2月14日 今日の誕生花はミモザ -岸惠子さんの花!?-
「今日、2月14日の誕生花はミモザ。ミモザというと、反射的に岸惠子さんが思い浮かびました。小説『わりなき恋』、『岸惠子自伝』や『孤独という道づれ』の文中で自宅庭のミモザが描写されています。
花言葉の由来
花言葉の「秘密の恋」は、インディアンの若い男女が愛を告白するとき、アカシア属の花を使ったことに由来するともいわれます。
▼『わりなき恋』321~322ページ 岸恵子著 幻冬舎刊
長い坂道を一人の男が歩いてゆく。
若くはないが、年寄りという風情ではない。すっきりと背筋を立てて、豊かではあるがかなり白くなった髪の毛を掻きあげて、坂道に画したちいさな家のちいさな庭に眼をやった。そこにもう、男に懐いていた犬はいなかった。坂はまだだらだらと続いていた。その坂を、一歩一歩踏みしめるように男はゆっくりと登っていった。
坂を登りつめたところにある、おおきな角地のブロックに男が愛した、純日本式の家ももうなかった。歩調をゆるめた男は、東に面した道から、角を曲がって、かつて裏庭のあった道に回った。
そこに、はっとするほどおおきな房をつけたミモザの木があった。まだ冷たい春風のなかに、黄色いミモザの花盛りがあった。
塀をまたいで、路上にこぼれ咲く花を、男は見つめ、そっと手を触れた。
「よう、生きていたね。おおきくなったなあ、逢いたかったぞ。俺は今日、七十五歳になった。同い年になったんだ。それを言いに来た」
男の眼が潤んだ。潤んだ眼から涙が零れた。零れた涙は浅い皺のなかにうっすらと浮かんだ笑窪にひととき留まって流れ落ちた。・・
『孤独という道づれ』の198ページ(2019年5月1日発行 幻冬含刊)
立春は過ぎたのに、まだ二月という寒風が流れ込んで、わたしは思わず肩をすぼめながら裏庭に枝をひろげるミモザを眺めた。
冬から春に向けて、まっさきに咲いてくれるつぼみがもう膨らんでいる。庭を照らすライトのなかで、パラリと黄色い花房をひろげて、たわわに群れなすミモザの姿が浮かぶ。幻想のなかで、その花景色は、華やかでうつくしく、わたしは寒い風にさらされながら、なぜとはなく、意味もなく、微笑んでいる。
・・・・・・
『岸恵子自伝』(講談社発行)の325ページでは,自宅庭のミモザが次のように描写しています。
庭のミモザのつぼみはもう膨らんでいる。春に先駆けて、いち早く黄色い華やかな房を咲かせるミモザは、看取れなかった母への供養として、帰郷後の二〇〇一年に、母が使っていた部屋の前に植えた。その後ろに、柚子の実に覆われた大木が見事な立ち姿を見せている。
岸 惠子 (きし けいこ)さん略歴
横浜市で1933年生まれ。『我が家は楽し』で映画デビュー。『君の名は』『雪国』『おとうと』『怪談』『細雪』『かあちゃん』など名作に出演。現在も映画,テレビ界の第一線で活躍。40年あまりのパリ暮らしの後,現在はベースを日本に移しながらフランスとの間を往復しつつ活動。海外での豊富な経験を生かし,作家,ジャーナリストなど多方面で活躍。2011年,フランス共和国政府より芸術文化勲章コマンドールを受勲。『ベラルーシの林檎』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)『風が見ていた』『私のパリ私のフランス』ほか著書多数。
わりなき恋 (幻冬舎文庫) | |
国際的なドキュメンタリー作家・伊奈笙子、六十九歳。大企業のトップマネジメント・九鬼兼太、五十八歳。偶然、隣り合わせたパリ行きのファーストクラスで、二人がふと交わした「プラハの春」の思い出話。それが身も心も焼き尽くす恋の始まりだった……。成熟した男女の愛と性を鮮烈に描き、大反響を巻き起こした衝撃の恋愛小説。待望の文庫化!
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幻冬舎刊 岸惠子著 650円 |
同年配女性 ご壮健な著名人(敬称略)
・樋口 恵子:1932年5月4日 (90歳)
・寿美花代:1932年2月6日 (91歳)
・岸 惠子:1932年8月11日 (89歳)
・黒柳 徹子:1933年8月9日(89歳)
・草笛光子:1933年10月22日 (89歳)
・中村メイコ:1934年5月13日(88歳)
◆ 岸惠子さんブログ記事 ~バックナンバー~
・岸惠子さん - そのドラマチェックな人生 2019-04-06
・岸惠子さんの小説『わりなき恋』-モデルは元デンソー副社長I氏 2019-01-25
・わりなき恋-その3 「主人公と恋仲になるモデルは,トヨタ元取締役」
・わりなき恋-その2 「岸惠子さん-パリ在住四十年」 2017-12-17
・わりなき恋-その1 「驚異的な若さの理由-岸惠子さん-85歳」
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