山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

治らない傷

2022-11-27 07:52:52 | 診療よもやま

 

さて、この猫ちゃんなんですが、見ての通りかなり臆病で…

 

写真を撮ろうとしても、逃げようとして動きまくり、このようにブレブレとなってしまうのです。

(上の2つの写真は問題が解決し、少し落ち着いた後の写真です)

この子は、なんと一年も前からこの大きな傷が治らず、当院に来院されました。

皮膚のたるみもそれなりにあり、縫合手術もしやすい部位と思われたのですが、この気質なので色々とやりにくかったことが想像されます。

体重が7.6kgもあったし……

このケースでも傷が白ボケており、かいたりしているせいか?服を着せられていました(ここまで治らないということは、ステロイド内服?)。

これも取りあえず精神安定作用のある漢方とクラシックな抗菌薬を出してみました。

 

10日で傷口が清潔になり、すっきりしてきたので、このまま内科治療を継続することになりました。

 

 

その結果、1カ月弱で、ここまで傷が小さくなってきました!

 

その2週間後には、更に傷は小さくなってきました!

ここまで小さくなったのなら…と外科的ではなく内科的治療を継続することになりました。

 

そして、その後1カ月くらいで傷はなくなりました。

 

しかし転院してきた症例を侮るなかれ……

 

治ったと思った2日後、再び傷がパックリ開いてしまいました。

(精神安定作用のある漢方薬もやめたせいで、激しく動くようになったからか?)

このようなケースでは、内科的治療のみの場合、瘢痕収縮しながら傷が治っていきます。

それは大きな傷であるほど、縮んでいった部分に緊張が残ってしまうことを意味するのです(時間もかかる)。

やはり常法に従って、外科的にテンションがかからない縫合をするべきなのか?

でも、この子はびっくりするほど治療に対して非協力的な子だから…入院もストレスが……

…というわけで相談の結果、再び精神安定作用のある漢方を含めた内科的治療となり、2週間後にはここまで傷が小さくなりました。

そして傷が完全に癒合してからも油断せず、精神安定作用のある漢方だけは継続してみると、再発しませんでした。

 

この子の例はかなり特殊ですが、経済的なことも含め、神経質だったり、凶暴だったりするために教科書通りにできないケースが臨床現場では多々あります。

そのギャップの狭間に生まれるのは、科学的に正しいこと以外は切り捨てる治療なのか?科学的には矛盾するが現場としては仕方のない治療なのか?

正義や優しさをまとった欲望が、それらの中に微妙に混ざり合い、せめぎ合っているので、なかなか難しいですね。


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