その仕立屋のことだが(「千一夜物語」の中の「仕立屋の物語」の仕立屋のことだが)、ドイツ語訳では「Schneider」、すなわち「切る人」である。思い出すのは朝ドラ「カーネーション」で、洋裁家のヒロイン糸子が洋服をこしらえるとき生地をハサミで一気呵成に切るシーン。まさに「切る人」であった。もちろん、切ったままでは服にならないから、その後は縫う。「仕立屋の物語」でも、「schneider」(切る)と「nähen」(縫う)がセットになっていた。だが、ドイツ語は、仕立屋を表す言葉として、「Näher」(縫う人)ではなく「Schneider」を選んだ。切る方を重視したのだろうか。あるいは、「Näherin」には既に「お針子」(縫う専門)の意味があったので、縫うだけでなく切りもする仕立屋には「Schneider」を当てたのだろうか。
「切って縫う」は外科医の仕事でもある。
人が仕立てる対象は服以外にもいろいろあるのに、特に洋服作りが「仕立屋」になったのは不思議である。それを言ったら、「オペラ」も本来の意味は「作品」であるのに特に歌劇が「オペラ」になったのも不思議である。
なお、前記の「Näherin」が女性形なのは歴史的にお針子業を女性が担ってきたからだが、今朝のあさイチで見事な針仕事を披露したロッチのコカドさんのような男性が増えれば、辞書の「Näher」(男性形)にも「お針子」が載ることになるだろう。なお「näher」と小文字で書いた場合の意味は「より精密に」である。