好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

EP50 北尾裕貴編(JC第29巻)考察。

2023-08-27 | 『シティーハンター』原作考察
『冴子のお見合い!!』

私の考える、長期連載作品のテコ入れ、カンフル剤として使われる三大モチーフ。
「過去編」「記憶喪失」「そっくりさん」。
『シティーハンター』も、この三つ全てを扱っている。

今回のエピソードはその内、「そっくりさん」のパターン。
香の兄・槇村秀幸のそっくりさん、北尾裕貴(ひろたか)が突如として現れる。
あくまで他人の空似であり、(血縁や整形などの)裏事情は一切ない。
まるで鏡の向こうからやって来たような、瓜二つの外見と、正反対な内面を持つ、「そっくりさん」モチーフとしてはまさに王道。

そんな北尾は自らの信条から「シティーハンター」を逮捕しようと画策し、標的にされた獠は北尾を飄々と翻弄する。
狐と狸のように探り合う男二人の間で、香と冴子は事態を収束させようと足掻く。
やがて事件が発生した結果、とうとう正体の露見した獠の下す結論は、刃物のように鋭く、潔い。
だからこそ、北尾は最終的に心を砕き、獠への追及を止める。

また、今回は、冴子(と麗香)が警視総監の娘である、というトンデモナイ設定が後付けされた回でもある。
この野上警視総監については、原作の後のエピソードでも少しばかり登場している。

なお、北尾編も一応アニメ化されてはいるが、名前も顔もCVも(田中秀幸氏でなく)池田秀一氏、と何もかも別人。
私としては、原作通りの外見と声のアニメ版を見たい。
あわよくば、香と北尾が敵を欺くために声を上げる場面を聞きたい。
特に田中氏の、やらしく笑うゲス演技を……なんて。

それでは。また次回。

EP49 伊集院隼人編(JC第29巻)考察。

2023-07-30 | 『シティーハンター』原作考察
『伊集院隼人氏の平穏な一日』

ある意味、大いなる実験作。
まず、『シティーハンター』(以下CH)原作中、唯一の1週完結。
前後編だった『シンデレラ編』より短い。
他エピソードと有機的に絡む外伝というわけでもなく、ほぼ完全に独立している。

次に、トラブルに巻き込まれた依頼人を護るという定型から外れている事。
そして、主要人物たる獠&香が完全に脇役に押しやられている事。
描く内容を、殺伐とした「事件もの」から、ありふれた日常に寄り添った「人情もの」へシフトしたいという、作者自身の意識が感られる。

が、このエピソードでも、結局「CHといえば事件」という図式から逃れられなかったのは残念な点。
逃走中の銀行強盗という、およそ非現実的な存在が、文字通り乱入するのを転機に、暴力的かつ破壊的なオチで終わってしまう。
せめて、もっとデフォルメされた素朴な絵柄なら笑えたかもしれないが、少し前に血みどろの銃撃戦を描ききっている精緻極まる画風では、少なくとも私は笑えなかった。

なお、余談ながら、このエピソードのアニメ版は、(そのまま30分では尺が合わないため)アニメオリジナル展開が多々加えられている。
中でも、年配の女性客を中心にしたシークエンスは、長きにわたる純愛というCHらしいテーマを丁寧に描いている。
ご興味ある方はどうぞご視聴を。

それでは。また次回。

EP48 神宮寺遙編(JC第28・29巻)考察。

2023-06-28 | 『シティーハンター』原作考察
『祖父、現る!?』

前回の『ソニア・フィールド編』からの総括にして、『立木さゆり編』の意趣返し。
『立木さゆり編』の構造を改めて記すと以下のようになる。

今まで伏せられていた香の素性が明かされ、それで肉親を名乗る人物が登場した事から、相対する獠は香を表の世界に返すべきと理解しつつも、香を手放したくないというエゴイスティックな感情を自覚する。
一方、香ははじめから自分の居場所は獠の隣と結論を出しており、それを知った肉親は身を引く。
上記の段落の「獠」と「香」を入れ替えれば、そのまま今回の『神宮寺遙編』を説明できる。

二つのエピソードの相違点としては、香の場合は血縁関係が明白だったのに対し、獠の場合は決定的な証拠が一切ないという点だろう。
ただ、頭部の火傷痕が云々という以前に、「27年前に3歳」という年齢には、やや無理があるように私は感じる。

今エピソードは、こうした獠と香の関係に重点が置かれているため、“美女”たる遙の印象はやや薄い。
名前の漢字も間違えやすい。
「司」でなく「寺」、「遥」でなく「遙」である。
しかしながら、遙は獠たちとの関わりをきっかけに、家のしがらみから抜けだし、長髪&和装から短髪&洋装へ「劇的に変身」する。
銀行員として繁華街へ駆けていく姿は、この上なく好ましい。

そして最後、獠は香を身内としてついに認める。が、彼らの関係はそこでストップ。
【冴羽獠は無戸籍である】という設定が開示された事で、『シティーハンター』という作品は、(結婚という)現実に即したゴールテープを捨てた。
獠と香の物語は永遠に続けられる可能性が示された。
ただ、そうやって永遠に続く物語には前提がある。登場人物が加齢しない事だ。
その前提を持たない『シティーハンター』は、むしろ終焉へ近づいていく事となる。

それでは。また次回。

フェーズ5「マニア」終了。フェーズ6へ。
(※マニア。偏執的恋愛。恋の病)

EP47 ソニア・フィールド編(JC第27・28巻)考察。

2023-05-24 | 『シティーハンター』原作考察
『殺したい男!!』

『佐藤由美子編』『美樹初登場編』で垣間見られた、獠と海坊主の決闘が描かれる。
同時に、『ブラッディ・マリィー編』における獠の、『氷室真希編』における海坊主の、それぞれ過去への言及から、彼らの因縁が明かされる。
更に言えば、『浦上まゆ子編』『北原絵梨子編』『都会のシンデレラ編』の3編を内包した集大成。
しかも作中の時は3月下旬、つまり獠&香の誕生日まで含まれる。

これほどの話題を持つエピソードが盛り上がらないはずはなく。
「いつもと違う『シティーハンター』」に、連載当時のファン達は大いに気を揉んだという。(JCカバー見返しの作者コメント参照)

というのは、今エピソード、笑える要素が非常に少ないためだ。
良くも悪くもシリアスを貫いており、ときおり差し込まれるギャグが逆に浮いて見えるほど。
獠の「もっこり」さえ、直接描写されず流される。

どれだけ殴られてズタボロになっても、次のコマではケロリの獠が、そして鉄の筋肉を誇る海坊主が、今回は違う。
銃で撃たれれば、傷を負う。血を流す。治らない。死ぬ時は死ぬ。ただ一発の弾丸で。
そんな当たり前の現実が、連載初期を思い出させる「死」が、圧倒的な画力で突きつけられる。
まるで”動画を読んで”いるかのようなアクションは極限まで冴えわたる。
男二人が墓地内を駆け巡る銃撃戦は、必見である。

以後の原作では、海坊主は盲目、だが勘が研ぎ澄まされて戦力としては何ら遜色ないという、何ともヤヤコシイ設定が付与される。
そう、シリアスは再び鳴りを潜め、次回からひとまずの平和が、日常が戻ってくるのだ。

それでは。また次回。

EP46 都会のシンデレラ編(JC第27巻)考察。

2023-04-29 | 『シティーハンター』原作考察
『都会のシンデレラ!!』

前回から続く掌編。
獠と香の恋愛模様を察した絵梨子が、二人をデートさせようと奮闘する。
香は、ウィッグと衣装(&メイク)によって至高の美女に仕立てられる。
一方、獠も絵梨子の指示でドレスアップ。
ところが獠は、出会った相手を香と気づかず、それで香も名乗らないという、何とも不思議な時間が開幕する。

こうして彼らは、お互い初めての「恋」をした。
例えるなら、ずっと長く隣にいた幼なじみが、過去の記憶を忘れ、初対面からやり直したようなもの。
そんな二人のやり取りは、(少年漫画という事もあり)まるで中高生のデートのよう。
ゲーセンでハイスコアを刻む。コーンアイスをダブルで頼む。
アニメ版オリジナル加筆で、一つのドリンクをストロー2本で分け合っているのは、実に象徴的だ。
(逆に、ラブホテルの中に入ってしまう下りは、少々やり過ぎの印象もある)

ところで本作には、考察すべき謎がいくつかある。
最大の一つは、「獠はいつの時点から相手を香と見破っていたか」。
私としては、端的に「最初から」だと考えている。
身も蓋もない話だが、「声聞きゃ分かるさ」ってなもんである、と思いたい。
(今まで獠がロングウィッグ香に惑わされた時、香はほとんど声を発していない)

それから、「香は如何にして帰宅したのか」。
午前0時を過ぎてから横浜→新宿へ移動しようにも、交通手段がほぼ無いという論。
香を安全に帰してあげたい読者は、ならば前提を壊しましょう。
「午前0時」という時刻の根拠は、実は獠の台詞のみ、つまり客観的証拠は作中に存在していない。
よって、《何らかの理由で勘違いしている香を、獠が無事に帰らせるために話を合わせた》という推察が、ミステリ読みとしての私の屁理屈です。

それでは。また次回。

EP45 北原絵梨子編(JC第26・27巻)考察。

2023-03-20 | 『シティーハンター』原作考察
『マイ・フェア・獠ちゃん!?』
 
しばらく異色続きだったところに、久しぶりの原点回帰。
専門業に燃える“美女”を事件から護り救う、王道を進む良作。
 
どこを取っても、見所が多いのが今回の特長。
獠がついに香へ、異性としての魅力に気づいたり。
はるばる『皆川由貴編』の時代から下ネタが飛んできたり。
はたまた、獠のトレードマークたるロングコートについて、トンデモナイ秘密が炸裂したり。
冴子・海坊主・美樹といったメインキャラも勢揃いで登場しているため、新規の読者にもオススメしやすい。
 
そんな今回の“美女”は、新進気鋭のファッションデザイナー・北原絵梨子。
どんな時もデザインの仕事が頭から離れないワーカホリック。
場合によっては自らモデルをもこなす。
デザイナーは、アニメオリジナルでは初期から一度ならず登場していた職業だが、原作ではここが初出。
また、「香の昔からの親友」という肩書きも見逃せない。
こちらもアニメオリジナルで既出の属性だが、さすが原作だとインパクトが強い。
実際、絵梨子の登場は一回では終わらず、次回と、そしてその先と、重要エピソードに足跡を残していく。
 
惜しむらくは、この事件が未アニメ化のまま、次につながる回が放映されてしまった事。
私としては、連載当時、90年前後の美麗な動画で見てみたかったものである。
 
それでは。また次回。

EP44 浦上まゆ子編(JC第26巻)考察。

2023-02-23 | 『シティーハンター』原作考察
『突然の出会い!!』

最初に懺悔。『CH』全エピソードの中で、私は今回が一番苦手です。

そもそも今エピソードは、不自然な「誤解」を発端としている。
登場人物全員が「まゆ子父は香に恋愛感情を持っている」という前提で動いている。
私としてはミスリードが過ぎ、「実は滝川看護師を好きだった」という、“驚くべき真相”を出されても、未だ納得しきれていない。
もっと言えば、まゆ子父の描写自体、薄い。フルネームすら存在しないのだから。

しかも、この「誤解」は本来、簡単に解けた。
まゆ子父に真剣に問いただすだけで良かった。それが、まゆ子の任だった。
と言いますか、まゆ子が勘違いしていたと判明した瞬間、私は愕然とした。
どんな事情があろうと、自分含めた全ての人の人生を左右する行動は、軽率と言う他ない。

が、実のところ、まゆ子もまた被害者である。
ただし、断じて「子供だから」「視覚障害だから」仕方なかったとは言わせない。特に後者は。

全キャラ崩壊を引き起こした戦犯は、ひとえに「目的ありきの作劇」にある。
香を失う恐怖に狼狽する獠と、その獠とカンペキな連携をこなす香。
そして何より、後の事件において【獠たちメインキャラが「眼科」と縁を持つ】必要があったために、他の全てが犠牲になってしまったのではないかと、私は思う。

それでは。また次回。

EP43 伍島あずさ編(JC第25・26巻)考察。

2023-01-28 | 『シティーハンター』原作考察
『美女と野獣!?』

ある種の時事ネタ。
1980年代は、環境問題が大きく取り上げられるようになった時代だ。
誌面でも画面でも、オゾンホールや酸性雨などといった話題が取り上げられる事が増えた。
今回のエピソードでは、そういった世の流れに沿いつつ、『シティーハンター』の王道が展開され、作者の得意技である父娘の確執とその和解が描かれる。

なお、連載当時は確かに、アフリカ象の密漁が横行していた。
1989年からワシントン条約で、アフリカ象の象牙の国際取引は禁止されたものの、密漁や密輸によってアフリカ象が減少しているのは現在も変わらない。

以上の感想は、歳を取った今、再読した故に書けた文章だ。
連載当時は、誠に申し訳ないが、「何となく面白くない」という印象だった。
私が『CH』に求めているのは、愚直な現実的問題よりも、もっと浮世離れしたきらびやかな世界だったのだと思う。

そして、歳を取った今だと逆に、環境問題への詰めが甘いと感じてしまう。
“美女”たる伍島あずさが(ガソリンの)単車を転がしていたり、募金でヘリウムガス入りゴム風船を配っていたりという描写は、令和の現在では不適切となろう。

因みに『CH3』アニオリでも、自然保護というテーマが扱われている。(森脇美鈴編)
こちらは、調印手続という革新的な出来事が描かれている事から、子供心に胸が躍った。
あずさも、本当の意味で動物を守りたいなら学者より、こうした国際問題に関わる仕事に就く方が良いのではないかな。

それでは。また次回。

EP42 浅香姉妹編(JC第25巻)考察。

2022-12-26 | 『シティーハンター』原作考察
『依頼人は幽霊!?』

『シティーハンター』、最大の異色作。
今回のゲストキャラは何と、客観的に観測可能な霊的実体、つまり「幽霊」。
牧野陽子編の「透視」や西九条紗羅編の「読心術」を遥かに超えるオカルトエピソード。

もっとも、「見分けのつかない一卵性双生児の姉妹」→「片方が死んで霊になる」→「もう一人に取り憑く」という図式は、むしろ王道中の王道である。
が、そういった作品は大抵、作風に元からオカルト要素を含んでおり、「それくらいの事もあるだろう」と考える余地がある。

けれども『CH』には、霊媒師も平行世界も人外も、(基本的に)出てこない。
なのに今回だけ、幽霊ネタだけ飛び込んでくるから、こちら読者としては、どう受け止めて良いか、少々戸惑うのではなかろうか。
というか、初読当時の自分は結構混乱した。
リアリティラインが迷子になっているというか。
少なくとも『CH』を全く知らない人にいきなり読ませたくない回だと、今回も思う。

しかしながら、ここまで日頃と毛色が違っても、事件全体はきちんと『CH』の基本構造を保っている。
互いの姉妹愛を満たし、永遠の離別を受け入れる浅香姉妹の様子は、まさに文字通りの“憑き物落とし”。
香が突如、霊媒体質になるという急展開にも納得できてしまうのは、作者の驚異的な画力(表現力)の賜物と言えよう。

なお、霊的実体の存在について描かれるのは、一応今回限り。
ただし、後の事件で、もしかしたらと匂わせる場面があるとは述べておこう。

それでは。また次回。

EP41 真柴母子編(JC第24巻)考察。

2022-11-24 | 『シティーハンター』原作考察
『天使の落としもの!?』

『シティーハンター』の大ファンの私としては、今回のエピソードは誠に楽しく、やに下がってしまう。
が、このエピソードを『CH』を知らない新規読者に読んでもらいたいかと問われたら、答えはNOだ。

獠と香が今回のゲストキャラを、銃に縛られた人生から解放するという、「憑き物落とし」の基本構造は確かに保たれている。
ただ、そのゲストキャラ達は、日頃から見ればかなり異色。
獠と疑似恋愛する“美女”では断じてなく、由加里と“しおり”という母子。
そして、二人のうち、やや比重の高い“しおり”は、いわゆる赤ん坊の年代だ。

少年漫画にいる「子供」キャラは通常、明確に意思表示できる自意識を持っている。
しゃべれない歳の子は、扱われないのが本来だ。

今回の前半、「成人男女による幼児保育」という展開は、少年誌で想定される読者が感情移入できるとは、残念ながら言いがたい。
獠が積極的に育児するなどの描写は、良くも悪くも、時代を先取りし過ぎていた。

更にいえば、例えば獠本人から初めて具体的な過去が語られるという出来事(とギャグ)など、読者がシリーズを読みこんでいる事を前提としている部分も見られる。
こうして内容が、内側のファン向けに移行する事は、長期連載の宿命とも言えるが、作品全体は少しずつ疲弊していく。
このエピソードは、『CH』連載終焉の兆しとも言えるかもしれない。

それでは。また次回。