働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

M&Aアドバイザー(考案・助言業務)を専門型裁量労働制に(厚生労働省方針)

2022年12月24日 | 裁量労働制
金融のM&Aアドバイザー(考案・助言業務)を「専門型」裁量労働制対象業務に
朝日新聞は12月23日に「厚生労働省は(2022年12月)22日、事前に決めた時間だけ働いたとみなして一定の賃金を払う『裁量労働制』を適用する対象に、銀行や証券会社でM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務を加える方針を固めた。近く審議会で労使の了承を得て、結論を出す。来年(2023年)省令を改正し、再来年(2024年)に実施する見通しだ」(朝日新聞デジタル「裁量労働制、対象業務を追加へ 銀行・証券でM&Aの考案・助言」2022年12月23日配信)と報道。

*労働政策審議会・労働条件分科会の使用者側委員は銀行・証券でM&Aの考案・助言業務以外の他の業務についても裁量労働制対象業務への追加を求めていたが、厚生労働省はそれらの業務は見送る方針。

裁量労働制には企画型と専門型とある。企画型に対象業務を追加する場合は労働基準法の改正が必要だが、専門型に対象業務を追加する場合には労働基準法改正は不要で省令等の改正だけですむ。今回は「来年(2023年)省令を改正し、再来年(2024年)に実施する」ということだから専門型裁量労働制ということになる。

また、毎日新聞は(12月13日の記事になるが)「厚生労働省は(2022年12月)13日の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会(労働条件分科会)で、金融業の一部職種に裁量労働制を広げる案を提示した。連合など労働者側の委員は反発しており、経営者側の意見も踏まえ、厚労省は方針をまとめたい考えだ。拡大が検討されている職種は、金融機関で働く、企業の合併・買収(M&A)や事業承継の助言をする『M&Aアドバイザー』。新型コロナウイルス禍に伴う不況で事業再編が加速し、M&Aアドバイザーの需要は高まっているとされ、経団連は『銀行や証券会社で、企業の調査・分析やM&Aの戦略作り、提案をする業務』への適用拡大を要望していた」(毎日新聞デジタル版「M&Aアドバイザーを裁量労働制に 労働政策審議会が拡大提案」2022年12月13日配信)と報じていたが、最初にM&Aを対象業務にと提言したのは2022年9月27日の労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)労働条件分科会で経団連の鈴木委員。

9月27日の労働条件分科会における経団連委員発言
2022年9月27日に開催された第179回 労働政策審議会 労働条件分科会において(厚生労働省サイトに公開された議事録によると)経団連の鈴木重也委員(一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部長)は、裁量労働制の対象業務追加ニーズについて「近年、事業者等による資金調達方法が多様化し、金融機関では個別の顧客のニーズに応じたファイナンススキームの組成が行われたり、実際、M&Aや事業承継の件数も増えています。財務計画や企業の価値の分析を含めたM&A、事業承継に関する専門的なアドバイスを金融機関から受けたいというニーズは一層高まっていると思っています。改めて銀行等からニーズについてのヒアリングもさせていただいたところ、金融機関において、顧客に対し、資金調達方法や合併、吸収、買収等に関する考案及び助言を行う業務は極めて専門性が高く、労働時間とその成果が比例しない性質のものであり、まさに裁量労働制の対象にふさわしいものと考えております。こうした業務に就かれる方の年収水準は高く、満足度も高いと考えられますが、我が国の賞与決定の方法が、個別企業労使で都度決定をする、あるいは変動部分の報酬も高いということもありますので、例えば高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくないと思っています。こうした状況を踏まえますと、金融機関において、資金調達方法や、合併・買収等に関する考案及び助言をする業務に従事する方の能力発揮を促して働きやすい環境を整えるには、裁量労働制の対象への追加が適当ではないか」と発言。

使用者側委員の意見に対して労働者側の八野正一委員(UAゼンセン会長付)は「今、使用者側からのお二方の意見に関して、現下の企業変革に伴う様々な対応が必要だということについては理解します。ただ、前回申し上げましたように、まずは企業の明確な方針、ビジョンがきちんとあって、その上で人事制度が設計されて、どういう働き方なのかということが決まっていくことになると思いますので、企業変革に伴う対応が直接、裁量労働制の拡大には結びつかないと認識しております」と反論。

また、八野委員は「今、鈴木委員(経団連)は資金調達の例を出されました。そこで働く人たちは高額な報酬ではあるものの、高度プロフェッショナル制度の年収要件までには達しないから、企画業務型裁量労働制の拡大が必要という発言のように聞こえました。高度プロフェッショナル制度を作るときにおいても議論されたところですが、制度の求める年収要件や様々な要件において合わないからといって、それを裁量労働制の拡大に結びつけることは労働時間法制のロジックから外れていると認識しておりますので、意見として申し上げておきたい」とも発言。

つまり、最初にM&Aを対象業務にと提言したのは9月27日の労働政策審議会分科会で経団連の鈴木委員だが、その際、鈴木委員は「高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくないと思っています。こうした状況を踏まえますと、金融機関において、資金調達方法や、合併・買収等に関する考案及び助言をする業務に従事する方の能力発揮を促して働きやすい環境を整えるには、裁量労働制の対象への追加が適当」と発言。

この鈴木委員の意見に対してUAゼンセン・八野委員は「高度プロフェッショナル制度の年収要件までには達しないから、企画業務型裁量労働制の拡大が必要という発言のように聞こえました。高度プロフェッショナル制度を作るときにおいても議論されたところですが、制度の求める年収要件や様々な要件において合わないからといって、それを裁量労働制の拡大に結びつけることは労働時間法制のロジックから外れている」と反論。八野委員の意見には同感するし、鈴木・八野両委員の議論は重要だと思う。

M&Aアドバイザー等に関するヒアリングを厚生労働省が実施
2022年11月8日に開催された労働政策審議会・労働条件分科会の資料2-2「ヒアリング結果の概要」によると、金融機関における「合併、買収等に関する考案及び助言をする業務(いわゆるM&Aアドバイザー業務)」と「資金調達方法を考案する業務」に関する関係団体・企業ヒアリングを労働政策審議会分科会以外の場所で厚生労働省が実施していた。ヒアリング内容は「概要」だけで詳細については不明。

なお、このヒアリングの問題点は次のように多数あることを指摘しておく。
・資料タイトルが「ヒアリング結果の概要」だけでは不明確。
・ヒアリング実施日が「10月」とだけ書かれており不明確。
・ヒアリングした関係団体や企業の名称が書かれておらず不明確。
・労働者や労働団体からのヒアリングは行われていない。
・なぜ労働条件分科会以外の場所でヒアリングが行われたのか説明がない。


なお、労働政策審議会分科会の経団連委員はM&A考案・助言業務と資金調達方法考案業務も裁量労働制の対象業務追加を求め、厚生労働省はM&A考案・助言業務と資金調達方法考案業務について関係団体・企業ヒアリングも実施したが、(明確に断言することはできないけれども)資金調達方法考案業務については見送られたらしい。

ヒアリング結果の概要
*以下は、第179回労働条件分科会(令和4年9月27日)において使用者側委員より発言のあった業務のうち、精査を必要とする業務について、令和4年 10 月に実施した関係団体及び企業へのヒアリング結果をまとめたもの。

1 関関係団体からのヒアリング概要
・金融機関における、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務(いわゆるM&Aアドバイザー業務)も資金調達方法を考案する業務も、従来の労働集約的な業務ではなく、自らの知識・経験を活かした知識集約型の、繁閑に応じて自律的に動くことができる業務であると一般的には考えられる。
・ある程度の期間(場合によっては年単位)が必要な業務であり、その中でチームや個人の役割が決まる。最終的な期限を念頭に、各個人が自身に割り当てられた役割のもと裁量を持って業務を遂行している。
・1つの案件について、2~3名などのチームで行うことが一般的。
・M&Aアドバイザー業務も資金調達方法を考案する業務も、専門部署に所属する場合には、在籍中に他の仕事をすることはないと考えられる。
・勤務時間は、案件の進捗に合わせて対応事項が決まるため、通常の業務と比べ繁閑の差が激しく、案件を担当している間は数か月忙しくなることも想定されるが、案件次第で閑散期もあると認識している。
・現状は、労働時間の対価に賃金を払っていると考えられるが、今後は業務によっては成果に賃金を支払うという流れを加速させていくことも必要と考えられ、労働時間と成果が必ずしも連関するわけではないM&Aアドバイザーのような業務は、そのような業務の1つと考えられる。専門性を有するアドバイザーの経験に基づいた企画立案・遂行などのアウトプットに対して賃金を支払うことがより適する場合もあると考えられる。
・また、資金調達方法を考案する業務も、資金調達のスキームを考案する業務であるため、案件ごとにリスクを把握する等の能力、将来のキャッシュフローに係る分析能力やリスクに応じたスキーム構築等の専門性が必要。
・M&Aアドバイザー業務も資金調達方法を考案する業務も、スキル・専門性や成果に対して賃金を支払うという考え方が検討されるべき業務であると思う。

2 企業からのヒアリング概要について
・M&A アドバイザー業務も資金調達方法を考案する業務も、始業・終業時刻は業務の状況に応じて一定の自由度をもった働き方ができる業務ではある。業務の遂行方法の裁量については、大きな方向性やスケジュールは上司に相談するが、その中で具体的にどのように業務を遂行するかについては裁量を持てる。
・M&A アドバイザー業務は企業価値算定の知識や、法務、会計、税務の知識、各種業界への知見を必要とするところであり、専門性の高い分野である。
・資金調達方法を考案する業務の専門性については資金調達支援業務の種別ごとに異なるが、一般的にはキャッシュフローへの理解、デット・ファイナンスやエクイティ・ファイナンスへの知識、各業界への知見や会計の知識等が必要。
・評価においては成果が重視されており、案件獲得数や提案の内容、収益への寄与等に対する達成状況で評価されている。
・業務には繁閑の差があるが、それほど長時間の時間外労働は発生していない。
・資金調達方法を考案する業務に配属されるために特段必要な資格はないが、配属後、証券アナリストは取得するよう強く推奨している。また、アセット・ファイナンスに関しては宅建等の不動産関係の資格を取得することを推奨している。(厚生労働省サイトより)


資料2-2「ヒアリング結果の概要」(PDF)

追記:厚生労働省が労働政策審議会 労働条件分科会報告書を公表
本日(2022年12月27日)、厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の第187回 労働条件分科会が開催され、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」を了承し、厚生労働省は労働政策審議会 労働条件分科会報告書「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を公表した。

今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(PDF)

上記の労働政策審議会 労働条件分科会報告書には「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」には、裁量労働制の対象業務について「企画業務型裁量労働制(以下『企画型』という。)や専門業務型裁量労働制(以下『専門型』という。)の現行の対象業務の明確化を行うことが適当である」「 銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業 務について専門型の対象とすることが適当である」と記載されている。

また、時事ドットコムニュースは「厚生労働省は27日、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会を開いた。あらかじめ労使で決めた時間を働いたと見なす裁量労働制の対象に、企業の合併・買収(M&A)に関わる金融機関の業務を加える案を示し、了承された。厚労省は今後、省令改正などに向けて手続きを進める」(時事ドットコムニュース「裁量労働制、M&A業務を追加へ 厚労省」2022年12月27日配信)と報じている。

そして、朝日新聞デジタルは「事前に決めた時間だけ働いたとみなして賃金を払う『裁量労働制』を適用する対象に、銀行や証券会社でM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務が加わる。厚生労働省の審議会が27日、正式に決めた。業務の追加は約20年ぶり。2023年に省令などを改正し、24年に施行する見通しだ」(朝日新聞デジタル『裁量労働制、「M&Aの考案・助言」も対象に 業務追加は20年ぶり』2022年12月27日配信)と報じている。

なお、労働政策審議会・労働条件分科会の使用者側委員は専門型ではなく企画型裁量労働制にPDCA業務などの追加を要求していたが、労働者側委員の強い反対意見もあり、今回は見送られることになり、銀行や証券会社で顧客に対するM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務のみが専門型裁量労働制が加わることとなった。


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