川端康成に惹かれて、鹿児島、鹿屋へと出かけた。
川端康成(1899-1972)
日本初のノーベル文学賞作家だ。
少女の頃から、山口百恵主演の映画の影響もあり、
「伊豆の踊子」が好きだった。
幼い頃より何度も出かけた伊豆が舞台、その淡い恋心に惹かれ、
冒頭「道がつづら折りになって…」に始まる
1節を暗誦できるくらい、読み込んだ。
既に、その頃、川端は亡き人だった。
これより数年前に、逗子の高級マンションで自死している。
当時、大きなニュースとして取り上げられ、
小学生ながら強烈な印象となって残っていた。
それから半世紀。
初めて知ったこと。
川端は1945(昭和20)年4月、海軍報道班員として徴用され、
特攻隊基地である鹿児島県鹿屋(かのや)飛行場にいたという。
多胡吉郎 『生命(いのち)の谺(こだま) 川端康成と「特攻」』
(現代書館)で知ったのである。
もちろん、作家である以上、そういった「徴用」や
「従軍」はありえるのだけれど・・・相手は川端康成、なのだ。
あの「伊豆の踊子」の川端が?
戦争小説なんて一作もないでしょ?
前掲書の著者・多胡氏も、
川端が「海軍報道班員」だったという事実に
「愕然」としたという。
やがて、氏は「特攻によって無残に喪われた多くの生命と、
川端は作品を通して谺を交わしてあっていたのである」(10頁)と
考えるに至る。
そんな多胡氏による、川端作品の切り口に惹かれ、
図書館から借りていた本書を、すぐに購入。
いつか鹿屋へ行こう・・・
そう決めた。
念願叶って、ちょうど一年後。
夫の「ニッポン城めぐり」、島津の城・攻略に便乗し、
是非とも、鹿屋をゆっくり歩きたいと、旅の計画を練った。
過去、鹿児島は何度か訪ねており、
初めて知覧へいったときは「知覧特攻平和会館」で号泣した。
けれど・・・
今、これだけ「ダークツーリズム」を重ねてきたのである。
そして、それを「ライフワーク」二などと考えているのだから、
かつてのように涙するだけで終わりたくない。
しっかりと現地を歩き、考えてみたいと思う。
そして、何より、知覧は陸軍である。
かつては陸軍も海軍も無頓着だったが、
今の私は、明らかに、陸軍よりも海軍への興味が強い。
というのは、我が神奈川県は、
海軍鎮守府である横須賀を抱えるばかりか、
戦争終結の最後の一年には、
横浜・日吉に海軍連合艦隊の司令部が置かれている。
陸軍より海軍に惹かれて当然なのだ。
そのため、今回は「知覧」より海軍の「鹿屋」に重点を置き、
旅をすることにした。
旅の行程が決まると、さっそく、鹿屋市観光協会にメールを出し、
2コースにわたる「戦争遺跡ガイド」のお願いをした。
『生命の谺』を読んだことで、
ぜひとも、鹿屋を訪ねてみたくなったことを、、
自己紹介を兼ね、申込みフォームに書いている。
その結果・・・
初日のコースをガイドしてくださったSさん(女性)は、
初対面のご挨拶が済むとおっしゃった。
「多胡さんのご本をお読みになったそうですね。
こちらでも、あの本のおかげで、川端の報道班員としての
足取りが明らかになったんです。
それまで、川端が鹿屋に徴用されたことは知っていましたが、
いつ、どのような状況かがはっきりしなかったんです。
資料がなくて・・・」と。
このお言葉に、俄然、嬉しくなる、わたし!
その後、Sさんは、『生命の谺』をなぞる形で、
案内して下さり、おかげで臨場感をもって、
川端の足取りをたどることができた。
Sさんに感謝だ。
また、遅まきながら、旅の前に、大慌てで
多胡氏が取り上げた、川端の2作品、
『虹いくたび』(新潮文庫)、「生命の樹」を読んだ。
川端の知らなかった一面を知った気分である。
鹿屋でのガイドツアーは、
川端をたどるという当初の目的を超えてなお、
胸に染み、今思いだしても、胸がうずく。
この記憶が濃いうちに、鹿屋の旅をまとめておきたい。
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おつきあいいただき、どうもありがとうございます。
ガイド氏とのお話のメモや、以下の資料を参考に
記事をまとめましたが、間違いや勘違いはあるかと存じます。
素人のことと、どうぞお許し下さい。
◆参考:
●多胡吉郎 『生命(いのち)の谺(こだま) 川端康成と「特攻」』
現代書館
●川端康成『虹いくたび』新潮文庫
●川端康成「生命の樹」『アジア太平洋戦争』
(「セレクション戦争と文学2)集英社文庫ヘリテージシリーズ所収
●パンフレット「戦争を旅する」鹿屋市ふるさとPR課
📷 書影は出版社HPよりお借りしました。
本日の画像は、鹿屋でツアー中に撮影しました。
ぴあ野さん、凄い!素人なんて、絶対違います。
私の周りにも本好きな賢い人は沢山いましたが、こんな文章をさらりと書ける人はいませんでした。感心してしまいます。
私、川端康成大好きで、結構読んでいます。その人物にも興味があり、女優さんにメロメロになった逸話等、人間臭さばかりに注目していました。改めて川端康成を知りたいと思いました。
本当に驚く事が沢山です。 なおとも
どうもありがとうございました。
わたしは文章コンプレックスがあるので、
そうおっしゃっていただけると嬉しいです。
川端、お好きですか♫
美しい文学の世界ですよね・・・
ちょっと気味の悪い(変態的なw)部分も作中に登場しますが、
「女優さんにメロメロ」なところも含め、幼い頃からの反映かなと、勝手に思っていますw
数年前、川端の逗子のマンションが売りに出て
購入者が話題になったので、
この本も私にとってはタイムリーでした♫
どうぞ、またおつきあいくださいませ。