山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

The Omnichord Real Book

2024-03-27 20:06:08 | 音を楽しむ

遅れましたが、ミシェル・ンデゲオチェロのニューアルバムが昨年出ていました。

最近じっくり音楽を聴く時間がないのですが、時を顧みると危ない時代には、時にさりげなく、時に大胆に素晴らしいアートが生まれているのでしょう。

前作はカヴァー・アルバムだったためミシェル的にはキャッチ―な曲も多かったですね。今作はジャズ名門レーベルであるブルーノートに移籍とのことで、キャッチ―な曲は少ない感じです。

でも…人を集めてなんぼなミュージシャンには深刻な新型コロナ、 Make Me Wanna Hollerと歌いつつマーヴィン・ゲイのように叫べないもつれをもたらした両親の死…を経て、Good Day Badと歌っていたミシェルが、ようやくGood Goodと歌えるようになったんですね!

コロナ禍ロックダウンPC画面生活に疲れていたとき、日本の鈴木楽器製作所が作ったオムニコードなる電子楽器をいじっていたら着想が得られたとのこと――ネットにつながらないで音楽に集中できたのがよかったようです(Rolling Stone Japan)。

ジェフ・パーカージョエル・ロスブランディ・ヤンガーなどゲストも魅力的ですが、個人的には、仏教的なことを歌っているというBurn Progressionからプリミティブであっても新鮮に響くVumaへの流れが好きですね。

このアルバムなんと先月グラミー賞を受賞しました!!

多様性という言葉が空回りしがちな昨今、アーティストの中で最も多様性を体現してきたミシェルが受賞したことはうれしいです!

反面、10回もノミネートはされていたので今更かという感情も湧き上がり、そんなグラミー賞だから注目もしておらず、これを書いている過程で受賞を知る、という遅れぶりとなりました。

2021年にもロバート・グラスパーとH.E.R.ことガブリエラ・ウィルソンと共作のこの曲でグラミー賞を受賞していたんですね。

ジョージ・フロイド事件を発端として広がったBLM運動から生まれた曲らしく、怒りを超えた静かな諦念のようなサウンドが想像力を深く刺激します。

フィリピン人の母とアフリカ系アメリカ人の父との間に生まれ、多様性を体現する新世代であろうH.E.R.も身体に響くいい声です!

彼女はこの曲のエンディングのように自分でギターなども演奏し、従来のR&Bの枠組みを飛び越えてますね。

R&B系のミュージシャンが興味本位でロック的なことをやってもハマらないことが多いのですが…ミシェルたちと共演するのも納得のタレントです。

インタビューを読むとブルーノートに移籍したからジャズ寄りになるということでもないようですが、この曲がとても好きなのでついでにアップします――ベース・プレイに集中したインストだけのアルバムも聴きたいですね!

(なんとサン・ラにインスパイアされた新作が4月に発売とのことですが、ブルーノートから出るわけではない?!)

この曲は危ない時代である今だからこそ、より多くの混乱した心に響いてくれるように思うのです。2005年に発表されたこの曲などもグラミー賞を取るべきだったのでは?

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History Repeats

2022-07-08 21:29:41 | 音を楽しむ

Alabama Shakes - Sound & Color (Official Video)

恥ずかしながらアラバマ・シェイクスのことは全く知らなかったのですが…アップル・コンピューターのCMでこの曲が流れた時、最初はボケーと聴いていたけど、グッと引き込まれる何かを感じました。

よく聴いてみると女性なのか男性なのかわからない声で、シンプルで静かな曲なのに魂からしぼり出されたような力強い響きを持っているんです。

この曲を歌っているブリタニー・ハワードのお母さんは、イギリス人とアイルランド人の祖先を持つ白人で、お父さんはアフリカ系アメリカ人と白人黒人のハーフだそうです。

ブリタニーのお姉さんジェイミーは13歳の時、網膜芽細胞腫という眼の癌で亡くなってしまいました。その後すぐに両親は離婚という不幸が続きます。

遺伝傾向が強いようで、ブリタニーも同じ病気にかかり、片目を失明してしまったのですが、一命を取りとめたとのことです。

生前、お姉さんに作詞やピアノを教えてもらっており、一人ぼっちになってしまってから、お姉さんが残したギターをクローゼットから引っ張り出して弾き語りを始めたそうです。

ブリタニー初のソロアルバムは、お姉さんの名前Jaimeというタイトルになってます。

Brittany Howard - History Repeats (Official Audio)

世界的に危ない時代になり、ネットのせいで以前の時代よりも複雑な形の分断が進んでいますが、ブリタニーの作ったこの曲が身に沁みますね(2019年のアルバム)。

日本は、テレビなど報道の自由の世界ランキングも下がり続け、先進国G7の中で最下位ですからね(日本の国力の衰退をあらわにした「報道の自由」ランキング71位の衝撃

歴史から学ばないと、何だかわからないうちに、どこか他人事だった不幸の歴史が自分の身に降りかかってきます。

面倒なことですが、フェアな社会や平和を実現していくためにはどうすればいいのか?過去や他国に起こった悲劇の背景を学び、自らの身に置き換えて考えていくしかないのでしょう。

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やさしさで溢れるように/亡くなった愛犬への歌

2022-05-15 20:07:44 | 音を楽しむ

JUJU 『やさしさで溢れるように』

風呂あがりにふとテレビをつけたら、「関ジャム」という番組で、この曲が紹介されていました(まさかこの曲で紅白初出場になるとは!)。

もともと小倉しんこうさんが亡くなった愛犬への思いを込め作っていた歌詞を、プロデューサーの亀田誠治 さんが喪失感を持つ多くの心へ響くよう変更したのだそうです。

「柴犬が大好き」という小倉さんの亡き愛犬は、花ちゃんという名前だったのですね。

ハァハァと舌を出しながらニコニコ笑顔の柴犬の姿が浮かんできます。

せわしないデジタル化の中、外からだけでなく、心の内側からほんのり湧き上がる温もりを与えてくれたのでしょう。

そういえば亀田さんは、椎名林檎さんのバンド東京事変やミスチル桜井さんのBank Bandのベーシストでしたね!

この曲は、歌詞もいいけど曲もよく、番組でも解説されていましたが、ベースがカッコイイですね!

洋楽をたくさん聞いていると、邦楽に対して上から目線になりがちですが、ふとした瞬間…どこにも無駄な力みを必要としない瞬間、日本語の歌詞が染み入ることがあります。

(言語を超越するもの、外国語だからこそいい歌詞もありますが…何よりも日本人ですからね)

愛犬への思いを知ってからこの曲を聴くと…職業柄、様々な飼い主さんとワンちゃん、ネコちゃんとの別れが思い出され、胸がキュッとなります。

亡くなってしまうと、ぽっかり空いてしまった現実的な空虚感だけにとらわれてしまいますよね。

でも、この曲を聴いて、それまでのよき思い出や感謝の気持ちを忘れないようにしよう…と思いました。

What's Love?

JUJUさんの歌も素晴らしく、その他の楽曲からも黒人音楽が好きなことが感じられ、気が合いそうです。

何せJUJUという芸名は、私の大好きなサックス奏者ウェイン・ショーターのアルバム「JUJU」からとっているんですものね。

追記:最近、ある本の中にはさんだまま忘れていた記事を見つけました!

JUJUさんは、デビューしてから、頑張って発表した曲が連続して売れず、全人格が否定されるほどの痛みを感じていました。

そんな心のままニューヨークへ行き、弱音を吐いていると友人のラッセルさんは言いました。

「その痛みが、今すぐ君を殺すほどでないなら、それは君を強くする」

同じ頃、プロデューサーの木村武士さんにも

「やめたいならやめれば。ただ、自分を裏切るのは自分だけだよ」

と言われたそうです。

自分の可能性を最後まで信じるしなやかさをくれた、忘れられない二つの言葉の話です!)

 

※ブログの仕様が変わりアマゾンのものが貼り付け方がわからないので、タワー・レコードのものを張り付けています。

ジュジュ +2

ちなみにJUJUとは、ハイチで使われるVoodoo(ブードゥー)という言葉の元になったアフリカの言葉なのだそうです。

私は、ジョニ・ミッチェル経由でジャズ~フュージョンを聴くようになったせいか?コルトレーンよりもショーターの音色が好きなんですよね(ジョニ・ミッチェルのアルバムではソプラノ・サックスですが…)。

ショーターは、サポートに回った方がいい仕事をする傾向があるようですが(ジョー・ザビヌル談)、初期の頃のリーダー・アルバムはけっこう好きです。

ナイト・ドリーマー<期間生産限定盤>

一番好きなのは、このアルバム…学生時代、ウィントン&ブランフォード・マルサリス兄弟がこの中のBlack Nileをよく一緒に練習したというエピソードを本で読み、聴いてみたのです。

マイルス・クインテット時代より洗練されてない感じですが、その初々しさがあるからこそ、肩ひじ張らずに聴けるようにも思います。

夢の中へ引き込まれるようなマッコイ・タイナーのピアノで始まるタイトル曲Night Dreamerもいいし、ワン・ホーンで演奏されショーターのテナーの音色が美しいVirgo、脱力系ながらディープなCharcoal Bluesも好きです。

でもなぜか、私が一番聴きたくなるのは、古い中国の歌が原曲というOriental Folk Songなんですよね(他の黒人ミュージシャンだったら選ばない曲でしょう)!

手数のみでない重量感を持つエルヴィン・ジョーンズのドラム、マッコイ・タイナーのピアノ・ソロ、終盤にホーンのタイミングをずらすショーターのアレンジなど…なんだかくせになるのでオススメです!!

Oriental Folk Song (Remastered)

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Flor

2021-04-05 19:48:17 | 音を楽しむ

フロール

春は風が強い日も多いですが、次々と草木が芽吹き、花が咲き始める季節です。

そんな季節に向けて最近発売されたのが、このアルバム…タイトルのFlor(フロール)とは、ポルトガル語でフラワー=花という意味なんですね。

ポルトガル語が公用語であるブラジルの音楽=ボサノバをテーマにしたジャズということなのでしょう。

ボサノバって、カフェなどでもよく流れているので聴きやすいんですが、デヴィッド・ボウイの曲やバッハの無伴奏チェロ組曲(マチネの終わりにでも触れました)までカヴァーする中で、それだけで終わらない、複雑な思いが込められているように感じます。

何せ、グレッチェン・パーラトが二人のお子さんを生んで、11年ぶりに出したアルバムですからね!

泥沼でもがき苦しむような日には響かないでしょうが、そんな中でも毎年どこかで花は咲いている…そういうことになるべく気づけたらいいのに…。

(この件に関連する以前のブログ記事→ねえ だっこしてリサ・ラーソン ショコラ→この記事のコメント欄をお読みください

 

詳しくは彼女へのインタビューを読んでみてください。 

Interview Gretchen Parlato『Flor』-花というテーマに込めた美しさ、生、死、目覚め、女性としての自分|柳樂光隆 Mitsutaka Nagira|note

以前、グレッチェン・パーラトの編集盤がリリースされたとき、僕は 「グレッチェンの声が聴こえるところに行けば、そこにはいつも新しいジャズが...

note(ノート)

 

フランク・ザッパ バントのベーシストだった父を持つ彼女は、ウェイン・ショーターやカマシ・ワシントンとも共演しているんですね。

話題のドラマ大豆田とわ子と三人の元夫でも彼女がフィーチャーされていたのでビックリしました(『大豆田とわ子と三人の元夫』の豪華すぎる音楽)!

なんと脚本の坂元裕二さんが作詞したAll the sameという意味深なタイトルの曲を歌っています…『カルテット』も面白かったけど、すごい方ですね!(両方とも超オススメです!)

 

さて、ついでに紹介するのは、ボサノバとソウルが絡み合ったこのアルバムです。

スターライト・ラウンジ

(こちら STARLITE-LOUNGE-BRIGETTEの方がジャケはいいのですが、日本盤のみのボーナス・トラックSometimesはレゲエ調でなかなかいい曲です!)

2005年に発売されたアルバムですが、これもブラック・ミュージックのべヴィさをボッサ・テイストがふんわりと包み込んでくれていて、バランスのいい傑作に仕上がっていると思います。

彼女の名前でネット検索しても動画などがヒットしなかったのですが(スペルが微妙に異なる名のミュージシャンがいて混乱!?)、彼女もライオンと格闘中なのか(このアルバムは彼女が結婚したばかりの時に出たんですよね)?何か知っている人がいたら教えてください!

共にしっとりした始まり方をするアルバムですが、暖かくなる、これからの季節のBGMにオススメです!!

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マチネの終わりに

2020-02-07 20:15:43 | 音を楽しむ

 

終わり良ければすべて良し……誰でも耳にしたことのある言葉だと思いますが、これはAll is well that ends wellというシェイクスピア作品からきているんですね。

でも世界中で加速化する、不正やウソがあってもデジタルでマジョれば?…という風潮に人類は飲み込まれ……よくよく振り返れば、時を経る度、過程の大切さも浮き彫りに……。

この小説は、そんな世の儚い移り変わりについて、タイミングの悪さはあれど、自らの行いによっても思い至る以上のものが――良くも悪くも――変わりゆくことについて、まず想像を拡げてくれると思います。

作者の平野啓一郎さんは、最近一番好きな作家で、私なんかより全然優秀な方なのですが、好きな音楽がけっこう共通しているのです。

方向転換しにくい年齢に達した男女のラブ・ストーリーが軸となっているのですが、物語の視野は広く、7000億ドル(約70兆円!)もの公的資金が投入されたリーマン・ショック関係(誰か責任取ったと言えるのか?アメリカは厳しいんじゃなかったの?)のことや、世界で最も複雑と言われるユーゴスラビアの民族紛争などが、続きが読みたくなるリズムに沿って絡められています。

いろんな読み方ができる小説だと思いますが、私が強く印象に残ったのは、バッハに関する記述です。

バッハ一族のルーツや三十年戦争(カトリックとプロテスタントの対立を契機とする最後で最大の宗教戦争と言われる)など、いろいろと調べたくなりますね。

トランス・レイシャルなドイツ詩人――リルケの詩の引用(平野さんが翻訳)も、バッハとのつながりを感じます。

このジャズ作品も、バッハによって頂点が築かれた対位法という作曲技法のもとに作られているそうです(『のだめカンタービレ』や手塚治虫の未完作『ルードウィヒ・B』にも対位法について出てきます)。

ネット上には――私欲か匿名の無責任さの中ではやけに勇ましい――分断を煽る言葉が世界中にあふれていますが、そんな中、Harmony Of Differenceというタイトルだけでも、胸に迫るものがあるではありませんか!

宇多田ヒカルさんは「最近行ったコンサートで誰が印象に残っていますか?」という質問にカマシ・ワシントンをあげています(→http://www.utadahikaru.jp/paisen2/)。

宇多田さんが観たライブでカマシが語った「いろんな人種、信仰、考え方(少し省略)…そういう違いは、互いにtolerate(耐える、寛大に受け入れる)対象ではなく、celebrate(祝う、讃える)べきものだ」という言葉が、まさにこの作品でも表現されているのでしょう。

『マチネの終わりに』に出てくる曲を、クラシック・ギタリストの福田進一さん他が演奏したCDも2種類出ているのですが…福山雅治さんと『逃げ恥』の百合ちゃん役を好演した石田ゆり子さん主演で映画化されたのには驚きました!(→https://matinee-movie.jp/

「バッハ無伴奏チェロ組曲」、このCDのために作曲された「幸福の硬貨」などいいですね~!

こっちはまだ買ってないですけど、ギター版ブラームス聴いてみたいですね(購入してみましたが、有名なドビュッシー作『月の光』なども入っていてオススメです)!

それと、秋のTBSドラマ『G線上のあなたと私』に出ていた女優さんが映画版マチネにも出ていたのでびっくり!――考えてみればこれもバッハつながりですね。

基本的には原作を先に読んだ方がいいのでしょうが、映画版マチネは、どちらが先でも楽しめる配慮をして作られているように感じました。

先ほどのCDでもギター・バージョンがあるようにバッハと言えば「無伴奏チェロ組曲」も有名ですね。

私、クラシックは少ししか聴かないし、テクニカルなことはわかりませんが、以前、銀座の山野楽器(クラシック充実!→https://www.yamano-music.co.jp/online/soft/)のCDコーナーで試聴できる「無伴奏チェロ組曲」をいろいろ聴いてみて、気に入ったのがこの作品です。

1、3、5番だけの廉価版なので、初心者向きなのでしょう。

 

バッハの音楽は、時代を超え、音楽のジャンルを超えて、小説や漫画にも影響を与え続けているんですね。

楽観は全くできませんが、これからも分断するための両論併記ではないもの(つながり合うための陰陽併記というか陰陽五行!?)は、無力なアートの中に脈々と受け継がれてゆくのでしょう。

ネット上でも、分断を煽る言葉には加担せず、切り離され、裏切られ、憎しみを駆り立てられても――混乱した時は『マチネの終わりに』を読んだり、バッハから連なる音楽を聴いたりして――最終的には、ゆるやかに響き合う言葉を、匿名の時こそ発信できたらいいですね!

匿名だからバレないと勘違いして悪口を書いたり、裏工作したりしている方々…カフェなどで友達と会って納得いかないことを悪口を含め語り合うのと違って、機械は残酷なまでに証を残します――今バズっているこのツイートをご覧ください→みちかげ on Twitter

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