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泉佐野市役所から強制回収された「はだしのゲン」を持って帰る各校長先生
原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」について、大阪・泉佐野市の教育委員会が、内容に差別的な表現があるとして、小中学校に図書室から移動させ、回収していたことが分かりました。
漫画「はだしのゲン」は、2012年に亡くなった被爆者で漫画家の中沢啓治さんが、みずからの体験も交えて、原爆の悲惨さを描いた作品です。
作品について大阪・泉佐野市の千代松大耕市長が、「人権上、ふさわしくない表現があり問題だ」と指摘し、市の教育長は小中学校に対し、本を図書室から校長室に移すよう要請したうえで、2014年1月には教育委員会に本を提出するよう指示しました。
この指示で、13校から合わせて128冊が回収されましたが、小中学校の校長会は、「特定の価値観によって読むことさえ出来なくするのは子どもたちへの著しい人権侵害だ」として、指示の撤回を求めていました。
これについて教育委員会は今月、7人の教育委員が協議し、各学校が児童や生徒に、漫画にある差別的なことばは使わないよう指導することを前提に、本を返却することを決め、20日までにすべて返却したということです。
泉佐野市のやり方は本末転倒と言いますか、差別用語が含まれているからといって一律に回収してしまえば、その作品に子どもたちがアクセスできなくなるのであり、知る権利が完全に侵害されます。差別用語の問題どころでない人権上の問題を生じてしまいました。
そもそも、はだしのゲンに「きちがい」「乞食」などの差別用語が含まれていることを問題視したというのですが、本当は天皇の戦争責任の問題など鋭くえぐっていたりする同作品の社会性が問題にされたのではないでしょうか。この市長は大阪府大阪市に続いて入学式や卒業式で教職員に君が代斉唱を義務付ける条例を導入した人ですからなおさらその疑いがあります。
過去の作品には今の感覚からして差別的な要素が含まれうることは当然です。そのときに一律に強制回収して作品に子どもたちが触れられないようにするというのは、教育の観点からも許されないことです。時代背景を含めて子どもたちに伝えていき、差別用語が許されないことはもちろん教えるとともに、差別的表現にかかわらないその作品の本質的価値を子どもたちにわかってもらう丁寧な努力が、教育現場には求められます。
今回の事件も、行政の首長が自分の価値観を教育委員会に押し付けたことが発端になっています。政治は教育には極力介入すべきでないことも肝に銘じるべきでしょう。
ミニ橋下というべき、モンスター首長があちこちにいるようです。
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「はだしのゲン」各学校に返却 泉佐野
◇校長ら批判の声相次ぐ
原爆の悲惨さなどを描いた漫画「はだしのゲン」について、泉佐野市教委が市立小中学校の図書室から回収した問題で、市教委は20日午後、各校に「ゲン」を返したが、校長からは批判の声が相次いだ。
中藤辰洋教育長が市役所に集まった校長13人に「ゲン」を返却。受け取った宮本純子・同市立校長会長(長南中校長)は「読みたいと思う子供の気持ちを尊重するべきだと思い、違和感があった。すぐに元に戻したい」と語った。
別の校長は「松江市教委で閲覧制限をしたのと同じでやり過ぎ。きちんとした説明もなかった」とぶぜんとし、ほかの校長も「憤りを感じる。こんなやり方はやめてほしい」と批判した。
この問題を巡っては、昨年11月、千代松大耕(ひろやす)市長が「きちがい」「乞食(こじき)」など作品中の言葉を挙げ、「何らかの対応が必要」 と中藤教育長に伝達。それを受けた中藤教育長は、各校に「ゲン」を図書室から校長室に移すよう指示し、今年1月、13校から128冊を回収していた。
毎日新聞 2014年03月20日 15時16分(最終更新 03月20日 16時48分)
「はだしのゲン」 を小中学校の図書室から撤去させていた大阪府泉佐野市。千代松大耕(ひろやす)・泉佐野市長は計測機器メーカー社員や市議などを経て、2011年4月、自 民の推薦で市長に初当選した。入学式や卒業式で教職員に国歌斉唱を義務付ける条例を大阪府や大阪市に続いて制定。府が12年に行った学力テストについて、 府教委の方針に反して学校別結果を公表したり、市の命名権の売却先を公募するなどし、議論を巻き起こしてきた。
「はだしのゲン」 の撤去・回収については20日、市長と中藤辰洋教育長がそれぞれ記者会見し、経緯を説明した。市長は「今の時代、差別的表現を見て見ぬふりはできない。目 についたものから対応を考える必要がある」と述べた。さらに、「市民の指摘で実際に読み、人権担当の部署にも意見を聞いた。その結果、不適切な表現につい て、子供たちにきちんと指導をする必要があると考えた」と説明。松江市の事例も承知したうえで判断したといい、「批判は起きるかもしれないが、見逃してい いとは思えない」と話した。「作品中に出てくる天皇制や反戦についての主張を問題視しているわけではない」としている。
市教委は回収した本を段ボール3箱に入れ、カバーをかけて倉庫に保管。「子供たちの人気も高く頻繁に読 まれている作品」(市立校長会)だけに、ぼろぼろになったものも多い。教育長は「教育委員にも集まって見てもらう必要があり、たくさんの部数があった方が 良いと考えた。一律に回収ということは迷いもあったが、今は望ましくなかったと思う」と釈明した。【山田泰正、松井聡
毎日新聞 2014年03月20日 15時08分(最終更新 03月20日 17時37分)
「はだしのゲン」を小中学校の図書室から撤去させていた大阪府泉佐野市。「差別的表現が多い」という判断だが、物語の舞台の被爆地・広島の人たちは、ゲンを遠ざけようとする動きを懸念し、識者は「人権教育の観点からもおかしい」と批判した。
「当時のありのままを表現したものなので『なぜ』という気持ちだ。昨年も(松江市で)暴力的表現を問題にされたばかりなので残念でならない」
ゲンの作者、故中沢啓治さんの妻ミサヨさん(71)は、松江市教委が市立小中学校図書室でゲンの閲覧を 制限していた問題にも触れ、悔しさをにじませた。その上で「差別的表現が問題ではなく、『ゲン』が狙い撃ちされているのではないか。今回もいかにして読ま せないようにするかを考えた結果だと思う」と話した。
また、広島県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長は「『はだしのゲン』 は、原爆の悲惨さと共に、そこに至った戦争責任を描いている。松江市の閉架措置のときは残虐だ、今回は差別的だというのを理由にしているが、実際は戦争責 任の部分が気に入らないのではないか。戦争の実態と向き合うことを嫌う流れが強まっているように感じる」と懸念を示した。
ゲンの閲覧制限が問題となった松江市。ある市立小学校の校長は「学校図書館で教育的配慮は当然必要だ が、一つの絵や表現をもって『良くない本』と判断していいのか。特定の本を置くか、置かないかは学校が判断することで、市が一斉に決めていいのか」と泉佐 野市教委の判断を疑問視した。
泉佐野市で2人の子どもを小学校に通わせる団体職員の男性(45)は「わざわざ、回収までさせるような 話なのか疑問。そもそも図書室にはたくさんの本があり、その中に同様のケースが見つかった場合はどうするつもりなのか。今回の市長や教育長の対応は思いつ きのような軽率な行動だ」と話す。
一方、日本図書館協会「図書館の自由委員会」の西河内靖泰委員長は「ゲンは反差別の図書」とする。「差 別を批判しようとすれば、批判の対象として差別的な表現が使われるのは当然。大阪は人権教育に力を入れているが、泉佐野市は人権教育を理解していないので はないか。『教育的配慮』と言って一方的に排除する論理は間違っている」と批判した。【中里顕、高橋咲子、曽根田和久、杉本修作
戦争や原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」を大阪府泉佐野市教委が1月、市立小中学校の図書室から回収し、子どもたちが今月19日まで読めない状態になっていたことがわかった。作品に「差別的表現が多い」として問題視した千代松大耕(ひろやす)市長(40)の要請を受け、中藤辰洋教育長が指示したという。
市教委は20日、各校に返すとともに、差別的表現について何らかの指導をするよう求める方針だという。
市教委や校長らによると、昨年11月、中藤教育長が一部の小中学校に「市長が『ゲン』を問題視している。図書室から校長室に移して子どもらの目に 触れないようにしてほしい」と口頭で要請。今年1月には、市立小中学校18校のうち、「ゲン」を所有する小学校8校、中学校5校に対し、市教委に漫画を 持ってくるよう指示した。集めた作品は市教委が保管していた。
松江市教委で「暴力描写が過激だ」として市立小中学校の図書室で閲覧を制限していた問題が昨年8月に発覚したのを受け、泉佐野市教委は各校に「ゲン」の所有状況を調査していた。
千代松市長によると、市長自身も作品を読んだうえで、「きちがい」「乞食(こじき)」「ルンペン」などの言葉について、教育長に「問題が多い」と伝えた。時期は覚えていないという。
千代松市長は取材に対し、「漫画の内容ではなく、差別的な表現が問題だと思った。泉佐野は市全体として人権教育に力を入れており、教委には、漫画を読んだ子への個別指導が必要ではないかと伝えた」と話した。
一方、泉佐野市立校長会は1月23日、「特定の価値観や思想に基づき、読むことさえできなくするのは子どもたちへの著しい人権侵害だ」として、回収指示の撤回と漫画の返却を求める要望書を教育長に提出していた。
中藤教育長は「市教委が閲覧制限のようなことをしたのは望ましいとは言えないが、不適切な表現があるのは事実。市長が求めるように、読んだ子を特定して個別指導するのは物理的にも困難だが、何らかの指導は必要だ」と話した。(編集委員・西見誠一、倉富竜太)
表現の自由に詳しい独協大法科大学院の右崎正博教授(憲法)の話 作品は作られた時代の影響を受けており、今日的な観点から「問題がある」として作品全体を見せないのはよくない。漫画の一部を捉えて、本全体を読めないようにすることが許されれば、人権教育を通り越して言論弾圧につながる。「ゲン」にとどまらない重大な問題だ。
教育委員会が権力的立場から一定の制限をすべきではないという松江市の教訓が生かされていない。もし差別的な表現で問題があるというならば、批判的な見方もあることを示せば足りる。受け手の判断に任せるべきだ。もし、読んだ児童・生徒を個別指導するとなれば、誰が読んだか調査することになり、かえって重大な問題を引き起こしかねない。
■「全体を見て」作者・故中沢啓治さんの妻ミサヨさん
「はだしのゲン」の作者、故中沢啓治さんの妻、ミサヨさん(71)は「一部分だけを取ってそのように扱うのは、とても残念。夫が生きていれば怒って、反論したと思う。ゲンは、子どもたちに強く生きて欲しいというメッセージを込めた作品。全体を見てほしい」と話した。
差別的表現が問題とされたことについては「あくまでも、漫画としての当時の描写。もしゲンが文章だけの作品だったら、これほど読み継がれなかったでしょう」と話した。
◇
〈「はだしのゲン」と閲覧制限問題〉 「ゲン」は広島の原爆で父やきょうだいを亡くした故・中沢啓治さんの自伝的漫画で約20カ国語に翻訳されている。2012年、松江市議会に市民が「誤った歴史認識を植え付ける」と、小中学校からの撤去を陳情。不採択となったが、市教育委員会が「暴力描写が過激」などとして、市立小中学校に閉架を求めた。批判をうけ、市教委は閲覧制限を撤回。その後、神奈川県や東京都などでも、「描写が残虐」「国歌を否定している」と、撤去などを求める請願・陳情が相次いでいる。
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まさか此処までに為るとは小説家の「有川 浩」さんも想像したくなかったでしょう。
大勢の人が親族や友人・知人を残酷な死に方で亡くしました。
政治の失敗による戦争のせいで。
戦争へと突き進む際に利用された一大プロパガンダが天皇・国旗・国歌です。
国民の多くが国歌に複雑な思いを抱くのは当然でしょう。
その当然の権利を奪うことを「当然」とする思想や行為には先の戦争に対する反省はこれっぽちも感じられません。そして深い反省無しには平和を維持することなど到底無理です。
現在の平和を有り難く思うならば、戦争による犠牲の事実を全て知らせることが唯一の反省維持の方法であり、「はだしのゲン」はその内容の殆どが戦争に対する怒りと悲しみと反省で成り立っている貴重な歴史資料だと思います。
今のアメリカに正規軍で戦争を仕掛ける国がどこにあるのでしょう。
ありもしない危機を煽って戦争したがる。
戦車に乗って戦闘機に乗って笑って写真撮られている安倍さん。
そんな子供みたいな脳みそを持った安倍さんが首相なんて。
・2月末「『新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部』が、広島への原爆投下を扱った「はだしのゲン」について、「国歌の否定や天皇に対する侮辱のほか、残虐なシーンが描かれ、県青少年保護育成条例に抵触するとして県条例で定める有害図書への指定および子供の発達段階に応じた閲覧への配慮を求める陳情を県議会に提出した」という報道があった。その報道に接しまず想起されたのは、1933年成立したナチス政権がその思想に合わぬ書物を「非ドイツ的」とし、「純粋な」ドイツ語と文化を守るためと称して焼却したプロパガンダの催事「ナチス・ドイツの焚書」である。「子供の発達段階に応じた閲覧への配慮」といえば聞こえはよいが、戦時の現実は漫画で描かれた「残虐なシーン」を遥かに凌ぐ。漫画の描写からさえ児童生徒の目をそらせようということで戦争の惨禍・悲惨さの現実をどうやって伝えることができるのか。いやむしろ戦争を美化する道を開きかねない。ドイツの詩人ハイネは「焚書は序章に過ぎない。本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」とその作品中で述べたそうだ。戦争否定を訴えようとする書物を「悪書」と排除することはナチス・ドイツの焚書と変わるところはない。