからねぇ、なんし泊まりで。

ホンマはね、泊まり八円ぐらいしたん。

でもね、馴染みの女の子がいてね、懐心細いとき下から石をね、

その子の部屋のとこの窓ガラスへポンと当てんのん。

 すると上から中へ五十銭玉を芯にしてね、

でないとお札放ったら飛んで行ってしまうからアレ芯にして上から(五円札を)放ってくれた。

その五十銭はね、オバチャンに茶(ぶぶ)代として渡すん、と、五円で上げてくれるん。

あとはその子が払ろてくれたん、仕事が丁寧やったからね、俺は。

 そぉいぅ時代がありましたが……、

で、お吉も鶴さんが頭によぎった途端

「鶴さんッ!」何や知らんけどもハリスのほぉも励んでると、向こぉのほぉが何ともいえん声で

「鶴さん、鶴さん」

「オー、ツルサン、ツルサン」で、

両方がビビビッとなったん。

 あとで「アレ何やったんか知らん?」とハリスが聞ぃたら、

まさか「惚れてる男の名前や」言われへんさかいに

「日本では、すばらしぃ、感極まったときに『つるさん』て言ぅんですよ」と。

 さぁハリス、それを覚えよったもんやさかい、それからはもぉ朝から

「オキチサーン、ツルサンシマショ、ツルサンシマショ。オキチサーン、ツルサンシマショ、ツルサン、ツルサン」

 そぉなるとお吉のほぉも大っぴらに言えるもんですから「鶴さ~んッ!」

「オツルサーン、ツルサーンッ!」やかましぃ、やかましぃ。

朝から晩まで

「つるさん、つるさん」なんかアデランスの宣伝みたいなもんです。

 「つるさん、つるさん」で、お吉とハリスのほぉはよろしぃが、

たまらんのはお付きのほぉ。

このハリスの侍従といぃますかお付でカリスといぅのがいた。

ハリスの侍従でカリス、かなんですなぁ、朝から晩まで

「つるさん、つるさん」こっちが頭にきよったんだ。

 奉行所へ出て来て、

★オー、オブギョーサン、ハナシ、アリマース。ワタシモ、ツルサン、シターイ

■はぁ? 何でござる?

★オキチサーン、ハリスサーン、ツルサーン、

  ツルサーン。アサカラ、バンマデ、ツルサーン。

  ワタシモ、ツルサーン、ホシー。

■いやあの、鶴さんといぅのは……、

ひょっとするとカリス殿はホモの気がおありでござるか?

★「ホモ?」ワカリマシェーン、ワタシ、ツルサンホシー、ジャパニーズ、ゲーシャガール

■おぉ、芸者をご所望でござるか、

ならば調達いたしましょ~。

奉行所といたしましては、

ハリスは総領事でございますから芸者当てごぉたけども、

カリスは家来やから芸者当てがうことなかろぉ。

呼びよったのが三島から女郎衆を呼んで来た「♪三島女郎衆はノ~エ」の、あれですなぁ。

 あれを三人ぐらい呼んで来よって

「この中からえぇのをどぉぞ」といぅつもりやったんですけども、

カリスはこれ見るなり

「オー、ジャパニーズ、サンニン、サンニン、ツルサン、サンニン、ツルサン、ツルサン、イラッシャイ」

三人連れて行きよった。

 明けの朝になりますと、

★オー、オブギョサン、ツルサン、サンニン、ダメ

■あぁなるほど、カリス殿はさすがに三人では疲れるから、一人にしたいと

★オー、チガマース。コレ、

サンニントモ、ジェンブ、ツルサン、ダメ。

ベツノ、ツルサンイリマース。

■いや、これ日本の女性(にょしょ~)に違いはござらん

★チガイアリマシェン、チガイアリマシェンガ、

コノサンニン、ツルサンダメ。ホカノ、ツルサン、ホシー

■分からん。カリス殿と話をいたしておっては……、いやいや、

手前のほぉで勘考いたすから、しばらくそれにてお待ちくだされ。

■これ、どぉした? カリスが何や言ぅとる、分からん「鶴さ~ん、鶴さ~ん」て何やアレ? 

三人、どぉした?

◆いや「鶴さ~ん」ちゅうのは何や分からしませんねんけどね、

なんしろあきまへんねんわ。

■「あきまへん」て、あかんでは困る、どぉしてあかん?

◆いえあのぉ、カリスさまのな、カリスさまのカリスさんが大きぃのん

■あぁ~、しかしそのほぉらも海千山千、失礼、

あまた千軍万馬のツワモノなれば、それしきのことでは困るが。

◆そら、少々のことはと思いまっけど、なんせ大きおまんねわ。

あんなん、わたしらつぶれますへぇ。

もぉ、とてものことにこりごりで。

わたしら三人ともあきまへん

■三人とも、いかんか……、ん~ん。これから三島へ帰ってな、

お前らの朋輩(ほぉばい)で大きやつはおらぬか、

それをひとつ探してくれ、頼む御国のためじゃ。

 なんぼ「御国のため」と言われてもね、

この三人が三島へ帰ってまいりまして

「大きぃ人……」あのねぇ、小さい人探すのは探し易いんで、

大きぃのんちゅわれても

「わたし、大きぃです」いぅ人はまぁないんでねぇ、

誰も名乗り出る者がない。

 「あぁ、大きぃやつはおらんか……」一方、カリスのほぉは、

★オー、サンニン、ダメデシタ。ツギノ、ツルサン、マダ、キマセン

■近々きっと手配をいたす、カリス殿ご心配あるな。

我が国には江戸表には吉原といぅ所もあれば、

京に島原といぅのもござる、

大阪には飛田・松島・南陽いろいろとございますれば、

すぐに手配をいたしますで、まぁあせらずに。

★オー、ワタシ、ツルサン、シタイ

■分かっとります、分かっとります。

 もぉ、使いの者は早馬を飛ばして日本国じゅ~を

「大きぃのはおらんか?大きぃのはおらんか?」

あちらこちらと探しましたが、これといぅ目途がない。

なんぼ探しても名乗り出る者がない。

 ひょっとしたら……、長崎へ行って丸山を探せば、

丸山では外人を相手のやつがいるから、

中には大きぃのがあるかも分からん。

丸山へやってまいりまして探すと、

◆わたしら、とてものことにこの丸山にいてる人だけで手ぇいっぱい、

それにあんた、そんだけあっちこっちの方が皆

「どないもならん」と言ぅたはるほど大きぃ人、わたしらお相手よぉしまへん

■そこをそぉ申さず、

ここで誰かが名乗り出てくれんことには身共が切腹をいたさねば相ならん。

切腹をいたすこの身はいとわねど、あとに残す妻や子が……

◆そんな大層な話を、まぁそないまで言われたらしょ~がおまへん、

最後の手段といぅのがたった一つおますけど

■最後の手段があるか?

◆へぇあの~、
何ですけども、この丸山に「錐揉みさん」といぅ大夫が

■錐揉み大夫か、その錐揉み大夫はこぉモミモミするか?

◆さよぉではございません。素股、の名人で

■なに、スマタの名人? スマタとは何じゃ?

◆これなぁ、説明しにくいんですけどねぇ、こんなんわ。

つまりですなぁ、男の方のしかるべきものをですな、

そこへ納めずに、腿と腿の間へ挟みまして、

それでこの誤魔化すんです。

■それを「素股」と申すのか? そこへ挿入をいたさず、

股の間へ挟んで、そぉいぅことができる? 

しかしだぞ、その素股といぅのは相手にバレはせぬか? 

もしもこれが相手に悟られたら、

こら国際問題であるからして「こらすまった」ではすまたれんぞ

◆悪い洒落でんなぁ……

◆こぉなったら、それしかしょ~がございません

■しかし、イチかバチかやらねば、身共切腹するかせんかの境じゃ。

でわ早速、その素股の名人

「錐揉み大夫」とやらを下田へ連れまいることにいたそぉ。

 早駕籠を仕立てまして、この錐揉み大夫を乗せて「ハイヨッ、ハイヨッ、

ハイヨッ」下田へ帰って来る。

■カリス殿、この者なれば

★オー、マチカネマシタ、マチカネマシタ。

ハヤクハヤク、コチラヘ、コチラコチラ……

 錐揉み大夫を抱えて入りましたカリスの部屋から

「オー、ツルサーン、ツルサーン、オー、ツルサーン」

といぅのが三日三晩聴こえたといぅんですから大変なもん。

三日三晩いたしますと、さすがのカリスもゲソッとやつれて、

★オー、オブギョサン、タイヘン、ケッコー。オー、ツルサーン、スキー、

ジャパニーズツルサーン、ケッコォケッコォ

■これなればお気に入ってござるか?

★オー、ジャパニーズ、オクユカシィ、ジョセー

■「奥ゆかしぃ」といぅほどのこともなかろぉと思いますが、

奥ゆかしゅ~ござるかな?

★オー、イカニーモ、オクユカシー。

ジャパニーズ、ニホンテーキ、オクユカシー

■何が奥ゆかしゅ~ござるかな?


【さげ】

★オクユカシィデス。ナカニ、タタミ、ヒィテマシタ。

 

【プロパティ】
 ハリス総領事=タウンゼント・ハリス(1804~1878)アメリカの外交官。
   1856年初代駐日総領事として下田に着任。下田条約・日米修好通商条
   約を締結。59年公使となる。62年帰国。著「日本滞在記」
 喜撰(きせん)=六歌仙のうち、宇治にまつわる喜撰法師にちなんで名付け
   られた宇治茶・玉露の商品銘柄。
 正喜撰(しょうきせん)=幕末の頃「喜撰」のまがい物が蔓延したため、本
   物を「正喜撰」と改め販売。あとを追うように「上喜撰」「喜撰山」
   など次々出たという。
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 捷(は)しまめ=はしこくまめまめしいこと。手早く女に手を出すことをい
   う。
 玉泉寺(ぎょくせんじ)=曹洞宗瑞龍山玉泉寺:静岡県下田市柿崎。境内に
   初代米国総領事タウンゼント・ハリスの記念館あり。
 ペルリ=マシュー・カルブレース・ペリー(1794~1858)アメリカの東イ
   ンド艦隊司令官。1853年浦賀に入港して開国を迫る。翌年江戸湾に再
   来し日米和親条約を締結。帰路琉球王国と通商条約を調印。著「日本
   遠征記」。ペルリ。
 別嬪(べっぴん)=嬪は嫁。夫に連れ添う女。奥御殿で、天子のそば近くに
   仕える女官。別嬪:嬪の中でも選ばれた嬪。美人。
 下田奉行=井上清直(きよなお)(1809~1868)1855(安政2)年、下田奉行に
   就任。1858(安政5)年、岩瀬忠震とともに日米修好通商条約調印。
 お吉=斎藤きち。1842(天保12)年、愛知県南知多町内海生まれ。4歳で伊
   豆下田へ移住。14歳で芸妓、17歳のときハリスの侍妾となるも3日で
   解任される。「唐人」という世間の罵声をあびながら貧困の中に身を
   もちくずし、1890(明治23)年、稲生川へ身投げし絶命。
 吉左右(きっそう)=「左右」は便りの意。よいたより。うれしい知らせ。
   吉報。よいか悪いか、どちらかの連絡。
 鶴松=川井又五郎。鶴松は幼名。1857(安政4)年、お吉との仲を裂かれた
   のち1868(明治元)年、横浜で同棲。1871(明治4)年、お吉とともに下
   田に帰り髪結業を営むも不仲のため1876(明治9)年、離別。
 お金が入ってくる=お吉の場合、初期契約は支度金25両、月俸10両だった
   という。しかし、3日で解任され支度金25両と5月分の月俸10両は支
   給されたものの、6月7両、7月5両と減額され、8月には30両の手
   切金で完全解雇となった。
 ♪駕籠で行くのはお吉じゃないか……=唐人お吉小唄(明烏篇):歌・藤本
   二三吉、作詞・西条八十、作曲・佐々紅華。1930(昭和5)年リリース。
 ノーキョ=農協:一時期、農業共同組合(農協)の主催する海外ツアーによ
   り日本人が大挙海外に押し寄せ、日本人のことを「ノウキョウ」と呼
   んだという都市伝説。発言元が日本発か外国発かは定かでない。
 柳(結び)=江戸芸者の標準帯結び。太鼓結びの端を紐で縛らず、だらりと
   下げたもの。
 帯が鳴く=博多帯のなかでも特に品質の良いものへの賛辞。
 ボンヤ使う=大阪の色町における特殊用語の一つで、芸娼妓などが閨中で
   のテクニックとしてわざと嬌声を発し相手を喜ばすことをいう。「泣
   きを入れる」ともいい、それによって客を満足させると共に、客の気
   をそそって早く終らせる手段としたものだといわれる。浄瑠璃語り岡
   本文弥の文弥節から出た語。文弥節は俗に「文弥の泣き節」といわれ
   て、その「すすり泣くような」と評された節調が閨中の叫快に似てい
   るところから、その喜悦の声を「文弥」と呼ぶようになった。
 文弥節=古浄瑠璃の流派の一つ。延宝~元禄年間に岡本文弥が語り出した
   もの。哀調を帯びた語り方で泣き節ともいわれ、一時期、京坂地方に
   流行した。また、佐渡で行われた浄瑠璃の一種。民俗芸能として伝存
   する。
 福原=神戸市兵庫区福原。今でもそのスジのお店がたくさん健在。
 宝塚新芸座=1950(昭和25)年、宝塚歌劇団を作り上げた小林一三が「漫才
   師による劇団の結成」を秋田實にもちかけ発足した演劇集団。ミスワ
   カサ・島ひろし、夢路いとし・喜味こいし、秋田Aスケ・Bスケらを
   中心に宝塚歌劇団の生徒も参加して公演を行った。
 売春防止法=売春を防止するための法律。売春の周旋など、売春を助長す
   る行為の処罰、売春を行うおそれのある女性の保護更生などについて
   規定する。1956(昭和31)年制定。
 アデランス=育毛サービス、ハゲ用カツラ製造会社。
 かなん=困惑する。適わない→適わん→かなん。
 ♪三島女郎衆はノ~エ……=静岡県三島民謡「農兵節」ちなみに「のーえ
   節」ではありませんので念のため。
 勘考(かんこう)=よく考えること。思案。思考。
 かり=雁先:ペニスの先端部分の俗称。亀頭。雁首(がんくび)。
 千軍万馬(せんぐんばんば)=たくさんの兵と馬。大軍。戦闘の経験が豊か
   であること。転じて、社会経験が豊かなこと。
 南陽=南陽新地:1922(大正11)年、浪速区の「新世界」が芸妓居住地に指
   定される。
 丸山=丸山遊郭:長崎の遊郭。近世、江戸の吉原・京都の島原・大坂の新
   町と並び称された。
 素股=2007年現在「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」
   (風適法)による規制対象外行為のため、合法とみなされている。が、
   大阪では府条例でこれらのサービスを行うお店の出店そのものが禁止
   されている。
 音源:露の五郎(五郎兵衛)

 

 

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長 屋 議 会

2015年09月04日 | 落語・民話

長 屋 議 会

【主な登場人物】
 長屋の女房連中  裏のお婆ん

【事の成り行き】
 落語を聞いていると、時代が混乱することが間々あります。江戸時代明治
時代に出来た噺が十分今に通用する。まぁ、人間の営み、特に庶民の営みと
いうのは、今も昔もえろぉ変わらんのでしょう。

 古典落語を聞いて笑えるっちゅうのは「えろぉ変わらんからこそ」やと思
うわけです。ということは、世の中よっぽど進歩したように見えて、ほんと
うのところ……(2001/01/07)

             * * * * *

 え~、長屋の井戸端会議といぅケッタイなお噺をば、一席申しあげます。

 犬養木堂(毅)先生は政界革新のために、三十年来の国民党を解散せられま
した。追いおいと政治危機も近寄ってまいります。向こぉの議会は日比谷の
方に開かれまするから、代表者が朗々と国議の成就を願う。

 貧乏人はまた、裏長屋に井戸端会議といぅのが昔からあります。議事堂も
立派にレンガ造りにでけておる。もっとも、井戸端のことであるから、下だ
けのレンガ造り、上は何にもありません。雨降れば休みます、日和が続くと
三百六十五日議会が開けたぁる。

 あまり法律問題は議しませんなぁ、予算案に重きを置いておる。また、議
会としては予算案に重きを置いてもらわんければなりません。大事のところ
をば削減しますなぁ。女の議員が五、六人も寄るとな……

●あんたとこ今日、何、何のおかずしやんねん? 
もぉ毎日おんなじもんこしらえるとな、
親父がケッタイな顔するさかい、たまにはな、
変わったもん食べさしたい思うの。
えぇおかずの思惑してやったか?

 といぅ「か?」といぅ言葉、こら議案です。

ほな、一方からね、

▲さぁ、それやったらえぇこと教えたげる。
いま、わたいが向こぉの魚屋で買ぉてきたこの鯛みなはれ。
連子(れんこ)鯛たら言ぅてな、頤(おとがい)が出たぁる鯛。
ちょっとお腹のとこ腐ったぁるけどな、たった五銭で買ぉてきたん、安いやろ。
早よ行きなはれ、まだ四、五枚残ったぁったさかい。

 貧乏人は腐ったぁっても、安いのんを喜んどります。また一方からな、

■あんまり日和が続くのでな、
洗濯して糊付けしょ~と思てまんねやわ。
どこぞ糊の安いとこがあったら教(お)せとくなはれ

▲さぁそれやったらな、
東の町(ちょ~)の荒物(あらもん)屋へ行きなはれ、
向こぉの糊、量り(はかり)がえぇで。
五厘がとこ買ぉてきたらな、
褌とお腰と寝巻きに付けてな、
襖の破れ繕ぉて、
まだこんだけ糊が余ったぁるくらい……、
早よ行きなはれ。

 何でも、こぉいぅ具合に安いもんばっかり追いまわしておりまする。

●あの~、ちょっと、お松さん姉ちゃん

■何やねん?

●いや、わて、あんたに話せんならんことがあるのん。
この路地(ろぉじ)のな、奥のほぉに居はる年の若いえぇ男のヤモメはんあってやろ

■はぁはぁ、あのヤモメはん、何や?

●まぁ聞きなはれや、あのお方、何かによぉ気の付く偉い人やし。
昨日(きんの)の朝から家(うち)来てやってな
「ご飯炊きかけてんねんけども、割木が足らんさかいに二、三本貸してくれんか」
言ぅてやの。
わたいな
「そんなこと遠慮しなはんな、近所同士ご互い、わたいとこかてまた足らんもんがあった ら借りに行くねやさかい、
遠慮せんと使いなはれ」言ぅてな……

●大きな声で言われんけど、
家の親っさんこないだそぉ、
ドブ板盗んできてせぇだい割ってたやろ、
あの踏み板の割ったん二枚貸したげたん。
ほたら、
今朝になったらな、まぁ上等の割木四本も返してくれはんねん。
燃やしつけても火ぃの効きが倍から違いまっしゃろ……、
せやさかいわてな、あのお方、
大したもんや思て一人褒めてんのん。

■はぁはぁ、そらもぉ当たり前。
あの人やったらもぉ誰かて喜んでモノ貸すのん。
向こぉへモノ貸したら利回りがえぇし、五割以上に回る。
今日日(きょ~び)ややこしぃ会社の株券持ってるよりな、
向こぉへモノ貸す方がボロイといぅくらい。

■わたいかて、
こないだ入って行ったらな、
ほたら、焼き豆腐のおかずや。
ほでな「加減見てくれ」言ぃはるさかいな
「こんな色の薄いもん食べられへん、
お焼きはしんみり炊かないかんさかいな、
うちの醤油持ってきて貸したげまっさ」て、
こない言ぅたらな、ほたら
「醤油、ぎょ~さんある」と言ぃはんのん。

■「あるやろどけど、うちの醤油まぁいっぺん使いなはれ、
そら焼き豆腐によぉ合うねやさかい」ちゅうてな、
わて走って戻ってな、湯飲みに一杯持って行って目の前でぶっちゃけてきたん。
あれ、当然、辛ろぉて食べられへんやろ思てたん。
それでもやっぱりな、湯飲みにちゃ~んと二杯持ってきて返してくれはんねん。

■せやからわたいな、おんなじ婿はん持つねんやったら、
あんな人、亭主にしたいわぁ。
世間へすることチャンチャンとしたはるさかいな、
女房でも偉そぉな顔がでける。
それに、女ごのもんでもよぉ気が付くで、あぁいぅ人は。

■「夜店へ行ったら、丸髷の型が蔵払いに出たぁったとか」な
「安もんのセルが一円八十銭であった、
洗濯したらネズミの死んだんみたいになるけどな、
サラのあいだごまかせる」とか言ぅてな、
よぉ買ぉてくれはるやろと、わて思うわ。

●それやったら、そら姉ちゃん、あんたよりわてのほぉがずっとよけ思てるで。
もぉな、うちの親っさん、あんなケッタクソの悪いやっちゃろ、わて、
どこぞよそ行ってくれんのん待ってんの。
毎晩あの人の夢ばっかり見てる。
しまいにな、
一緒になってあの人とわたい駆け落ちでもしょ~とかと思てるぐらい。

★これこれ、大きな声で井戸端で何言ぅてなさんのじゃ

●わッ、裏の議長さん来はった。
あの婆さん長いこと議長勤めたはんねん、
今に貴族院に回ろかっちゅう偉いお婆ん。

●あの、聞きなはれお婆ん。
あのな、わてとこが割木二本貸したん、
そしたら四本にして返してくれはんのん。
お松さんかてな、お醤油一杯貸してやったん、
それが二杯になって戻った言ぅてるのん。

★そぉかいな、わしとこでもそぉやで。
夏、洗濯(せんだく)のときな、うちの妹娘をちょっと貸したら……


【さげ】

★じっきに二人にして返してやったわい。

 

 

 

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なまこ

2015年09月01日 | 落語・民話

なまこ


 たしかエライ小説家だったと思いますが、なまこを最初に食した者には敬意を表したい、てなことをのたまっていました。

小説家の想像力をもってしても、あの奇怪な塊りが単に食えるというだけでなく、絶妙な食感を持った珍味になるとは、思いのほかだったのでしょう。

後に続いて、いろんな人が同様のことを言っているのをよく耳にします。

多くの人にとってもやはり意外なことなのでしょう。

 内臓を塩辛にしたこのわたは珍味の代表格ですが、身を単にナマで酢の物にしていただくのもこたえられません。

なまこをふんだんに入れた「なます」なんかは、冷にしろ燗にしろ日本酒にピッタリです。

一度乾燥させてから戻して炒める、干しなまこの中華料理も、そのつるりとした食感はえも言われません。

また、焼きなまこなどというのもあります。

ただ身を炙るだけという、ぞんざいというか、素朴な食し方ですが、ポン酢などでつるつるの食感を楽しめます。

 煮て良し、焼いて良し、ナマで良し、と実に結構な話ですが、なまこはその姿に似合わず高級食材です。

姿、かたちに比例しないのは、味ばかりでなく値段もです。

ただ美味いというだけで、フトコロ具合も勘定せずにいるとヤケドしちゃいます。

 なまこに限らずなんでも、見かけだけで判断するのは危ういものです。

アツモノに懲りてからなますを吹いても遅いのです。

皆々様もゆめゆめご油断なきよう。

 数年ほど前からです。

夏になると奇妙な夜這いが出没するらしい。

狙うは若い娘ばかりで、張りのなくなったような肌には興味がないらしい。

これについては大概の夜這いが同様でしょうが、変わっているのはその夜這いの中味です。

 日中の暑さが夜陰に雲散し、ようやくみなが眠りについたとおぼしき頃合に、若い娘の寝所に四つん這いで忍びこみます。

これも夜這いの本道で、なんら変なところはないのですが、これ以後は指一本娘に触れるではなく、舌一本で事を進めていきます。

しかもへそから下だけです。

足首から太腿の付け根まで舐めまわし、最後のお尻に吸いつくのだそうです。

 娘が途中で異変に気づいてもどうしようもありません。

目はさましたものの体が言うこときかない。

仕舞にお尻が吸い込まれそうになったときは思わず声を漏らしたが、体は心地よい余韻にひたっているだけです。

そんな娘の様子を伺いながら、男は四つんばいのまま後ずさりし、無言で立ち去ります。

 しかしこの夜這いの本領はこうなってからで、その後は夜な夜な娘のもとに通い、せっせと自慢の舌を娘の下半身に這いずり廻します。

娘は娘で男の登場が待ちきれない。

寝入った振りをして男のするがままにしているが、右の尻をがぶりと吸い込まれると、今度はこちらよとばかりに、うつ伏せになって男に左の尻を向ける。

これも終盤に差し掛かるころには、もう娘は耐え切れず、仰向けになりせがむように腰を突き出すことになる。

こうなったら先は見えています

。両手で口を押さえ必死になって防いでいたあえぎ声も、絶頂期におもわず漏れだし、家人の知るところとなります。

 そんな娘が年に二人、三人と出るらしい。

当然犯人探しもおこなわれたが、なにしろ娘たちは男の顔を見ていない。

杳として分からずじまいです。

ただ、その舌はなまこのように巨大で変幻自在、柔軟にして強硬、砂礫のようなざらつきと糊のようぬめりを併せ持ち、悪魔のように細心で天使のように大胆、しかも味には敏感、と実しやかな噂が囁かれているのみです。

はてさて今年はどこの娘が狙われるのか。

いや、すでに餌食になっているのかも。

 大町の後家の久米さん、この噂を耳にしてはたと思い当たります。

最近の娘の様子に合点がいくのです。

このところ日中はぼんやりしているくせに、夕餉を済ませた後は妙にうきうきして、そうそうに寝所に引きこもります。

まさかそんな夜這いの存在は夢にも思い浮かびませんでした。

ここは是が非に確かめねばなりません。

 久米さんは夜ふけには娘の寝所の隣に陣取り、あらかじめ狙いをつけた節穴から件の夜這いが現れるのを待ちます。

娘は寝入っているのかどうか定かではありませんが、半身になって寝息らしきものを繰り返しています。

ほどなく男が四つんばいになって現れます。

頭には手拭いで頬被りし、その面は判然としません。

これでいなせに手拭いを鼻の下で結わえたら鼠小僧の様相ですが、自慢の舌の邪魔を懸念してか、頤の下で巻き込んでいます。

 男は娘の足元に回りこむと、娘の身をおおう薄掛けを娘の前方に折り返し、重ねられた両足をくるむ浴衣の裾を今度は手前に捲くります。

これでふくらはぎがあらわになります。

ここからが事の始まりのようで、まずは挨拶代わりに、娘の上に重なった右の踝をぺろりと舐め、次いでふくらはぎに侵入し這い上がっていきます。

同時に、両手は浴衣の端をつまみ上げ器用に娘の下半身を剥きだしにしていきます。

その間、なまこのような舌は膝頭を経由して太腿に至ります。

この辺は特に念入りに数往復を費やして舐めつくす。

 そしていよいよお尻です。

右臀部外周を舌の裏側でぐるりとなぞったかと思うと、舌を反転させ尻の中央部にぺたりと貼りつけ、おもいっきり吸い上げた。

これには娘も本当に持ち上げられるような感覚に身を固くしますが、舌がはがされるときには力が一気に抜け自然とうつ伏せになり、左の尻を男の目の前に晒している格好となります。

 ここまでくれば男はもう遠慮はなく、浴衣の裾は帯を折り返しにめくり上げ、左領域に取り掛かります。

左臀部外周を一周した後、義理堅く踝までストレートに下り、そこから右でやったことを同じく繰り返します。

これがお尻まで戻ってきて吸い込まれるころには娘の我慢も限界です。

尻に張り付いた舌がはがされるや、仰向けになり腰を突き出し、催促します。

男はすぐには応じません。まず、ぬめつく舌の表側でへそ下三寸を丁寧に舐めまわすとざらつく裏側で痛痒く逆にたどり、陰部はわざと迂回し、太腿に向います。

ここからは左にいったかと思うと右に移り、上に向かったかと思うと下に下り、神出鬼没、縦横無尽、八面六臂の活躍で娘の股間は大きく門を開きます。

娘をじらしにじらし、最後の最後に中央に分け入り総攻撃、完全撃破です。

 ぐったり疲れ果てた中にも満足の笑みを浮かべる娘を月明かりに見て、男は無言で闇に消えていきます。

四つんばいで後ずさりしながら。

頬被りしたまま。

 満足できないのは久米さんです。

節穴から一部始終を覗きながら、なんで娘だけがあんな美味しい思いを、と憤懣やる方なしです。

それで一計を案じ、

「明日は迎え盆、亡ぐなったオドォをオラが西の寝間で迎えるがら、オメは今日がら東の寝間で寝れ」

 これは娘には困惑です。

いままでこんなことはなかったし、今夜いい思いをできないのも残念な話です。

東の寝所は西の寝所を通らなければ出入りできません。

とても夜這いを招き入れるどころではありません。

それより夜這いに来てあの男はどうするだろうか。

私でないと気づくだろうか。

母親は私とそっくりの体形。

気づかずに私と同じことをするかもしれない。

気づいても同ことをするかもしれない。

どっちにしろ我慢できない。

あるいは気づいて、二度とここには現れないかもしれない。

それも困る。

「なしてオラの部屋でねば駄目だのだ?」

「亡ぐなったもんはみんな西がら帰ってぐるに決まっているべ」

「なして今年に限ってオドォが帰ってくると思うだが?」

「オドォが亡ぐなって10年、そろそろオラを恋しがってるのが分がるのしゃ」

「もしオドォが来ながったら?」

「オドォがやって来るまで待つ」

「オドォに一度会えれば、それでいいのだが?」

「なんも、オドォがもうエェていうまでだ」

「あのぅ、もしもの話だども、オドォ以外の男が現れだら?」

「そりゃオドォの使わした者だ、オドォと思えばエェ」

 絶望的だ。

男が気づいても気づかなくても、母親に同じことすれば、母親は男がやって来る間中ずっと西の寝間を占領することになる。

男が気づいて退散したとしても同じだ。

だれかがやって来るまで母親が居座ることになる。

なんとかしなければならない。

そこで一計を案じ、

「オッカー、寝巻き、こごさ置いておぐど」

 湯屋にいる母親にパリッと糊の効いた浴衣を用意します。

ただ、そのちょうど尻の当たる部分には粗塩がたっぷりなすり付けられています。

 久米さん、色白の肌で体形は娘そっくり、年不相応に若く見られます。

といってもそこは四十路の女性、いかに風呂上りの潤ったお尻でも、浴衣に塗りこめられた粗塩に触れなば一瞬にしてこれを溶かし水分はあっという間に吸い上げられ、残るのは年相応のしょっぱいお尻、というナメクジに塩作戦です。

 そんな事つゆ知らず、湯上りの身を浴衣で包んだ久米さん、臀部に多少の違和感を感じながらも、うきうきと西の寝所に向かいます。

 期待と興奮になかなか眠りにつけないながらもウトウトし始めた矢先、足元の薄掛けがそっとはがされるのに気づきます。

そして浴衣の裾がめくられ、夜風がスーと股間まで通り抜けます。

と、なまこの如き舌の裏側でしょうか、ざらりとした感触が踝を一周したかと思うと、舌を反転さたようで、えも言えぬぬめりがふくはぎを這い登っていきます。

ただ、その動きは娘のときに比べ滑らかさに欠けます。

男もいつもとの微妙な違いにまごついているのでしょう。

首をかしげる気配もあります。

 それでも太腿に至るころには男も己を取り戻し、誠心誠意舐めまわします。

予想以上の快感に、久米さん、必死で嗚咽を押さえています。

娘に気取られてはならぬと枕の端を噛みしめますが、この快感がお尻まで這い上がってきたときに果たして耐え切れるか不安になるほどです。

 そしていよいよそのお尻です。ざらりとした感触が右臀部外周を一周したかと思うと、えも言えぬぬめりが中央部にぺたり、

「うっ!」

 男が一声漏らすと、ぬめりは潮が引くようにスーと遠ざかっていきます。

続いて男も無言で遠ざかっていきます。

四つんばいで後ずさりしながら。

頬被りしたまま。

「なんじょした?これからだべ。こんたなどごで止めるどはどういう料簡だ」

 男の返答はありません。

茫然自失の久米さんです。

いったい何があったんだ、と男が最後に一舐めしたお尻をさすると、ざらりと塩の粉を吹きがさついた尻の感触。

「あの野郎、オラを年寄りど思って途中でほっぽりだしただが」

 怒り心頭の久米さんです。このままでは済ませません。

そこで一計を案じ、

「オドォはあの世さ帰っだがら、オメはまだ西の寝間で寝れ。寝巻きはこごさ置いでおぐがらな」

 同じ経験したものは、成功体験だろうが失敗体験だろうが、同じようなことを考えるものとみえます。ただこちらは唐辛子です。

ものがものだけに塗り込める場所は慎重を期します。

いくら刺激には鈍感な臀部でも、陰部に近かったらエライことなります。

ちょうどお尻の出っ張りが当たるとおぼしきところにピンポイントで、唐辛子を煮詰めた煮汁を塗り込めました。

 湯からあがった娘は浴衣に身を包み、いそいそと寝所に向かいます。

臀部に多少ひりひりする刺激を感じながら。

娘は、二日ぶりにあの快感に身を任せられるという期待と、男が昨日に懲りてもう現れないのではという不安がないまぜになっています。

 昨日は特別だったんだということ男に分からそうと、心持ち顔を上に向け、寝入った振りをしていると、いつもの時分に男はやって来ました。

いつもの娘に戻っているのが確認できたのでしょう、安堵している様子が窺えます。

そのせいか、いつも以上に迅速かつ丁寧に事が進められていきます。

 踝に始まりふくらはぎを通って太腿を入念に舐めまわし、臀部外周をくるりとひと回りし、お尻の出っ張りを見定めて、ベロリ、

「ヒー」

 男の悲鳴と同時に板戸ががらりと開き

「逃がさねど、この夜這い野郎」

 久米さんが鬼の形相で仁王立ち、右手には出刃包丁を握り締めている。

男はそれを見てもまだヒーフー言っている。

「なんだ、なにが言いでごどあったら、最期だ、聞いでやるぞ」

「したな包丁持ち出して、なんじょする気だ」

「オメェの舌ばなますにしてやる」

「それだばありげてぇ。アツモノにはもう懲りた」

 

 

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藪医者

2015年09月01日 | 落語・民話

藪医者

よく下手な医者の事を「藪医者」と申します、これは、昔、カゼなどが流行りますと、 腕の良い医者は、お大名、侍、金持ちの商人などから引っ張りだこで、庶民のところへは なかなか来てくれません、で、ああ、いいよ、たいした病気でもなし、カゼなんだから、 町内のへっぽこ医者にでも見てもらおう、なんてんで、カゼが流行ると、声がかかって、 あっちへ行ったり、こっちへ行ったりで、カゼであっちへ行ったり、こっちへ行ったりす るんで、ヤブなんだそうでございまして、なかには、たけのこ医者なんてのもございます、 どう言うのかってぇと、まだ、ヤブになる前なんだそうで、こんな医者にかかったら、目 も当てられません、あの方もなんだねぇ、医者にかからなければ、死なずにすんだのに、 なんてんで、ひどい医者がありますもんで。

町人「すいません、先生、いますか、あの、すぐ診てもらいたいんですけど。」

医者「おお、患者か、どのようなあんばいだ。」

町人「ええ、うちの裏の竹に、花が咲いてしょうがないんですよ、竹は花が咲くと枯れる なんてぇことを言うんで、一度、専門家に診てもらおうと。」

医者「おいおい、何を血迷っているんだ、うちは医者だ、竹のことだったら、植木屋にで も診てもらうがいいだろう。」

町人「でも、こちらは藪医者、と伺いましたけど。」

なんてんで。


町人壱「おい、何を怒ってんだい。」

町人弐「なんおって、ここのへっぽこ医者の野郎だよ、ここんとこの流行病で、何を血迷 ったか先生診てもらいたい、なんてんで、呼びにきた野郎がいるんだよ、ってぇと、 あの野郎、めったに来ない患者だってんで、血相変えて飛び出しやがって、うちの 子供が遊んでいた、ええ、子供がいたら、手でどけるがいいじゃあねぇか、それを 野郎、足げにしていきやがった、ちくしょうめ、野郎、帰って来たら、顔がはれ上 がるくらい、ぶん殴ってやろうと思って。」

町人壱「なに、あの医者に蹴飛ばされた、いやぁ、そりゃよかった。」

町人弐「何言ってやがる、蹴飛ばされて、いいわけねぇじゃあねぇか。」

町人壱「いいや、よかったよ、あの医者の手にかかってごらん、今ごろは、生きちゃぁい ないよ。」

なかには、手遅れ医者なんてのがございまして、患者を見る、途端に手遅れだ、と言っ てしまうんですな、もう、手遅れと言ったんですから、患者が死んでもしかたありません し、たまさか、治ってしまえば、手遅れを治したってんで、名が上がる、とうまい事を考 えましたが、そうそううまくいくとは限りませんで。

町人「先生、ちょっと、この怪我人、診てもらいてぇんですけど。」

医者「ううん、こりゃ手遅れだ、もう少し早いと助かったんだが。」

町人「手遅れですか、でも、今二階から落ちて、すぐ、連れて来たんですよ。」

医者「う、ううん、落ちる前ならよかった。」

落ちる前から医者には来ませんけれども、中には、葛根湯(かっこんとう)医者なんて んで、どんな患者にも、この葛根湯と言う漢方薬を飲ませてお終いにしてしまうと言う。

医者「ああ、次の方、どうしました。」

患者壱「ええ、どうも頭が痛いんですけれども。」

医者「頭が痛い、ふんふん、頭が痛いのは、頭痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、 次の方、どうしました。」

患者弐「ええ、あっしは、腹が痛いんですけど。」

医者「腹が痛い、ふんふん、腹が痛いのは、腹痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、 次の方、どうしました。」

患者参「ええ、あっしは、足が痛いんですけど。」

医者「足が痛い、ふんふん、腹が痛いのは、足痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、 次の方、どうしました。」

町人「いいえ、あっしは病人じゃねぇんで、こいつが足が痛くて、一人じゃ歩けねぇんで、 いっしょに付いて来ただけなんで。」

医者「おお、そうか、付き添いか、ご苦労だな、葛根湯をお上がり。」

 

 

 

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付け焼き刃

2015年09月01日 | 落語・民話


付け焼き刃

 付け焼き刃は、剥げやすいとか申しまして。
若い衆「権助さーん、おはよう。」
権助「あ、おはようごぜぇます。」
若い衆「今日は馬鹿に寒いなぁ。」
権助「おらがのせいではねぇだ。」
旦那「権助、権助、お前、なんだ今のあいさつは、町内の方が、今日は馬鹿に寒いなぁと言ったら、おらがのせいではねぇだって、そんな挨拶をしていちゃ商売の切っ先がまなっていけない、そういう時は、ああ、お寒うございます、この分じゃ山は雪でしょう、ぐらいの事を言いなさい。」
権助「ああ、そうかね、じゃ、おらあしたからは、そう言うべぇ。」
 なんてんで、その次の日になりますと。
若い衆「権助さーん、おはよう。」
権助「あ、おはようごぜぇます。」
若い衆「今日は馬鹿に寒いなぁ。」
権助「あーあ、寒いだなぁ、この分じゃ山は雪だんべ。」
若い衆「おおい、聞いたかよ、権助さん、ちゃんと挨拶が出来たよ。」
 なんてんで、こうなると当人も嬉しいと見えまして、毎朝、雪だんべー、雪だんべー、 とやっておりましたが、そうそう、寒い日ばかりは続きませんで、ある時、大変に暖かい日がございまして。
若い衆「権助さーん、おはよう。」
権助「あ、おはようごぜぇます。」
若い衆「今日は馬鹿に暖ったかいなぁ。」
権助「あーあ、暖ったかいだなぁ、この分じゃぁ、はぁー、山は火事だんべ。」

 

 

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親子三人馬鹿

2015年09月01日 | 落語・民話


親子三人馬鹿

落語の方には、おろかしいやつが出てまいりまして、馬鹿でございますが、馬鹿にもい ろいろ種類がありますようで、四十八馬鹿、あるいは百馬鹿、色気のがあるかと思うと、 食い気のがあったり、さまざまでございまして、中には、兄弟で馬鹿、親子でなんてんで。

弟「あんちゃん、あんちゃん、一年ってのは、十三か月だな。」

兄「馬鹿だな、そんな事を言ってるから、近所の人が、みんなお前の事を馬鹿だ馬鹿だって言うだ、一年は十三か月じゃねぇ、十四か月だ。」

弟「そんな事ないよ、あたい、今聞いてきたんだから、じゃ、数えてみようか、一月二月三月四月五月、六月七月八月九月十月、ううん、十一月十二月お正月、ほらみろ、やっぱり十三か月じゃねぇか。」

兄「馬鹿、お盆が抜けてら。」

なんてんで、てめぇの方がよっぽど抜けておりまして。

弟「あんちゃん、来年のお正月とお盆は、どっちが先に来るのかい。」

兄「そんな事は、来年にならなきゃ分からないじゃないか。」

ってぇと、それを聞いていた親父が。

親父「うん、さすがに兄貴だけあって、考えがしっかりしている。」

なんて、変な親子があったもんで、これもある愚かしい弟が、夜道端で物干し竿を振り回しておりまして。

兄「おい、お前なんやってんだい。」

弟「あ、あんちゃんかい、あのね、今お空でピカピカ光っているお星様がきれいだから、この物干し竿で、取ろうと思って。」

兄「馬鹿、こんところで、物干し竿振り回したって、星なんて取れるもんか、星はもっとうんと高いところにあるんだぞ。」

弟「そうなの。」

兄「当たり前だ、屋根へ上がれ。」

なんてんで、二人で屋根へ上がりまして、物干し竿を振り回しておりますと、それを親父が見つけまして。

親父「おおい、おまえたち、何をやっているんだ。」

兄「あ、おとっつぁんかい、いまね、おとのやつが、お空で光ってるお星様取ってくれってぇから、この物干し竿で取ろうと思って。」

親父「馬鹿、そんな所で、物干し竿振り回したって、星なんざ取れやしねぇ、降りてこい、降りてこい。」

兄「じゃ、おとっつぁん、あのお星様ってのは、いったいなんなんだい。」

親父「いいか、よーくおぼえとけ、あれは、雨の降る穴だ。」

 

 

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