新・旅日記 No.3 2009年冬の旅
ロルフとイルマ
1998年、私は娘とドイツ・スイス・イタリア地方を個人旅行で回りました。最初に訪ねたのはシュトゥットガルトの近郊に住むシルビア、トルステンの家で した。ドイツ国内の数日間はシルビアがナビをし、トルステンが運転して回ってくれたのです。何から何まで面倒を見てくれた彼らと別れて2人きりになったと き、本当にこれから2週間、私たちだけでやっていけるのだろうかと大きな不安に駆られたものです。
この心細い2人旅の始めの途中、インターラーケンから登山鉄道に乗ったときに「19.第二の故郷ドイツ」でご紹介したルースとトーマス夫妻に出会ったのでした。ミリーの優しい眼差しが奈々子を捉え、それから会話を交わすようになったのです。
そ の後、ツェルマットというマッターホルンの麓の村に宿泊しました。そこでは無料のアルプスの高山植物を見るツァーがあったので、せっかくだから参加してみ ようということになり、駅前に集合。グループは約10人ぐらいだったと思います。日本人は私と娘だけでした。地元ガイドさんが植物図鑑をもって山を歩きな がらドイツ語で説明してくれるのですが、私には全然わかりません。そこに親切な男性が二人現れました。そのうちの一人がロルフだったのです。このとき名前 はまだお聞きしていなかったのですが、ほっそりした紳士といった感じで、ゆっくりとした英語で解説を翻訳してくれました。このロルフが少し場を離れると、 髭の生えたマルクスという男性が替わって英語に訳してくれて、この二人のおかげで何とか内容を聞き取りながらいろいろな花を見て歩くことができました。
リッフェル湖駅でツァーは急に流れ解散となり、私たちはお二人にお礼を言うまもなく離ればなれになってしまいました。娘と二人で「住所を聞いておけば良かったね」と残念がったのですが、後の祭りでした。
翌日、私たちは登山列車でゴルナーグラードという山に登りました。ここから歩いてツェルマットまで下ってみようと歩き始めたところで、何と前日の親切なロ ルフとバッタリ出会ったのです。娘も大喜び。一緒に写真を撮らせていただいて手紙のやりとりが始まりました。2000年にはお連れ合いのイルマも一緒にス イスのシュールという街で再会したのでした。
2006 年の留学時には再び彼らを訪ねてチューリッヒまで行きました。可愛らしい山小屋のような家で二人助け合って生活していましたが、イルマは出会った頃はかく しゃくとしていたのに、リューマチがひどくなって大分背中が曲がり、歩くのも辛そうでした。その分、ロルフが一緒にエプロンを着けて家事でも庭仕事でもし ているのでした。そ んな姿を見ているうちに、この優しいロルフとベルリンのボーデ博物館にある騎士ゲオルグの表情が何となく似ていると気がついたのでした。帰国してから騎士 ゲオルグ<写真30>の写真をロルフに送ってみたところ、「確かに弟といっても通用するかもしれないね。でもぼくはそんなにやせていないよ。」と返事が来たのでした が。
<イルマ(右)とロルフ(左) 2009年1月 チューリッヒのお宅に向かう道ばたにて> <こちらが可愛らしいお二人の家 門前にて>
<作品写真31> 竜と闘う聖ゲオルグ Heiliger Georg im Kampf mit dem Drachen
Tilman Riemenschneider, 1490~1495 Bode-Museum
※ロルフが静かに座っていると、このゲオルグにとても似ている感じがしました。
残念ながらロルフは、2011年11月に交通事故で突然亡くなってしまいました。イルマはロルフが亡くなった後、一度だけ手紙をくれたのですが、返事を出してもその後は連絡がとれません。お元気なのかどうか気掛かりです。
チューリッヒでは、新しく見たリーメンシュナイダー作品はありませんでしたが、チューリッヒ美術館にある「三日月の上の聖母子像」は拝観してきました。
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