日本電産株式会社の代表取締役社長 永守重信氏は、一代で日本電産をコンピュータのHDDを駆動させるスピンドルモーターの製造にかけては世界シェア70%を誇る巨大企業に育てあげた。常に前向きで積極的な考え方を説く、突出した独自の経営哲学の持ち主としても知られる。1944年京都府生まれ。 職業訓練大学校を卒業した永守重信氏は、1973年に日本電産株式会社を設立した。氏は海外に活路を求め,単身アメリカに渡り、大口取引先を開拓した。アメリカに続いてアジア、ヨーロッパへも販路を広げた。 永守氏は、また経営再建の名手としても知られる。不振にあえぐ企業20社以上の再建を手掛け、それらすべての再生を果たしている。
◆マナー、礼儀作法を知らない社員は使いものにならない
新入社員研修のなかにマナー講習を取り入れている企業は珍しくない。だが、わが社ではその後段階的に実施する階層別集合研修にも、必ずマナー講習を行っている。これは女性社員だけを対象にしているわけではないが、結婚して家庭に入った女性社員たちから、非常に喜ばれ、感謝されている。
そのマナー講習は、名刺の受け渡しや電話応対の仕方といったビジネスマナーだけにとどまらず、社会人として日常生活を送っていくうえで必要な礼儀作法から、冠婚葬祭のあらゆる知識まで広範囲に及ぶ。手紙の書き方、のし袋の表書きの常識、ふくさの包み方、出し方、お祝いにはどんなものを持っていくと喜ばれるのかといったことから、テーブルマナー、焼香のやり方、近所とのつき合い方まで会社で教える。
それも中途半端にはやらない。たとえば、お茶の出し方一つでも、お盆の持ち方やその位置と歩き方、応接室のノックの仕方、ドアを開けて部屋へ入り、ドアを閉めるまでの一連の動き、その間のお辞儀の仕方やタイミング、お盆をサイドテーブルに置くときの位置や姿勢、そして茶器を持ってお客様の席までの移動の仕方、お茶を置く位置と声のかけ方、それから退室するまでの一連の動作、さらに次の飲み物を出すタイミングのはかり方……。こうしたことは本来家庭で躾けるべきだとは思うが、わが社ではここまで徹底して指導している。
なぜならマナー、礼儀作法すら満足に身につけていない社員に、会社の規則やルールはこうなっている、経営ポリシーや経営方針はこうだ、などといってみても、結局は徒労に終わってしまうというわたしの考えからである。
一流企業、優良企業というのは、決して売上や利益が高いことだけではないはずだ。社内の行き届いた清掃と整理整頓。アポイントの時間が厳守され、訪問者を五分たりとも待たせるようなことはしない、させない社風。そして受付での対応にはじまり、廊下ですれ違う社員の動き、言葉づかい、身だしなみ……。たとえ工場や品質をチェックしなくても、もうこれだけでこの会社の製品が充分信頼に足るものであることがわかる。
女性社員は男性社員に比べて、このあたりには、はるかに敏感に反応する。特に女性社員に一流企業、優良企業に勤めているという誇りとプライドを持ってもらうために、わが社ではマナー講習には特に力を入れている。
*出典: 『 「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる 』 永守重信著 三笠書房刊
「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる | |
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日本電産永守イズムの挑戦 (日経ビジネス人文庫 ブルー に 1-32) | |
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