働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

裁量労働制拡大を労働基準法でなく厚生労働省令・厚生労働大臣告示で?

2022年11月30日 | 裁量労働制
第183回 労働政策審議会 労働条件分科会
第183回 労働政策審議会 労働条件分科会が2022年11月29日に開催されたが、議題は(1)「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の一部を改正する件案要綱」について(諮問)、(2)労働時間制度について、(3)その他。

毎日新聞(デジタル版)は「厚生労働省で、裁量労働制の対象拡大に向けた議論が大詰めを迎えている。29日に開かれた厚労相の諮問機関、労働政策審議会の分科会では、経団連が対象の拡大を求める一方、長時間労働につながりかねないと連合は反発している。2018年に成立した働き方改革関連法では、厚労省側のミスで裁量労働制の拡大が法案から削除された経緯がある。厚労省は年内にも結論を出したい考えだ」(毎日新聞デジタル版『裁量労働制、「対象拡大」議論が大詰め 連合は反発、経団連は悲願」2022年11月29日配信)と報じた。

また、毎日新聞(デジタル版)は「企画型(裁量労働制)を拡大するには法改正が必要となるが、専門型(裁量労働制)ならば省令改正で対応できるという。こうした点も念頭に、厚労省幹部は『与野党の議論が紛糾する国会会期中は避け、来年の通常国会が始まる前の年内には一定の結論を出したい』とする」(毎日新聞デジタル版『裁量労働制、「対象拡大」議論が大詰め 連合は反発、経団連は悲願」2022年11月29日配信)とも報じている。

経団連は国会審議が必要な法律(労働基準法)改正をしなければならない企画型裁量労働制対象業務拡大を望んでいるが、厚労省幹部は(まだ結論を出しているわけではないが選択肢の一つとして)国会審議不要の厚労省令・厚労大臣告示だけですむ専門型裁量労働制の対象業務追加にしようとしている。つまり、厚労省幹部は(可能であるならば)専門型によって裁量労働制の対象業務拡大をして、企画型を望む経団連の意に反しても国会審議を避けることのできる専門型ですまそうとしているとも言い得る。

なお、厚生労働省サイトによると、専門型裁量労働制は「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」とされている。

また、この専門型裁量労働制度に対して「企画業務型裁量労働制とは、それぞれに労働基準法で認められる、 『事業場』の『業務』に『労働者』を 就かせたときに、 その事業場に設置された労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができる 制度」と規定されている。

裁量労働制は、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で決めた時間を労働時間とみなす制度。労働者の裁量で働く時間を管理できる。弁護士や証券アナリストなど19業種を明示した「専門型」と、事業の内容を例示した「企画型」の2種類がある。厚労省の21年度調査によると、導入する企業の割合は専門型2・0%、企画型は0・4%にとどまる。

29日の分科会では、経済界選出の委員が「労働時間と成果が必ずしも比例しない業務に適した仕組み。能力発揮の有力なツールになる」と拡大を求めた。しかし、労働団体側の委員は「適用された労働者は長時間労働の割合が高く、健康確保の観点から問題がある」と反論する。

経団連は企画型の対象拡大を重視する。具体的には、システム開発会社でのITシステムなどの開発提案や、人事部門での働き方改革の企画や改善、金融機関での企業の合併・買収方法などの顧客への助言などの業務だ。

もともと企画型の対象拡大は、18年成立の働き方改革関連法で一部の営業職で実現するはずだった。ところが、法案の根拠となった厚労省の調査データに多数のミスが見つかり、法案から削除された。かねて裁量労働制の拡大を求めてきた経団連にとっては悲願ともいえる。

企画型を拡大するには法改正が必要となるが、専門型ならば省令改正で対応できるという。こうした点も念頭に、厚労省幹部は「与野党の議論が紛糾する国会会期中は避け、来年の通常国会が始まる前の年内には一定の結論を出したい」とする。(奥山はるな、石田奈津子)<毎日新聞デジタル版『裁量労働制、「対象拡大」議論が大詰め 連合は反発、経団連は悲願」>


裁量労働制、「対象拡大」議論が大詰め 連合は反発、経団連は悲願 | 毎日新聞

追記:第184回 労働政策審議会 労働条件分科会
第184回 労働政策審議会 労働条件分科会が2022年12月6日に開催されたが、議題は(1)労働時間制度について、(2)解雇無効時の金銭救済制度について。

資料1(労働時間制度に係るこれまでの労使の主な御意見)の1ページには最慮労働制対象業務拡大に関する論点と労働側意見と使用側意見が記載されている。

裁量労働制について
(1)対象業務
検討の論点
まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上、可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検討し、対象業務の範囲については、経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当ではないか。

労働者側委員からの御発言
・裁量労働制が適用されると、通常の労働時間管理を外れ、みなし労働時間制になり、正確な労働時間の把握がされない事案が増えるのではないか。仮に対象業務を拡大するようなことになれば、労働時間が正確に管理されない労働者の数が増えることを大いに懸念。長時間労働を助長し、労働時間法制の原初的な使命である労働者の健康確保の観点から問題がある事案を増やしかねないため、裁量労働制の安易な拡大については反対。
・フレックスタイム制でも業務の遂行方法も含めて工夫して取り組んでいるところもあり、裁量労働制を適用する必要はないのではないか。
・現状、様々な不適切な運用が見られるため、まずはここをしっかりと改善すべきではないか。裁量労働制の本旨を逸脱したような不適切な運用改善を徹底し、実効性を高めていくことが先決であり、安易な拡大は反対。
・「労働時間と成果が比例しない」ことは対象業務拡大の理由として適切ではないのではないか。

使用者側委員からの御発言
・昨今、課題解決型・提案型のビジネスなど、必ずしも時間と成果が比例しない職務が増えてきた。真に時間にとらわれない働き方を可能とする裁量労働制が広く活用されることを期待している。一方、少ないながらも裁量労働制の適用に不満を持つ方がいることも事実であり、適正な運用を図りつつ、対象業務の拡大を検討する必要があるのではないか。
○フレックスタイム制では報酬が成果ではなく労働時間の実績に応じて支払われる一方で、裁量労働制は成果を重視した制度で成果主義
的な処遇と親和的な仕組みであるため、裁量労働制の対象業務の拡大とフレックスタイム制の活用は切り離して議論する必要があるの
ではないか。
・平成29年に本分科会で示された働き方改革関連法案要綱において企画型の対象業務へ追加することとされていた「課題解決型開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」の必要性はむしろ高まっており、裁量労働制の対象にすべきではないか。
・「金融機関において、顧客に対し、資金調達方法や合併・買収等に関する考案及び助言をする業務」は、専門性が極めて高く、労働時間と成果が比例しない性質のものであることから、まさに裁量労働制の対象にふさわしいのではないか。また、当該業務については、顧客等との調整を主に行うフロント部署が拾ったニーズに対して専門性を発揮して提案内容を考案する業務であり、顧客都合により裁量が持てないということはない。また、チームで仕事をすることがあるものの、各担当者が上司の具体的な指示の下に業務遂行するものではなく、それぞれの専門性を発揮して個別に担当業務に当たっている。


資料1「労働時間制度に係るこれまでの労使の主な御意見」(PDFファイル)

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