働き方改革関連法ノート

厚生労働省の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会や労働基準関係法制研究会などの議論に関する雑記帳

裁量労働制 拡大は誰のため?

2018年10月09日 | 裁量労働制
高度プロフェッショナル制度とともに裁量労働制の対象拡大は「長時間労働を助長する」という強い反対意見があったにもかかわらず、厚生労働省は新たに裁量労働制実態調査に関する専門家検討会を発足させ、早速、2018年9月20日に最初の検討会が開催され、10月下旬には第2回の検討会が開催される予定で、安倍政権は再び「裁量労働制の拡大」への道を歩み始めています。

加藤(前)厚生労働大臣会見
2018年10月2日に加藤(前)厚生労働大臣が大臣として最後の記者会見を行い、次のように述べています。

まずは何と言っても「働き方改革実行計画」、これも私が働き方担当大臣として取りまとめたわけでありますが、それに基づく働き方改革法案、これは国会でも色々な議論がありましたが、成立が図られたところであります。ただ、残念ながら裁量労働制に関しては統計等に問題があり、その部分は全面的に削除し、また改めて統計を取り直すという作業に今入らせていただいているところであります(略)。

「裁量労働制に関しては統計等に問題があり」ということですが、統計等の「等」とは何かを語らず、統計だけに問題があり、あらためて統計を取り直す作業に入っているので、裁量労働制そのものに問題はないような印象を与えています。

この会見で(厚生労働省ホームページの会見概要を読む限りでは)加藤(前)大臣は、裁量労働制を適用された社員が相次いで労災認定(過労自殺を含む)されていた三菱電機のことには一言もふれていないが、記者からも三菱電機の裁量労働制適用社員の過労死・過労自殺については何の質問も出なかったのだろうか。

裁量労働制廃止直前の三菱電機に厚労省が立ち入り調査
まず朝日新聞デジタルは「三菱電機、裁量労働制の3人労災 過労自殺も」と見出しをつけた記事を2018年9月27日5時01分に配信しました。

三菱電機の男性社員5人が長時間労働が原因で精神障害や脳疾患を発症して2014~17年に相次いで労災認定され、うち2人が過労自殺していたことがわかった。5人はシステム開発の技術者か研究職だった。3人に裁量労働制が適用されており、過労自殺した社員も含まれていた。労災認定が直接のきっかけではないとしながらも、同社は今年(2018年)3月、約1万人の社員を対象に適用していた裁量労働制を全社的に廃止した。

三菱電機は約1万人の社員を対象に適用していた裁量労働制を全社的に廃止しましたが、これは異例のことです。

そして朝日新聞デジタル「三菱電機、厚労省が立ち入り調査 裁量労働制廃止の直前」(千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦、2018年9月28日12時00分)には次のように記載されています。

裁量労働制を適用された社員が相次いで労災認定されていた大手電機メーカー、三菱電機の本社(東京)が、裁量労働制を廃止する3カ月前に厚生労働省の立ち入り調査を受けていたことがわかった。これは、違法な長時間労働や過労死が複数発生した企業の社名を公表する仕組みの中で、企業名を公表する一歩手前の段階の調査だった。

それでも加藤(前)大臣は10月2日の会見で裁量労働制の実態調査のやり直しにふれながらも三菱電機裁量労働制適用社員の労災認定(過労自殺を含む)についても三菱電機裁量労働制廃止直前の厚生労働省立ち合い調査についても一切語ることはなかった。

裁量労働制拡大は誰のためか?
毎日新聞は今年(2018年)3月1日に「裁量労働制 削除に『残念』 財界から失望の声」との見出しをつけた記事を配信していました。

安倍晋三首相が、今国会に提出する働き方改革関連法案から裁量労働制の対象拡大に関わる部分を削除する方針を表明したことについて、実現を求めていた日本商工会議所、経団連、経済同友会の財界3団体トップからは1日、失望や遺憾の声が相次いだ。

裁量労働制拡大は誰のためか?
このような財界3団体トップの声に応えるための裁量労働制拡大であることは、あらためて語ることでもないし、安倍政権が労災認定された社員や過労自殺した遺族の側に立とうとしていないと今さら指摘することでもない。

日商の三村明夫会頭は1日の記者会見で「非常に残念だ。政府は(裁量労働制について)実態調査をきちんとやったうえで再度法案を提出すると理解しているので、できるだけ早く実現してほしい」と、安倍政権に注文をつけた。

三村会頭は「働き方改革は日本の成長戦略の一丁目一番地。労働者が自分の生活パターンに合った働き方を求め、企業がいろんな働き方の選択肢を提供するものだ」とメリットを強調。労働側には「大企業が裁量労働制の拡大で賃金コストの圧縮を目指している」との批判もあるが、三村会頭は「企業が労働者をどんどん働かせるために導入することはないと思う。残業代をケチるために裁量労働制を考えている経営者はゼロとは言わないが、非常に少ないんじゃないか」と反論した。

経団連の榊原定征会長は1日、「柔軟で多様な働き方の選択肢を広げる改正として期待していただけに残念に思う。今後、新たな調査をしっかり行い、国民の信頼と理解が得られるよう全力を尽くしていただきたい」との談話を発表した。経済同友会の小林喜光代表幹事は「世界と比して低い生産性の向上が求められる中、今回の事態は極めて遺憾だ」などとするコメントを出した。


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