山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

病は気から?

2015-02-09 15:36:43 | 医療の波打ち際

 「病は気から」とは、現代でもよく耳にする言葉です。しかし現代では、どうしても?「気」以外の科学的原因…細菌、ウイルス、寄生虫、栄養バランス、ホルモン系の異常、遺伝子の異常など―数値化しやすかったり、有無が分かりやすかったりするものばかりが注目されがちです。

 なぜか?と言えば、白黒がはっきりしていて素人でもわかりやすいからです。例えば血液生化学検査であるBUN(血中尿素窒素)の参考基準値は、ネコならば10~30mg/dlくらいとなっています…31mg/dlと出れば異常値です。また、猫の白血病ウイルス感染症の抗原検査などは、陰性または陽性と白黒はっきりします――とてもわかりやすいですね。

 でも?結果がはっきり出て?わかりやすいということは?それ以上悩まなくてもいい=頭を使わなくてもいい…ということにつながってしまう可能性があるのです。

 普通の人には、とても難しく感じる高度な理論――STAP細胞事件のようにハーバード大学から来た人が考えた!というようなブランド力があると最強?――に基づく検査ほど、そんな方向にいってしまう可能性が高くなる……これもまた不思議なパラドックスですね(ブランド力のない私の言葉など無力なものです)。

 それで原因がわかるだけでなく、完治する道へつながっているのならば、医療否定本など誰も書かなくなるのでしょうが……やはり理論―理屈―理想と実践―感情―現実との間には、人によってかなりの落差があるようです。

 考えてみると?理想通りに生きられている人なんているのでしょうか? 理想を抱き、ひたむきに努力する人は向上します……しかし理想が高くなるほど実現は困難で、実現できたとしても何かが犠牲に…という現実は日陰に追いやられるばかりです。テレビにもネットにも目指すべき輝かしい理想への情報があふれている――それは多くの人が理想とは程遠い生活を送っていることの裏返しとも言えます。

 何かを売ったりするため意図的にライトアップされた情報は、白黒がくっきりとわかりやすく輝いて見えます――輝きばかりに気を取られると影に目がいきません。

 そんなキラキラしたわかりやすさに、何だかわからないまま頭と身体を切り離されてしまっている人ほど、全否定か全肯定のどちらかしかない極論思考に陥ってしまうのでしょう。

 極論に走るということは、自分の方が正しい!と相反する考えの長所など一切認めない方向なので、どちらの極にせよ「唯一の完全なる真理」という天上のごとき理想に支配されているのではないでしょうか?

 しかし、我々が生きている大地は、不完全な人間しか存在しない現実の世界です。誰でも長所と短所があるように、医療上の様々なアプローチにも長所と短所があるのです――広く深く長~い目で良い所だけを見れば?どんな暴論にも?一理くらいはある?と言えるのかもしれません。

 ネットでも何でも、自分だけが絶対に正しい!というような物言いをする人ほど間違っているものです。そんな物言いの人ほど、妙に良い人や情報通ぶったりしながら、裏ではなりすまし工作をするなんてこともあったりして? 

 おそらく?現実の世界に本音で語り合える、ケンカになってもなぜか絶縁できないような友達がいない人ほど、気楽にリセット可能なネットだけの世界に入り込みがちなのでしょう――自分の不完全さに気付いていない人ほど、相手の不完全さを受け入れられない底なし沼に……

 

  科学的な検査というと100%正しいように思いがちです。が、現実の世界では、少なからず人為的なミスや検査製品の異常などのせいで判定不能になってしまうケースだってあります。実際、私は芸能人も入院する全国的に有名な某大病院にて、親族が検査用の注射をされている時、ナースさんが注射液をかなり漏らしてしまっているシーンを見ました…責めているわけではなく、どんな厳格体制の病院でも、人間が働いている限り必ずミスが起こる、と言いたいのです。

 病院で働いたことのある方なら理解してもらえると思いますが、ミスを厳罰化するだけでは、責任をなすり付け合ったり、ゴマかしたりするテクニックばかりが巧妙になり、ケアに対する前向きな気持ちが心の内側からわきあがることはありません。

 科学的と言われる検査で白黒はっきりとした結果が出たとしても?よく調べてみると?科学的検査であるにもかかわらず、科学的根拠が微妙なことさえあるのです(大きな声では言えませんが…)。

  もちろん私は、科学的な検査を全面的に否定しているのではありません。が、最先端高度医療、何だか有名そうな先生推奨、そして最近のひどいケースではネット上のステルス・マーケティング的なキラキラ要素に振り回され(医療否定系の極端情報も含まれます)、キラキラを吸い取られていくだけのように見える人がいると、目に余る思いを感じるのです。

 経済的には大変でも、本当に科学的に考えられた検査ならば?うまくいくケースも多いのでしょうから……とても難しいと思います。

 昔からよく言われることですが、検査機器などを使いこなすのでなく、検査機器に使われてしまっていると?そんな方向に陥っていても無自覚となってしまうのでしょう。

 

  理論的に考えていくことは大切なのですが、機械ではない人間そしてワンちゃんやネコちゃんは、感情を持っているのです。感情とは、何かに対してそれぞれの心の中に浮かんでくる好き嫌い(快or不快)や喜怒哀楽などの気持ち……現代では理論が圧倒的優勢かと思いきや、感情は巧妙な屁理屈を作り上げて理論の中にもぐり込み、いまだ衰えることを知りません。そして…理論をあざ笑うかのようなあいまいさで、時に理論を超越することがあるのです。

 例えば…慢性腎不全(慢性腎臓病)となってしまったならば、タンパク質やリンなどを控えた腎臓病用のフードが理論的には理想です。でも?重症な子ほど、腎臓病用のフードなんて食べてくれなかったりします。腎臓病用のフードを与える理想にこだわったせいで、あっという間に亡くなってしまう子がいる一方、ジャンク過ぎない程度のいつも食べていたフードとちょっとした治療のみで長期間生きる子がいたりするのです。

 また理論的には、入院して点滴をすれば、かなり良くなるはずの病態の子でも、あまりに神経質だったりすると、ものすごく悪化してしまうこともあります。

 飼い主さんの旅行などで預かった時、ケージに入れた途端、落ち着きなくわめき始め、血便でグチョグチョになってしまう子もいます。

 かなりジャンクな食生活で太り気味の子だったとしても、飼い主さんの愛情が独りよがりではなく(早朝の散歩などその子の生きがいにつながる習慣がある)、広いスペースでの飼育など様々な意味でストレスが少ない環境で飼われていると、すごく長生きする子がいたりします。

 次回は、感情という心のモノサシについてもう少し掘り下げてみようと思います。

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