好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

星新一ショートショート再読。(その43)

2024-01-21 | 星新一ショートショート
『おみやげ』
新潮文庫、番号43、『ボッコちゃん』収録。

私の世代では、本作『おみやげ』と『繁栄の花』がある意味、双璧となる。
小学校の国語の授業で必ず取り上げられている作品だったからだ。
特に『おみやげ』は、「宇宙人」という設定さえ飲み込めれば、とりわけ語彙も平易で分かりやすく、それに当然、全部読んでも非常に短い。
新調文庫版で4ページしかない。
読書に慣れていない人でも取っつきやすい、星作品初心者向けと言えるだろう。

けれど。
それとも、だから、と、つなぐべきか。
ラストで示される顛末はあまりにも呆気なく素っ気なく、徹底的に救いがない。
この作品の地球人たちは、致命的な失敗をした。
あるいは、この世界の私たち地球人も、とっくの昔に同様の愚行を犯しているかもしれない。

壊してしまった物は、二度と取り戻せない。
罪は滅ぼせない。
そして、壊してしまった事自体を知らずにいるのは、いっそう罪深いと言えるかもしれない。
無闇に壊すのは、ダメ、ゼッタイ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その42)

2024-01-12 | 星新一ショートショート
『特許の品』
新潮文庫、番号42、『ボッコちゃん』収録。

星作品の十八番。
宇宙人との接触。物パターン。

誰が考えた何かサッパリ分からんが、まあいいや読める設計図だから、とにかく作っちゃえ!という展開の早さには、笑えるやら恐ろしいやら。
テンポが良いのは喜ばしいが、軽率極まりない振る舞いとも言えるわけで。
話の都合で仕方ないという意見は野暮です。

で、結局この装置については、薬物のような物質依存こそないものの、「味をしめたら二度と離したがらず、熱中のあげく、ほかのことを考えられなくなる(←作中より引用)」という、行為依存の副作用があったという事情が暴かれる。

つまりコレ、現代で言うところのソシャゲガチャみたいなものだったわけだ。
って、じゃあそうか、実はソシャゲって、宇宙人の作った最強兵器だったのか。すげえ。……なんて。

なお、余談ながら、あらゆる娯楽を超えた快楽をもたらす装置の話は、同氏の或る有名な作品にも登場している。
その話を紹介できる時が楽しみだ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その41)

2023-12-27 | 星新一ショートショート
『愛用の時計』
新潮文庫、番号41、『ボッコちゃん』収録。

人は、往々にしてそれは男性は、日常生活に関わっている私物、無機物に強い思い入れを持つ事が多い。
それは車だったり、バイクだったり、カメラだったり、そして腕時計だったり。

スマホが普及した今、腕時計の存在意義は薄れたかもしれないが、少なくとも昔は、腕時計といえばステータスの象徴の一つだった。
自然、毎日一番大切にする存在となる。
まして、自分で毎回ネジを巻き上げて動かすようなタイプだったら尚更である。

この話の主人公も当然の流れで、自分の腕時計に愛情を注ぐ。
今で言う、ゲームなどでの無機物の擬人化、ひいては「推し」への「萌え」のさきがけでもあろう。
今時の作品だったら間違いなく、美少女キャラ化されたバージョンの絵が付く。時計の。

そしてある日、主人公の愛する美少女、もとい腕時計もまた、主人公へ掛け値無しの愛情で報いてみせる。
アナログ時計ならではの、シンプルにしてスマートなオチへの流れは、個人的にとても好み。
私が昔お気に入りだった腕時計も、何度調整しても針が進みがちになるきらいがあった。
おかげで待ち合わせに遅刻しないで済んだ事がしばしばあったっけ。

ところでデジタルのスマホだと、果たしてこういう展開作れるだろうか。
時刻の数字だけに不具合の出るバグって起こり得るのかな。
分どころか秒以下の単位で制御されてる今の機械だと厳しそう。
文字表示機能がおかしくなればチャンスあるか?

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その40)

2023-11-15 | 星新一ショートショート

『程度の問題』
新潮文庫、番号40、『ボッコちゃん』収録。

分かりにくいたとえになってしまうが、『かまいたちの夜2』の「わらび唄」と話の流れが似ている。少なくとも表面上は。
あちらの話では、主人公は何度も何度も殺人事件の惨劇を体験したループ記憶に振り回された結果、旅程の当初から警戒心マックスで挑むが、その時の旅に限って何も起こらず、主人公は空回りしまくってしまう、という流れになる。

翻って、この『程度の問題』の主人公は、一般人でなくスパイであり、確かに周りに対して警戒心マックスで挑むべき立場ではある。
しかし、それで空回りするのは、一般人だから許せるわけで。
曲がりなりにもスパイである以上、そもそも目立ちまくっちゃいけないのである。

このスパイのあらゆる行動は、あつものに懲りて膾を吹く、というより凍らせる勢い。
石橋を叩いて渡らない、どころか、木っ端みじんに爆破しかねない。
これじゃ埒が開かないと、別のスパイが派遣されるが、そいつもそいつで、またどうしようもない。
スパイじゃない一般人でも早晩、シャレにならない事態になるだろう。
現代人なら間違いなく詐欺に遭う。

ところで、危険な相手と飲み交わす時、相手の飲み物とすり替えて飲むって場面、フィクションで結構見るが、私としてはあまり有効とも思えない。
すり替えるのを、敵が初めから計算に入れてたら無意味だ。
まず、自分の飲み物から目を離すのが良くないし、それに、相手から出された飲み物にはやっぱり警戒した方が……いやいや……ぐるぐる……。

まあ、詰まるところ、何事も程々が一番って話です。

それでは。また次回。


星新一ショートショート再読。(その39)

2023-11-07 | 星新一ショートショート

『意気投合』
新潮文庫、番号39、『ボッコちゃん』収録。

そうはならんやろ!なっとるやろがい!
……読み終わった時、そういうツッコミ入れたくなった。

星新一ショートショートの十八番、異星人とのファーストコンタクト。
私たちの所に彼らが来る場合と、私たちが彼らの所に行く場合とがあるが、本作は後者。
てっきり御しやすい与しやすい相手だと油断してたら、エライ目に遭うパターン。

ただ、冒頭にも掲げたように、勢いで読み終わった後に改めて読み返すと、細かいツッコミ所が浮かんでくる。

何で本作の地球人たちは、宇宙船から全員いっぺんに降りちゃったのか。
最初の内は、不測の事態に備えて警備の人が残るんじゃないのか。
月着陸の時だって、一人は船内に待機してたんだが。(まあ着陸できなかったからなんだが)

着いた先の異星人も謎が多い。
地球人たちを「神の御使い」と思ったなら尚更、「ではコレを使わせていただきます」的な儀式とか何とかやらなくて良いのか。
くれた物はゼンブ問答無用で消費していいと思ってるくらい警戒心が薄いのか。

それに、そもそも金属が非常に少ない環境なのに文明が進んでる(ように見える)というムジュン。
複雑な機械には、強度のある金属が確実に必要じゃなかろうか。
という事はもしかしたら、金属に匹敵する性能を持つ別の物質があったりしないか。
そうすれば地球人たち、無事に帰れるハッピーエンドもあり得るか。

更に言うなら、星作品だからこの程度の、比較的穏やかな?オチで済んでるのかもしれない。万が一、「地球人たちそのもの」を天からの授かり物だと思ったら、そしたら惨劇一直線。
何が恐ろしいって、もしそういう展開だったとしても、本作の地球人たちの調査では「感情+」(=好意を持ってる)という判定になるだろうって事。
この通り、価値観は立場によって変わる、という教訓が、今回のお話である。

それでは。また次回。


星新一ショートショート再読。(その38)

2023-10-15 | 星新一ショートショート

『診断』
新潮文庫、番号38、『ボッコちゃん』収録。

今回はネタバレして感想を書く。

星作品では、精神疾患をテーマ、というより話のネタに使った作品がしばしば見受けられる。
今まで紹介した『暑さ』もその一つだが、本作はそれと対照を成す内容である。

『暑さ』では、当人は異常性を訴えているが、周囲がそれを認めない。
対して『診断』では、当人が異常性への病識を全く持てておらず、周囲の説得を受け入れない。

……という構造を理解できるのは、本作を読み終えて全体を俯瞰できるようになった後。
初読時、本作の主人公は寧ろ聡明な印象に見え、故に、こちら読者は大いにミスリーディングに振り回されて騙される。そう読むように作られている。

ただし、本作の主人公が、収容されている“患者”である事は事実。
そんな主人公は、本作のラストでこそ取り押さえられ拘束され、ひとまずは事なきを得るが、いずれまた病院側の警戒をくぐり抜けるのは時間の問題と思われる。
自傷されるのも困るが、他害の刃傷沙汰が起こる危険性の方が遥に高いだろう。

さて問題。それでいざ刑事事件が発生した時、“患者”の主人公の顛末や如何に。
抱える妄想によって罪を免れるのか、それとも罰を受けるのか。
この「精神的問題を持つ加害者の刑事責任」という、21世紀現在でも非常にデリケートな問題を、これほど早い時代から扱っていた星作品の先見性に、改めて驚かされた私である。

それでは。また次回。


星新一ショートショート再読。(その37)

2023-09-03 | 星新一ショートショート
『キツツキ計画』
新潮文庫、番号37、『ボッコちゃん』収録。

FLASHアニメとかで見たい。
もっとハッキリ言えば、この話、『秘密結社鷹○爪』辺りでイメージされて仕方ない。
皆でいっしょうけんめい、面白おかしい悪事を企ててがんばるけど、失敗して報われない、ほのぼの世界観。

何たって、本作に出てくる組織名、「悪人団」ですからね。
素直すぎて可愛くなってくるレベル。
しかも、都会から離れた森の中にある小さな一軒家が本部。かわいい。
そもそも、彼らが成そうとする悪事も、自分らと同じ町内で派手に窃盗しようという程度のスケール。かわいい。

とにかく、この「悪人団」、運がなさ過ぎた。
悪事を働くように仕込んだ鳥たちは早々に自滅したため、赤字決算で終了してしまった。

掲載当時でもこの通り失敗した彼らだが、今の時代なら尚更難しいだろう。
施設の内外で押せる「ボタン」自体減ってきているから。
時代はタッチパネル、そして非接触タイプである。
もっと頭を絞れば、アイディアも出るかもしれないが、止めておく。
「悪人団」は、このまま平和に過ごしてほしいね。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その36)

2023-08-01 | 星新一ショートショート
『なぞめいた女』
新潮文庫、番号36、『ボッコちゃん』収録。

記憶という物には、客観的な証拠能力がない。
今回のショートショートを端的に述べるとこうなる。

その人の人生の記憶というのは、どこまで行っても自己申告でしか表せない。
「私は記憶喪失です」と表明されたら、周りはそれを受け入れるしかない。
たとえ、それが嘘でも、少なくとも医学的に見破る方法はない。
もっとも、ごく親しい身内や仲間が探りを入れれば、違う展開も充分起こるだろう。

ところで、身元不明の記憶喪失者というのは、確かにありふれた物では決してない。
かと言って、そこまでとんでもなく珍しい物でもない。
ネットで検索する分には、幾らか記事がヒットする。
テレビ番組などで、特集が組まれる事もある。

もし記憶喪失になった人が実際に発見された場合、対処するマニュアルはある程度存在する。取りあえず警察や自治体の管轄となる。
生活基盤は生活保護で賄う事が出来る。
戸籍を再取得する事も不可能ではないという。

しかし、だからと言って、安易に記憶喪失者を名乗るのはリスクが高すぎる。
本作の警察は誠にのんびりしていたから良かったものの、もし上記のようなマニュアルに従って迅速に処理されていたら、彼女も「なぞめいた女」でいるどころではなかっただろう。
各所からお叱りを受けるオチの方が、あり得そうだ。ご用心、ご用心。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その35)

2023-07-07 | 星新一ショートショート
『被害』
新潮文庫、番号35、『ボッコちゃん』収録。

読み終わったと同時に思わず出た一言。
「そんなんありか?」(←星作品では通常運転)

つくづく思う。星作品の世界に、まともな訪問客はいない。
『悲しむべきこと』『デラックスな金庫』『気前のいい家』のように、そのまま強盗のパターンをはじめ、
『猫と鼠』に『年賀の客』に『波状攻撃』……まだまだあるだろう。

だから、客を迎え入れた側の方が一枚上手というオチだろうとは、すぐに想像がつく。
では、この強盗は今回どういう風に逮捕されるんだろうとか考えながら読んでいって、そして知る。
逮捕よりも恐ろしい末路に至るオチが待っていた事を。
つまり、タイトルの「被害」とは、むしろ強盗の方が受けた物という意味だった次第。

それにしても、強盗が受けたその被害というのが、何とも突飛。
強盗や金庫などのモチーフから、現実的なミステリ路線と思わせて、最後の最後で、世界観はファンタジー路線へ転移してしまう。

家主はあれか、古文書から秘術を得たりしたのか。
それに、何でその秘術で使うのが、ごくフツーの金庫なのか。
曰くありげなアイテムじゃないのか。

ただ、そんなツッコミを入れつつも読み返すと、オチに至るまでの伏線は(当然ながら)敷かれている。
かつて落ちぶれていたが景気がよくなったと。
ミステリと思ったらファンタジーと思ったら、やっぱり充分にミステリしてる、と感心するまでが、本作を楽しむワンセットである。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その34)

2023-06-04 | 星新一ショートショート
『肩の上の秘書』
新潮文庫、番号34、『ボッコちゃん』収録。

本作のタイトルにあるアイテムは、個人的にちょっと欲しいなと思ってしまう時がある。
人々が連れ歩くオウム型ロボット。
何と、自分が小声でつぶやいた言葉を聞き取り、礼儀正しく丁寧表現で言い直してくれる代物。
そして逆に、相手の婉曲な表現を、分かりやすく教えてくれるというとんでもない代物。
つまり人々は、対外的には全部オウムを通して“会話”しているわけだ。
ぶっちゃけ、今時のAIに音声認識を付けた物に近い。

そんな世界で主人公は、ビジネスでは客や上司と、互いにオウムを駆使して“会話”する一方、オフの時間になればオウムを外し、酒場で(オウム付きの)女性と、本当の意味での会話を楽しむ。
(因みに主人公の名前はゼーム氏。エヌ氏ではない)

本作から読み取れる事は多い。
人々が付き合いで交わしている“会話”には、実のところ意味はない事。
付き合いの中で、人は自らは出来るだけ単純な連絡を求め、相手には逆にやわらかい表現を求める事。
その両方の要素のバランスが大切で、とても難しい事。などなど。

ところで本作の世界では、このオウムは手放せないインフラと化しているだろう。
万一、オウム達が壊れたらどうなるか。
そもそもオウムが相手の話を「まとめる」時点で少なからず危なっかしい。
もしオウムが勝手に余計な推測を加えて“会話”し始めたら大変。
下手すると、人間には理解できない言語でオウムだけが“会話”してるなんて事態になったりして。
先の想像も、興味深くも恐ろしい話である。

それでは。また次回。