維新の党の「分裂劇」の舞台が、いよいよ法廷の場へと移る。

 維新の党は2015年10月30日、維新の党の「党員名簿」の返還を求め、党を除名した大阪維新の会の総務会長・東徹参議院議員と大阪本部の事務職員の島松洋一氏(事務局長)の2名を相手どり、大阪地裁に提訴した。さらに、東議員と島松氏が政党交付金などの引き出しに必要な「印鑑」と「通帳」も囲い込んでいるとして、「威力業務妨害」の罪で東京地検特捜部に刑事告訴もした。

 大阪地裁はすでに訴状を受理し、東京地検特捜部は現在、受理を検討しているという。

 

 維新の党は松野頼久代表の任期満了に伴う代表選を12月6日投開票で実施すると決めており、代表選を国会議員、地方議員、一般党員も含めた「1人1票方式」で行うためにも「党員名簿」が必要だ。また、分裂劇の影響で代表選が延期されたことで、党は、党員に党費を返還すると約束していたが、党費の引き出しには当該銀行口座の「印鑑」と「通帳」が必要となる。

 橋下徹大阪市長が8月28日に国政政党「おおさか維新の会」の設立を宣言して以降、維新の党は松野氏ら執行部の「残留組」と、橋下新党に合流する「おおさか合流組」の間で分裂協議を続けていた。

 協議はまとまらず、東議員は10月14日、突如として、「党運営事務の一切の権限を委任された」とする「通知書※」を松野氏ら執行部に提出した。東議員はこれらの行動が「反党行為」にあたるとして除籍処分を受けたが、党員名簿や印鑑などを管理している維新の党本部(大阪)の事務職員らは東議員の「通知書」を根拠として東議員の指示に従い、松野氏ら執行部側の再三の返還要求にも応じることなく、党員名簿、印鑑などを死守している。

※東徹議員「通知書」10月14日付
http://oneosaka.jp/news/20151014tsuchisho.pdf

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松野頼久代表「党務に支障が出ている。断腸の思いだが、党員名簿を返してもらいたい」

松野頼久代表

▲提訴を受け、記者会見する維新の党・松野頼久代表

 今回の提訴にあたって国会内で記者会見した松野頼久代表は、「党員名簿は、大阪の党員は10%にも満たない。9割は大阪以外の皆さんが集めた党員だから、是非、今回の代表選を実施するにあたって党員名簿を返還してもらいたい」と主張した。

 提訴について、「党務に支障が出ている。断腸の思いだが、党員名簿を返してもらいたいということで提訴に踏み切った」と説明したが、一方で、東議員らが党員名簿を開示さえすればすぐに提訴を取り下げるとの見解を示した。

提訴の趣旨は「法人所有のものを個人が不法占有している」こと

 今回の提訴に関して記者団にブリーフィングを行った維新の党・新潟県総支部代表代行で弁護士である米山隆一氏である。米山弁護士は、「『泥仕合』、『訴訟合戦』と言われるのは心外だ」と訴え、今回の提訴は、維新の党が「法人」として、業務を妨げる「個人」に対して行ったものであることを強調した。

 「おそらく東議員らは何もできない。法人として訴訟を提起するには『資格証明』が必要で、資格証明とは今回は『登記』のこと。向こうが『維新の党』としての訴えを提起しようとしても、法人を代表していることが証明できないので、彼らは個人として対応するしかない」

 米山弁護士が公表した維新の党の登記には、松野頼久氏が代表であると明記されている。党員名簿などは「維新の党」という法人に属するものであり、代表権限もない人物が党員名簿などを占有する資格はない。つまり、提訴の趣旨は至ってシンプルで、「法人所有のものを個人が不法占有している」というものである。

「彼らの主張は、維新の党の正当な行為を妨害することでしか成立していない」

 「百歩譲って」と、米山弁護士は説明を続ける。

 「彼ら(おおさか合流組)が『(10月24日の)臨時党大会』で執行部になったとして、政党を解散すると決めた場合、『残余財産』を配分しなければならない。しかし、彼らは自分たちだけで処分すると言っている。解散すると決めたら予算を独占する権限がある、という主張だ。これがまともな話なのか」

 さらに、「党員名簿は車やお金ではなく、複製できる。我々も名簿が開示されれば訴訟は取り下げるといっている。ではなぜ開示しないのか。それは、我々が党員大会を開けば臨時党大会の正当性がゆらいでしまうからだ」と指摘。そのうえで、「彼ら(おおさか合流組)の主張は、維新の党の正当な行為を妨害することでしか成立していない」と痛烈に批判した。

「松野代表」の正当性を自らリードし、文書で認めていた橋下徹氏

 さらに驚くべきは、2014年12月23日に維新の党の代表を辞任したはずの橋下徹大阪市長が、登記上は、2015年8月27日まで代表だったということだ。8月27日は橋下氏と松井一郎大阪府知事が大阪市長、大阪府知事のダブル選挙に専念することを理由に離党を表明した日である。離党するまでは代表であった、ということだ。

登記

▲松野氏が代表であること、橋下氏が8月27日まで代表だったことを示す登記 米山弁護士ブログより( http://www.election.ne.jp/10840/98569.html )

 橋下氏らは主に、(1)前代表・江田憲司氏は、5月19日に辞任し、維新の党は代表、執行役員が不存在となっていたため、松野氏の代表選出そのものが無効である。(2)仮に松野氏が代表だったとしても、規約により、任期は9月30日で切れている、と主張しているが、橋下氏が8月27日まで代表だったのであれば、(1)の「松野代表の選出時は執行部が不在だった」という前提が崩壊する。

橋下徹氏が真っ赤なウソをついていた決定的証拠の開示!〜橋下氏の真っ赤な実印が押された松野代表選出の「決定書」

 さらに今回、米山弁護士らが大阪法務局に開示請求した結果、代表選出の法的有効性を示す決定的証拠となる文書の存在が発覚した。文書は「決定書」と題されたもので、松野氏が代表に就任したことを登記するために法務局に、「政党法人格付与法(※)」に基いて提出した書類だ。

※政党法人格付与法
第七条の二  第四条第一項の規定による法人である政党において前条第二項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、その日の翌日から起算して二週間以内に、その主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければならない。
2  前項の規定による登記の申請書には、前条第二項各号に掲げる事項の変更があったことを証する代表権を有する者の記名押印した書面(代表権を有する者の変更があった場合には、他に代表権を有する者があるときは当該変更があったことを証するその者の記名押印した書面とし、他に当該書面を作成することができる代表権を有する者がないときは当該変更があったことを証する代表権を有していた者及び代表権を有するに至った者の記名押印した書面とする。)を添付しなければならない。

 この「決定書」には・・・

・5月19日に江田氏の後任にあたる代表者を選任する議事が開かれたこと。
・議長には橋下氏が選ばれたこと。
・後任の代表者を選任するにあたって、議長である橋下氏の指名に一任されたこと。
・橋下氏が松野頼久氏を代表に指名したこと。
・出席者の満場一致で指名が承認されたこと。

 …などと明記されていた。

決定書

 「決定書」には、条文に沿うように、橋下徹氏、江田憲司氏、松野頼久氏らの印鑑も押されていた。橋下氏が自ら松野氏を代表に選出し、法的根拠となる「決定書」まで作成し、提出していたのだ。なぜ、いまになって橋下氏が維新の党執行部の正当性を問題視するのか、いや、問題視できるのか、はなはだ疑問である。橋下氏は政治家としてだけではなく、弁護士としても適格性を欠いているのではないか。

 米山弁護士が、10月27日に初めてツイッターで登記の問題を指摘してから10月30日時点まで、橋下氏はこの問題に対して無言を貫いている。郷原信郎弁護士らが松野氏ら執行部の正当性を認める「法律意見書」を作成した際には、「スカスカの意見書」「スカスカの弁護士」などと、わずか30分の間に計7度も「スカスカ」という言葉で反撃していたのに、である。

 郷原信郎弁護士は、「おおさか合流組」が、維新の党の代表が変更されたものとして党の代表変更届を提出する行為などは「偽計業務妨害罪」に当たるとし、また、松野代表が記名押印していないにもかかわらず、松野代表名義の「代表権を有していた者の記名押印した書面」を作成して提出した場合には「有印私文書偽造」になり、さらに、「臨時党大会」なるもので選任されたとする「新代表」への変更登記申請を勝手に行えば、虚偽の申立てをしたことになり、公正証書原本等不実記載未遂罪に該当し、それによって不実の登記を行わせた場合には、公正証書原本等不実記載罪に該当すると指摘している。

「橋下氏の主張はSNSでは結構だが、法廷では一笑に付される」

 橋下氏は維新の党の分裂が決定的となって以降、自身のツイッターでたびたび維新の党執行部を激しく非難し、その正当性を否定してきた。

Twitter1

▲https://twitter.com/t_ishin/status/654553062212702208

Twitter2

▲https://twitter.com/t_ishin/status/655857733476814848

 こうした橋下氏の主張について、米山弁護士は「橋下氏の主張はSNSでは結構だが、法廷では一笑に付される。考慮する必要も反論する必要もない。大半の法曹人はそう思うはずだ」と一蹴。「法廷であのような主張をしても、『執行部の代表権に不服だ』という人間がいることがわかるだけで、それ以上でも以下でもない」と突き放した。

 さらに、「訴訟には時間かかる。しかし、アクションを起こさないとダラダラと続く。これでこちらは本気だと伝わった。もし橋下さんたちが譲らないのであれば、失笑もののトンデモ解釈を法廷の場で開陳し、裁判官に一笑に付されればいいのではないか」と苦笑した。

 「おおさか合流組」が24日に行った臨時党大会後、橋下氏は、「本日成立した維新の党の新執行部は松野氏を有印私文書偽造、同行使罪で告訴することを決定した。維新の党は、週明け、松野氏を刑事告訴するようだ」とツイートしていたが、1週間経った今も、「おおさか合流組」が松野氏を刑事告訴する気配はない。口先だけの虚勢だった可能性が高い。

 橋下氏は、なぜこんな虚言を公然と吐きつづけることができるのか。なぜこんな人物が事実上率いる政治勢力が、NHKの日曜討論(※)において結党大会前から、公然の政党扱いされるのか。なぜ彼らのような集団が、官邸で官房長官と会談できるのか。

 「明文改憲」のため、中身も質も何でもいいから数合わせのために右派議員の数が必要だ、というだけで、後生大事にされ、マスコミも腫れ物にさわるような扱いをしているのだとしたら、世も末である。

(取材・記事:原佑介 文責:岩上安身)

(※)日刊IWJガイド 「本日15時からは、翁長知事への支持を表明する学者による記者会見! 昨日行われた学者と学生のシンポジウムには、1300人の人が詰めかけ! NHK日曜討論は今日もヘンテコリン!」2015.10.26日号~No.1139号~

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橋下徹氏は今年8月まで維新の党代表だった

法廷闘争で露になる維新の党の自己矛盾

同党のホームページも、異例の状態になっている

維新の党の分裂を巡る争いは法廷に舞台を移し、いよいよクライマックスを迎えようとしている。

党の存続を主張する松野頼久氏らは30日午前、除名した東徹参院議員と大阪側の事務局長を相手に、党員名簿の返還を求めて大阪地裁に提訴した。

松野氏らはさらに同日夕方、東氏らが政党交付金を管理する銀行口座の通帳と印鑑を引き渡さないとして、威力業務妨害罪で東京地検特捜部に告訴状を提出している。

一方で31日に結党大会を開く予定の橋下徹大阪市長は、11月2日に新党設立届けを総務省に提出することを表明。党の分裂を巡る争いは裁判で行われるという、憲政史上前代未聞の展開になっている。

党員名簿、党費を巡る争い

「代表選を行う上で党員名簿が必要なのに、大阪は一向に返還してくれない。党として支障が出ている。よって断腸の思いで提訴に踏み切った」。30日午後に会見した松野氏は、民事訴訟に至った動機をこう語った。

だが松野氏らが党員名簿の返還を求めるのは、代表選への準備だけのためではない。9月に決定した党費の返還問題も絡んでいる。それはどういうことなのか。

維新の党の党規約によれば、党の代表選は代表の任期が終了する年の9月に行わなければならない(第8条第4項)。同規約は代表の任期を3年と定めている(同条第3項)が、結党時に暫定的に共同代表制を採用したため、江田憲司前代表の辞任により代表に就任した松野氏の任期は、今年9月末日までとなっていた。よって9月内に代表選を行うべく、準備が行われていた。

党勢拡大のために国会議員も一般党員も「1人1票」という画期的な制度が採用され、積極的に党員募集が行われた。これによって9135名だった党員数は5万2696名と、4万3561名も増加した(9月4日現在)。党費2000円をかけると、8712万2000円もの増収になる計算だ。これを一元的に管理していたのは、大阪の維新の党の本部である。

党費があるのは三井住友?りそな?

しかし安保法制で通常国会が9月27日まで大幅延長されたことで、月内の党大会開催は不可能と判断された。よって維新の党執行部は9月10日に党大会を延期し、党費を返還することを決定した。これについては分裂した後の東京も大阪も、その意向に変わりはない。だが実際のところ、党費の返還は極めて困難な状態だ。維新の党の議員がその事情を説明する。

「大阪は、集めた党費を三井住友銀行の口座で管理していたはずだった。この口座は凍結されていないので、我々は党費の返還を求めていた。ところが大阪は、党費は凍結されたりそな銀行の口座に移していたので、出すことができないと言ってきた」

だがそれでは、大阪側も自分たちが集めた党員に党費を返すことができない。

「我々は、双方の合意に基づいて党費の金額分だけ口座凍結を解除しようと提案したが、大阪側は自分たちが集めた党員の党費の解除のみを主張してきた。それでは我々が集めた党員には、党費は返還されないことになってしまう。これはとうてい受け入れることができない」(同議員)

その背景に、党員の構成がある。松野氏側によれば、新規党員数は激増したが、そもそも大阪系の国会議員が集めたのはその6%未満にすぎず、地方党員が集めた分を含めても10%に満たない。橋下氏はとかく維新の党を「自分が作った党」と大阪の優位を主張するが、実態はそういう構成ではないというのだ。

ちなみに今回の分裂騒動の原因のひとつが、この「東西格差」だと言われている。「代表選を控え、このままでは東京側に主導権を握られてしまうと焦った大阪系が分裂に走った」と解されている。

さらにこの度、民事訴訟を起こすことで興味深い事実が明らかにされた。昨年12月に代表を辞任したはずの橋下氏が、維新の党を離党する今年8月まで、実は党の代表であったという事実だ。維新の党の代理人を務める米山隆一弁護士が30日夕方にブリーフィングを行い、それを説明した。

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これが決定書

「代表を変更するには、政党法人格付与法に基づいて新代表の選任を証明する書類を添付しなければならない。訴状を書いていて、読んでみたいと思ったので、大阪法務局で開示請求した。一般には閲覧不可能だが、松野代表から委任状をもらっていたため、閲覧できた」

確かに「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」の第7条の2では、代表者に変更がある場合は変更の登記をしなければならず、同第2項は、変更を証する代表権を有する者の記名押印した書面を添付することを求めている。

その書面が、5月19日に大阪の本部の事務所で橋下氏と江田憲司氏が審議し、松野氏を代表に選任した経緯が記載された「決定書」だ。そして「議長 代表」として橋下氏、「出席代表」として江田氏と松野氏の氏名が記載され、押印されている。

江田氏は「覚えていない」

「不思議なのは橋下氏についての記載の部分だ。すでに昨年12月23日、維新の党代表を辞意表明している。それなのにどうして、この決定書には代表として書かれているのか」(米山氏)

しかも江田氏はこの「決定書」について、「覚えがない」というのだ。「几帳面な江田氏に『記憶がない』とは考えられない」と、米山氏は訝しがる。

この謎は、いずれ民事訴訟で明らかにされることになるだろう。東京地検特捜部に対する告発も、受理される可能性は残っている。この際だから、全てをすっきりと片づけるべきだ。そうでなければ政治不信は払しょくできず、野党再編は進まない。

 

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