相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月,入所者19人が殺害され,職員を含む26人が重軽傷を負った事件の裁判員裁判の判決公判で,横浜地裁は16日,殺人罪などに問われた元職員,U被告(30)に求刑通り死刑を言い渡した。
U被告はこれまでの公判で起訴内容を認め,「意思疎通できない重度障害者は安楽死させるべきだ」「事件は社会に役立つ」と差別的な持論を展開し,犯行を正当化し続けた。被告の思惑を打ち消す意味で,安楽死について考えるうえで,『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと (岩波ブックレット)』は有用である。本書は,安楽死を考えるうえで知っておきたいおの意味,意義を論理的に系統立って解説している。
問題の前提-「安楽死」について,世界共通の定義や学問的に公認された定義は存在しない。(p25)
「安楽死」や「尊厳死」について,世界共通の定義や学問的に公認された定義などは存在しない。「安楽死」や「尊厳死」といった言葉が出てきたときに,それが何を指しているのか,ということは,極端に言えば論者ごとに違うし,同じ論者が同じ言葉を違った意味で使っている場合すらある。こうした用語の問題をきちんと考えるためには,なぜ人が「安楽死」や「尊厳死」といった言葉を使うのか,あるいは使わないのか,についての歴史的な経緯やイメージ戦略,すなわち言葉のポリティクス(政治)に敏感になる必要がある。
広い意味での安楽死 (p14~p17)
「安楽死(英語でeuthanasia)」という言葉の語源は,古代ギリシャ語の「eu(よい)十thanatos(死)」にある。ここではまず,「もっとも広い意味における安楽死」を「直接的ないし間接的に死をもたらす何らかの意図的行為によって,人を「よい死」に導こうとする行為」と定義しておこう。注意すべきことは、ここで 「死をもたらす」という言葉は「意図」にかかるのではなくて「行為」にかかるということである。結果的に死をもたらす(ことがわかっている)行為についても,それは「死なせる」ことを意図しているのではなく,「苦痛から解放する」ことを意図しているのだ(から正当化できる),という言い方は常にできるからである。
(中略)
「広義の安楽死」に含まれる行為として、生命倫理学では、次の三つに分けて考えるのが一般的である。
①積極的安楽死 医師が致死薬を患者に注射して死なせること。薬剤としては筋弛緩剤が使われることが多い。
②医師討助自殺 通常、医師は致死薬を患者に処方する。患者はそれを好きなときに飲んで自殺する。飲むか飲まないかは患者 の自由であり、飲まない(あるいは飲むことをやめる)場合もあ れば、たとえば飲み込む力がなくなって)飲めない場合 もある。薬剤としては強い睡眠薬や鎮静薬が使われる。
③延命治療の手控えと中止 ①や②と違い,生命を維持するための治療的介入を行わないこと,あるいはすでに行っているそう した介入をやめることによって,患者を死なせること。
何が「延命治療(生命維持治療)」に当たるかについては共通した認識はないが,人工呼吸器や人工栄養補給,人工透析な ど,それをやめてしまうことで死に直結するようなものが想定されていることが多い。
安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと (岩波ブックレット) | |
安楽死や尊厳死をめぐる議論はなぜ混乱するのか? 知っておくべき
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岩波書店発行 安藤 泰至著 520円+税 |
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>>>NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586161/index.html
去年、一人の日本人女性が、スイスで安楽死を行った。女性は重い神経難病を患い、自分らしさを保ったまま亡くなりたいと願っていた。患者の死期を積極的に早める安楽死は日本では認められていない。そんな中で、民間の安楽死団体が、海外からも希望者を受け入れているスイスで安楽死することを希望する日本人が出始めている。この死を選んだ女性と、彼女の選択と向き合い続けた家族の姿は、私たちに何を問いかけるのか見つめる。
安楽死を遂げた日本人 | |
宮下 洋一 | |
小学館 |
『安楽死を遂げた日本人』は欧州を拠点とし活躍するジャーナリスト,宮下洋一氏が自殺幇助団体の代表であるスイスの女性医師と出会い,欧米の安楽死事情を取材し,「理想の死」を問うノンフィクションである。
安楽死を遂げるまで | |
宮下 洋一 | |
小学館 |
安楽死を遂げた日本人 | |
宮下 洋一 | |
小学館 |
内容紹介 ”講談社ノンフィクション賞受賞作品!”
安楽死,それはスイス,オランダ,ベルギー,ルクセンブルク,アメリカの一部の州,カナダで認められる医療行為である。超高齢社会を迎えた日本でも,昨今,容認論が高まりつつある。しかし,実態が伝えられることは少ない。
安らかに死ぬ――。本当に字義通りの逝き方なのか。患者たちはどのような痛みや苦しみを抱え,自ら死を選ぶのか。遺された家族はどう思うか。
79歳の認知症男性や難病を背負う12歳少女,49歳の躁鬱病男性。彼らが死に至った「過程」を辿りつつ,スイスの自殺幇助団体に登録する日本人や,「安楽死事件」で罪に問われた日本人医師を訪ねた。当初,安楽死に懐疑的だった筆者は,どのような「理想の死」を見つけ出すか。第40回講談社ノンフィクション賞を受賞した渾身ルポルタージュ。