2.出版社に断られ続けて…
ようやく出来上がった試作本をどのように行商するのか。私のイメージでは自分で本と資料をしょって出版社に訪ねて行くという行商スタイルでした。しかしいきなり飛び込んでも門前払いではつまらないので、まずここで出してもらえたら嬉しいと思う出版社に電話をかけてみることにしました。けれどもこのイメージは時代錯誤だったようです。どこも「持ち込みはお断りしています」と言うのです。唯一会ってくれたのは、植田重雄氏が『リーメンシュナイダーの世界』を出版した恒文社でした。植田重雄氏との関係もあるので取りあえず見るだけは見てみようかという考えだったのでしょう。結果は以下のとおりでした。
● こうしたビジュアル本を出版社が出版するためには1000万円はかかるので、回収可能と判断されないとできない。しかしリーメンシュナイダーはマイナー な存在。一体誰が手に取ると思うか。そこからして出版社での出版は無理と考えた方が良い。
● ホームページも読んだが、余計な話が多すぎる。仮にリーメンシュナイダーに興味がある人は本を開いたとしても、福田がどうしたとか、誰と友だちになったとかは一切関係が無い。リーメンシュナイダーだけのことに絞って書かないと本としての価値はないと思った方が良いだろう。
● しかし、作品一覧に載っている全部の写真を撮ってリーメンシュナイダーの仕事をまとめることができれば、それはそれで価値あるものと考える。
● あるいは南ドイツのリーメンシュナイダーを巡る旅を紹介するガイドブックに徹したら、我が社でも検討の余地はある。
言われてみればそうだろうなぁと納得できるお答えでした。
その他、もっとあちらこちらに電話しても、「取りあえず見本を送ってみてください」と言ってくれたのは3社だけでした。けれども試作本を送ると、やはり3社とも出版は難しいという返事。時すでに6月、あと半年で本当に本が出来上がるのだろうかと焦りを感じ始めました。やむを得ず自費出版社にも働きかけてみることにしましたが、ここならというところはなかなか見つけられず、最終的に、丸善プラネット株式会社に決めました。対応が誠実だったこと、写真がきれいに印刷できることからお願いすることにしたのです。ただし、やはりA4版では大きくて書店の棚には入れにくいということもあり、制作費用も高くなるので、B5版に直すことにした結果でしたが。そして、友人・知人・今までの出版社からのアドバイスを元に、リーメンシュナイダーのことにしぼり込んでページを減らし、最後に作品一覧を付けることだけは譲れずに2部構成で作ることにしました。こうして契約が成立したのが8月でした。
最後まで苦労したのが本のタイトルでした。私が付けた仮題は自分でもどうしようもなく「ださい」感じがしていたのですが、あれこれ娘と夫と話し合ううちに『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』ということになったのでした。また、ドイツ大使館に試作本を持っていき、文化部長のハラルド・ゲーリック氏に巻頭のご挨拶をいただくことができたのは幸いでした。
印刷が出来上がったのが12月末でした。三津夫との約束には何とか間に合いました。ただ、残念なことに、ヨハネスの写真の色合いが赤っぽくなっていたので校正中何度もお願いしたにもかかわらず、色合いは直されていませんでした。恐らく他の人の目で見ればそれほどには感じないでしょうけれど、せっかく写真を贈呈してくれたヨハネスがどう思うかと気が重くなりました。また、すでに会社の方でも印刷ミスを見つけていました。しかし、本として出来上がってしまったものを直してくださいと言うこともできずに受けとりました。自費出版もなかなか思うようにはいかないものです。最も初版からノーミスの本は大変少ないものとは思いますけれど…。
このようにして出来上がったのがこの本です。
『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』が出版できたら私の仕事は取りあえず一段落すると思っていたのですが、それは大きな間違いでした。 ※ このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015 Midori FUKUDA