山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

Atoms For Peace/「ブレない」「迷わない」について 後編

2015-01-09 19:19:49 | 瑞々しき モヤモヤ?

 明けましておめでとうございます。前回は、「ブレない」「迷わない」という理想で硬直化しがちな言葉よりも、柔らかさと硬さがバランス良く融合した「しなやかさ」という言葉の方が予測不能の現実に即しているのではないか?という話をしてみました。

 前回の文章を書いた後、新聞を見ていたら、やはり教育の世界では既にそういう方向になっているようで「レジリエンス」(弾力性、回復力などの意味)という言葉をテーマにした本も発売されているようです(未読)。

 そのすぐ後、少ししか見られなかったのですが、尾木ママが出ている教育番組でも「レジリエンス」について解説していました。年末に本屋を物色してみると、「ブレない」ではなく「折れない心」みたいな本もいくつかあり、ざっと見た感じ、やはり同じような方向のようです。

 考えてみると、うどんなどの麺類だって――柔らか過ぎず、硬過ぎずの絶妙なバランスである――コシがあるのが好まれますし、パスタのアルデンテだって同じような意味ですよね。

 年末に患者さんからいただいた手作り餅も、柔らかいのにもっちりと弾力性があり、効率良く生産された市販の餅がいかにカチカチボソボソで粘りが少ないかを実感しました……このように白と黒の両極端に偏らないバランスが大切!というヒントは日常生活の中でも生きています。

 

 機械…例えばエンジンで考えてみると、まず回転する軸がブレてしまってはダメなので、ブレない強さが必要です。

 でも?ピストンは上と下という矛盾する運動をしてブレまくっていますね……そして、それをしなやかにつなぐためには、ブレない軸と言ってもWみたいな形にデコボコしたクランク軸(まっすぐ直線の軸ではない所がポイントな気がします)やコンロッド、バランスウェイトなど様々な要素が必要となってきます。

 それらの要素が互いに協力することで、上下のブレが回転運動に変わり、前進する力となります。モーターも電気の+極と-極、磁石のN極とS極という矛盾がないと、動きは生まれませんよね。

 前進という動きはとても魅力的ですが、機械であっても人生であっても前進するだけでなく、時に立ち止まったりしないと無理がたたります。そして前進するにしても、何をガソリンとして前進(または後退)するのか?が重要なのでしょう。

 

 それから、地震という大地のブレに対応する住宅の免震構造や制震構造などを考えてみて下さい。軽くしか調べていませんが…

①耐震構造:主に壁の強度を上げる方法(これはブレないようにする方法ですよね)ですが、やはり、これだと家の中の家具は倒れやすく、家自体も損壊しやすいみたいです。これだけだと安かったりするのかな?

②免震構造:家の土台を逆にブレさせて力を逃がすので、家具が倒れたり、家自体が損壊したりすることは少ないとのこと(たて揺れや311のような長周期地震では?の可能性も?)。

③制震構造:ゴムとかオイルダンパーなどのブレるけどしなやかな素材を使うので(+強固な素材?)、家具は倒れてしまうけど、家自体は損壊しにくいということです。

 以上の具体例から考えると、どれも一長一短で、どれか一つが絶対的に正しいとは言えず、各メーカーは自分の得意な方法のメリットを強調する言い方になってしまうのでしょう。

 いずれにしても、大地のブレに負けないためには、逆にブレることも必要で、ブレる要素とブレない要素…相反するもの同士が協力するのが、一番良さそうです。

 上記3つを全部合わせたら最強なのかもしれませんが…コストも考えなければいけません。機械なら、感情がないのでこうやって実用化されているのに、人間同士だとなかなか難しいですね?

 

 ずっと前に読んだので見つからなかったのですが…心臓外科医の南渕明宏先生の書いた「ブラックジャックはどこにいる」(PHP研究所)という本に、狭心症(心臓自体に血液を送る血管が細くなってしまう病気)の治療において、内科医は外科的アプローチ(バイパス手術)でうまくいかなかった例が目に付き、外科医は内科的アプローチ(バルーンやステント、薬)でうまくいかなかった例が目に付くというような葛藤について書いてあったのです。

 この本が書かれた何年か後、テレビを見ていたら、南渕先生は、自分の得意な外科的アプローチだけを強調する道を突き進むのではなく、内科的アプローチが得意な細川丈志先生と協力して、どちらのアプローチも選択できる東京ハートセンターという病院を開業したようなのです。

 実際の評判は知りませんが、私は本を読み、南渕先生の葛藤が強く印象に残っていたので、自分の得意なアプローチと相反するアプローチと協力するなんて――それは目的のために自分のアプローチのデメリットにも向き合い自己を越えようとする行為ですから――なかなかできることではないと尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。

 

 最後に音楽ネタを…以前、レディオヘッドのトム・ヨークとプロデューサーのナイジェル・ゴドリッチが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのライブを見に行ったことについて語っている記事を何かの雑誌で読んだ記憶があったのですが……

 まさか!トム・ヨークとレッチリのフリー、ゴドリッチでアトムズ・フォー・ピース(平和のための原子力)という意味深な名前のバンドを組むとは!――これには世界中が驚かされたと思います。

 大卒のエリートぞろいで色々と持っている感じのレディオヘッドと、学歴?何それ?で持たざるものな感じのレッチリ(白人系ながらマイノリティーの影も背負っていますよね――レディオヘッドの出身であるイギリス系の人種問題は、またとても複雑なのでしょうが…)って、オルタナ系ロックという共通項もありますが、けっこう対照的ですよね。

 エリート系は、知的に洗練されている分、スタイリッシュな方向やテクニカルな方法論などにとらわれ、理屈を超えたワイルドなものが不足しがちです。

 アートとは――理屈も絡んでくるのでしょうが――理屈と正反対な所が大切なのだと私は思います。

 トム・ヨークみたいに本当に頭のいい人は、自分の足場が揺らぐようなことにも真剣に向き合うのでしょう(趣味が「悩むこと」とWikiにあり)。

 感情では自分に足りなかったり、持ち得なかったりすることなんて考えたくもないでしょうが、理屈で考えれば、自分に足りないものを持つ人と協力すればいいということになりますから……こういうのが本当のインテリジェンスなのかもしれませんね

 フリーの方も近年、音楽大学にいって学んでいるようですから、互いに逆方向から足りないものを探して出会い、同じ所で協力することにしたということでしょうか? 

 口で言ったり、書いたりするのは簡単ですが、こういうことってプライドが邪魔してしまって、なかなかできることではありませんよね?――相反する傾向を持つものが葛藤を伴いつつ協力しないと…ただのなれ合い(静止状態)になってしまうので継続してゆくのはより難しいのですが……

 個人的には、いかにも現代を表す感じのDefault、戸惑ってよろけつまずきバラバラになってしまうDroppedから、このコラボを象徴する曲であるStuck Together Piecesへの流れ、発想の転換に良さそうなReverse Running、マレー語がルーツで、「荒れ狂う、自制心を失う、見境をなくす」というような意味のAmok…とフリーのベースが効いている曲が好きですね。

 新しそうな?機械系の音もたくさん使われていて、電子系の音が苦手な人はダメかもしれません。が、トム・ヨークの世相を映し込んだ悩みから生まれる歌詞、フリーのベース、マウロ・レフォスコのリズム楽器など肉感的なものもしっかりしているので……一人でじっくり聴く向きながらも、一人では生きてゆけないことを再認識させてくれる素晴らしいアルバムだと思います。

アモック
Atoms For Peace
ホステス

 

コメント
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