山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

Comet,Come To Me

2014-10-09 23:10:21 | 音を楽しむ

 

コメット・カム・トゥ・ミー
Me'shell Ndegeocello
Pヴァイン・レコード

 私は周りに詳しい人がいたせいで、いろいろなジャンルの音楽を聴くようになりました。ロックやフォーク系、R&Bというかソウル系、ヒップホップ、ブルース、ジャズ、ファンクなどブラック・ミュージック系は特に大好きで、ボサノバ、レゲエなどワールド・ミュージック系やカントリー系やクラシックも少々聴いています。

 洋楽だけでなく邦楽も忘れず、古い世代~新しい世代の音楽も気になったらチェックするようにしています(最近はあまりじっくり聴く時間がありませんが、今はネットで試聴できるようになった良さはありますね)。

 音楽の世界でも、アコースティック生演奏系と電子プログラミング最先端系?、スローでしっとり聴かせる系とテクニカル速弾き系、お上品保守系と前衛パンクハチャメチャ系みたいに?なんとなく時代の経過の中で、いろんな角度のニ極がせめぎ合っている傾向がありますよね。

 根本的には、スローで生演奏保守系の方が私は好きな傾向なのですが、マンネリから脱却するためには様々な試行錯誤が必要ですし、新しさを追求するアプローチにも時々ながら耳を傾けないと世の流れを実感できませんよね。

 私は電子系も全否定はしませんが、機械だけが新しくなった?みたいな感じが強すぎるより、そのような新しい要素と人の手を動かして楽器を弾いている感じとのバランスの方が大切なのです。また、以前と同じ制約の中でいかに以前とは違う新鮮な質感を出すか?の方がイマジネーションを必要とするように思うのです。

 長い前振りになってしまいましたが、そういう意味で私が一番好きなミュージシャンはこの人―ミシェル・ンデゲオチェロなのです。

 彼女は息子さんがいるにもかかわらず同性愛??という感じで、彼女の中で相容れないものがせめぎ合っているようなのです。

 美輪明宏さんからマツコ・デラックスさんまで、そういう系の人って女でもあり男でもあるという白黒分けられぬボーダーラインの存在のせいか?何らかの分野のバランス感覚に優れた人が多い気がします。

 白黒分けようとし過ぎる現代社会の中で苦労は多いのでしょうが、様々なヒントを与えてくれる存在かもしれませんね(昔から優れたアーティストには心の中に何らかの意味で引き裂かれてしまったものを抱える人が多いのかもしれません)。

 ミシェルのライブには3回行ったことがありますが、彼女はとても小さく、ほとんど眼を閉じているので、お地蔵さんのようでした(最近はメタボ気味で心配)。

 ンデゲ地蔵様を拝みに最近は忙しくて行けてません……が、今回のニューアルバムはとても素晴らしいです!生演奏と電子音のバランスも良く、1曲目のFriendsはヒップホップのカバー曲―不思議な逆回転電子音みたいのがド派手ですが、切れの良いドラムやリズム・ギター、ベースも生演奏……若い人にも受けそうなのでクラブでもかかっているかな?

 2曲目のTomになると打って変わって昔のソウル調―この曲を彼女と共作しているギタリスト、ドイル・ブラムホールは最近のエリック・クラプトンの右腕的存在だそうです。

 少し?ドリカムとの競演でも有名なソウル・レジェンド―デビッド・T・ウォーカーを思い出させる感じのギターの響きが心に沁みます(最近テレビを見ていたら…タイでは女性から男性になった人をトムと呼ぶ…とのこと。この曲にもそういう意味が込められているのか?それにしても今作は、別れを想起させる曲が多いですね。パートナーとの別れでもあったのでしょうか?)。

 今作は、ロック調やレゲエ調の曲もいくつかあり、今まで以上にバラエティに富んだ作りなのですが、不思議な統一感があります。凡庸なミュージシャンがこういうことをやると支離滅裂となってしまうんですけどね。

 彼女は親子関係が難しかったらしく、基本的にネガティブ思考な感じなのですが、それを世の中の様々な悲しみに対する共感性に転化させ、脳天気ではないポジティブさも感じさせてくれます。現実逃避ではない真の意味でのヒーリング・ミュージックといった所でしょうか(気軽な現実逃避をしたい人向きではないかも?)。

 アルバムのタイトル曲Comet,Come To Meはテーマはある意味暗いのですが、レゲエのリズムと高音のコーラスのせいか?前々作Weather収録のChanceではいまいち違和感のあった彼女独自の音楽のポップ化にも成功しているように思います。暗いけど、明るい?とてもバランスの良い曲ですね。

 10曲目のFolie A Deuxというタイトルを見た時、「何か見覚えがあるな~」と思っていたら東大教授の柴田元幸さん(あのオザケンも柴田ゼミ出身らしい)が翻訳した「私たちがやったこと」の原題ではないですか!作者のレベッカ・ブラウンもそういう系の人なので、ミシェルもこの作品を読んだのか?これはフランス語で「ふたり狂い」という意味で、感応精神病―2人で妄想を共有する状態とのこと。

 レベッカ・ブラウンの小説はかなり過激な描写から始まりますが、象徴的にとらえると、同性系の方々に限らず、この小説で表現されているような危うい依存関係の2人組っていますよね。何らかの意味で裏切られ続けたような人ほど、このような方向に行きがちなのかもしれません。

 ミシェルの歌詞の内容は「私たちがやったこと」とはちょっと異なり、フォリ・ア・ドゥな2人の別れの曲のようです。レベッカ・ブラウンの小説も2人の関係が重く感じ始めた人などに何かの示唆を与えてくれそうです(なかなか出会えないレベルの短編!オススメです!)。

 11曲目のChoicesは、現代の多様化し過ぎた選択肢の中で迷っているすべての人々に向けられたようにも感じられる素晴らしい曲ですね。

 続くModern Timeは、欲望に駆られて止まることのできない現代社会の中、楽しみだけでなく悲しみも知り、どちらからも痛みがもたらされることを忘れないで……と歌います。

 彼女の音楽は、ジャンルの違いや古いアプローチ、新しいアプローチなどあらゆる枠組みを自由に飛び越えてゆくため、カテゴリーの呪縛にとらわれていると難解に感じてしまうかもしれません。が、現実逃避ではない癒しを得たい人にはオススメです!国内盤はP-vine recordsから出ています

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